白い死神少女と彼岸花 ~元兵士の旅立ち~

白山賢兎

文字の大きさ
4 / 9

死神さんと助言

しおりを挟む
「それでは、私の番ですね」

 俺の話から少し間を置き、少女が切り出してきた。俺は静かに頷き少女の言葉を待つ。

「まず、私が何者かですが……。お気づきとは思うのですが、人間ではないのです。私は死神です」

 これまでのことから、確かに普通の人間ではないとは思っていた。
 普通なら信じられないだろう。
 しかし、少女の真剣な表情や纏う雰囲気が、嘘ではなく真実であることを告げている。

「死神っていったら人を死に誘う神とか、もしくは人に取り憑いて死に至らしめるとか、そういった印象があるが……」

「確かにそういった印象を持たれる方は多いです。民間伝承や文学作品の影響もあるとは思うのですが……。私は人を死に誘うとか、人に取り憑くとかはできないです。私の役目は、死者の魂を輪廻に導くことです」

 輪廻……輪廻転生のことか! まさか事実だったとはな。それに死神である少女がここにいる理由は……。

「それじゃあ俺が、死神様? に声をかける前に、空に向かって何かしていたのは、もしかして……」

「さ、様付けで呼ばなくていいですよ。言われ慣れていないですし、私自身そんな大層な者でもないですし」

 死神の少女はそう言うが、そういうものなのだろうか。この様子だと、できるだけ今までどおり接したほうがいいだろう。恭しい態度は、逆に気を遣わせそうだ。

「では、敬称を付けずにただ死神ってのもあれなんで、死神さんと」

「分かったです。それでいいです。で、話の続きですが、死者の魂を輪廻に導いていたのです」

「……ということは、螺旋を描きながら空に昇っていったのって……死者の魂なのか?」

「あれが見えたのですか?」

「いや、見えたというか、そこにあるって感じたっていうか……」

「そうですか……とりあえず、誠二郎の言うとおり、死者の魂であっているのです」

「そうか……数えきれないほど多く感じたが、それだけ死んでしまったってことだよな……」

「はい……。平時であれば、一人一人丁重に導くのですが、このような場では……」 

 俺は予想があっていたことに、やるせない気持ちになるが、それと同時にどこか安堵する自分もいる。
 死神さんの言葉や表情から、死んでいった仲間を悼んでくれているのが伝わってくる。
 そんな死神さんが彼らを見送ってくれたことは、俺自身の救いにもなっているのだ。
 そして、俺は気がかりであったことを確認せずにはいられなくなった。

「死神さん、一つだけ尋ねたいことがあるのだが、よいだろうか」

「私で答えられることならばですが、いいですよ」

「俺の戦友で木下という男がいるのだが、彼がどうなったかご存じだろうか。もし知っているなら教えていただきたい」

 可能性がほとんどないことは分かっていても、一縷の望みにすがっている。そんな自分の気持ちに整理をつけたかった。

「……彼はすぐにでも倒れてしまう重症を負いながらも、最期まで勇敢でした」

 数泊置いて、死神さんの沈痛な面持ちとともにその言葉は発せられた。

「そうか、最期まで勇敢だったのか……まったく、あいつらしい……。死神さん、木下も他の皆とともに?」

「はい」

 俺が死神さんに声をかける前のあのとき、木下のやつもいたのかもな……。

「死神さん、死んでいった多くの戦友を見送っていただき、ありがとうございました」

 俺は深々と頭を下げ、感謝の意を込める。 

「それが私の役目なので……でも、お役に立てたのならよかったです」

 そう言う死神さんは、優しく微笑んでいた。



「そろそろ夜明けが近いです。誠二郎、あなたはどこかに身を隠したほうがいいです」

 どうやらけっこうな時間、話し込んでいたらしい。もう少し話したい気持ちもあるが、そんなことは言ってられない。

「死神さんは?」

「私はまた死者のもとへ向かうです」

「そうか、これでお別れになるか」

「そうですね……ただ、別れた後にすぐ再会なんてことは嫌ですよ」

 死神さんの表情はどこか不安げだ。すぐ再会という言葉が意味するところは……

「ああ、そんなことにはならないように努力する」

「ええ、ご武運を……」

 俺は頷き、後ろ髪を引かれつつも、死神さんのもとを去ろうと歩き出す。

「誠二郎、前進が吉です」

 俺は立ち止まって振り返るが、そこにはもう死神さんの姿はなかった。意味深な助言を残して。
 そうして、俺と死神さんの奇跡のような時間は終わりを告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私の守護霊さん『ラクロス編』

Masa&G
キャラ文芸
本作は、本編『私の守護霊さん』の番外編です。 本編では描ききれなかった「ラクロス編」を、単独でも読める形でお届けします。番外編だけでも内容はわかりますが、本編を先に読んでいただくと、より物語に入り込みやすくなると思います。 「絶対にレギュラーを取って、東京代表に行きたい――」 そんな想いを胸に、宮司彩音は日々ラクロスの練習に明け暮れている。 同じポジションには、絶対的エースアタッカー・梶原真夏。埋まらない実力差に折れそうになる彩音のそばには、今日も無言の相棒・守護霊さんがいた。 守護霊さんの全力バックアップのもと、彩音の“レギュラー奪取&東京代表への挑戦”が始まる──。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...