俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十八章 VS傀儡君主

第202話 チュートリアル:マズいな……

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「はあ、はあ、はあ――」

「ック」

 佐藤に肩を借りながら歩みを止めない阿久津。進行方向に複数のモンスター。

「それ! ほい! よっと!」

 ハンプティダンプティの眉間、グリーンエッグの中心、レッグハンドールのつなぎ目。一点の狂いも無く投擲したナイフが突き刺さり、モンスター三種は音を立てて露と消える。

(倒すことになんの躊躇も無い攻撃。それに圧倒的命中率を誇るナイフ捌き……。スキルの熟練度も含め現役攻略者と比べても忖度無い。いや、並以上の力と見れる……)

 トーナメントから明らかに成長をしている佃。近接面でも体捌きが柔軟で相手を倒す事に特化した動き。性格に難ありだが今の状況必要な存在。これからの彼に期待の眼差しを向ける阿久津だった。

「ッグ!?」

「阿久津さん!」

 痛みで立ち止まる阿久津。少しでも和らぐように肩を担ぐ佐藤は腰を落とした。

「クソ、情けねぇ。三十路は辛いな……」

「あまり喋らない方が……」

 鬼の阿久津と呼ばれていた国連員時代。過激な訓練と任務に負傷など日常茶飯事だった彼だが、性格と戦闘センスは丸くなったと汗を流しながら彼は思った。

「休憩するのはいいけどさ、サークル事務所ってまだ着かないの? ほっ」

 ナイフを投擲する佃に阿久津は嫌な予感がした。

「……君が先行してるから事務所に向かってるんじゃ」

「いやぁ? お姉さんと先生が歩き出したからそれに沿って歩いてるだけだけど」

「……勘弁してくれ」

 何の悪びれる態度をしない佃。確かに彼は悪くない。モンスターを薙ぎ倒しながら進む佃に期待し、そのまま成り行きに任せる。意思疎通を怠ったと言われればそこまでだが、後悔しても意味が無い。

(クソ、視界が滲んできやがった……)

 阿久津の容体は悪くなる一方。傷口からの出血が止まらない。

「阿久津さん! 血が!」

「――」

 心配ないと口にはしないが、阿久津の唇は青くなっていた。

「んー電波繋がんないねー。みんな考える事いっしょかー」

 スマホで事務所や避難所を調べようにも異常事態なうえ電波は繋がらない。

「ぐにょ」

「ぐにょ」

 大通りから外れた広めの路地。ここで正面にハンプティダンプティの集団が現れた。列を成し迫って来る。

「よーし。八十体目突入~」

 正面を見据えてナイフを構える佃。

「ぐにょ」

 さらに後方にハンプティダンプティとグリーンエッグ、レッグハンドールまで現れた。

「あ、やべ」

 つい口走る。正面のモンスターなら対処可能。しかし他の攻略者が居ない今、後方のモンスターを相手取るのは時間が無さ過ぎたのだ。

 負傷一名。非戦闘員一名。明らかに不利な状況。

 しかしここで彼女が動く。

「――昔の私昔の私……!!」

 頬を叩き気合いを入れる。朗らかな顔から一変、眼つきの悪い顔へ。

「フー! よっしゃすけこまし一発かましたろかい!!」

 武器を持たずステゴロで構える佐藤。

 面構えが違う彼女にトラウマを植え付けられた佃はそっと視線を逸らす。

(ダメだ佐藤さん――)

 もはや言葉を発せられない程に衰弱した阿久津。いくら田舎で喧嘩が強かろうと相手はモンスター。しかも爆発に巻着込まれれば傀儡と化し何処かへ攫われる。

 朦朧とする阿久津の想いも虚しくモンスターは待ってくれない。

 どんどんモンスターの姿が鮮明になって来る。

 瞬間――

「――キングは一人! この俺だあああああああ!!」

 ――チュドッ!!

 着弾した瞬間、地面から轟々と燃え盛る火柱が出現。阿久津の頬を撫でる熱が止むと、中からブロンド髪の男が何食わぬ顔で歩いてくる。

「フン!! このキングが来たからにはもう大丈夫だ!!」

 見覚えがあった。

 脳裏に過るは今が熱い中堅サークル。生徒にも授業の一環で邂逅させた記憶。

(サークルファイブドラゴン――後須惹句――)

 大丈夫だ。

 彼の惹句その一言で、阿久津健は意識を手放した。


 カルーディが放ったモンスター軍団。

 それは世界の人口密集地にゲートが開き、有無言わさず人々を襲っていた。

 しかしながらも攻略者たちの尽力や、撃退免許所持者の一般人の奮闘により、意外にも普段と変わらない閑静な場所もあった。

 そんな中でも、漏れという物もある。

 風営法2条6項4号。専ら異性を同伴する客の宿泊の用に供する政令で定める施設で、政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるもの。

 少し入り組んだ路地を通ると、その施設が立ち並ぶ場所。

 ――バリン!!

「うわああああああ!?」

 そのとある施設の五階の部屋から窓ガラスを割って裸の男性が飛びたしてきた。

「……」

 そして落下する男性を追う様に刹那に部屋から飛び降りる無言のグリーンエッグ。

 容易く抱き着かれ。

 ――ボフ!!

 ――カラ。

 コンクリートの地面にマリオネットが叩きつけられた。

 向かいの施設。

 コンクリートに叩きつけられ、光の無い木製の目が、その施設の最上階から覗いている目と合わさった。

「――っひ!?」

 思わず悲鳴。

 ただでさえ五階からのダイブ。普通の人間どころか丸腰の人間が無事でいられるはずがない。その光景を想像に難くない故、最終的にはモンスターによるマリオネット化。

 彼女には刺激が強すぎた。

「大丈夫か。何を見た」

 震える彼女を抱き寄せ優しく、そして小声で聞く。

「……い、いる」

 捻り出した声。

「蕾……」

「ツヤコちゃん……」

 彼から譲られる様に友人が彼女を抱き寄せた。

「司、なにか聞こえるか」

「……いや」

 覗き穴は無く、遮音性が高いと分かっていてもドアからの音を拾おうと努力した。しかし実らず。

「大吾もなにか見えたか」

「こっちは――」

 正面、斜め左右。共に以上なし。しかしどこからともなく蛍光色の糸がゆらゆらと垂れ、地面のマリオネットに結合した。

 シャっと遮るようにカーテンを閉める。

「――マズいな」

 四人が居る施設の部屋。

 大吾のその一言がすべてを物語る。
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