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篠原

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第十六章 義時と真子の挙式 ~純白のドレスと運動靴!?~

第十六章 ㉗

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(ここでは、第九章⑥、⑦、⑩、⑫、
⑬と
時間枠が一致するので、
交互に読まれることをすすめる)







そして……。
来てくれました、旧知の大親友が。
赤ちゃんをつれて!!


今、前先生と新婚さんとみどりちゃんと
同じテーブルに着いているのが、彼女
です。
彼女の名前は、新名志与。
旧姓は、長谷島です…。




『夜の世界』にいた私にとって、唯一の
親友……。
姉、そして、妹とも言えるような存在
でした。
彼女、長谷島志与は。


私達は、一緒に、北海道まで出かけた
のです。
それほど、私達の『友情』は揺るぎない
ものであったはずだったのに……。
夜、彼女のベッドの横で、彼女から
【衝撃的事実】を暴露された私は、
恐怖と押し迫る不安に苛まれて、
彼女の前から消えることを、選択した
のでした。

そうです。
何も言わずに、彼女の前を去ったの
です。
彼女にぶつかっていけば良かったのに、
そうせずに、私は、逃げたのです。


私が……、長谷島志与との関係を一方的に
『遮断』したのです。


でも。
私は、彼女、つまり、長谷島志与……、
そうです、しーちゃんのアドレスと電話
番号を自分の携帯電話から『削除』する
ことはできなかった。
当時の私には、それは、到底不可能
でした。
何故なら、彼女を嫌って、彼女の前から
去ることにしたのではなく、彼女を好いて
いるからこそ、彼女のことが大好きだから
こそ、『長谷島志与の前から消える』ことを
選んだからです。


もう一生、連絡をとることもなければ、
会うこともない……、たとえ、そうだと
しても、携帯の記録から、つまり、
『この私の記憶』から、彼女の存在を
完全に『抹消』するなんてこと、できません
でした、私は……。







式場、そして、日取りが決まって、数日後。
つまり、婚約者の両親に挨拶を済ませて
から2,3日後のことでしたが。
私は、急に、長谷島志与のこと、そう、
しーちゃんのことが、頭に浮かんだのです。


「自分から消えておいて何言ってんだ!」、
「都合良すぎだろ!!」、「相手にされずに
終わりだろ、そんなの」と皆さんは、
思われるかもしれません……。
でも、私は、しーちゃんに、自分の結婚の
ことを伝えたいと切に思ったのです。
そして、出来る事なら、式にも列席して
もらいたい……と。

もちろん、自分でも、あまりにも身勝手
な希望だと分かります。
そして、何より怖かった……。


仮に連絡が取れたとして、その電話番号が
まだ生きていたとして、彼女がすっかり
私のことを忘れ去っていて、また、私の
番号の登録を削除していて、
「はい…?柳沼……。すみません、どなた
ですか?番号、間違えていません?」と
言われるかもしれません。
そうなったら、私は、ショックで立ち上がれ
ないかもしれない……。
まぁ、その原因を作ったのはほかならぬ
私なのですけど…。

また、仮に、番号が生きていたとしても、
彼女が、あの頃、何の連絡もなく勝手に
消え去り、そして、全ての連絡を完全無視
していたこの私に怒り、恨みを抱いている
状態だったとしたら……。
「柳沼、真子……。
は……?
今さら、何?
この期に及んで、電話かけて来るなんて
どんな神経してんの!?」で、ガチャで
しょう……。
その方が、私にとって、巨大で強靭な
ダメージとなります。


だから、どっちにしろ、彼女に連絡を
とるのが、怖かった。
いまだ、彼女の、あの頃の番号や
アドレスがあるにしても……。

だから、彼女のことが頭に浮かんでから、
数日は、行動に移すことはできません
でした。



でも……。
どうせ、結婚したら、このマンションも
引き払うし、名前も変わるし、新しい
生活が始まるんだ……。
つまり、「古い人生は終わるんだ」って
思ったんです。
なら、ここで、けりを付けたい……。

私は、携帯電話を手に取りました。
どんな結果になったとしても、それは、
それまでです。
仮に、ダメだったとしても、それは、
柳沼真子の『汚点』として、結婚前に、
その記憶もろとも捨てて行けば良い。
そして、もし……。
もし、彼女が、私のことを憶えて
くれていて、また、受け入れてくれる
のであれば……、もう1度、栄真子と
しても、末永く彼女と関係を保って
いけるのです。




電話帳を呼び出し、彼女の番号を
……。
震える指で、ボタンを押します。
「おかけになった電話番号」と、
アナウンスされるかな……とも思って
いましたが、そうはなりませんでした!
番号は、生きていました。

でも、まだ、その番号をしーちゃんが
使っているかは分かりません。
コールが途切れて、すぐに、赤の他人の
声が聞こえる可能性もあるのです。


だけれど……。
何コール後だったか…。
とにかく、そんなには、待ちませんで
した。
コール音が、突然、途切れて。

忘れもしない、大親友だった、
あの懐かしい、しーちゃんの声が、
私の耳に飛び込んできたのです!


その瞬間、私が、どうしたと思います?
笑わないでくださいね。
私は、自分から、かけたのに、つながった
ことに驚いてしまって、また、彼女の声を
聞けたことに興奮してしまい、何でか
分からないけれど、通話終了のボタンを
押して、電話を切ってしまっていたの
です!

「アッ!」と思った時には、すでに遅し
……。


でも、すぐに、本当に、すぐにでしたが、
私の携帯が鳴りました。
画面を見ると、『しーちゃん』と……。

すぐに、携帯を耳にあてます。
「も、もしもし……」。
自分の声かすれてるのが、分かります。


そして、あっちは……無言でした。
しばらく、10秒位続く、無音の通話時間。
どうしたんだろう?

「もしもし、あの、私、柳」と言ってみた
んです。
で、途中まで、名乗りかけたんです。
でも、それは、しーちゃんの絶叫で
遮られました。
「ウソッ!?
本当に、マコッち?
あの、マコッち、だよねぇ!!」……。



















(著作権は、篠原元にあります)
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