俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

文字の大きさ
135 / 288
第十三章 三年になって

第135話 チュートリアル:アクシデント

しおりを挟む
「――待ってくれ。アンタたちが来た時にはこうだったのか?」

「さっきも言っただろ。枯れてる! ここで四か所目だぞ……。おかしいだろこんなの!」

 何処までも続く荒野の癒し。

 オアシス。

 砂漠などの乾燥地域やステップ(樹木の無い平原)における緑地。

 泉性(地下水によるもの)だけでなく、河川や雪解け水を水源とするオアシスもあり、そっちの方が大規模なオアシスをだったりする。さらに井戸などによる人工的なオアシスも存在する。

 俺たちの目標はオアシスに湧く水を汲んで持って帰る事だ。

 オアシスに湧く水は特殊な成分らしく、飲む回復薬としても用いられている。実際に売ってるところもあるし。

 モンスターに襲われながらも苦戦する事無く辿り着いたオアシス。

 荒野の中を歩き段々と緑が見え期待感を感じていると、十分な装備を携帯した他の攻略者の人達が何やら騒いでいた。

「どうしたんだ」

 黒鵜さんが攻略者さん達に声を掛け、今に至る。

「他の場所も?」

「ああ。二日かけてぐるりと回ったんだが他の場所もこの有り様だ」

 澄んだ綺麗な水だと事前に聞かされてはいたけど、綺麗どころか濁り、気持ち程度の水しか残っていなかった。緑と分けられた土の層で分かる様に、明らかに泉の水が少ない。

「……どう思う、流美」

「うーん……。どうも何も、そもそも枯れるって事がおかしい。ゲームで言うとセーブポイントみたいなところだよ? ここ。回復できる泉があるのに、それが枯れてるのは明らかにおかしいよ」

「……そもそもの話として、このオアシスに回復の泉が当たり前にあるという前提が間違っている可能性もある。長い周期で見ると、この枯渇はこのダンジョンとしては当然だと。自然の摂理だととも捉えれる」

「現状じゃなんとも言えないね」

 惹句さんが流美さんと相談している。

 さて。この騒動は不透明すぎて確かに問題だけど、いち学生の授業で来ている俺たちにも降りかかる問題。達成の証明として泉の水を汲んで持ち帰らないといけないのに、水そのものが濁ってて証明できなければ達成どころじゃない。

 どうしたものか……。

「――ふぅ。とりあえず集まってくれ」

「集まってますけど」

「動いてないですはい」

「雰囲気的に言ったんだよ!」

 攻略者たちと話を終えた黒鵜さんが招集をかけた。

 モブ太郎くんたちがボケて黒鵜さんがツッコむ。なんだかツッコミ役が板についてそうだ。

「話し合った結果、あっちの人らは別ルートで。俺とバカとアホはこの林の奥にある水源に向かい調査することになった」

「ップ! 惹句、バカでアホだってさ」

「お前もだバカ」

 流美さんが口を隠して笑い、惹句さんがキレてる。

「こういったトラブルを視野に入れ、引率の裁量で目標達成の合否を決めれるわけだが、さっきも言ったように俺たちは調査しに行く」

「……」

「だからここまで辿り着けたって事で目標達成と先生方に報告してもいい。……どうする」

 どうする。

 黒鵜さんが言ったこの一言。俺は解釈した。

 これは試されていると。

「どうするって……」

「なぁ?」

 そう。モブ太郎くんたちが考えてる通り、この場で合格の旨を貰い、来た道を戻ってダンジョンを出るのは一つの選択肢だろう。むしろ学生としてその姿勢が正しいのかも知れない。

「あの――」

 だけど俺は違う。

「俺も水源の調査について行っていいですか」

 攻略者を名乗りたいなら前へ。

「もちろん皆さんの邪魔にならない様にします! 足手まといにはならない自信があります!」

 授業とは言え予想外のアクシデントが起こったんだ。このまま戻って合格してもいいけど、現役攻略者たちと調査できる経験なんて学生の身分じゃあまりないだろう。

 そういった意味で泡沫事件の経験は大いに経験値となったのが記憶に新しい。

「――ッハハ」

 黒鵜さんが突然小さく笑った。

「優星の言う通りだ。花房くんには度胸と負けん気、ガッツがあるな!」

「優星さんが?」

 どうやら黒鵜さんに俺のことを伝えているらしい。

「ああ! トーナメント出場者でもあるし、手合わせして引き分けたってのも聞いてる。あの蟹頭が嬉しそうに言うもんだから、バカな俺でも試したくなるもんさ!」

 ――どうする。

 やっぱり試されていたのか。俺が優星さんの言った通りの人物像なのか。

「もちろんオッケーだが、酷だけどモブ太郎くんたちは連れていけない。ここから奥はモンスターも凶暴だし、まだ戦える程度の二人にはキツイのが正直だ」

 真剣な眼差しでモブ太郎くんたちにそう言った。

「……悔しいですけど、花房と違って俺らはまだまだってのは分かってるんです。だから素直に戻りたいです」

「俺も同意見です」

 苦虫を噛んだ表情を見せる二人。ついて行きたいけど実力が伴わない。悔しくて堪らないのは噛んだくちびるを見て分かる。

「自身の力量をわかったうえでの撤退は立派な心得だ。無謀にも実力以上の敵に挑み、死んでいく者も後を絶えない」

「その事をわかってるだけでも、君たち二人はよりずっと強くなれるよ。努力次第だけどね」

 惹句さんと流美さんの言葉を聞き、モブ太郎くんたちは表情を明るくした。

 その後、この事を報告に戻る現役攻略者たちと連れ合い、二人は戻って行った。

「♰おい。無論我も同行するぞ♰」

「だろうな」

 ダーク=ノワール。この間じっと腕組みしていただけである。


 オアシスの奥は林が茂っている思いきや、奥に進むにつれ植物が多くなっている。

 話を聞く限り、オアシスの泉の水源は地下水脈から来ていると思いきや、水源と名を打ったそのもので、理屈的にオアシスと繋がって無くても水源という事象だそう。

 そういった物はこのダンジョンに限らず他のダンジョンもといったのが多くあるそうだ。まったく、小学せ……ダンジョンは最高だぜ!

「――ふう! ありがとうよ、花房くん」

「いえ、こういった時くらいしか使わないんで」

 備蓄用に備えてあったミネラルウォーターを受け取り、そのまま次元ポケットに仕舞う。

「マジで次元ポケット便利だよな。本当は水やらなんやら装備を取りに戻ってからじゃないと進めないのに、キミのおかげでどの攻略者よりも進んでる」

「まだまだ水は有るんで、皆さんも喉が渇いたら遠慮せずに言ってください」

「うん。助かるよ」

 進んでから数十分。獣系モンスターから昆虫系モンスターが襲って来たけど、黒鵜さんの剣が裂き、惹句さんの爪と腕に付いてる刃が穿ち、流美さんの未来的な剣がモンスターを倒した。

 モンスターと対峙した時はオーラ剣を構え、ダーク=ノワールは魔法陣を出現させるも一切戦闘はしていない。

 俺がやってることは、次元ポケットに入れておいた備蓄を使っているだけ。ダーク=ノワールに至っては「俺いる?」と何とも言えない表情。まぁマスクしてるから顔は見えない。そういうニュアンスだ。

 次元ポケットに何を入れようか、と考えていると。

「ここだ」

 と、惹句さんの声で立ち止まる。

「……これは」

 黒鵜さんと同じく見上げた俺。

 溜まった水が溢れ下の層に流れると、そこも泉。さらにその泉から水が流れ、また泉。といった幾つもの段階層になっている幻想的な滝が目の前にあった。

 

「実に不可解だな」

「このダンジョンは氷結系のモンスターは現れないのにね」

 今まで遭遇したモンスターは明らかに森や荒野に住んでいそうなモンスターばかり。間違ってもアシカとか白熊が出てくる様なダンジョンじゃない。

 ではこの滝氷化現象は自然に起こったものなのか。

 わからない。

 分からないなりにも、分かった事がある。

「……上の層に何かあるな。昇ってみよう」

 見上げた先には少しだけ霜が積もった洞窟の様なものが。

 そこに行けば何かわかるかもしれない。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...