俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十七章 傀儡の影

第196話 チュートリアル:赤い存在

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 ――カラカラ! カラカラカラ!

「――フン、フン、フン!!」

 カラカラと硬い何かがぶつかり合う乾いた音が鳴る。それは力なく乱暴に暴れる木製の腕。丸い関節部が駆動し、手と手が当たり音が鳴る。

 マリオネット。木製のマリオネットで、しなやかな胴体に精巧な女性の顔つき。まるで本物の人間がマリオネットになってしまったと疑う程の素晴らしい職人技術だった。

「――ッハッハッハッハッハ!」

 では何故、その等身大の女性型マリオネットが乱暴に動いているのか。

 それは他でもない。

「――くあ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁ」

 小粋なハットを被った男が上を向き、恍惚とした表情を見せ天を仰いだ。

 ――ドリュッドリュッ!!

 マリオネットの臀部に深く押しつけた腰、脚が小刻みに震え、ボトリボトリと黒い液体が床に落ちた。

 ――カラカラ!

 掴んでいた臀部を離すと音を立てて力なく落ちるマリオネット。

「気持ちよかったぁぁぁ……」

 腰を打ち付けた男――カルーディ。彼の背後には臀部から黒い液体が垂れたおびただしい数のマリオネットが山の様に重なっている。

 ――みんな穢された。

 今落ちたマリオネットはその光景を木製の目で見た。

 そして続けて見たのは赤く渦巻くゲート。そこから赤い存在が出現し、この惨劇を目撃。

「……悪趣味だな」

 一言だけそう言った。

「なんだい藪から棒に。憂さ晴らしにコレクションたちを犯してたんだ。ボクの崇高な趣味にケチつけないでもらえるかい」

 嫌そうな表情を向けるカルーディ。ズボンのチャックからそそり立つモノを取り外し、ぽいと捨てて赤い存在を睨んだ。

「見たところ破界活動が滞っている様子だが、我々が力を貸そうか?」

 一瞬怪訝そうな顔をしたカルーディだが、スッと無表情になる。

「ボクはボクのやり方で、キミたちはキミたちのやり方で楽しんでいる。元々互いに不干渉なんだ、世界に入り込もうとする魂胆が見え見えだよ」

「ふむ……」

 煮え切らない赤い存在の態度にイライラを積るカルーディ。

「じゃあなんだよ。家臣したっぱのお前じゃなくて君主うえの考えって事か?」

「そうだ」

「!」

 いつもみたいに遠回し遠回しの気遣いを言われると思ったカルーディ。まさか二つ返事で答えが返ってくるとは思っていなかった。だからこそ、カルーディはさらに睨みを利かせる。

「あのお方は傀儡君主マリオネットルーラーが狙っている世界に興味を示している。しかし、破界する世界に干渉しないのは暗黙の了解。計ってみたものの無意味だったな」

「……」

 あのお方とはすなわち君主を示す。自分と同じ土俵のルーラーが、横取り紛いを画策していたと自白した赤い存在に、カルーディは気分を害す。

 瞬間。

 ――ッビ!!

「!?」

 空間から幾つもの糸が出現し、赤い存在の体に定着。磔のようにされ体の自由を奪われた。

「……なんの真似だ」

「それはこっちのセリフだよ♪ ♪」

 頬を吊り上げるカルーディは体の主導権を奪った赤い存在――フェンリルに近づき、人差し指で体をなぞる。

「あの世界はボクが破界する。いや、遊ぶ♪ イイ男もイイ女もマリオネットに変えてボクのコレクションにするんだ♪」

 下腹部をなぞった指をゆっくりと腹、胸、首、そして顔に触れる。

「あまり調子に乗ってボクを揶揄うと、キミもマリオネットに変えちゃうよ♪」

 フェンリルの耳元で囁く様にそう言った。

「マリオネットルーラー。我々と全面戦争を計るならその行動は正解だ」

「ふふ、そうだね♪」

「しかしよく考えろ。貴殿と我々とでは戦力の差は圧倒的だ」

 体の自由を奪われ成す術のない状況。それだと言うのに物怖じず、淡々と脅して来る態度にカルーディは内心穏やかではない。

「先に手を出そうとしたのはそっちだろ。確かに戦闘力や戦力差はキミたちに軍配が上がる。でもね、勝算があって今こうして脅してるんだよ……」

「……」

 不気味に笑うカルーディ。その言葉に口をつぐんだフェンリル。

「キミたちもよく考えた方がいい。本能《ぼくたち》は不干渉を貫いてるけど、腹の下では隙を伺ってる。仮にボクたちが喧嘩したりして体力が底をついた時、他の奴らに食べられちゃうよ?」

「……」

 無言の回答。何も言い返せないという事は、カルーディの指摘はもっともと言う意味。

 大人しくなった赤い存在に傀儡は気分を良くする。そしてもう一度耳元に顔を近づかせ、囁くように言う。

「――じゃあ先にやっちゃう? 戦~争♡」

「ッ!?」

 カルーディの右手には無数の糸を圧縮した様な発光する球体が出現。それは正しく攻撃の部類。

 一目見ただけで分かった。その攻撃は自分を容易に屠る事が可能だと。

「ふふふ♪」

 ――ギュイイイイイ!!

「ッ――ッ――」

 耳障りなエレクトリカルパレードなBGM。金切り声をあげるカルーディの攻撃。その音か大きくなるに連れ、フェンリルの呼吸は激しくなる。

 そして今、発光する球体がフェンリルの胸部に――

 ――シュン!

 ――当たる事は無かった。

 カルーディが瞬時に攻撃を消した。

  と同時に体に付けられた糸がプツリと切れ、フェンリルは床に崩れ落ちた。

「――ッフ!――ッフ!――ッフ!――」

 緊張の糸が切れたのか、肩で大きく息をする。

「もう冗談だってばぁー♪ ちょっと演技力高過ぎたかなぁ♪ テヘペロ♪」

 笑顔であざとく可愛げを見せるカルーディ。息をしながらそれを横目にして睨む。そして立ち上がり、フェンリルは殺意を向けた。

「あ、ごめん怒った?」

「……マリオネットルーラー。今回の件はあの方に報告せず私の胸に閉まっておく。感謝しろ」

「うんありがとー♪」

 ふざけた態度に更なる殺意がカルーディに刺さる。

「しかしよく覚えておけ。我々はいつでも手を貸せると」

 そう言い残し、赤いゲートへ入って消えるフェンリルだった。

 陽気なBGMがテントの中で鳴り響く中、騒動から解放されたカルーディは無表情。

「――」

 一間置いて。

「――クソがあああああああああああ!!!!」

 ――ッド!!!!

 カルーディの咆哮に山積みにされたマリオネットたちが爆発四散。黒い液体が散らばりカルーディのハットと頬にこびり付く。

「調子に乗るなよ赤ゴリラどもぉ!! ボクは一人でもあの世界を破界するぅうう!! 例え理性が後ろ盾に居ても諸共壊してやるッ!!」

 ――見ておけ。ボクのショーを。

 傀儡のカルーディ。彼にもまた、一本の糸が付いていた。
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