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34 それぞれの朝

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 まだ暗いうちにタイランは身支度を始めた。おそらく眠っていなかったのだろう。

 シャオリンは敢えて眠っている振りをし、背中を向けたままでいた。起き上がれば何か言葉を交わさねばならないし、それがタイランには負担だろうと思ったからだ。

 チンリンが鈴を鳴らし、タイランが宮城へ戻って行く。初めて結ばれた朝というものはもっと高揚した気持ちになるのだと想像していた。だが実際はいつもと何も変わらない。

(やはり私は子供なのね)

 タイランがいなくなったのを確かめてから身体を起こすと、下腹部に痛みを感じた。このようなことが夫婦というものには必要なのか。子供を身籠るまで何度でも、繰り返さねばならないこの行為。

(一回で身籠れたらいいのに……)

 シャオリンは深いため息をついた。



 眠れぬ夜を過ごしたのはリンファも同じだった。さっきのタイランの顔が頭から離れなかったのだ。

(あんな風に傷つけて、なんてことをしたんだろう。私は偽善者だ。綺麗事ばかり言っていたくせに、殺されたのが自分の兄だと知った途端に態度を変えて……タイランの苦悩を知っていたはずなのに)

 傷つけたことを謝りたい。もう一度訪れてくれるだろうか? だがその考えは夜明けに打ち砕かれた。一人で朝を迎えたリンファの耳に、タイランの帰城を知らせる鈴の音が聞こえてきたのだ。

(あれは……タイラン……! シャオリン様の部屋で夜を明かしたのだわ)

 リンファは強い衝撃を受けた。彼が他の妃を訪れるべきだと決めた時は、そういうことも耐えられると思っていた。だけど、こうして現実になると、まるで胸にポッカリと穴が空いたように心が冷えていく。

(彼の愛を信じていれば待っていられると思っていた。でも、私はタイランの手を自ら払い除けてしまった。彼の愛を拒否した私には、彼を待つ資格がもう無い……)

 タイランからの愛しか自分の心を支えるものがなかったことを悟り、失ったものの大きさにリンファは涙をこぼした。


 
「そうか! でかした!」

 チンリンからの知らせを受け、ケイカは大いに喜んだ。

(ようやく……ようやくシャオリンが本当の妃になった。なるべく多く通ってもらいたいものだが、こういうことは強制すると逆効果だからな。しばらくは静観しておこう。しかしあの下女、意外と頑固だったのだな、王をはねつけるとは。気が変わらないうちに修道院に送るか)

 ようやく事が動き始めた。シャオリンが王子を産んでくれれば、幼き王の摂政となって私がこの国を動かしていける。その時には、現王には消えてもらおう。自分の力で立とうとする王は私の施政の邪魔にしかならないのだから。

 ケイカはまさに、あれほど嫌っていたコウカクのような人物になろうとしていたのだ。
 
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