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死神さんと助言
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「それでは、私の番ですね」
俺の話から少し間を置き、少女が切り出してきた。俺は静かに頷き少女の言葉を待つ。
「まず、私が何者かですが……。お気づきとは思うのですが、人間ではないのです。私は死神です」
これまでのことから、確かに普通の人間ではないとは思っていた。
普通なら信じられないだろう。
しかし、少女の真剣な表情や纏う雰囲気が、嘘ではなく真実であることを告げている。
「死神っていったら人を死に誘う神とか、もしくは人に取り憑いて死に至らしめるとか、そういった印象があるが……」
「確かにそういった印象を持たれる方は多いです。民間伝承や文学作品の影響もあるとは思うのですが……。私は人を死に誘うとか、人に取り憑くとかはできないです。私の役目は、死者の魂を輪廻に導くことです」
輪廻……輪廻転生のことか! まさか事実だったとはな。それに死神である少女がここにいる理由は……。
「それじゃあ俺が、死神様? に声をかける前に、空に向かって何かしていたのは、もしかして……」
「さ、様付けで呼ばなくていいですよ。言われ慣れていないですし、私自身そんな大層な者でもないですし」
死神の少女はそう言うが、そういうものなのだろうか。この様子だと、できるだけ今までどおり接したほうがいいだろう。恭しい態度は、逆に気を遣わせそうだ。
「では、敬称を付けずにただ死神ってのもあれなんで、死神さんと」
「分かったです。それでいいです。で、話の続きですが、死者の魂を輪廻に導いていたのです」
「……ということは、螺旋を描きながら空に昇っていったのって……死者の魂なのか?」
「あれが見えたのですか?」
「いや、見えたというか、そこにあるって感じたっていうか……」
「そうですか……とりあえず、誠二郎の言うとおり、死者の魂であっているのです」
「そうか……数えきれないほど多く感じたが、それだけ死んでしまったってことだよな……」
「はい……。平時であれば、一人一人丁重に導くのですが、このような場では……」
俺は予想があっていたことに、やるせない気持ちになるが、それと同時にどこか安堵する自分もいる。
死神さんの言葉や表情から、死んでいった仲間を悼んでくれているのが伝わってくる。
そんな死神さんが彼らを見送ってくれたことは、俺自身の救いにもなっているのだ。
そして、俺は気がかりであったことを確認せずにはいられなくなった。
「死神さん、一つだけ尋ねたいことがあるのだが、よいだろうか」
「私で答えられることならばですが、いいですよ」
「俺の戦友で木下という男がいるのだが、彼がどうなったかご存じだろうか。もし知っているなら教えていただきたい」
可能性がほとんどないことは分かっていても、一縷の望みにすがっている。そんな自分の気持ちに整理をつけたかった。
「……彼はすぐにでも倒れてしまう重症を負いながらも、最期まで勇敢でした」
数泊置いて、死神さんの沈痛な面持ちとともにその言葉は発せられた。
「そうか、最期まで勇敢だったのか……まったく、あいつらしい……。死神さん、木下も他の皆とともに?」
「はい」
俺が死神さんに声をかける前のあのとき、木下のやつもいたのかもな……。
「死神さん、死んでいった多くの戦友を見送っていただき、ありがとうございました」
俺は深々と頭を下げ、感謝の意を込める。
「それが私の役目なので……でも、お役に立てたのならよかったです」
そう言う死神さんは、優しく微笑んでいた。
「そろそろ夜明けが近いです。誠二郎、あなたはどこかに身を隠したほうがいいです」
どうやらけっこうな時間、話し込んでいたらしい。もう少し話したい気持ちもあるが、そんなことは言ってられない。
「死神さんは?」
「私はまた死者のもとへ向かうです」
「そうか、これでお別れになるか」
「そうですね……ただ、別れた後にすぐ再会なんてことは嫌ですよ」
死神さんの表情はどこか不安げだ。すぐ再会という言葉が意味するところは……
「ああ、そんなことにはならないように努力する」
「ええ、ご武運を……」
俺は頷き、後ろ髪を引かれつつも、死神さんのもとを去ろうと歩き出す。
「誠二郎、前進が吉です」
俺は立ち止まって振り返るが、そこにはもう死神さんの姿はなかった。意味深な助言を残して。
そうして、俺と死神さんの奇跡のような時間は終わりを告げた。
俺の話から少し間を置き、少女が切り出してきた。俺は静かに頷き少女の言葉を待つ。
「まず、私が何者かですが……。お気づきとは思うのですが、人間ではないのです。私は死神です」
これまでのことから、確かに普通の人間ではないとは思っていた。
普通なら信じられないだろう。
しかし、少女の真剣な表情や纏う雰囲気が、嘘ではなく真実であることを告げている。
「死神っていったら人を死に誘う神とか、もしくは人に取り憑いて死に至らしめるとか、そういった印象があるが……」
「確かにそういった印象を持たれる方は多いです。民間伝承や文学作品の影響もあるとは思うのですが……。私は人を死に誘うとか、人に取り憑くとかはできないです。私の役目は、死者の魂を輪廻に導くことです」
輪廻……輪廻転生のことか! まさか事実だったとはな。それに死神である少女がここにいる理由は……。
「それじゃあ俺が、死神様? に声をかける前に、空に向かって何かしていたのは、もしかして……」
「さ、様付けで呼ばなくていいですよ。言われ慣れていないですし、私自身そんな大層な者でもないですし」
死神の少女はそう言うが、そういうものなのだろうか。この様子だと、できるだけ今までどおり接したほうがいいだろう。恭しい態度は、逆に気を遣わせそうだ。
「では、敬称を付けずにただ死神ってのもあれなんで、死神さんと」
「分かったです。それでいいです。で、話の続きですが、死者の魂を輪廻に導いていたのです」
「……ということは、螺旋を描きながら空に昇っていったのって……死者の魂なのか?」
「あれが見えたのですか?」
「いや、見えたというか、そこにあるって感じたっていうか……」
「そうですか……とりあえず、誠二郎の言うとおり、死者の魂であっているのです」
「そうか……数えきれないほど多く感じたが、それだけ死んでしまったってことだよな……」
「はい……。平時であれば、一人一人丁重に導くのですが、このような場では……」
俺は予想があっていたことに、やるせない気持ちになるが、それと同時にどこか安堵する自分もいる。
死神さんの言葉や表情から、死んでいった仲間を悼んでくれているのが伝わってくる。
そんな死神さんが彼らを見送ってくれたことは、俺自身の救いにもなっているのだ。
そして、俺は気がかりであったことを確認せずにはいられなくなった。
「死神さん、一つだけ尋ねたいことがあるのだが、よいだろうか」
「私で答えられることならばですが、いいですよ」
「俺の戦友で木下という男がいるのだが、彼がどうなったかご存じだろうか。もし知っているなら教えていただきたい」
可能性がほとんどないことは分かっていても、一縷の望みにすがっている。そんな自分の気持ちに整理をつけたかった。
「……彼はすぐにでも倒れてしまう重症を負いながらも、最期まで勇敢でした」
数泊置いて、死神さんの沈痛な面持ちとともにその言葉は発せられた。
「そうか、最期まで勇敢だったのか……まったく、あいつらしい……。死神さん、木下も他の皆とともに?」
「はい」
俺が死神さんに声をかける前のあのとき、木下のやつもいたのかもな……。
「死神さん、死んでいった多くの戦友を見送っていただき、ありがとうございました」
俺は深々と頭を下げ、感謝の意を込める。
「それが私の役目なので……でも、お役に立てたのならよかったです」
そう言う死神さんは、優しく微笑んでいた。
「そろそろ夜明けが近いです。誠二郎、あなたはどこかに身を隠したほうがいいです」
どうやらけっこうな時間、話し込んでいたらしい。もう少し話したい気持ちもあるが、そんなことは言ってられない。
「死神さんは?」
「私はまた死者のもとへ向かうです」
「そうか、これでお別れになるか」
「そうですね……ただ、別れた後にすぐ再会なんてことは嫌ですよ」
死神さんの表情はどこか不安げだ。すぐ再会という言葉が意味するところは……
「ああ、そんなことにはならないように努力する」
「ええ、ご武運を……」
俺は頷き、後ろ髪を引かれつつも、死神さんのもとを去ろうと歩き出す。
「誠二郎、前進が吉です」
俺は立ち止まって振り返るが、そこにはもう死神さんの姿はなかった。意味深な助言を残して。
そうして、俺と死神さんの奇跡のような時間は終わりを告げた。
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