追う者

篠原

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第十四章  人生の春冬劇  ~関東で暴かれてくる秘密~

第14章 ⑤

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実際、もう一度、彼に会いたかった…。
だけれど、私から連絡するのは、
躊躇われました。
でも、一応、警察署で電話番号の交換は
したのです。
そして、それで、終わらず……、
色々カミングアウトまで……!!

だから、私が、夜の世界で働いていた
ことも、それがキッカケで変な男に
追われるようになったことも、彼は、
知っているのです!
そんな私から連絡なんて出来るわけ
がない……、そう、思っていたのです。
みどりちゃんとランチするまでは……。




私は、「これは最初で最後の、
絶好のチャンスだ!」と信じ、そして、
意を決して、「みどりちゃん……」と
呼びかけました!
みどりちゃんは、「うん、何?」と
訊いてくれます。
私は、思い切って言いました。
「あのね、みどりちゃん……!
私もね、お礼したい、また、会いたい
って思ってたの!
でも、いくらなんでも再会したからって
急に、異性の同級生に電話するのは……。
しかも、『二人で会いましょう』なんて
絶対、ムリ!!
だからね、みどりちゃん……。
幼馴染でしょ?
私より、みどりちゃんからの方が、
義時さんもビックリしないと思うしさ。
だからね、みどりちゃんに、
電話してほしいの。
お願い!!」と。
女友達だからこそ出来るお願い、
です。
気になる異性との間に立って頂戴
というお願い……。
同性の親友で、しかも、既婚者の
みどりちゃんだからこそ……。


すると、です。
みどりちゃんは、ハハーンと言う
顔つきになり、ニヤッと……。
皆さん、本当に、ハハーンと言う
表情ってあるんですね。
私、漫画でなく、初めて、目の前で
見ました。
それで、みどりちゃんは、
ニヤニヤしながら言ってきたのです。
「そっか、そっか……。
真子ちゃん、そうなんだぁ~。
まぁさ、義時も独り者らしいしさ、
良いんじゃない?
うん、じゃあさ、いっそのこと、
くっつけてあげよっか?」とまで!



顔が赤くなりました!!
見抜かれてる……!
さすが、同性の親友。
侮れない……。
ちょっと、怖い。


大慌てで、否定しました!
肯定できるほど、気が大きい人間
ではありませんから、私は…。




でも、どんなに言っても、
みどりちゃんは、依然とニヤニヤと。
「良いよ、良いよ、真子ちゃんさ」と
言うだけ。
何か、私のことで、楽しんでる…?!


ひとしきり、焦る私を揶揄ってから、
みどりちゃんは、携帯を取り出し
ました。
そして、ピッピッと操作しながら、
「じゃあさ、善は急げだからさ、
すぐに、今、電話してみるよ」と。


私のために、電話してくれている
大親友を目の前にしながら、
「何だかんだ言っても、優しいなぁ。
本当に、持つべきは、親友だなぁ」
と思いましたね……。



そして、私たち3人は、早速、次の日、
つまり火曜日の夜に、船橋市で、
会うことになったのです。


北船橋駅近くのお洒落なイタリアンの
お店でした。
みどりちゃんが、「先月さ、署の先輩に
連れて来てもらったの!
2人で、ディナーしたんだけどさ。
それでさ、すっごく美味しかったの。
あッ!!変なアレじゃないからね!
地域課の女性の先輩だからさッ!!」と
話しながら、私たちを案内してくれ
ました。


みどりちゃんが言う通り、ワインも
料理も本当に美味しかった!!
それに、お店の雰囲気も良いし、
店員さん達も明るく丁寧で、
プロ意識を持ってサービスをしている
のです……。
しかも、席のチョイスも最高!!
隣には、みどりちゃん。
で、目の前に、彼が座ってくれたの
です。
「眼福だわぁ」と思いながら、私は、
幸せな時間を過ごしました。
パッパッと席次を、『私好み』に
指示してくれた、みどりちゃんに、
感謝!!!!!



途中、彼が、トイレに立った時、
みどりちゃんに脇を突っつかれました。
笑いながら、「このこの~ッ!
真子ちゃん、料理の味、ちっともさ、
分かってないでしょ!
義時のことばっかり気にしてさ……。
さっきから、ずっとさ、チラッチラッ
って見てるじゃん!!」と言ってくる
同性の大親友。
必死に否定しましたが、否定しきれ
ません、事実ですから。
それに、みどりちゃんも、相手に
してくれませんでしたしね……。
彼がいない間ずっと、みどりちゃんに
揶揄われ続けましたが、
「みどりちゃんがいてくれて良かった。
二人だけじゃ、どうなってたかなぁ。
みどりちゃん、頼りになるなぁ!」と
思いました。


実際、『夜の世界』で、かなり儲けて
来て、男性との話を盛り上げるなんて
簡単すぎて、楽勝過ぎだった、私。
でも、彼には……。ウマく、話せません
でした。
緊張してしまうと言うか……。
とにかく、ドキドキして話せない……。

でも、です!
みどりちゃんは、フレンドリーに、
ごく自然に、彼と接しています。
「ねぇ、義時!」と話しかけています。
それで、しかも、彼も、みどりちゃんの
ことを「オイ、みどり」と呼ぶのです!
正直、みどりちゃんが、羨ましく、
そして、少し、妬ましくも思えました。
「幼馴染って良いなぁ」とも思いました。


それで、真面目な話に戻しますが、私は、
その日、改めて、彼に感謝の意を
伝えました。
商店街で、平戸から私を助けてくれたこと、
のです。
そして、言ったのです。
「義時さん、本当に、ありがとう
ございました。
あの時は、義時さんと、みどりちゃんに、
本当にお世話になって……。
だから、今日は、ここ、私が、
お支払いしますから……」と。

普通、日本人ですから、そうなると、
男性-義時君-が、「えっ!?
それは、困るよ」と言ってくるかも
なのですが、義時君は、
「そう……。それじゃあ、今日は、
お言葉に甘えて……」と言ってくれ
ました。
ほっ……。
後で、分かったのですが、
実は、みどりちゃんが、義時君に、
あらかじめ言ってくれていたそうです。
「遠慮しちゃダメだよ……」と。




幸せなディナーの時間は、まさに、
一瞬でした。
キモい変態野郎の相手をした時や
ピーナのクズ女共と一緒にサービス
しないといけなかった時は、
時間が滅茶苦茶長く感じましたが、
反対で、滅茶苦茶短く感じました!
気になる異性、そして、同性の
大親友との時間はスゴイなぁ、
と思います。


まだ閉店時間でもなかったので、
私は、まだいたかったのです!
でも、みどりちゃんが、
「もうこんな時間だからさ、
そろそろ……」と言って、帰りたがる
のです。
「旦那さんかな?」と思いました。
いえ、絶対、そうだったはずです。
ラブラブ夫婦のみどりちゃんですから!


今回の恩人のみどりちゃんです。
顔を立てないわけにもいかないし、
機嫌を損ねたくないし、何より、
みどりちゃんには感謝しかなかった!
だから、気持ちを切り替えて、
言いました。
「そうだね。もう、こんな時間
だもんね。
みどりちゃん、ありがとう!
スゴイ良いお店だね、ここ。
……じゃあ、私、会計行ってくるから」。
義時君とみどりちゃんも立ち上がり
ました。
私は、会計に向かいました。

義時君とみどりちゃんが後ろの方で、
何か親しげに話しています。
二人で声を上げて笑い合っている…。
それが、妙に気になってしまう私…。
「うん?距離が近くない!?
近すぎない、二人とも……!
みどりちゃんは、人妻なのに……」と
思いました。
ちょっと、モヤモヤ。
これは……、「ヤキモチだなぁ」と、
分かっていましたけど……。




会計を済ませ、お店の外に出ると、
黒いコート姿の義時君が私を待って
いました。
みどりちゃんも……、義時君のすぐ
そばに、立っている……、いや、
寄り添っているように見える!?
正直、目を見張ってしまいました。
「えッ!?この二人の関係って……」
と考えてしまいましたね、一瞬。

でも、平静さを装いながら、私は、
二人に近づきます。
「笑顔よ、笑顔よ!」と自分に
言い聞かせながら…。



その時です!!









(著作権は、篠原元にあります)
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