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篠原

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第十六章 義時と真子の挙式 ~純白のドレスと運動靴!?~

第十六章 ㉑

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(ここでは、第十四章㉑と
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)








私は……。


新婦である、私は、新郎と居村さんと
村山さんに理由を話したうえで、
披露宴会場を、そっと、そして、
出来る限りの早歩きで、出ました。


3人とも、しばらく新婦が、披露宴会場を
抜けることを許してくれました。



夫は快く、許してくれました。
まぁ、眉間にしわを寄せたのは、
村山さんと居村さんでしたが…。
今、思えば、2人の立場なら、当然です。

だけど、私も、『言い張った』し、
あの時は、夫も『援護』してくれたので、
タイムテーブルのような紙を見ながら、
2人で何か相談していましたが、すぐに、
「大丈夫です」と言ってくれました、
優しい居村さんが。
でも……。
「祝電紹介の時間を少しだけ、
後に伸ばして、皆様には、『しばらく
ご歓談の時間をお楽しみください』と
アナウンスします。ですので、祝電紹介
の時間には、新婦様不在ではいけません
ので、3分……、遅くても5分。
5分で、絶対に、お戻りください」と、
プロのアナウンサーで司会役の村山さん
に釘を刺されました。
その隣で、真剣な表情で、居村さんも、
私を見つめながら頷いています。
無言ですが、分かります。
「絶対に、5分ですよ!遅れたら怒られる
のは私なんですよ!!」と、目が、強く
言っていました……。


もちろん、式当日までずっと私たちに
寄り添い、親身になってくれていた居村
さんを困らせるなんてこと、私だって、
したくありません。
でも、彼女たちを、このままにしておく
ことも、絶対にできない。

だから、私は、急いで、追いかけたの
です。
披露宴会場を抜けて……。




で、披露宴会場から一歩外に出てみると、
いました!!
彼女たちが……。
まだ、学ランを着ている子もいれば、
チアのユニフォーム姿で、ジャンバーを
纏おうとしている子もいます。
みんな、満足しきったようで、頬を紅潮
させて、ワイワイと……。
そして、こしまちゃんとやよいちゃんも
いました。
2人ともまだユニフォーム姿です。
真っ白なタオルで汗を拭いながら、
チアリーディング部の部長さんと何か
話しています。



私は、……。
まず、その3人のところに行くことに、
しました。

声をかける前に、気づいてくれた彼女たち。
パッと顔を輝かせて、異口同音に
「真子さん!」と言ってくれました。



3人にお礼を言い、3人からもこっちが
恐縮しちゃうほど『お祝い』の言葉を
もらっていると、周りに、どんどん女学生
の壁が……。


いつの間にか、私は、31人の女子大生に
囲まれていました。
これが、男性ならウハウハなんでしょう
けど、私は女です、同性です。
でも、やっぱり、良いにおいがしますね。



それで、みんな代わる代わる言ってくれ
ました。
「おめでとうございます!」、「素晴らしい
チャンスをありがとうございました」、
「楽しかったです!!」と。
感謝するべきなのは……、明慈大学と何の
関係もないのに、ここまでしてもらった
私の方なのに…。





そして……。
「ちょっと、みんな良いかな」と言う声が
……。
ハッと、みんなが一斉に黙り、静かになり
ます。
それで、口を開いたのは、万田恒子ちゃん
でした。
「あの……。改めまして、今日は、本当に
おめでとうございます。
私は、明慈のチアリーディング部の部長を
しています、万田恒子と言います。
あの。今日、絶対に、みんなで、柳沼さん
にお礼を伝えたいなって思って来ました」。

私の目をジッと見つめる万田部長。
そして、前後左右からも30人の熱い視線…。

「柳沼さん。本当に、河島のこと……。
ありがとうございました!私たち、
どうしたら良いか全く分かんなくなって
いて……。もし、柳沼さんが、丸瀬と葦田
に提案してくれなかったら、私たちも何も
できなかっただろうし、河島もダメに
なってしまって、最悪の結果になって……
い、……いた、と……」。
涙くんでしまう万田恒子ちゃん、通称、
ヒサちゃん……。


その場にいるみんな、すすり泣きしたり、
ハンカチを顔にあてたりしていました。




何とか口を開こうとしてくれる万田部長。
「でも……、や、柳沼さんのおかげで
……。本当に、ありがとうございました
ッ!!!」。
そう言って、バッと最敬礼する万田部長。
周りの子たちも一斉に…………。









私は、あの日、思いました。
ちゃんと、神様に教えてもらえました。
「私のやったことは、無駄じゃなかった
んだな」と……。





それから、私は……。
今度は、私が、彼女たちに最敬礼して、
お礼を伝えました。
明慈大学と何の関係もない私のために、
今日来てくれたこと、最高過ぎる
サプライズをしてくれたことについて…。



で、そうこうしているうちに、
何だか、強い、いや強烈な視線が後ろから
注がれていることに気づきました。
振り向いて、ハッとします。
そして、思い出します。

私は、失念していたのです!
【タイムリミット・5分】の事。
そして、居村さんと村山さんのこと。
だって、あまりにも幸せで……。


で……、現実問題、私に、強烈な
『視線攻撃』を繰り出していたのは、
ブライダル事業部の居村さんでした…。

さすがに、遠慮してくれたのか、もしくは、
31人の【栄真子の親衛隊的存在】に
近づくのを恐れたのかは分かりませんが、
披露宴会場の扉前で、初めて見るような
表情を見せながら、腕時計を右の人差し指
で指しながら、口を大きくパクパクと。
分かります。
「じ・か・ん!!」と声に出さずに、
言っているのでした……。


ヤバい……と思いました。
で、視線を、居村さんから逸らそうと。
でも、次の瞬間、その披露宴会場の扉前
にいる居村さんの肩を叩く人が、いたの
です…。


皆さん、誰だと思います?
新郎?
司会の村山さん?
それとも、ホテルの他の従業員?

違います。
ブライダル事業部の若手、未婚、彼氏
募集中の居村さんの左肩を叩いたのは、
私の『義父』……、義父って何かまだ
慣れないな、そう、夫の父だったの
です。


肩をチョンと叩いてきたのが、新郎の
父親で、なおかつ、自分達のボスの親友
だと知った、居村さん。
一瞬、硬直していましたね。

で、そんな居村さんに、夫の父が、何かを
耳打ちしていました。
もちろん、私には、何を言ったのかは
聞こえませんでしたが。
それで、それに対し、居村さんが、
引きつった表情で、何か答えています。
無論、その内容も聞こえません。


で……、その後、居村さんと夫の父は、
1往復、私には聞こえませんが、何か、
やりとりをしていて…。
最後は、居村さんが、タイムテーブルの
ようなものをポケットから取り出し、
何かを確認して、何かを書き込んで、
それから、夫の父に、しっかりとした
視線を向けて、何かを言って、ペコリと
頭を下げて、それから、披露宴会場内に
戻って行ったのです……。


ホッとした……のも束の間、今度は、
正直なところ苦手な、夫の父が、私と
31人の女子大生の方に近づいて来ます。


つい先程までの居村さんのように硬直
してしまう私。
そして、そんな私に気づいて、戸惑い、
それから、近づいてくる、初老の男性に
目をやる31人の女子大生達……。

私は…、ゆっくりと、こっちの方に
近づいて来る夫の父を……、視線を
合わさないように、その靴を見ながら……、
「何?何で、こっちに来んの?!
折角、良い感じだったのにぃ……」と
思っていたものです。

そして…。
その後に、起こってしまう『コト』を、
その時の栄真子は、知る由もありません
でした……。


















(著作権は、篠原元にあります)
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