俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第五章 泡沫の葛藤

第35話 チュートリアル:純粋

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 フランダーは純粋だ。

 食べたいときに食べ、寝たいときに寝る。お気に入りのイソギンチャクの中で過ごすのが、とっても心地よかった。

 暖かな水の流れに身を任せていたある時、友達のお姫様が、髪を乱して訪ねてきた。

  フランダー。私たちって、お友達よね? と。

 その問いに、無垢な笑顔で頷いた。いつも通りに、潔白で純粋な心に従って。

 お姫様について行くと、赤い何かが漂う広間についた。無論フランダーはこの場所をよく知っている。ここはそう、お姫様のパパとママがお客さんを招く場所。

 いつもの様にお姫様のパパとママが出迎えてくれる。はずだった。

  あれ? なんで王様と王妃様がたおれているの? なんで槍が刺さっているの?

  フランダー。それはね、私の話を分かってくれないからなの。

 進み続けるお姫様について行くと、そこは暗い洞窟だった。

  僕怖いよ。ここって魔女がいる所だよね?

  大丈夫よフランダー。ここにはもう、魔女はいないの。

 フランダーの視界の端に見覚えのある八足があった。だがそれをまともに見る事は出来ない。怖いから。魔女を見るのが怖いのではない。友達のお姫様が嬉しそうに笑っていたから、見た事も無い様な笑顔で怖かったから。

  凄いや! 魔法を使えるようになったんだね!

  いつでも足に変化できるの。フランダーにもかけてあげるわね。

 お姫様が夢見た陸を一緒に歩ける。叶うはずのないその純粋な思い。

 欲――

 変わってしまった。いや、本性を顕わにしたお姫様に触発され、フランダーもまた、本性を曝け出すことになる。

  人間って足が速いんだね。僕悔しいよ。

  じゃあ足を引きちぎって動かなくさせなきゃね、フランダー。

 お姫様は愛した青年をフランダーの前で殺害した。首を捻り、脊髄を引き抜いてから情熱的な接吻をした。動かない舌を絡ませ、そして嚙みちぎったのだ。

   体は僕が食べていいの?

   いいわよ。

   わーい!

 初めて口にした陸の肉。感じた事のない甘美な味。これを味わうと、もう海の生物を食べる気にはなれなかった。

   あはははは! あははははは!!

 戦う度に、惨殺していく度に、捕食していく度に、フランダーの心は本能を向きだしたままになり体はより大きく強靭になっていった。

 変わってしまった世界でもフランダーは純粋だった。心の赴くままに。

 君主になったお姫様と家臣の音楽家、そしてフランダー。三体で世界を瞬く間に崩壊に追い込んだ。

 そして星霜の中を過ごしているうちに同じ存在と邂逅。フランダーは毛嫌いしたが、憂さ晴らしに多次元世界の住人を虐殺していった。

 それは今回も同じだ。

 長い尻尾に鋭利な鱗。鋭い牙とかぎ爪。異様に発達した脚。既に人間の子供の姿は無く、戦闘状態。

 対するは同じ巨躯もあろう黑の鎧武者。黒をベースとした配色で金の装飾が際立っている。薄い霧も纏っていて非常にマッシブ。

 だがフランダーには関係なかった。

「いくよ~~!!」

 何故なら自慢の脚で瞬時に近づき脚で胸の装甲を破壊できるから。

「それ~~!」

 何故ならかぎ爪で鋼鉄の腕を切断。牙で肩を噛み砕けるから。

「弱い弱い~~!」

 何故ならしなる尻尾で首を締め上げるから。

「あははははは!! あはははは!!」

 スパークを発生させた機械の体。突き刺した手の隙間から何かの液体が噴射。フランダーの口には液体絡まるケーブルが引き出されていた。

 一切の抵抗を許さない圧倒的な力。純粋なそれを以ってフランダーは高笑いする。

 ハズだった――

「エーメン!!」

「ッッ~~!!??」

 黄龍仙の拳がフランダーの顔面に深々とめり込んだ。

「あ゛ぐ!?」

 余りの威力に吹き飛ばされたフランダーは、大きなサンゴ礁を幾つも砕き、サンゴの壁に激突して苦悶を漏らした。

「ぐぅうう!! ウガアアア!!」

 唾液を撒き散らしながら跳躍。空中で一回転すると、鋭利なかぎ爪を振りかざして黄龍仙に迫った。

 鋼鉄の装甲纏う腕で黄龍仙はガード。自慢の爪。甲高い音と飛び散る火花を見聞き、フランダーは腕を切り落としたのを確信した。

「――?」

 刹那の瞬間。フランダーは黄龍仙に腕がまだあるのを見た。

 おかしい――

「エーメン!!」

「ッ!?」

 深々と腹部に刺さる拳。

 くの字に曲がって空中に吹き飛ぶフランダーだが、態勢を立て直し、逆立った鱗を無数に飛ばして遠距離攻撃を開始。落下しながら鱗を飛ばす。

 サンゴの地面を貫通させる威力。それを不規則な立ち回りで風の様に回避する黄龍仙。

 おかしいおかしい――

「避けるなよ! 当たれよポンコツ!」

 悪態をつくフランダー。そうしてる合間に黄龍仙は長い頭髪をなびかせて迫った。

「エーメン!!」

「ッ」

 振りかざし風を切る拳を避けた。隙だらけの黄龍仙の横腹に蹴りを入れよろめかせる事に成功したフランダー。

「僕の尻尾は!」

 サマーソルトキックの要領で尻尾を押しつけた。

 衝撃で後退る黄龍仙。

「強いんだよおおお!!」

 強靭な尻尾による渾身の叩きつけ。

 空間を歪ます衝撃とサンゴの土煙、地面を大きく砕かせた威力。この攻撃で生きている敵はいない。まさに必殺の一撃。

(ざまぁ見ろ! 僕は強いんだ!)

 勝ちを確信したフランダー。しかし尻尾の先端に違和感を感じ、嫌な予感に苛まれる。

「!!」

 煙の中に光るツインアイ。

「ッッ!!??」

 ダメージ一つ負っていない黄龍仙。片手でがっしりと尻尾を掴み、フランダーを振り回す。

「我は君主の代理人!」

 地面に叩きつける。

「主罰の地上代行者!」

 再び地面に叩きつける。

「我の使命は!」

 振り回してサンゴの柱にぶつける。

「我が主に逆らう愚者を!」

 空中高く放り投げる。

「その肉の最後の一片までも!」

 跳躍する黄龍仙。

「絶滅すること――」

 仙気を纏った猛禽類に似た脚。

「やめ――」

「Aaaamennn!!」

 フランダーは今まで感じた事のない痛みと衝撃を受けた。
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