俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十八章 VS傀儡君主

第219話 チュートリアル:虫唾

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「――ッチ。まだ手札を残してやがったかぁ。こりゃ俺も気を引き締めないとなぁ~」

 やれやれと首を横に振り腰に手を当てた。

 場面はゲートに引きずり込まれた幻霊君主ファントムルーラーティアーウロングとの通話が遮断されたところまで巻き戻る。

 黄金君主ゴールドルーラーエルドラド。

 彼の点の様な赤い眼が遠くに見える黒い球体を睨んでいた。

(あそこのどこかに萌くんが転移された。……二体の君主を相手取るのには荷が重いと戦力の分散を企てたと考えるのが普通だが、今はそれはいい。問題はの制御下であってもゲートを開けたというところだ。カルーディもルーラーの端くれという事か……)

 エルドラドの切り札。もとい理性たちの切り札。その詳細は省くが、事実として無理やりディビジョンをダンジョン化させる作用がある。

 強すぎるが故に縛りを設け、ウルアーラ戦が闘技場だったようにカルーディにはのびのびと戦える場面が用意されている。それが黒の球体であり、故にエルドラドは考察しながらそこに足を向かわせるのだった。

 賑わうアトラクションの数々。大通りを進むにつれ必然的に簡素になり、黒い球体に続く一本道以外芝生な場所で翻し、手を前に出した。

砂漠デザートガイダンス――」

 サーっと音が響き何処からともなく空間に砂の小粒が漂い始めた。エルドラドが放った無数の砂の小粒――デザート・ガイダンンス。それは風に乗る様に、来た道を戻ってアトラクションエリアに侵入。瞬く間に広がるとカルーディの被害者であるマリオネットたちに小粒が付着した。

 ガイダンス――その名の通り、砂が付着した者を導くエルドラドの技だ。導く先は元居た場所、つまりはマリオネットたちが住んでいた世界。のはずだが、マリオネットたちに砂が付着した瞬間にエルドラドに伝わるのは帰る場所が無いイメージ。

 つまりは。

(世界が破界されたって事か……。まぁ、だろうな……)

 予想通りとは言え、なんともやるせない感情を抱くエルドラド。

 一体一体のマリオネットには一人ひとりの人生があった。裏手で惨殺された者達にも生きる資格があった。なのに、たった一体の小石を蹴る程度のわがままでその生を閉ざされた。

(快楽主義者ってのはどいつもこいつも厄介なアホだな……。まぁ俺が言えた事じゃないが)

 そう自分を叱咤しつつも。

(――よし。地球の住人も確認。機を見て転移させるか)

 マリオネットにされた地球人を発見。予定通り地球に戻し、それ以外の人間は白の世界――ホワイト・ディビジョンへと転移する算段だった。

 BAR~黄金の風~にてバーテンダーである宰相ことサイが不在だったのはこの為である。

「……そろそろ向かうか」

 黒い球体に向けて足を運ぶエルドラド。徒歩で向かう、事はなく、地面から少し浮いて宙に停滞。

「――」

 そのまま黄金の鎧の軌跡を残し、猛スピードで進む。景色が後ろへと流れていく。

 一本道を猛スピードで駆け抜けると段々と黒い球体に近づいた。

 そして。

 ――ッドン! ッドドン!!

 止まる事すらせず球体の壁を壊して直進。中は厚い壁にいくつも閉ざされ、攻略者の並の攻撃ではビクともしない。そんな壁をものともせず兜の先端から突き破っていく。

 時折舞台裏を思わせる場所や少し広い会場。舞台装置が顔を覗かせたが、気にもせずエルドラドは真っ直ぐ進んでいった。

 何度も何度も壁を突き破ると。

「――ついたか」

 浮いた状態から地に足を付けた。

 エルドラドが足を付けた場所。そこを一言で言えば『闇』だった。

 平衡感覚を失いそうになる程の暗闇。音も何もなく、空気が有るのかさえ怪しいとまで取れる。

 そんな闇の世界に二つだけの光があった。

 一つはそう、黄金君主《ゴールドルーラー》エルドラド。この闇の世界を否定するかのように黄金に輝く鎧を身に纏い、赤、青、黄色、緑と、幾つもの散りばめられた宝石も相まって荘厳な輝きを放っていた。

 そしてもう一つの光。

 それは。

「やぁ。待ってたよ♪」

 傀儡君主マリオネットルーラーカルーディだった。

 真上からのライトを一身に浴び、小粋なハット、小粋なロッド、そして小粋な服装。誰しもが見た彼の変わらぬ姿だった。

 しかし、一つだけ違いがあった。

「へぇ~。傀儡の体じゃなく本物の肉体で登場か。端整な顔してるじゃねぇか。さぞ女には困らんかったろぉ。羨ましいこった」

「お褒めに預かり光栄だね♪ まぁモテないってのは噓になるけど、これでも熱い夜を過ごす相手は選んでるんだ♪」

 人間体のカルーディ。『漣人魚マーメイド哀唱サリーク』『氷結界ひょうけつかいの里』や地球で見せた傀儡の体ではなく生身の体。モンスターどころか自分の傀儡すら操った本体がエルドラドの前に現れたのだった。

 真っ暗な世界で友人と談笑する様に話す二人。これから事を荒立てる空気ではない。

「いやさぁ~ホント驚かされたよぉ~♪ キミたち理性の切り札? うん。の時さ、見てて警戒してたけど普通にしてやられたね♪」

「そりゃそうだろぉ~。アレはルーラー特化の切り札だ。強制的にダンジョンへと押し込んでぶっ叩く代物だ。今みたいにな」

「いやはや参ったよホント。にちょっかい出して正解だった♪ それボクにくれたりする?」

「アホかお前。渡すかバーカ」

 終始笑顔を絶やさないカルーディ。そんなカルーディに中指を立てるエルドラド。

「あ、それとさ、理性的に戻った時のってかなりレベル高かったよねぇ♪ もしかして君たちの仲間に美人さん居たりする? 居るならお近づきになりたいなぁ♪」

「おお居るぞ居るぞ。乳とケツがデカい快楽の権化が一人と、おっかなびっくりの女が一人。家臣もだ。そりゃ俺だって男だ。火遊びに誘たものの、股間蹴られるわ物理的にぺしゃんこにされるわ……。仕舞いにはどうだ、ベッドの上で消滅しかけた。悪い事は言わん、あいつらだけはやめとけ」

「ふ、ふーん……。ボクってそういうの燃えるタイプなんだよねぇ……」

 黄金のグローブを口の側に当てひそひそと話したエルドラド。あまりのガチトーンを聞いたカルーディは平素を装うも、内心は興味半分と恐ろしさ半分だった。

 しかしその話から間が開き、互いに無言。腕を組んだエルドラドに対し、カルーディはロッドをヒョイと器用に回した。

 そして口火を切ったのは彼だった。

「で? さっきも言ったが俺はお前をぶっ叩きに来たんだが、これでも譲歩してるんだ。この黒い玉のどこにティアーウロングが居る」

 友人同士の様に会話をする最中にもエルドラドはティアーウロングの気配を探っていた。しかし近くに居ると分かっているが、どうしても靄がかかってしまい鮮明に辿れないでいた。

 それを知ってか知らずか、カルーディは頬を吊り上げてご機嫌な態度。

「心配ないよ♪ 君たちは再会できる――」

 ――消滅した後でね。

 つまりは生きて帰す事はしない。そう受け取ったエルドラド。

 彼の点の様な赤い眼は見た。カルーディが宙へと上昇し、ゆっくりと下がっていくのを。

「そろそろキミにも痛い目に遭ってもらおう♪」

 小粋なハットを手に取りお辞儀。そのまま吸い込まれる様に何かに溶け込んだ。

 瞬間。

 ――ッパ! ッパパ!!

 光あれ。

 闇の世界に明るい光が射し、その全貌を明らかにさせた。

 何種類もの絵具をぶちまけぐちゃぐちゃに混ぜた様な蛍光色が唸る世界。無限に広がる壁、地に足つく地面、境目のない天井。それは細かい一本一本の糸で構成され、まるで生き物の中身にいる様だった。

 そしてカルーディが溶け込んだ物。それはアメリア・ニューヨークで姿を現わした巨大な死天使――『傀儡君主ヘブンズカルーディ』だった。

「アッハハハ!! これから始まるのは一方的な虐殺だよ!! 準備はいいかなぁ!!」

 人間型の胴体で形成された両翼を畳み、そして広げ、握られている出刃包丁の様な剣先がエルドラドに向けられた。

 演技がましいと思ったエルドラド。

「そのデカブツの声耳に響いてうるさいんだよ。いいからさっさと来い」

「言うねぇ! じゃあ遠慮なくイかせてもらおうかな!!!!!」

 瞬間――巨体には似つかない凄まじい速度で出刃包丁を振るったカルーディ。

 空間をバリバリと裂き、音の壁を優に超える速度でエルドラドに衝突。

 ――ッガダン!!!!

 衝撃波が唸りをあげ蛍光色の世界を揺らした。

「あ、ヤッチャッタ?」

 手に伝わるのは切り裂いた感覚。あまりにも呆気なく倒してしまったとカルーディは笑いを堪えるのだった。

 しかし現実は酷だ。

「――おいおい、こんなのがお前の本気か? こんなんじゃ蟲一匹殺せねぇよ」

「!?」

 衝撃波を生んだ巨大な刃が、エルドラドを守る様に現れた砂によって阻まれていた。

「あとさぁ――」

 瞬間。

 ヘブンズカルーディに大量の砂が襲い掛かり腹部で爆発。

 空間を波つかせるその爆発が幾度も続き、爆発が終わるころにはカルーディの腹部が破壊されていた。

「――さっきから魚類なんて言いぐさ、虫唾が走るんだよ……。あいつはな――」

 彼女の笑顔が浮かぶ。

「――ウルアーラって名前があんだよ!!!!」

 エルドラド。激情。
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