追う者

篠原

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第十五章  挙式までの最終戦  ~巡り合うのは善か、悪か?~

第十五章 ㉗

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(ここでは、第九章⑬と、
第十四章⑳と、
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)











現実的に、両手で持つのは、通帳の束…。
そして、両手の上に、幻的に見えるのは
都和ちゃんと、その赤ちゃん……。
でも、頭に浮かんだのは、最愛の人であり、
婚約者であり、将来の夫である栄義時の
ことでした。



私が、計画していることは、悪いことでは
ないし、ピーナ共がやってたように不正の
ために使うわけでもないのです。
可哀そうな二十歳の女の子と、その赤ちゃん
を助け出そうとしているのです。
でも……。
婚約者のこと、そして、結婚式のことを
考えると、躊躇してしまいます、一瞬。
「このお金は、式や式後の生活のため、
ちゃんと残しておかないと……」、
また、「見ず知らずの女の子のために、
そんな大金を……?一瞬にして、残高が
減るよ」と至極まともな意見が浮かび
ます。


でも、「私にしか出来ない……。
いや、私なら出来る。それと、今なら
出来る!」と言う『心の声』の方が
大きかったですね。
だって、大学生のこしまちゃん、
やよいちゃんには、到底無理でしょう。
みどりちゃんも公務員とは言っても、
まだ若いですし……と言っても、私と
同年代ですけど、とにかく、結婚している
から、お金を自由に使えるわけでは、
ないはずです。
それと……。
これは、こしまちゃんは知らないはず
ですが、みどりちゃんは、妹たちの学費
とかを支援しているのです、こっそりと。
実家のお母さんに、毎月、手渡しして…。






実際、あの時、私は、結婚前で、
ある程度、自由に、お金を使えました。
ま、限りなく自由だったのですが、
『ある程度』と言ったのは、結婚式や
式後の生活計画のこととかが頭にあって、
それまでよりは、お金を使うことに
ブレーキがかかっていたからです。


だからこそ、私は、思えたわけです。
自分の貯金の一部を、都和ちゃんと、
その赤ちゃんを救出するために使って
もらいたいと……。
そして、だからこそ、私は躊躇して
しまったわけです。
式の費用やその後の生活のことも
考えて……。






まぁ、そう言う躊躇は、追いやって、
とにかく、それぞれの通帳の残高を
確認します。
驚いたのは、把握していた以上に、
残高がある……ということでした。
「最近、記帳行ってないから、今度、
行ってみよ。もっと、あるはず」と
思いましたね。
まぁ、夜に働いていた頃に、かなり、
荒稼ぎしましたから……。
とにかく、あの頃は、通帳の残高を増やす
ためだけに、死に物狂いで攻めに攻め、
で、大した出費もなかったですから……。



「これ位あるなら……。
大丈夫。
いけるな……」、そう思いました。
結婚式の総費用の25%分、そして、
その後の生活のための分は確保します、
ちゃんと、最初に。
その上で、都和ちゃんたちのために
出してあげれる額……です。





通帳の束を金庫にしまいながら、
私は思いました。
「結婚する前で、良かった」と。
今でも、同じことを思います。
もし、これが、式後、つまり、人妻に
なってから聞いていた話だとしたら、
私は、お金を出せなかったはずです。
もう、私一人の貯金というわけじゃ
ありませんし、何より、式や式関係、
その他、引っ越し関係でかなり出費が、
そう予想以上に、あったからです…。
ハッキリ言って、残高がグイーンと音
を上げながら減っていきました、急に。
本当に、結婚って、お金かかりますね。
まぁ、それに、結婚する前だったから
こそ、こしまちゃんとやよいちゃんと
出会えたわけで……。
とにかく、神様のおかげで、一番
良いタイミングだったわけです……。





部屋に戻ると、もう、3人分の
可愛い寝息が。
それと、女の子特有の良い匂い……。

そっと、私のスペースに移動します。
「ちょっと……、いや、かなり狭いな」
と思いながら…。
でも、しょうがありません。
これ、こしまちゃんの提案だったの
ですから。
「みんなで寝ませんか?女子トーク
しながら」って。


普通なら2人が横になれるっていう
部屋に、…だから、4人分の寝具。


そして……、私は、横になって、
いつの間にか、熟睡してしまったよう
です。


気づいたら、もう翌朝でした。
マンガでよくある鳥の『チュンチュン』で
起きたわけではありませんが、いつもより
寝れたみたいで、スッキリした気分
でした。
爽やかな朝……と自然と口から出ます。
そして、まず、目を瞑って、お祈り。


そして、そっと横を見ると、
まだ、女子大生のやよいちゃんが、
可愛い寝顔&カワイイ寝息で寝ています。
なにか微笑ましい気分になります。
変な意味でなく、ずっと見ていたい。
それと……、ウワッ!!
「肌が、メッチャ、綺麗!」。
「ツヤツヤじゃん!」。
「髪の毛もサラサラだぁ」。

そんなに年の差があるわけじゃないです
けど、やっぱり、あちらさんたちは、
『天下の女子大生』です。
そんなお手入れしないでも、まだまだ、
若さってヤツがあるんですねぇ!

その丸瀬やよいちゃんの隣の葦田こしま
ちゃんは……。
マンガみたいに、スゴイ寝相で、まさに、
両脚全開で寝てました。
「これ、男子が見たら、理想崩壊だな。
理想と現実の差を見て、落ち込むな」と
思いました。
まぁ、でも、男性が女性にどんな理想像
もってるか完全に把握しているわけじゃ
ないですけど、女性だって、同じ人間
なんです。
ほとんど、男性と変わらないですよ、
家での生態、家での格好、家での
過ごし方は……。
変な理想は持たない方が良いですね。
というより、女性を代表して、そんなもの、
持たないで欲しいです!

あッ……。
話しがそれてましたね。
話しを戻します。
で、部屋には、大学生コンビはいましたと
言うより寝てましたが、みどりちゃんが、
いませんでした。


もうすでに、みどりちゃんが、寝ていた
辺りには、きちんと畳まれた寝具類が…。


「みどりちゃん、もう起きてるんだ」。
私は、そっと、2人を起こさないように、
立ち上がります。
疲れは完全に消えていました。
そして、空腹感…。

「朝食、何か用意しないとなぁ。
女子大生たちは、朝、普通、何を
食べてるんだろう?」と考えながら、
まず、洗面所ではなく、キッチンに向かい
ます。
冷蔵庫の中身を確認しておきたかった
ので……。



でも、近づくにつれ、何かをフライパンで
焼く音と、香ばしい匂いが……。
え……?
「何で?」。
少し、急ぎ足になります。














(著作権は、篠原元にあります)
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