オメガ学級委員長はド変態

明帆

文字の大きさ
35 / 54
第1章

第34話 【名津視点】君のヒーローになりたかった

しおりを挟む
 目を開けると、黒い丸がひしめき合う天井が視界に入る。何度この天井を見ただろう。

 あの日のあの出来事を夢に見て、何度もうなされ、眠れない夜を過ごした。寝返りを打つと、かき氷を一気食いしたときみたいに頭をつんざくような痛みが走る。

 でもそんな痛覚より、りょうに会えない苦痛の方が優った入院生活だった。



 あの日、12月3日。朝練が終わって教室へ向かうと、りょうと春久が楽しそうに会話しているのを見かけた。

 胸騒ぎがした。春久は不器用なところがあるが、一度親しくなるともっと知りたくなるような、人を惹きつける魅力のある奴だ。

 ユイが春久を好きになったのも、当然だと思った。りょうに、俺とユイが別れた理由を尋ねられたとき、「気が合いすぎて、お互い恋愛とは違うと思った」と言ったが、あれは嘘だった。

 ユイは俺ではなく、春久を選んだ。ただそれだけのことだった。でもそんなこと、りょうに言えるわけがない。りょうは絶対に、絶対に誰にも渡したくないから。

 先ほどのりょうと春久の姿を見て、また同じことが起こるような気がした。感情が荒れた海のように激しく波打ち、不安に襲われる。

 そのすぐ後、りょうに「部活が終わるまで待ってても良いか」と聞かれたとき、別れを切り出されるのではないかと思って冷たく断ってしまった。

 どうしたら、りょうを失わずに済む?今の俺に何ができる?

 考えて考えて、1日中頭が擦り切れるかと思うくらい考えて。いつもみたいに身体を重ねれば、りょうが喜ぶ行為をすれば、別れなくて済む?なんて、馬鹿なこともたくさん考えた。

 りょうのように優秀な頭を持っていたら、何か思いついたかもしれない。でも俺の頭じゃ何にも思い浮かばなかった。

 結局、一度もりょうに話しかけることができず、部活動の時間になってしまった。

 だけど、頭の中はりょうのことでいっぱいで、練習試合中もパスは取れず、シュートは何十回も外し、終いには手首を強く捻ってベンチで休むことになった。

「すみません、今日は帰ります」
 すでに脳内はショートしていて、自然とその言葉が口から出ていた。

 1人で帰りながら、りょうの今朝の誘いを断ったことを悔やんでいた。ふと前を見ると、りょうと春久の姿を視界に捉えた。

 今もっとも見たくない光景が眼前に広がっている。身体が硬直し、だけど視線を逸らすことはできなかった。頭だけが働きまくっていたから、すぐに気付いた。

 ——川中だ。

 以前、りょうを襲おうとした元担任教師だ。俺は親の力を借りて、川中を学校から追い出した。でもなぜ学校の近くにいるんだろう。

 そのとき、りょうに向かう川中の憎悪のようなものが見えた気がした。

 頭の中は真っ白で何も考えられなかった。ただとにかく、りょうの元へ一心不乱に走った。速く速く速く、もっと速く動けよ足って、それしかなかった。

 りょうにたどり着いた直後、左脇腹辺りに冷たく鋭利なものが侵入してくるのを感じた。

 いきなり冷凍庫に放り込まれたかのように、全身が冷気に包まれた。確かに今は冬の季節で寒いはずだが、凍えて体の震えが止まらない。それなのに侵入口は熱く、燃えているようだった。

 そこから意識が朦朧としてきたが、りょうの俺を呼ぶ声がして、意識がはっきりしてきたかと思うと同時に痛みが襲ってきて、また意識が飛びそうになって、りょうの声がして……と、その繰り返しだった。

 その後、気付いたら病院のベッドで寝ていて、左上から母親の驚喜するような表情が目に入った。

 俺はりょうを守りながら、生還した。りょうのヒーローになれたんだ、と愉悦に浸っていたが、ぬか喜びであったことに気づくのに、そう時間はかからなかった。

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...