異能専科の猫妖精

風見真中

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旧友編

陰口

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「なんか疲れた顔してますね?」
 寮の食堂に着くと、猫柳瞳、ネコメが不思議そうな顔で首を傾げた。
「まあ、毎日のことだ……」
 部屋着に着替えた俺は早く飯を食いたいリルに引っ張られるようにして席に座り、リルの前にドッグフードを置いた。
「リル、ステイ」
 俺の命令に従い、リルは食事の入った深皿の前で静止する。
 一応しつけの一環として、リルの食事は俺たちが食べ始めてからということにしている。まあ会話ができるリルにどの程度効果があるのかは、甚だ疑問ではあるが。
「部活選び、そんなに大変なの?」
 パンを千切りながらそんなことを聞いてくるのはクラスメイトにしてクラス委員長でもあるボブカットの女子、座敷童の異能混じりの里立四季だ。
「いや、部活じゃなくてコイツのシャワーがな……」
 風呂で不機嫌になったリルだが、今は夕飯を前にしてゴキゲンに尻尾を振っている。
 俺、ネコメ、里立、テーブルの下のリル。この三人と一匹で食事をするのが、最近定番になりつつあった。
 本当はここにもう一人、絡新婦の異能混じり、東雲八雲がいるとしっくり来るのだが、東雲は未だ戻ってきていない。
 ルームメイトで霊官としてのバディでもあったネコメなんかは、ふとした拍子に寂しそうな顔を見せることがある。
 居たら居たでやかましいやつなのだが、やはり賑やかしが居ないのは違和感がある。
「でも確かに、もうあまり期間ないですから、早く部活を決めないとですよね」
 パスタを巻きつついうネコメに、俺は心から同意する。
 部活対抗という異色のルールで行われる体育祭は再来週に迫っている。
 決めかねて下手にハードな部に入れられてしまえば、十一月にあるという全国の異能専科対抗の異能有りの合同体育祭、妖怪大戦争のチーム入りを果たしてしまう可能性だってあるのだ。
 それだけは阻止しなければならない。
「無いもんかな、練習無くて、緩くて、間違っても体育祭で勝ち残ったりしないイージーモードな部活……」
「うちの茶道部は?」
「部長がハードモードすぎるだろ」
 茶道部の部長は生徒会長の諏訪彩芽。妖蟲に食われて喪失した俺の手足を、信じられない技術と異能で元通りにしてくれた恩人なのだが、いかんせん人格に難ありだ。
「人を犬扱いする外道が部長やってる部活になんか入ったら、何させられるか分からねえからな。ただでさえ俺はあの人に逆らえねえ理由があるのに、わざわざ自分から下に入ったりするかよ」
 俺がため息と共にそう吐き出すと、里立は不思議そうな顔でパンをもそもそ頬張る。
「部長は私達には優しいし、美味しいお茶とかいっぱい持ってきてくれるよ? そんなに遠ざけなくても……」
 可哀想に、里立たち茶道部員はあの悪魔に騙されているのか。
「いいか里立。あいつは権力と人の弱みを盾にして息をするように理不尽を行う暴君だ。異能者、霊官としては優秀かも知れんが、人間的には外道も外道。あいつの方が鬼か悪魔だよ」
 里立の目を覚まさせてやろうとそんな事を言ってやると、なぜか里立とネコメが揃って顔を逸らした。
「おい、どうしたん……」
「ふーん、そういう風に思ってたんだ?」
 ゾクっと、背中に感じる寒気。
 恐る恐る振り向くと、そのまま首のグレイプニールを引っ張られて床に仰向けに転がされた。
「す、諏訪先ぱ……!」
 床に転がる俺の元に、車椅子のタイヤが迫る。
 ゴリッ、車椅子に轢かれた。
 車椅子にはサスペンションが備わっているようで、下手人は曲芸のように器用なドライビングテクニックでバランスを崩すことなく俺の顔の上を何度も車椅子で往復した。
「や、めろ~!」
 這いずるようにして車椅子の下から抜け出し、さっきまで座っていた椅子に手をついて体を起こす。
 顔を向けると、そこには額に青筋を浮かべる諏訪彩芽生徒会長と、諏訪先輩のボディーガードにして生徒会長副会長、女顔の烏丸叶先輩がいた。
「大地ぃ、人の陰口言う男ってどうなのかしらね~?」
 ニコリ、と凶悪な笑みを浮かべる諏訪先輩に冷や汗を流しながら、俺は視線を逸らす。
「大神、部活が決まっていないならうちの剣道部なんてどうだ? 私が直々に相手をしてやる」
 冷笑を浮かべる烏丸先輩に「勘弁っす」と手を振り、顔に触れて傷がないか確かめる。なんか顔の皮膚、デコボコしてるような……。
「タイヤの跡ついてますよ……」
 マジかよ。
「陰口なんて言うからよ。四季の顔は、綺麗に治ったわね。良かったわ」
 諏訪先輩は俺から里立に視線を移し、その頬を見てニコリと微笑んだ。
「部長のおかげですよ」
 里立は恥ずかしそうにはにかみながら自分の頬に触れる。
 里立は先の事件の際、頬に深い切り傷を負ってしまった。
 諏訪先輩の治療のおかげでその傷は跡形もなく綺麗に治ったが、女子の顔に切り傷というのはトラウマにもなりうる事態だったからな。本当に治ってよかった。
「顔に傷なんてあったら、私もう『海賊王』か『るろうに』になるしかなかったですからね」
「いや、さすがにもうちょっと選択肢あるだろ」
 なんだそのジャンプ漫画みたいな進路。
 そんなやり取りをして笑っていると、諏訪先輩がネコメの方を見て口を開いた。
「まあそんな話しに来たんじゃないのよ。ネコメ、それと大地」
「はい」
「なんすか?」
 諏訪先輩に名指しされるのは何だか嫌な予感がするが、とりあえず返事をしておく。
「夕飯終わったら私のところに来てくれる?」
「はい、分かりました」
「え、イヤっす」
 思わず反射的に本音で答えてしまうと、グイ、とグレイプニールを引っ張られ、再び床に転がされた。
「来なさい」
 命令じゃん。
 やっぱり理不尽じゃねえか、と内心で悪態をついていると、
『ダイチ……』
 テーブルの下では、リルが食事を前にして健気にステイを続けていた。
「……ごめん、忘れてた。よし」
 許可を出すと、リルは跳び付くようにしてご飯を食べ始めた。
 リルに悪いことしたな、と思いながらテーブルの下から這い出ると、諏訪先輩と烏丸先輩の姿は既になかった。
「大地君、早く食べちゃいましょう」
「……はい」
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