俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第二十一章 刻々と迫る

第277話 チュートリアル:ゲンコツ

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『チュートリアル:バレずに尾行しよう』

 夏の残暑はまだまだ続く。

 一般的には七月から九月が秋と言われているけど、去年と同じで服装は半袖。長ズボンなのは陰キャ精神。それが俺の休日の服装であり、今日みたいにバトルするなら学園指定のジャージ。

 ジャージ姿で施設を出ても、チラホラとジャージ姿の学生がいるから何ら珍しくない服装。そんな俺たちと違ってガチのデートをしている阿久津先生の服装はと言うと……。

「グレーのパンツに黒の袖シャツか……」

「正確にはグレースリムチノパンに白シャツ。そして七分袖シャツだな」

「流石は大吾だ。俺も萌と一緒の感想しか言えん」

「♰白のシャツに黒のシャツ。やはり阿久津教諭は混沌を織りなす魔物か……♰」

 俺の安易な感想におそらく合ってるであろう詳細を付け加える大吾。俺と同調する進太郎に相変わらず☆意☆味☆不☆明☆なダーク=ノワール。

 そんな連中が一組のカップルのデートを建物の角に隠れて観察。

「……なぁ。ここに居る時点で説得力皆無なのは承知だが、先生のプライベートなんだからもういいじゃん」

「なにチキってんだよ大吾! 先生のことを知れるまたとないチャンスだろうが!!」

「別にチキってはないが……」

 突然チキる大吾に俺は激怒。

「俺らほど担任の先生の事知りたい奴いねぇよ! お前ら日和ってる奴いるか?」

「「いねえよなぁ!!?」」

「ほらマイキーたちもそう言ってるだろ!」

「何でマイキーが二人も居んだよ!?」

 悪ノリする俺らに対しツッコむ大吾。

「あ! 見失うぞ!」

 そうこうしているうちに阿久津先生《ターゲット》とそのお相手が先へ行っていた。コソコソと進む俺たちに何か言いたげな大吾は仕方なしについて来た。

「カフェか」

 呟く進太郎。

 時間にして午後十五時。デートの間食《おやつ》を食べるためか、モダンな雰囲気のカフェに入って行った。

「ほら、流石に店内に入るのは迷惑だ。ここらへんで俺たちもずらかろうぜ」

「仕方ないなぁ~。ちょっとしたワクワクを体験できただけでも儲けもんか」

 大吾の言う通り、大人の雰囲気あるカフェにジャージ姿の野郎四人が入るのはナンセンスだな。ん? デートの尾行はナンセンスじゃないのかって? ナンセンスだよ普通に。でもそこを貫くのが俺らだ!

 と、内心無理やり自己肯定していると。

「♰ん? おい出て来たぞ♰」

 なんと入店したばかりの二人が出てきた。混んでいるのかと思いきや、どうやらテラス席に座るらしい。あの死んだ魚の様な目をしている先生が、和気あいあいと笑っているではないか……。

「続行したい人!」

「「はい!」」

「勘弁してくれ……」

 おあつらえ向きに街路樹を挟んだ所に二人の姿を視認できるカフェを発見。今し方席を立ったジャージ姿の学生もテラスにいるから俺たちもその店、そのテラス席に座ってホットドッグとコーヒーを注文。張り込み開始。

「――お、ざく切り野菜が入ったホットドッグ美味い!!」

「♰ホットチリもうんまいぞ!!♰」

 思いのほかホットドッグが美味しくてびっくり。進太郎なんてむしゃむしゃと食べている。

(なんか先生にバレそうな気がするのは俺だけか……?)

 難しい顔をする大吾。

 おおかたバレた時の心配でもしていると思うけど、阿久津先生がなら笑って許してくれると俺は信じてる。だって阿久津先生だもん!!

「ンク。♰……相手の女性は清楚系だが、何だろう、どこかミスマッチな気配がする♰」

「ミスマッチ?」

「♰断っておくが女性を貶している訳では無い。そして阿久津教諭と不釣り合いだという意味合いでもない。どこかこう……♰」

「清楚を無理してるって感じか……」

「♰そうそれだ!♰」

 俺がホットドッグを頬張っているとダーク=ノワールが疑問を口にし、それに大吾と進太郎が反応した。

 無理をしている。とは言ったものの、俺には笑顔で楽しくお喋りしてる感じにしか見えない。

 それなのに俺以外の三人が違和感に気付いてる辺り、これが真正陽の者の底力だと悔しながら思った。

「そう言えばマリオネットレイド時に田舎スケバンのお隣さんを守ったって言ってたよな。あの人がそうじゃね?」

「♰そんな事言ってたな♰」

 大吾の言葉で俺も思い出した。マリオネットレイドで隣クラスの佃に助けて貰ったくだりで言ってた。なんでもスケバンを守って腹切って負傷したらしい。

「って事は今のデートはその時のお礼か……」

「地がスケバンだから滲み出るオーラが清楚に違和感を持たせているってか? 自分で言ってみて何だが、かなり当たってるんじゃないか?」

「確かに……」

 言われてみれば露出した腕とふくらはぎに筋肉質が見える。鍛えているとかじゃ無ければ都会女子には似つかない筋肉だ。きっとスケバン抗争とかあって実戦で鍛えたんだろうなぁ。

「♰おい。我は漆黒と暗黒の苦汁を再度注文するが、貴様たちはどうする♰」

「おかわりか。どうしよっかなぁ~」

 突如ダーク=ノワールがメニューをテーブルに広げて見せて来た。俺たちは一斉にメニューを見て吟味。

 漆黒と暗黒の苦汁。もといコーヒーのおかわりをダーク=ノワールが注文するらしいけど、俺たちのコーヒーの減り具合を見て気を利かせるあたり、ダーク=ノワールは気配り上手だ。巨匠ツヤコの彼氏なだけある。

「――アイスコーヒーを四つですね~少々お待ちくださーい」

「「「「はーい」」」」

 店員さんにコーヒーを注文。俺ら全員がミルク無しシロップ無しのブラックでイク。

「ここのアイスコーヒーも美味いけどさ、やっぱセブンのアイスコーヒーが俺の中で断トツだわ」

 と、大吾《イケメン》が言っております。

「おいおいセブンだろ?」

「萌に同意する。しかしながら、俺は缶コーヒーのブラックは総じて不味いと思ってる」

「♰おいまゆ毛。貴様はを、怒らせた♰」

 優等生としては敵を作りかねない危ない発言が進太郎から出た。こりゃ缶コーヒーガチ勢の反感を買うと思ったところ、早速隣の中二病がキレた。

「ん? あぁすまん、悪気は無いんだ。ただ缶コーヒーのブラックは不味いと俺の舌が言っている」

「♰今日はタン塩が食べたい気分だ。それも人間のなあ!!♰」

「何だ司。不味いコーヒーに不味いと言っては何故いけない?」

「♰我は今、作ったコーヒーが不味いと言われ静かに怒《いか》る夜行妃古壱の気持ちだ。貴様に號奪戦を申し込むッ!!♰」

「お前ら喧嘩すんじゃねぇ!?」

 まさかコーヒーの話題でデカいのと中二病が喧嘩するとは思わなんだ。

「争うな! 持ち味を活かせ!!」

 ちょい天然が入ってる進太郎と実は常識人の中二病を宥めていると不意に。

「ん? ッおい! 先生が居ないぞ!!」

「「「!?」」」

 慌てた大吾の声で一斉に向こうのカフェを見た。

 アイスコーヒーが二つテーブルに並んでいるけど人数が一人足りない。

(マジだ、先生が席に居ない!?)

(しかも女性がこちらに手を振っている?)

(♰まさか――)

 俺の背中に緊張感が走る。

 そして……。

「――いやぁ人のデートをのぞき見するのは関心しないなぁ~」

 振り返らなくても分かる声。心なしか声が弾んでいる。

(絶)

(体)

(絶)

(♰命♰)

 俺たちダーティボーイズ。無意識下で以心伝心。

「まさか俺の夢であった"生徒にゲンコツを喰らわす"夢が叶う日が来るとはなぁ~」

「「「「っひぃ!?」」」」

 ――――ッゴ!!!!

 覇気を纏った拳なんじゃないかと思うほど痛かった。
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