俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第五章 泡沫の葛藤

第30話 チュートリアル:奮闘

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「きゃあああああ!」

「うわあああああ!」

「ギィイイイ! ギィイイイ!!」

 阿鼻叫喚。溢れ出た魚人型モンスターの大群が人に襲い掛かった。

 ものの数秒で何十体ものモンスターが得物を持ってゲートから飛び出している。

「おいおいマジかよ!」

「もう! こんな事ある!?」

 自慢の盾を出現させ、花田さんを守る様に側に立った大吾。悪態をつきながら符を指に構える瀬那。花田さんは生のモンスターを見て怖気づいている。

 俺はオーラ剣を出して前へ出た。事は一刻を争うかもしれない。

 緊急を知らせるホーンがけたたましく鳴り響く。

「大吾と瀬那は花田さんを守りながら迎撃、安全な場所まで後退! この数だと何処が安全か分からないからとにかく後退だ!」

「出来る限り倒しちゃうから!」

「萌、お前は!」

「見ての通り遊びに来てた攻略者が既に撃退に奮闘してる! だからーー」

 多くはないが水着姿の攻略者がすでに武器を持って戦っている。モンスター一体一体はそれほど強い訳じゃないらしく、順当に倒しているが、今も尚現れ続けるモンスターに撃退が追いついていない。

「冗談じゃないぞこの数!」

「おい! 逃げるぞ!」

 攻略者のナンパ師二人が逃げていく。

「おいふざけんな! 逃げんなよ! 戦えよ!」

「モンスターもナンパしろコラーー!!」

 尻尾を巻いて逃げる後ろ姿は余りにもカッコ悪い。あれだけイキリ散らかしていたのに、ああいった大人には成りたくないものだ。

「クソ! とりあえず俺は先輩方と一緒に戦う! 後は頼んだぞ二人とも!」

「まかせろ! 蕾、離れるなよ」

「う、うん」

 会釈する花田さん。

「萌も気をつけてね」

「ああ。後で落ち合おう!」

 三人が慎重に走り出した。モンスターが一体三人に飛び掛かるが、大吾がシールドでバッシュ。ダメージを受けたモンスターが泡となって消えた。

「大丈夫そうだ」

 遠のいていく三人。大吾と瀬那の力なら退けられるだろう。

「うわあああ! 離せこのおおお!」

「いやあああ!! 助けてぇえええ!!」

 第三者視点から冷静に見て見ると、モンスターが持つ武器は殺傷能力が低いかぎ爪状の武器だ。それを刺すというより人を捕らえている。現に既に何人かはゲートの向こう側へ連れていかれている様だ。

「先ずは」

 どうする。ゲートに連れ去られた人を助けるのに蹴散らして俺だけでもゲートに入るか……。ダメだ。あまりにもモンスターの数が多すぎて捕らわれた人を助けるので手一杯になる。

 攻略者たちも捕まった人を助けてはいるが、それをしのぐ勢いで人が襲われている。

「手の届く範囲か……」

 なんとも歯がゆい。

「ギィイイイ!!」

「ッフ!」

「ッ!?」

 襲い来る魚人型モンスターをオーラ剣で両断。泡となって消える。

「ふ~。ッ!!」

 攻略者が少ない場所に駆けだす。

「うおおおお!」

 走りながら斬る。

「ギ――」

 オーラの出力を上げて斬る。

「ィイイイ!?」

 縦に斬る。横に斬る。斜めに斬る。

 泡になって消えるモンスター達。

 だが斬れば斬る程、減るどころか数が増えてる気がする。

「ギィイイ!!」

「舐めんじゃねよ!」

 突き付けられる武器。それを手で掴んで握り潰し粉砕。

 驚愕の表示を浮かべるモンスターを尻目にアッパーカット。

「!?」

 宙に浮いたモンスターの脚を掴んで砂浜に叩きつけた。

 だが泡にならない。

「じゃあ恨むなよ!」

 仕方ないので右手にオーラ剣。左手にモンスターを装備して挑む。

「これでどうだあああ!!」

 オーラ剣で斬り伏せ、力任せにモンスターで叩く。

「ギョ? ――」

 理解できない闘い方に周りのモンスターがキョトンとした態度で固まる。俺はそこを容赦なく肉の棍棒とかした武器で薙ぎ払い泡へと変える。

「うん?」

 無尽に駆けながらモンスターを薙ぎ倒していると、大吾が発見したテレビ取材陣が複数のモンスターに狙われていた。命の危機というのにカメラを回してアナウンサーが実況しているのだから商魂たくましいにもほどがある。

「現在生中継でお送りしてます! 突如ゲートが開きそこからモンスターが出現! 攻略者たちが応戦していますが、あまりの物量に追いついていません! あ! カメラあそこ映して! 人を! 人を攫っています!」

「おい! こっちにも来るぞ!」

「っひぃ!」

 武器を掲げて襲うモンスター。アナウンサーに飛び上がった所を寸でで両断。

「ギィ――」

 なんとか間に合ったようだ。

「あんたら何やってんの! さっさと逃げなって!」

「ぁありがとうございます! とりあえずカメラを回しつつ避難します! ほら急いで!」

 テレビ取材陣が避難していった。

 なんとかビーチからモンスターを出さない様に倒してはいるが、この戦線が崩壊するのも時間の問題だろう。

 そう思っていると、攻略者が多い向こう側から大きな悲鳴が聞こえてきた。

 モンスターを斬り倒してから目を向けると、やはりビーチからモンスターが漏れ出し、市街地にまで被害が進んでいた。

「ック!」

 加勢に行きたいが、俺が今ここを離れたらこっちもすぐに崩壊する。向こうの攻略者に頑張ってもらうしかない。

「ハアアアア!!」

 オーラ剣で斬り、白目をむいた棍棒で叩きつぶし、回し蹴りで吹き飛ばす。今はただ視界に入るモンスターを倒すしかない。

「た、助かった!」

「乗り切りましょう!」

 走りながら倒していく中、ピンチになった攻略者を時折助ける。駆けだして倒していく。

「せいっ!」

「おっ! た、助かったッ! ありがとうございます!」

「あっちに逃げて下さい!」

 捕まった人をモンスターの魔の手から助ける。できるだけ安全な方向を指して逃げさせた。そして駆け出し、また倒していく。

 だが、倒しても倒してもキリがない。何より攻略者の数が圧倒的に不足している。オーラ剣の出力を上げて薙ぎ払えればいいが、他の人を巻き込む可能性しかないのでこの戦法は取れない。

 幻霊君主ファントムルーラーに顕現すればそれこそ早期解決を見込めるが、混乱が加速するだけで良くない。

 では力を使ってリャンリャンを呼べばどうだろうか。

「……」

 ダメだ。黄龍仙が突然出てくればなおの事混乱する。

「ギギィイイ!!」

「ギィ!」

「オラア!!」

 俺を囲んだモンスターを棍棒を振り回して泡に変える。酷使の結果、もう肉の棍棒がしなしなになって使い物にならない。

「フン!」

 遠くのモンスターに向かって投擲。複数体を巻き込んでもろとも泡になる。

 戦いに戦い続け、ダンジョンが出現してから数十分から一時間弱。視界の端でダンジョンに連れていかれた人の悲痛な顔、叫びを聞き、救出困難な物量に歯がゆさを感じてやまない。

 ダンジョンから溢れ出るモンスターの波状も次第に緩やかになり、奮闘した甲斐があった。だがまだ油断ならない。

 体力に自信がある俺はまだまだいけるが、先輩方はチラホラと体力の限界が訪れていた。

 そしてこのタイミングで待ってましたと空から気配がした。

「!」

 太陽を背に黒い影が複数。まばらにビーチへと落下し、砂埃を舞って着地。銀色の斬撃が砂埃と一緒にモンスターを斬った。

 砂が晴れて鮮明になる。

 軽装だが強固な鎧。強靭な三又の槍。そして強者特有のたたずまい。

「遅すぎたが登場! ヤマトサークルのお出ましだああああ!!」

 気炎万丈。日本の代表するサークル、ヤマトサークルの西田メンバーが吼えた。

 少し離れている俺でも聞こえる咆哮は、一緒に来たサークルのメンバー含む攻略者が耳を塞ぐ程に大きい。まぁうるさくて敵わないのだろう。

 物量の激しい向こう側にサークルの主力メンバーが揃い踏み、見る見るうちに押し返している。

 そしてこちら側というと。

「今日の雷撃は冴えてるぜええ!!」

「ギイイイイ!!」

 揮う西田メンバー。三又の槍を慣れた手つきで扱い、雷を纏ってモンスターを倒している。どうやら西田メンバーの雷撃はこの魚人方モンスターに効果てきめんらしい。

「モンスターが怖気づいてる……。畳みこむなら今か!」

 前方にはモンスターの群れ。人は居ないようなのでオーラ剣の出力を上げる。

「久しぶりにかますぞ!」

 オーラの振動音が鼓膜を響かせ、数メートルに伸びる。モンスターと目が合う。

「!?」

「ハイパーオーラ斬りだああああ!!」

 縦一閃。

 鞭の様にしなるオーラ斬りがモンスターもろとも砂浜を斬った。

「落ちろよおおおお!!」

 横一閃。

 砂埃を晴らす様にモンスターの群れを薙ぎ払った。

「へぇ~。できる奴がいるな。若いのに感心する」

 一息つくと西田メンバーと目が合った。なんだか値踏みされてる視線だ。特に何か言ってくる訳でもないのでスルーする。

「ギィ! ギイイイイ!!」

「ギ!」

 西田メンバーの破壊的な雷撃と俺のオーラに後ずさりモンスター達。一匹がダンジョンに戻って行くと、俺も俺もと追随する様に戻って行った。

 数分後、モンスターは海岸からいなくなり、砂浜には泡となったモンスターの残滓。多少の血。わずかにドロップしているアイテム。それらが残り、さっきまでの騒動が嘘の様に波の音だけが流れていた。

「……終わったか」

 いや、実際は始まりだろう。どこの組織が指揮を執るのか知らないが、これから捕らわれた人々の救出が行われるはずだ。この周辺も事が済むまで封鎖されるのだろうか。

「っと」

 スマホで大吾に連絡する。コールが数回鳴るが受け取る気配が無いので電話を切り、瀬那に連絡をする。

「……大丈夫か瀬那。うん、こっちは何とかモンスターを退かせたよ。そっちは? ……。……え」

 俺は泊まっていた宿泊施設に急いで向かった。


「瀬那、大吾。それに月野も」

「ああ」

「萌……!」

「ッ!」

 施設のロビー。今朝まで絢爛だったここは溢れ出たモンスターに侵入されたのか、荒れ放題になっていた。同じく避難してきた人も怪我人も大勢居て、安堵する者、悲しみに暮れる者で溢れていた。

 腰かける瀬那と大吾、合流した月野を見つけて近寄ると、瀬那が俺に抱き着いてきた。

 特有のいい香りが鼻腔をくすぐる。数秒俺の胸に顔をうずめた瀬那が、少し赤面して離れる。

「ごめん萌。不安でいっぱいだから……」

「気にしてないよ。三人とも無事でよかった」

 本意。俺の屈託のない本意を口にしたが、うつむく大吾が弱弱しくも震える声で俺に語り掛けてきた。

「無事だと……?」

「……ごめん。失言だった」

 おもむろに立ち上がる大吾。フラフラと壁に手を当てて立ち尽くす。

「数が多いから行き止まりを背にして戦ったんだ。……あいつら、馬鹿の一つ覚えみたいに向かってきてよ、たまたま合流した月野と一緒に倒していったんだ」

「……」

 瀬那の手が握りこみ、月野が腕組みする。

「無我夢中でさ、必死になって戦った。それがダメだった……!」

「大吾……」

「行き止まりっつても、窓があった。そこからもモンスターが現れて、気づいたら背中から蕾が消えてた。……攫われたんだ!!」

 コンクリートの壁を拳で殴りつけた。

「クソッ!!」

 殴る。

「俺のせいだ!!」

 殴る。

「もっとちゃんとしていれば!!」

 割れた壁を殴る。

「蕾が攫われる事なんか無かった!!」

 壁を殴る。事はなかった。俺が止めたからだ。

「止せ大吾。拳が痛む」

「……萌《はじめ》。……蕾の悲鳴がさ、頭から離れないんだ」

 大吾の拳から血が滴る。凹み砕けた壁にも血が付着している。

「……」

 俺たちの奮闘は、花田さんが攫われたという結果に終わった。
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