俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十章 対抗戦 予選

第96話 チュートリアル:土管

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「って事で無事ね、月野くんと花房くんがね、我がクラスから二人が勝ち残りトーナメント出場が決定しましたーー! はいパチパチー!」

 教壇の中心に立たされ俺と月野は真顔。クラス中に響く祝いの握手を一身に受ける。

「はい席に戻ってー」

 阿久津先生の指示通りに自分の席に戻る俺たち。

「朝比奈さんは残念だったけど、かなりレベルの高い攻防してたし申し分なかった感じかな。ただダンジョンでもは当然起こりうるし、冷静さを失わず取り乱さない事を意識しような」

「はーい!」

 隣で元気よく返事した瀬那。いつもと変わらない様子だけど、戦ってた吉さんと同じでバリアに限界が訪れ二人とも脱落。

 時間いっぱいではなく四人残った時点でバトルロワイアルが終了した形だ。

「ふふ!」

「……」

 隣で俺に笑顔を向けてきた瀬那。俺にはわかる。屈託のない笑顔の裏に、どこか悲しさが見え隠れしている。

「えー、正直大阪で既にやった対抗戦だが、その例をひっぱって運営委員会は動いてたけど、まさかの脱落者が多いと来たらしい……。てことで、タブレット端末見てー」

 受信した音が鳴ったタブレットを確認。そこにはタイトル「クラス対抗トーナメント」ではなく、「東京都攻略者学園トーナメント」と書かれていた。

「えぇ……」

「って事は一年から三年まとめて……?」

 ざわざわとクラスがざわついて静寂が消える。

 大阪の学園みたく学年で分けたトーナメントを構想。俺と月野、佃と戸島の四人でトーナメント(笑)をするのかと思ったけど、なるほどなぁと手で顎を支える。

「はいみんなの予想通りです。一年四人、二年四人、三年四人、計十二人でトーナメントしまーす。まぁ国連と運営委員会も一応は想定した構想だけど……」

 とどのつまり、学園で最強を決めるトーナメントって事になるか。

「えーと、連絡事項の一つに学園長と運営委員会、国連が今回のトーナメント改訂が謹んで乗ってるけど、まぁ簡単に言うとだなぁ――」

 阿久津先生が頭を掻いてめんどくさそうにしている。すると咳払いし、そのまま続けて――

「――まさかぁ、予想をの範疇とは言え全生徒諸君優秀過ぎぃ! 日本の将来は明るいと思うしぃ、もう嬉しい悲鳴があがっちゃう! お金のかかる大人の事情はアタシ達に任せてぇ、特にトーナメントに出場する十二人の生徒は頑張ってね♡ ……以上でーす」

 半目で満足した顔の阿久津先生。

「校長とか諸々バカにしすぎだろ……」

「阿久津先生らしいね……!」

「……う、うん」

 前と隣から小声が寄って来た。

 元国連とはよく言ったものだが、阿久津先生はどこか吹っ切れてる印象だ。……なんだろ、国連の上司がクソすぎて、ストレスが一周回ったのかな?

 知らんけど。

「って事なんで、木曜日と金曜日、土日は休息取ったりゲームしたり、トレーニングしてもいいし、相手の分析してもいいし、もう各々の自由に任せまーす」

「あの、出場者や脱落者関係なく、従来通り他のクラスはみっちりトレーニングに励むハズですけど、俺たちのクラスも何か……」

 クラスの引っ張り役兼トーナメント出場者、月野 進太郎が進言。

「君たちはもう高校生だ。自分の決めた事を信じて進みなさい。……まぁトレーニングしてもいいけど、執拗に俺を呼ぶなよ?」

「……担任なのに、なぜです?」

「新作のファイナルファ○タジー。プレイするからさ……!」

「……」

 なんかファイナルファ○タジー13の休みを取る教師のCMみたいな事言ってるぞ……。しかもめっちゃ笑顔で。どんだけ好きなんだよFF。あんなの若い俺らは好んでプレイしないぞ……。

「じゃあ気を取り直して、連絡事項は続きまーす。えーと――」

 バトルロワイアル終わりのHRが終わり、さあどうしようかと大吾に聞くと、

「我ら応援団は貴殿らの勝利を信じ、応援に磨きをかけるであります! 故に我らは応援団として、これから応援の練習をしに行くであります!」

 いつの間にか着替えたのか、男子たちは黒の学ラン姿。しかも応援団団長の大吾は赤いハチマキを頭に巻き、ニンテンドーDSの名作、「押忍!闘え!応援団」の一本木 龍太の真似をしている。

 っざっざっざと男子たちは教室から出て行ってどこへやら。女子たちは各々の仲良しグループで出て行った。

 そんななか、女子について行くと思っていた瀬那がポツンと一人。さすがに心配だから声をかける。

「瀬那、大丈夫か」

「え、うん! あははー、ただちょっと、疲れたかなーって」

 そう言って体を伸ばした。いつもの様に笑顔を俺に向けて来たけど、これはカラ元気。当然だろう。バトルロワイアルに負けてしまったんだから。

 瀬那の敗因は物理攻撃によるもの。勢い余って巨大化させてしまった如意棒による一撃だ。

 まだバトルロワイアルの映像は見てないから分からないけど、なぜ屋上から落下して来たのか疑問だが、瀬那と吉さん共にバリアが壊れる寸前だった。きっと巨大化した如意棒は、激しい戦いの爪痕だったのだろう。

 ただ一つ、応援していた男子は赤面。女子はそんな男子を軽蔑した視線を送っていた……。その真意は……。

「ごめん! もう帰るね!」

「え、あ、うん……」

 スタスタと早足で教室を出ていく瀬那。その後姿は元気が無さそうだった。

「……」

「……萌」

「え? うんなに?」

 月野が太い眉毛をハノ字にして呆れた声で話しかけてきた。

「まったく、決める時は決めるのに鈍感な男だな。お前の彼女、追いかけなくていいのか」

「……行ってくる」

 手を軽く上げて月野に会釈し、俺は早足で教室を出た。

 そのまま階段を降り、校舎から出ると丁度瀬那が角を曲がった所だった。

「――一緒に帰ろう瀬那!」

もえ……。別にいいケド……」

 教室では元気を装っていたけど、学園を出た瀬那はやぱっり元気が無かった。心なしか、歩く速度も遅い気がする。

「……」

「……」

 無言で歩いていく。向かうは女子寮だと思っていたけど、生徒が数人並んでいる道半ばのバス停で瀬那が止まった。

「今日は実家に帰る……」

「なら家まで送ってく」

「……うん」

 二人座席に座り、バスに揺られて進む俺たち。ここでも無言で瀬那はぼーっと窓の外を眺めていたけど、小指は繋がっていた。

 そしてバスが瀬那の最寄りのバス停に泊まり、下車。

「こっち」

 同じ歩幅で歩く。小指だけでなく、ちゃんと指を絡ませて繋ぐ。

 歩き始めて五分くらいだろうか、瀬那が不意に立ち止まり、隣の公園に顔を向けた。

「ちょっとだけ、座らない?」

「いいね」

 滑り台、シーソー、ジャングルジムにバケット型ブランコ。複合遊具もある今時珍しい公園だ。

 辺りも暗くなるなか、誰もいないその公園にある木製の椅子に腰かけた。

「……」

 しばらく二人とも無言だったけど、うんうんと唸っていた瀬那が不意に動いた。

「だああああああ! もう悩むの止める! 負けたのは仕方ないよね!」

「……瀬那」

 両腕を天高く上げ声を荒げた。ウジウジ悩んでもしたな無かったのだろう、俺に心配かけたくも無かったと思うけど、さっぱりした顔つきになっていた。今度はカラ元気じゃない。

「強くなりたいって思ってリャンリャン師匠に修行見てもらって、そこそこ強くなったけど、最後は気持ちで負けっちゃったんだー」

「……そっか。吉さんって強かったんだね」

「強いけど、私の方が強かった! マジで!」

 なんだその自信とツッコんでしまうところだった。

「ハハハ、落ち込んでるところを励まそうと思ったのに、マジで吹っ切れてんじゃん。……精神的にも強くなったてことかな」

「負けてくよくよするのはお終い! シュギョーに励み、次は萌の応援をする! って事で!」

「ん?」

 突然立ち上がった瀬那。少し歩いた所にある滑り台と合体した土管がある複合遊具の前で立ち止まり、おーい! と俺に言ってそのまま土管に入って行った。

「……何やってんだか」

 腕組みしながら瀬那が入って行った複合遊具へ足を運ぶ。

 近くで遊具を見ると、クソガキの頃同じような遊具で遊んだものだと思い出し懐かしい気持ちになった。

「瀬那ー、出て来いよー。……あれ?」

 中を覗き込んで見ると瀬那がいなかった。四つん這いになりジャージを砂で汚しながら中へ。土管の中腹あたりで交差する通路を右左と見ても瀬那は居ない。

 すると、走る音が外から聞こえ、少し広い土管の中心で態勢を変え後ろを向くと、いたずらに成功したとニヤニヤした瀬那が入ってくるではないか。

 ずいっと俺に近づく瀬那。体が密着し体重をかけられ、俺は瀬那の力のまま背中から倒れ、覆いかぶされた。

「……ここ、二人だけだね」

「お、おう」

 鼻先が当たる程顔が近づかれ、小声で会話。心なしか、顔が赤い風に見える。

「この前のご褒美、今してあげるね……」

「ご褒美って、腕相撲のおおおおッッ!!??」

「んん――」

 不意に俺の手を掴んだと思ったら、瀬那のジャージの下から、いや、インナーの下に手をまさぐって体を触らせてきた……!

 少し火照った瀬那の体温を感じ、ジャージとインナーが俺の手で捲れく瀬那のくびれが露わに。そのまま――

「ちょっとえっちだけど、おっぱい触らせてあげるね……!」

「……」

「も、萌?」

「……」

「……ウソ、白目向いてる!?」

「」

 気が付いたら空は暗くなっていた。

 瀬那は不機嫌だったし、直前の記憶は定かじゃない。

 ただ一つ、手に残る柔らかな余韻だけは残っていた。
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