俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十三章 三年になって

第133話 チュートリアル:シグナー

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「ッ!!」

 宙に浮いた進太郎が突撃を仕掛ける。

 轟々と噴き荒れる四肢の噴射口。引いた腕から繰り出されるパンチの威力はジェット噴射の勢いもあって強烈。涅槃装甲ニルヴァーナ・アーマーの真骨頂。

「おおおお!!」

「ッ」

 すんでの所でパンチが避けられ、そのまま通り過ぎる進太郎。

 避けられると分かっていたのか落ち着いている様子。追尾してくる攻撃を突き出したパンチの余波で破壊した。

「♰突っ込むだけでは芸がないぞ! 月野 進太郎!!♰」

 ダーク=ノワールこと戸島 司が進太郎を挑発。続けざまに得意の魔法――アルテミット・スレイズを発動した。

 唸りをあげて迫る複数のスレイ。ターゲットはスレイを睨みながらも空中を闊歩し逃げに徹した。

「♰逃げてばかりだと勝てるのも勝てんぞ! 貴様の攻撃は乾坤一擲! 小細工など不要! 一撃を以って我を倒せ!!♰」

 戸島バージョンの時はおどおどして頼りない感じだけど、ひとたびダーク=ノワールになると劇場型って言うのか? 熱くなるんだよなぁ。

 しかも俺と同じ意見。観察眼も良しときた。

 進太郎の涅槃装甲ニルヴァーナ・アーマーは攻撃力と爆発力が凄いけど、直線的な攻撃だからどうしても読みやすい。
 ならば読まれる覚悟でそれを覆すような一撃を叩きこむのがベターだろう。

 進太郎も分かっている故にさっき突撃をしたけど、覆す様な一撃は放たれていない。……それかまだそのすべを持ち合わせていないかだ。

「……あ!」

 いや、一つだけある。強烈な一撃。

 それはトーナメントの時に見せた一撃――ニルヴァーナ・インパクト。

 ライダーキックよろしくな強烈な一撃を繰り出せば、ダーク=ノワールであってもひとたまりもない。

(ックソ! やはり振り切れんか!)

 だけど何で出さないんだ……? あの一撃があれば事足りる……。

「お!」

 出さないんじゃない。出せないのか。

 あの技って空高く飛びがり、ジェット噴射と落下する勢いも加えていたように見えた。

 つまり、このトレーニングルームの限られたスペースじゃ本来の実力が出せないのか。……こりゃまた難儀な。

「おおおお!!」

 それから何度か特攻を仕掛けるも、ダーク=ノワールに掠りもせず膠着状態。

 そして。

「♰そこだ!!♰」

「っぐあ!?」

 アルテミット・スレイの餌食となり、進太郎のバリアは砕けた。

《WINNER!!》

 モニターにデカデカと勝者の名前が載る。ちなみに戸島ではなくダーク=ノワールと書いてる。

 互いの入場口から出てくると、学園指定のジャージ姿の進太郎。漆黒の黒衣を着るダーク=ノワール。汗びっしょりだ。

「ふぅー。やはり一筋縄ではいかないな」

「♰この狭い空間だと互いに全力を出せない。今回は手札が多い我の勝ちだっただけだ♰」

 健闘し合って握手してるけど、余りにも暑くて息苦しいのかダーク=ノワールのマスクが口の形にへこへこしている。マスク脱げばいいのに……。

「トーナメント出場者がこうも集まってちゃ流石に注目されるな」

 足を延ばしながら準備運動している大吾がそう言った。

 確かに観戦する人の視線が多いような気がする。確かに二人のバトルは現役攻略者と比べても遜色ないどころか抜きんでている。今日の動画のピックアップに二人のバトルは入っていると思う。

「よーし! 次は私だー!」

 元気よくそう言った瀬那。やる気満々だと準備運動を終えた瀬那は笑顔で入場口に向かう。

「――ッ」

 それを俺は瞬時に動き、瀬那の前に立ちはだかり両肩を掴む。

「瀬那さん。ダメだ」

「むー! なんでよー! 大吾をボコボコにするの!」

「ダメなんだ! たまに使うプライベートエリアでならまだしも! 金払わなくてもみんなが使えるここじゃダメなんだ!」

「そんなに私の負け姿を見たくないの? 大丈夫だって! 大吾には負けないよ!」

「瀬那が負けるだなんて思ってない! むしろ大吾をボコボコにできる力がある事も知ってる! でもダメなんだ!!」

「……なんで俺がボコボコにされる前提で話してんだよ」

 ここで瀬那を戦わせることは絶対に阻止する! それが俺の使命だ!

「瀬那。俺は瀬那の力を秘密にしておきたいんだ……」

「秘密? なんで?」

「今ここで修行の成果を全国ネットで流して見ろ、みんなこぞって対策しに来る! 女性だからってバカにする奴も出てくる! 俺はそれに耐えられないんだ!!」

「それってあなたの感想ですよね?(ひろゆき)」

「え、あ、え」

 急なひろゆき化でビビるな! 押し通せ!!

「おねがい! 俺の顔に免じて!」

「えー準備運動もしたんだよ?」

「おねがい!!」

 懇願ッ! 圧倒的懇願ッッ!! 渾身の懇願ッッッ!!!

 その甲斐あって、提示してきた案。

「今度スイーツおごりね!」

「ウス(樺地かばじ)」

 妥協ッ! 圧倒的妥協ッッ!! 財布から札が飛ぶの確定ッ!!

 そして、お花を摘みに行く女人。

 大吾が声をかけてきた。

「おいおい、なんで瀬那をバトルさせないんだよ。明らかに変じゃん」

「……理由がある」

「俺クッソ煽られたんだぞ! お前らに!! なのに――」

「理由があるッ!!」

「!?」

 俺の並々ならぬ檄に大吾と先ほどバトルしていた二人が俺を見た。

 そして俺はゆっくりと、口を開いた。

「……よく周りを見て見ろ」

「……人が集まってるな」

「♰特に変ではないが♰」

 気付かない二人。しかし、脂汗をかき是が非でもバトルを阻止した俺の姿を見た大吾。不審に思った彼は塾考したうえ、ひらめく。

「!?」

 彼に一つの光明が見えた。

「萌ちゃん。お前は立派な彼氏……いや、漢だ!!」

「大吾!!」

「ああ!!」

 HEATSがバックで流れる程の握手。さながら真ゲッ○ー対ネオゲッ○ー。

 何をやっているんだこいつ等は。と互いの顔を見合う進太郎とダーク=ノワール。

 俺は一言だけ、彼らにヒントを与えた。

「……瀬那はな、おっぱいがデカいんだ」

「「……。……!?!?」」

 落雷が落ちた様な表情をした二人。

 瀬那の掛け声を皮切りに男性ばかり集まった事。

 そして彼氏の俺が止めた事。

 もう何も言うまい。

 俺そう。守ったのだ。

 エゴにも等しい、俺のわがままと、瀬那のおっぱいを。


 と言うのが二日前の出来事。

 今俺は、指定のダンジョンゲート前に来た。

 メンバーは俺、ダーク=ノワールこと戸島、モブ太郎くんたち二人の計四人。

 始業式のHMで阿久津先生が言った通り、実際にダンジョンに潜る事が多くなる一環。つまりは授業だ。俺たちがバトルしてたのはこのための慣らしだった。

 四月早々に始まったこの授業。名のある有名サークルから優秀な成績を修めているサークルからランダムで選抜。

 学園が決めたメンバーでサークル同伴でダンジョンに潜り、目標を達成するのが目的な授業だ。

『チュートリアル:ダンジョンに潜ろう』

 このベリーイージーなチュートリアルは自ずとクリアされる。

 しかし、俺が注目してる点は別にあった。

 ダンジョンではない。

 人選ではない。

 では何か。

 それは簡単。

「キングは一人! この俺だああああああ!!」

 何の巡り会わせか、聞き馴染みのあるサークルファイブドラゴンの班に抜擢。

「いちいちうるせぇよ! 学生たち引いてんだろ!」

 しかし、馴染みあるサークルで、馴染みの無い人たち。

「まぁまぁ落ち着いて」

「落ち着き過ぎなんだよ青いの! 一応仕事だからな!」

 何なんだこのうるさい人たち。優星さんどこ……。
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