天帝四刀

あすこもいど

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プロローグ

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爆発音である。

 早朝の漁港に似つかわしくない轟音が空気を裂き、桟橋と係留された数隻の漁船が、まるで積み木のように粉砕された。潮の匂いに焦げた木材と鉄の臭気が混じる。沖合には、朝靄を押しのけるように灰色の戦艦が浮かび、艦砲の閃光が遅れて音を連れてくる。

 市場から人々が雪崩れ込むように逃げてきた。
「なんでだよ! 自国の軍隊だろ……?」
誰かの叫びが、次の爆音にかき消される。

 港を見下ろす宿屋の一室。その窓の外の騒ぎをベッドの上の少女たちはまだ正確には理解していなかった。薄いシーツを蹴散らし、寝ぼけ眼のまま素っ裸で転がる二人。

「おりべぇ……なにがあったの?」
その幼さに似合わない刺青の入った腕で目をこすりながら、間の抜けた声で聞く。

織部おりべと呼ばれた少女は答えず、眠たげに天井ではなく、さらにその向こうを仰いだ。
「ちょっと待ってね」
彼女の頭のサークレットが、微かに揺れる。
その瞬間、世界のざわめきが、彼女の中へ流れ込み始めていた。



「おまえら早く服を着ろ!」
金髪のアフロのようなツインテール頭の少女が障子を蹴倒す勢いで部屋を覗き込んだ。こちらはきちんと服を着ている。

「しろぉ…なにがあったの?」
まだうなだれ気味に、少女が今度は金髪少女に聞く。

「知らん。兵隊たちは皆手遅れでゾンビだ。大方、どこかの封印でも引っかけて呪われたんじゃないか?」

「海からも空からも、近くの軍隊が一斉に来てるわねえ」
織部はサークレットに指を添え、目を細めながらそう言った。

しろは一瞬だけ考え、すぐ二人に指示する。
「織部は住民をここへ集めろ。向かってくるゾンビ兵ははなだに任せる」

「はぁい」
会話の内容と釣り合わない寝ぼけ顏の裸二人の返事は、拍子抜けするほど軽かった。


 宿の建物は街中でも一段高い。その屋上へ白が手慣れた動作で上ってきた。肩にかけていた長弓を取ると腰の矢束を掴み、何もない空を仰いだ。照準も取らず、雑につがえ、まとめて放つ。
大して弦を絞ったようにも見えなかったが、矢は放たれるとたちまちに加速、上昇して青空に溶けた。

 町から百キロほど離れた上空。二機の戦闘機が飛んでいた。
計器は何かを警告していたが、パイロットの目にはもう何も映っていなかった。ただ、その指だけがトリガーへ伸びる。
次の瞬間、数本の矢が、寸分違わず機体のエンジン部位に同時に命中した。火矢はありえない正確さでエンジンを貫く。二機の機体はほぼ同時に形を失い、空が静かになる。

 一方、虚ろな目の兵隊と戦車の影が迫る町の入口へ、服を着た二人がたどり着く。
織部は目を閉じ、声を出さずに何かを話している。そこへ白が追い付いた。
あけちゃんはどこに?」
縹の問いに、白が答える。
「声かけてなかったのか? まだ宿の食堂で飯を食ってるぞ」

《落ち着いて。みな宿へ。ゆっくりね》
頭のなかから聞こえる声に、住民たちは戸惑いながらも冷静さを取り戻し避難しつつあった。
織部はふぅ。と一息ついて目を開く。
「あっちは大丈夫。あとはお願いね」
「うん」と縹。腰から小刀を2本、両手で引き抜く。
同時に彼女の四肢の色が変わる。イカの擬態のように鮮やかな模様が揺らめき、縹は軍勢に向かって走り出す。
兵士たちの発砲音が聞こえる前に、空中に戦車のバレルが輪切りとなって飛び散った。

 


あけちゃんは?」
縹が小刀を納めながら聞く。
「ん? フェイ?」白の視線が一瞬虚空を見る。
彼女たちの周りに先ほどまで在った、中隊規模の軍隊はもう存在しなかった。戦車も死体も、もう二度と動かない程度の炭となり一面でくすぶっていた。

「あいつまだ食って…あ」
白が緊張して海の方を見る。

 その時、艦砲が唸った。
一段高い宿の屋根が吹き飛び、煙があがる。

「「あー」」
緊張感のない声で二人が叫ぶ。

 砲弾は、屋根と一緒に吹き飛んでいた。
煙が一瞬で消し飛び、そこから空へ向かって火柱が上がるように見えた。
火ではない。燃えるような色の長いリボンが空へ上った。

 朝の青空に映えるリボンの先には少女がいた。
海へと向かって描かれる赤の放物線はみるみる遠ざかってゆく。
何もない空中でステップを踏みながら、まるで踊るように戦艦へ向かう赤い点。

 砲塔は二射目を向かってくる赤い少女に定め待ち構える。
舳先に向かって降りて…落ちてきた少女は戦斧を振り上げていた。
少女は身長より長い戦斧を振り下ろしながら、山のような戦艦の鼻先へ落ちてくる。
砲がうなる。
水柱が立ち上る。
轟音と鋼の軋む悲鳴のような音が聞こえる。

 織部は宿に向かう通りから沖合の水柱を眺めていた。
ゆっくりと消えてゆく水柱の奥から、舳先を下にして水面に戦艦が見える。
そのまま、艦はゆっくり前のめりに倒れていく。
ひーちゃん、やりすぎ」



「宿の人たちは全員無事よ」
織部が街の入口で待つ二人に近づきながら声をかける。
「建物はひどいがな」白がまた虚空を見渡しながらつぶやく。

そこへ、紅いリボンをたたみながら、緋が静かに着地する。
「いつまで飯食ってんだオメーは」
白の言葉に、緋は首を傾げていたずらっぽく笑う。

「でも妙ね」織部が言う。「町を潰すには、ちょっと多すぎじゃない?」
「最初から私たちを狙ってたんだ」白が続ける。「軍勢は操り人形だった」
織部は小さく頷く。
「つまりは、こちらの方角で正解ってことね」

 白は空を見上げた。
「じゃあ行くか」
「おなかすいた」縹が即座に返す。
「そうねえ。朝いちばんだったものねえ」

三人がふと緋を見る。いつのまにか食堂から持ち出したらしいパン袋を抱え、もぐもぐしていた。

フェイ
あけちゃん」
ひーちゃん」
「「「よこせー!」」」
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