蝋が消えるその日まで

ツナマヨ

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汚れていたその蝋

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「とってもお似合いですよ!」

服屋にて、彼女に着せる服の試着行っていた。
服の事に関してよく分からないので店の人に全て頼んだのだ。店に入るなり、店の人に変な目をされたが、まぁいいですと、なんか勝手に解釈をされたようだった。

「どう…かな…?」

そういわれ、彼女の姿を見てみる。
可愛い。率直ではあるが真実である。
しかし、彼女に羽織られているコート…正直いうと、旅には厳しい…。
長袖とズボンはいいが、これだけは少しいただけない。旅の途中で森に入る可能性もあるのだ。
その時に、植物のほんの小さな枝などが刺さってしまう可能性もあった。

「…お父さん。お子さんには可愛いと言うべきですよ。」

「………あぁ、可愛いよ…とっても。」

彼女には聞こえないよう耳元で店員が話しかけてきた。もしそのままだった場合、バカ正直に厳しいと言ってしまい、かえって彼女を遠慮させてしまうかもしれなかった。彼女は照れくさそうに頬を赤らめながら、そっぽ向き、体をモジモジとさせていた。なのでこのアドバイスは本当にありがたかった。しかし、やはりこのコートは……。

「実はこのコート、とある魔法が付与されておりまして、その効果がなんと防汚!雨降る森の中を全力疾走しても、小枝も刺さらず、汚れもしない特注品なのです!」

…なんと好条件。これなら…いいかもしれない。
しかし、気になるのは値段だ。さっき店員は特注品と言っていた、つまり在庫一個の限定品のようなもの、値は結構張るだろう。まぁ、そこまで金に困っている訳でもないので、余程の値段では無い限り買おうとは思っている。

「…うん。いいと思う。ミナト、これを買おうか。」

「う、うん!」

「じゃあ、これ、一式買います。」

「ありがとうございます!総額金額5枚です。」

たっけぇ。値札を見ると、長袖と黒ズボンに関しては銀貨5枚という、まぁ最近の服はこれぐらいだよなという値段だが、コートだけ金貨4枚と銀貨2枚という確実に値段のレベルが違う。
まぁ、毛皮もなんかよさそうだし、付与されたものだしな…それくらいはするか。
財布から金貨を5枚出そうとした時、ミナトが俺の袖を少し引っ張った。また遠慮しているのだ。
まぁ…流石にこれは遠慮してしまうか…。

「大丈夫。旅の初期投資は高くて当然だ。」

そういい彼女の頭を撫で、金貨5枚を店員に差し出した。
試着の状態からそのまま外に出ようと店員に旨を伝えると、服に着いている値札をハサミで切り出した。彼女は逸る気持ちを抑えながら、値札が切られるのを待っている。
店員が値札を切り終えると、ミナトは自分の来ている服を見ながら目を輝かせていた。
やはり女の子だ。服とか、お洒落とか、やっぱり好きなのだ。そう思うと、なんだか微笑ましい気持ちも足りながら、少し安心するような気持ちもあった。彼女もまた普通なのだと。
それから俺らは店をでて、暫く歩いていたのだが、

「……?…あ?…み、ミナト!?ど、何処だ!?」

しまった、完全に見失った。手を握っていたのに、人混みに紛れた途端見失ってしまった。
くそ、あれぐらいの小さな女の子だ、誰かに連れ去られてもおかしくなんてない…!ミナト…!


「…あ、あれ…。一…さん…は…?」

人混みの波に流され、ついたのは人気の少ない路地裏。時刻は昼なのにも関わらず、その先は真っ暗だった。

「…ぐすっ……ひっく…。」

奥から聞こえる。泣き声、この泣き方は、嫌な事があったときの泣き方では無い。
辛い、怖い、不安といった負の感情が渦巻いた時に込み上げてくる泣き方だ。それは、私が一番知っていて、一番経験していた泣き方だった。
奥に行ったら危ない。そう、分かっていても、奥に進む、それ以外の選択肢はなかった。
見てみると…逃げ出した時の私と同じく、ボロきれのような服…汚れた黒い髪…声的に…男の子だろうか…?

「大丈…夫…?」

「ひぐっ…うっぐ…だ、だれ…だよ。…っ」

「私……ミナト…。…なんで…泣いてるの?」

「うるせぇよ。どっか行けよ…!…うぐっ、」

辛い時は一人になりたい。その気持ちはよくわかる。でも、そんな泣き方をされて、薄々立ち退くことは、私にはできない。
壁によりかかり、体育座りで座る彼に、私はこう問いかける。

「いかない…。なんで泣いてるの…?…………馬鹿にしない……笑いもしない…から。」

彼の隣に座り、話を聞いた。
どうやら、彼は"無魔"であり、そのせいで、散々バカにされていたらしい。
無魔とは、魔法を使うことが出来ない体質の人全般を言う。魔法が使えないということは、魔物がいる街の外には無闇には出られず、付ける仕事もかなり少ない。そして、人々に笑われ、貶され、嘲笑われる。それでいて、この体質はかなり珍しく、街の笑いものとして覚えられる。この体質で産まれたら負けとすら言われてしまう程なのだ。

「……笑えよ…どうせ俺は、笑われるくらいしか価値なんてねぇんだ……人としても………受け入れて貰えなくて……。」

「……誰も……受け入れてくれなかった…の?」

「そうだよ…。」

今まで誰も受け入れてくれなかった。私と同じ。
なら、私が言うことは決まってる。

「なら……私が受け入れる…!君の…君の全てを…!」

「……嘘つけ。どうせ、この後嘘でした~とか言って、俺を笑うんだろ…?」

「ち、ちがっ……!」

「あぁ?こんなとこにいたのかぁ?無魔のエリック~?」

後ろから、誰かが来た。恐らく、私たちと同年代くらいの子だ。少し…ふくよか…。お金持ちの息子…かなぁ…?

「相変わらずなっさけない声で泣いてよぉ?耳障りなんだよ!」

「!……ッ!!」

エリック…彼はそう言ってたか。
ふくよかな彼が、エリックを蹴ろうとした時、咄嗟に体が動き、エリックを庇い、代わりに蹴られてしまった。痛い…が、それだけ。
とりあえず、今はエリックが無事でよかった。

「ふんっ!…女に守られやがって、ダッセェな!」

私を蹴って…いや、本来蹴りたかったのはエリックという子なのだが、とりあえず満足したのか、そう言って去ってしまった。

「だ、大丈夫…?」

「それを言うのは…俺だろ?…ほんとに…だせぇな…あいつの言った通りだよ。」

どうやら…私の行動は…彼の傷口に塩を塗ってしまったようだ。さらに傷ついて、俯いて、落ち込んでしまっている。
どうしよう、どうしよう。こんな時…あの人なら、なんて言うのかな………。

「…だ、ダサく…なんてない……。き、君が無魔なのは……きっと…神様が、もっと素敵な……魅力を………持たせるために………ハンデとしてつけた………と……思うから…。…もっと、……自信出して。」

誰かを励ましたことなんでない…でも、あの人から貰った言葉の暖かさは、いまだ冷めることを知らない。なら、こと暖かさを彼に…そう思い、なれない言葉で彼の事をせい行っ励まそうとする。

「………ふふ、……あっはは…そっかそっか…これは…ハンデか…。」

「君には…もっと素敵な……何かがあるから…!探して………見つけて…ね……!」

「そっかァ…強いなぁ…君は。………分かった。いつかもう一度会った時、君の事を守れるような素敵な奴に…なっておくよ。」

そういい、エリックという少年は、私の手をにぎった。暖かくて、暖かくて、冷たい私でさえ、簡単に暖めてしまうほどだった。

「どこだァ!?…ミナトー!」

私のことを呼ぶ声、一さんだ…!
私は立ち上がって、彼の方を一度むき、

「い、行かなきゃ……じゃ、じゃあね……エリック君…!」

「あぁ。」

そういうと、私は路地の明るい方、出口の方へと向かっていった。

「ミナト…ミナトか………。」

彼の灯火は、どんな強風にも耐えられる、輝かしいものになった。


「ミナト…いた!!どこいってたんだ!?」

「ご、ごめんなさい…は、はぐれちゃって…。」

「………あぁ…良かった……良かったぁ…。」

絶対怒られる。そう思っていたが、一さんの反応は違った。私を見つけた途端、力が抜けたようにしゃがみ、私のことを抱きしめてきたのだ。
暖かい……どうして、みんな、そんなに…暖かいのだろう…私は…こんなにも冷たいのに…。

「ご、ごめん……なさ……」

「いいんだ、謝らなくて、今は、君を見つけたことがほんとに嬉しいんだ。……ありがとう…。」

なんで……なんで……だって、悪いのは……どうみたって…私…なのになんで……。
……手……震えてる……?…一さんと再開した時から…?……ううん。多分エリックくんを庇った時から……私………怖かったんだ。

「あぁ……あぁぅ……うぐっ…ひっく。」

私は一さんに抱きついて、安心と嬉しさの正の感情が渦巻き、嗚咽するような涙を流した。

その蝋は、輝きを取り戻した。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

俺は……無魔だ。魔法が使えない…無能。
みんなはいつもそう言って俺を笑い、馬鹿にする。ついには親も…俺を捨てて逃げていった。
もう…どうしようもなかった。生きる為に、こき使われ、ミスをしたら罵倒、暴力。それで得られる金も極わずか…もう、限界だった。

「だ、大丈夫…?」

光の方向から…声がした。
その声は、俺にとっては…まるで、女神様のお告げのような、暖かい声で…でも、どこか自信のなさそうな声。名前は…ミナトと言うらしい。
彼女の言葉は、光のような暖かさを宿し、お告げを終えた途端、ふわりと俺の前から姿を消してしまった。
路地から出ていく彼女の姿は、少し、俺には眩しすぎたようで、目がチカチカしてしまった。

それから、俺は急に自信を取り戻し、街の兵士として訓練を積むようになった。訓練は辛いが、教官はこんな俺にも熱心に指導してくれる。

きっと…彼女がいなかったら、俺はあそこでグズグズ泣いているままだっただろう。でも、彼女、ミナトの声を聞いてから、なんだか変わった気がした。俺は魔法が使えないから、何が魔法で何が魔法じゃないのかは正直区別できない。でも、あれは確かな魔法だった。今まで見てきた、火を出したり、水を出したり、そんなものとは比べ物にならないほど、キラキラしていて、眩しくて、綺麗で、暖かい魔法だった。
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