蝋が消えるその日まで

ツナマヨ

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消えかけのその蝋

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この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

街中に1人。時刻は夜を過ぎる。
もうこの時間から街の外に出るのも危険だ。
飯もいいが、雨も降っている。早めに宿を見つけて、寝場所を確保しなければ。
そう思い足を上げ、歩き続けると、何かがぶつかる。正直今は疲れていて目の前の景色にすら目が行き届かないのだ。
ぼやける視界をはっきりさせ、前を向くと誰もいない。おかしいな、確実に誰かとぶつかったはずだ。ぶつかってさっさとどっか行ってしまったのだろうか…?

「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

泣き叫ぶかのような声。
声は幼く、恐らく女の子だろう。
声のする方向、下を向くと、ボロボロの布切れのような服で見える肌は傷だらけ。
傷の着いていない手首や顔等から見れる綺麗できめ細かい白い肌は、そこから腕にかけての傷だらけの肌をさらに強調させている。

しかし、何故こんな子が?孤児か?それとも逃げ出した奴隷か?いや、奴隷は違うな。
基本奴隷商人は商品である奴隷にわざわざ傷をつけたりしない。商人によっては栄養もあり、しっかりした睡眠を取らせ、価値を上げ、売る奴隷商人も居るほどだ。わざわざこんなことにはしないだろう。孤児も違うだろう。
基本的孤児は孤児院が引き取る。孤児院は協会が全て行っている。協会には聖魔法が使える神父や聖職者が必ずいる。聖魔法には回復魔法もあるため、神父がこんな傷だらけの子を回復しないわけが無い。

それに、この子の謝り方はなにか奇怪お かしかった。
普通、臆病な子だとしてもここまで大きな声で謝ったりなどしないし、ぶつかっただけでこの謝り様は、きっと何かがある。

「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。」

俺はしゃがみ、彼女の頭を撫でてそう微笑んだ。
彼女は急に大声を出して泣き出した。
なんでかは分からない、が、その泣き顔は、あの人にそっくりで、そんな顔はして欲しくはなかった。

周りからは「早くあやしてやれ」と言わんばかりに俺を見ていた。他にもこの子の様子から虐待など疑いの目を向けられていた。
どうやら俺らは親子と見られているようだ。
とりあえずこの場を何とかしようと、泣いている彼女を抱き上げ、宿まで連れていった。

宿に着き、彼女をベッドの上に座らせる。どうしたものか。
最悪、迷子なだけで、俺に怯えて泣いていたのだとしたら…。そう考えるとその後が怖かった。

「どうしてあの時泣き出したんだ?何かあったのか?親御さんは?家出したのか?」

とりあえず俺は彼女にそう質問した。
彼女を宿に連れてきたからには、彼女の身柄を確認しなければならない。
そう思い聞いてみると、彼女は顔を真っ青にしながらまたあの顔に戻りそうになっていた。
手は震えている、もう片方の手で抑えようとても止められていないほど。
もう、この事は聞くべきでは無いだろう。

「ごめん。言わなくて大丈夫。君に何があったかは分からない。でも、逃げてきたんだよね?もしそうなら、君はすっごく強い子だよ。偉いよ…偉い。」

そういい、抱擁し頭を撫でると、図星かのように泣きじゃくった。やはり、あの人にそっくりな泣き顔。でも、今は涙を空にして、心を落ち着かせた方がいい。


そしてしばらくし、彼女は眠りについた。恐らく沢山泣いて泣き疲れたのだろう。
よし、俺も眠ろう。そう思い、彼女の隣に寝転がり、頭を撫でながら俺は眠りについた。


翌日、俺は彼女より先に目を覚ます。そして宿を出る準備をしている最中、彼女も追うように起きてきた。

「おはよう。少しは楽になったか?」

「ひっ……あ……き、昨日…の。」

「君、名前なんて言うんだ?俺はにのまえっていうんだ。漢字で一って書くんだ。吟遊詩人って言う歌って旅をする職業をしているんだ。」

「わ、私は……オラーン…違う、違う。」

自分の名前を言おうとするも、違う、違うと自分の名前を否定する。俺と同じだ。

「違うのか?…そうは言っても呼び名が無いと生活しづらいからなぁ…そうだ、ミナトなんてどうだ?まぁ、仮だからな、嫌なら後で変えたらいい。」

「ミナト…?」

きっと、彼女は自分の名前が嫌いなのだろう。
だから、俺が彼女の名前を考えてみたのだ。
彼女はキョトンとした表情から、だんだん活気な顔になり、嬉しそうに

「うん!私の名前、ミナト!」

そう大きな声で言った。
今日聞いた中で一番嬉しそうで、活気に溢れ、幸せそうな声だった。

「そうか。ミナト、行くあてはあるのか?」

そう言うと、ミナトは首を横に降った。
やはり、そう思った。彼女がどんな環境下に置かれていたのかは分からないが、布切れのような服で、汚れだらけの髪で、顔をクシャクシャにしながら泣いた子が、行くあてがあるようには見えない。どこからが逃げだしてきたかそこらだろう。
ならば本来はこの子を孤児院へと送るのが正解なのだ。それが彼女のためにも…。

「なら…俺と一緒に、旅に…でないか?」

「う、うん!」

何を…?正直言ってしまえば、吟遊詩人こと俺の旅は移動がほとんど、夕まで歩き続け、街に着いたら歌で稼ぎ、寝て、その翌日は少し観光し、また歩き始める。俺からすればなんてことはないが、子供、ましてや女がやるには少しキツい。
でも、なんで誘ったのだろうか…。

「なら、まずは服を買わないとな。」

自分の行ったことには責任を持たなければ行けない。俺はあとにも引けず、この子を旅に連れていくことにした。

弱々しかった消えかけの火は、心地よい風を受け、少しはマシになった。
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