追う者

篠原

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第十二章  アナザーI.I  ~背を向けたジャージ男~

第十二章 ⑤   第一巻完

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「刑事さんたち……。
私だってねぇ、好きで、こんなことを
してんじゃナイんですよ……。
ここがさ……、心がさ、許さないん
ですよ、女共をネェ!!


私はね……、小さい頃、親が転勤族で
してね……。
小学生の頃は、転校して、すぐ転校って
ことの繰り返し。
それで…、そんな中。
親父が今度は、札幌支社から四国の
営業所ってことになりましてねぇ。
当然、私もね…。
札幌の学校慣れかかってたのに、
四国の方の学校に転校ってことに……。

それでですねぇ。
今でも思い出しますよ!
あのクソ雌豚共の顔!!
とにかく、最悪の女共でしたネ!
田舎の古い慣習、村八分を雌豚
小学生共がこぞって私に実践して
来やがって……!!



あんな体験は、四国の、その学校だけ
でしたねぇ。
どこの学校に転校しても、遠くから
来た私は、最初は、一人ぼっちで
したが、昭和の時代ですよ。
みんな徐々に近寄って来てくれて、
仲良くしてくれた、男子も女子もね。

でも、あの時は、違った!
もう、四国、愛媛、松山のことは、
考えたくもナイぐらいですよ、本当…。
『転校生』ってことだけで、かなり、
いじめられたんですよ。
しかもね、男子じゃない!
女子ですよ!!
近所に住む、悪い雌豚共のグループに、
ねぇ!!
こっちは、男。
でも、多勢に無勢だ。
勝ち目はない……。
男の刑事さん……分かります?
女共に寄ってたかってイジメられる、
男としての苦しみ。
プライドはズタズタで、
周囲に助けてくれるようなヤツも
いない、まさに、生き地獄のような
毎日でしたね。
もう、外に出るのが怖くて怖くて……。


あの淫乱豚野郎共は、私より年上のが
3人。で、あとは、私と同じ位のや、
私より下のヤツらが、金魚のフンの
ように一緒になってましたね。
ホント、質の悪い、クズ共でしたよ。
絡んできて、イジメやがってッ!!
わざと、嫌がる私をつけまわし続けてね。
ある日にゃ、必死になって、逃げてる
うちに、慣れない地ですからね、私は
迷子になってしまいましてねぇ。
気づいたら、あの雌豚連中は消えてるし
夕暮れで、暗くなってるのに、知らない
場所に、ガキ1人ですよ。
あん時の怖さ、悔しさは、刑事さん
たちね、当本人じゃなきゃ、分かり
ませんよ……。



他にもね、わざと大きな声で、私に、
聞こえるように悪口言ったり、
後ろから、小石を投げてきたりね……。


それでね、刑事さんたち。
今でも思い出しますよ。
忘れたいけれど、一生、忘れられない、
あの豚野郎共の仕打ちをね!
あれゃ、暖かい日でしたね。
近所の公園で、一人で、水遊びをして
いると、また、あの悪女連中が現れ
やがったんですわ。
本当に、しつこく、ネチネチ絡んでくる
田舎の淫乱クズ婆共めがッ!!

それでね、私は、また何かしらされるん
じゃないかと思って、気づかれないうち
に、退散しようと、腰を上げたんです
けどね、見つかっちゃいましてねぇ。
で、あの女狐共が大声上げて、私を
追いかけて来るんですわ。
かなり、数分位、追われましたよ。
私は、必死だったけど、淫乱売春婦共
はね、楽しそうに、キャーキャー
言いながら、追ってくる。

ついに、私は、何かに躓いて、勢いよく
転んでしまったんですよ。
で、足に、痛みを感じて、フッと見て
みると、血が出てる。
そんな私を見て、奴ら、どうしたと
思います?
私を囲んで、大声で笑って、囃し立て
やがったんですよ!?
まさに、悪魔の女共でしょッ!?
で、ひとしきり、私をバカにし尽くして、
満足して、アイツらは、去っていった
ってわけですよ。


もうね、立ち去る、あのクズ共の姿が、
悪魔そのものに、見えましてね!!
「あの悪魔共に、いつか復讐してやる!」
と、泣きながら、誓いましたよ。
でもね、まだ小学生ですよ。
しかも、転校したての1人ぼっち。
どうにもできないでしょ?
と言うより、悔しさと、あの雌豚共を
絶対に見たくないという思いが強く
なって、もう学校に行けなかった。
翌日からね……。
で、親に無理してもらって、また、
転校ですよ…。ま、あの時の転校だけ
は、私都合のでしたね。


あの時からね、女は、みんな、
天使のフリした悪魔にしか見えなく
なった!
いや、実際、女なんて、そんなモン
なんだッ!!
だから、復讐してやるんですよ!!
男を…、俺を、見くびるなよ、ってね
……。

ターゲットになりそうな雌豚を見つけて、
思い知らせてやりましたよ、今までに、
何度もね!
職場や学校でイジメたりね。
職場じゃぁ、新入のクズ共に、嫌がらせ
やセクハラ的なモンでね……。
ま、今回の、柳沼ってのも、途中から、
こっちを誑かそうって魂胆丸見えになって、
で、それでいて、自分から逃げていこうと
するからね、あん時の雌豚共にされた
ことの復讐で追いかけ回してやったん
ですよ!!
刑事さん……。
これが、事実ですわ。





……うん。刑事さんたち。
自分が悪いのは分かる。
今回のことも、そうだ。
でもね、私はねぇ、こんな生き方しか、
できないんですよッ!!

あの時の淫乱雌豚共にヤられたこと、
そして、心の傷が、私を今でも、
奮い立たすんですよ!
分かってくれるでしょッ!
あの雌豚共は、今回の私以上に悪い、
卑怯なマネをし続け、私の魂を殺したん
ですよ!?
でも、処罰ナシだッ!!
不公平、理不尽だッ!!


刑事さんたちッ!!
こんな俺が、言うのは、オカシイかも
しれないッ!!
でも、言わせてくれッ!
ガキ共のイジメも取締ってくれッ!
じゃないと、ガキ共にイジメられる、
一人ぼっちのガキは、今の俺みたいな
大人になっちまうからなぁ!!」


額を机に押し付けるほどにしている平戸を
見て、不動巡査部長は、感じた。
平戸狩男への同情的なものを。
「この人も辛かったんだ」と。
だが、思う。
「だからと言って、彼が、まこちゃんに
した行為は許されるものではない」と。
その気持ちを上司の水口警部補が、
代弁してくれた。
「平戸さん。
……分かった。
あなたの気持ち、苦しみは、
よぅく分かったよ。
でもね、だからと言って、その当時の
ワルガキ連中とは何の関係もない、
あの女性、柳沼さんを苦しめるって
のは理にかなってないよね?
分かるね、このことは…」。
平戸は、顔を机に押し付けたまま、
「はい、すみません。そうです」と
答える。
本当に分かっている……、不動巡査部長
は直感した。



不動巡査部長は、取調室の中、
「子供のイジメが、一人の人、
いや、多くの人を巻き込んで、
不幸せの連鎖を生み出すんだ」と知った。

何気ない行為……、そう、その愛媛の
クソガキたちは、おそらく軽い気持ちで
やったのだろうけど、それは、平戸少年の
心に大きな大きな傷を与え、彼の人生、
人格を狂わした…。
「イジメの問題に警察が、もっと全力で、
取り組まないといけない!民事不介入とか
バカなこと言ってないで!」と、
不動巡査部長は心の中で思った。
いや、誓う…。
自分が、これからは、この問題に取り込む
んだと。
なぜなら、自分も学生時代に、いじめの
被害者だった。
だから、いじめられる側の苦しみは、
分かるし、イジメる奴等の狡猾さだって
分かる……。

水口警部補が、平戸の肩をさすりながら
言った。
「平戸さん。
我々もね、生活安全課の警官としてね、
いじめには全力で戦いますよ!
お話しを伺ってて、その必要性を強く
感じました!ありがとう!
だからね、あなたも、まっとうな生き方を
して、そのいじめて来たバカ女共を
見返してやれば良いんだッ!
刑事の私がこんな言い方すんのは本当は
ダメだけどね、そんなバカ女共は、
今、ロクな生き方してませんよ、絶対……。
だからこそ、あなたが、立派な人間でいて、
立派に生きること…、これが、アイツら
に対する復讐ですよ」。
平戸が、嗚咽を漏らしながらも、大きく
頷いた。
不動巡査部長は、こんな口調の
水口警部補を初めて見た。
本当の刑事だ…と思った。
そして、平戸狩男を見た。
この人も被害者なんだな、と。
刑事として、これからは、小学生の間にも
存在する、陰湿な事件に、立ち向かって
いく……、そう誓った……。






一巻を終えるにあたり、書かせていただく。
お気づきの方もいるだろうが、ある夜、
突然、強姦犯に襲われ、純潔を奪われた
奥中峯子-真子の母-は、凶悪事件の
被害者である。
レイプによって、身も心もズタズタに
された……。
だが、それよりも以前、愛媛県で、
『意志ある加害者グループ』に属して
いた、女でもある。
彼女たちは、悪意を持って、転校生を
イジメぬいて、彼の人生を滅茶苦茶に
した……。






生きている人は、例外なく、加害者で
あり、同時に、被害者である。
人は、傷つけられ、また、傷つけて、
生きている…。

だからこそ、全ての人には、相互関係の
修復、回復のプロセスが必要だ。
本書は、壊れた絆を取り戻す愛と赦し、
人間関係の再構築を描くヒューマンドラマ
である。
そして、真子、義時、みどり、また、
彼女たちに関わる人たちの愛と赦し、
回復の物語は、さらに続いていく……。
(第二巻へ)





・・・・第一巻完・・・・










(著作権は、篠原元にあります)
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