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第2章
第44話 【名津視点】最高で最悪な1日
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今日は最高の1日だ。試合に勝ち、そしてコートからりょうの笑顔を拝むことができた。りょうが応援に来てくれると、必ず勝つことができる。俺の最高の1日を作り出してくれるのは、いつもりょうだ。
最高の1日はまだまだ続く。明日はオフだから、りょうの家に泊まりに行く予定だ。自然と顔が綻んでしまう。
“You’re unusually very cheerful today!”
(今日はいつになくご機嫌だな)
“Is that so?”
(そうか?)
更衣室で着替えながら、鼻歌を歌っていたことに今気付いた。そうなんだよ、上機嫌なんだ今の俺は。
“Bye,guys!”
(じゃあね、みんな)
脱いだユニフォームやバッシュを乱雑にバッグに詰めて、急いでエントランスへ向かった。
今日はりょうとこの間観たドラマの続きを観て、ベッドで一緒に寝て……。そしてプレゼントを渡すつもりだ。頭の中を笑顔のりょう、怒ったりょう、頬を赤らめて恥ずかしがるりょう、エロい姿のりょう、今まで目にすることができた全てのりょうが彩る。
俺の細胞1つ1つが、りょうへの想いを抱いている。りょうは正しく、俺の全てだ。
「やばい、興奮してきた」
完全ではないが、明らかに膨らみ始めたボトムの中央を押さえ込んだ。こんな状態で行ったら、りょうが不快な気持ちになるだろう。立ち止まり、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「ふー……よし」
エントランスに近づくと、湿気を帯びた夜気が頬を冷やした。その空気は、期待に膨らむ身体を落ち着かせてくれたが、外音は俺の胸をざわつかせた。
アリーナを後にしようとする人々が、出入り口付近で足を止めて、ちょっとした人だかりを作っていた。その声声には戸惑いがあった。
“What happened?”
(何があったの?)
人だかりの中の1人に話しかけながら、外に広がる場景が目に入ってきた。
「えっ……」
吸い込んだ息は吐かなきゃいけないのに、あまりの衝撃に吐くことを忘れてしまった。
「りょう!」
人だかりを掻き分け、雨中の濡れたコンクリートの上に倒れるりょうへ向かって、全速力で走った。走りながら、下腹部に何個も石が落とされていくような、ずんと重い感覚を覚えた。
——発情だ
忘れもしない。高校生のとき、りょうは教室で発情した。そのときに感じた重だるさ、におい、衝動が蘇ってくるようだ。
あのときは歩くことさえままならなかった。だが今はもう少し体力が付いたからか、身体を動かすことはできる。
懸命に足を前へ進めている途中で、ルークとすれ違った。
「…ルーク?」
俺の声が聞こえなかったのか、それとも意図的に無視したのか、ルークは振り返ることもなくアリーナの方へ戻って行った。
嫌な予感がした。でも今は倒れているりょうが最優先だ。
りょうの周囲には誰もいなかった。いや正確には数人いたけれど、誰もが少し距離を置いている。無理もない。ここにいるほとんどの人が、発情を初めて目の当たりにしたのだから。
「はあ、はあ、はあ……」
りょうに近づくと、荒い呼吸と熱を強く感じた。苦しそうなりょうには申し訳ないが、髪や肌が雨に濡れて火照るその姿は、美しい。抑えられない欲望が、全身を包んでいく。
「りょう、もう大丈夫だからね。家に帰ろう」
りょうを抱きかかえ、駐車場へ急いだ。今すぐにでもりょうを抱き潰したいが、まずはりょうの身の安全の確保だ。
りょうのダウンジャケットのポケットに手を突っ込むと、駐車券があった。記された場所に向かうと、見慣れない車があった。まだらに水滴を付けた深緑色のコンパクトカーだ。
不審に思ったが、同じくりょうのポケットに入っていた車のスマートキーのボタンを押すと、ロックが解除された。
後部座席にりょうを寝かせた途端、堪えきれなくなった欲望が溢れ出した。何かに急かされるように口付けをする。りょうの熱い唇、頬、そして首筋へを俺の欲望を記していく。
「んっ……」
俺のしつこいくらいの口付けにも、りょうは目を覚さない。これはチャンス…?高校生のときは、りょうが「まだ早い」というから噛まなかったけれど、その後別れることになって後悔に震えた。
りょうに怒られても嫌われても、番になってしまえばりょうは俺のものだ。
首裏に口付けをしようと、りょうの身体を反転させた。そこには、想像もしたくなかったものがあった。血が滲んだ噛まれた痕だった。手で擦っても消えない。何度も何度も拭ってみたが、そこにしっかりと存在している。
先ほどまで優しく降り注いでいた小雨が、氷の矢のように俺をずぶずぶに突き刺していく。
俺ってやっぱり勘が冴えてるんだよな。影を落としたルークの横顔を思い出して、車のシートを無意味に殴り続けた。俺とりょうは、こんなにもあっさり終わってしまうのか。今日は本当に、最悪な1日だ。
最高の1日はまだまだ続く。明日はオフだから、りょうの家に泊まりに行く予定だ。自然と顔が綻んでしまう。
“You’re unusually very cheerful today!”
(今日はいつになくご機嫌だな)
“Is that so?”
(そうか?)
更衣室で着替えながら、鼻歌を歌っていたことに今気付いた。そうなんだよ、上機嫌なんだ今の俺は。
“Bye,guys!”
(じゃあね、みんな)
脱いだユニフォームやバッシュを乱雑にバッグに詰めて、急いでエントランスへ向かった。
今日はりょうとこの間観たドラマの続きを観て、ベッドで一緒に寝て……。そしてプレゼントを渡すつもりだ。頭の中を笑顔のりょう、怒ったりょう、頬を赤らめて恥ずかしがるりょう、エロい姿のりょう、今まで目にすることができた全てのりょうが彩る。
俺の細胞1つ1つが、りょうへの想いを抱いている。りょうは正しく、俺の全てだ。
「やばい、興奮してきた」
完全ではないが、明らかに膨らみ始めたボトムの中央を押さえ込んだ。こんな状態で行ったら、りょうが不快な気持ちになるだろう。立ち止まり、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「ふー……よし」
エントランスに近づくと、湿気を帯びた夜気が頬を冷やした。その空気は、期待に膨らむ身体を落ち着かせてくれたが、外音は俺の胸をざわつかせた。
アリーナを後にしようとする人々が、出入り口付近で足を止めて、ちょっとした人だかりを作っていた。その声声には戸惑いがあった。
“What happened?”
(何があったの?)
人だかりの中の1人に話しかけながら、外に広がる場景が目に入ってきた。
「えっ……」
吸い込んだ息は吐かなきゃいけないのに、あまりの衝撃に吐くことを忘れてしまった。
「りょう!」
人だかりを掻き分け、雨中の濡れたコンクリートの上に倒れるりょうへ向かって、全速力で走った。走りながら、下腹部に何個も石が落とされていくような、ずんと重い感覚を覚えた。
——発情だ
忘れもしない。高校生のとき、りょうは教室で発情した。そのときに感じた重だるさ、におい、衝動が蘇ってくるようだ。
あのときは歩くことさえままならなかった。だが今はもう少し体力が付いたからか、身体を動かすことはできる。
懸命に足を前へ進めている途中で、ルークとすれ違った。
「…ルーク?」
俺の声が聞こえなかったのか、それとも意図的に無視したのか、ルークは振り返ることもなくアリーナの方へ戻って行った。
嫌な予感がした。でも今は倒れているりょうが最優先だ。
りょうの周囲には誰もいなかった。いや正確には数人いたけれど、誰もが少し距離を置いている。無理もない。ここにいるほとんどの人が、発情を初めて目の当たりにしたのだから。
「はあ、はあ、はあ……」
りょうに近づくと、荒い呼吸と熱を強く感じた。苦しそうなりょうには申し訳ないが、髪や肌が雨に濡れて火照るその姿は、美しい。抑えられない欲望が、全身を包んでいく。
「りょう、もう大丈夫だからね。家に帰ろう」
りょうを抱きかかえ、駐車場へ急いだ。今すぐにでもりょうを抱き潰したいが、まずはりょうの身の安全の確保だ。
りょうのダウンジャケットのポケットに手を突っ込むと、駐車券があった。記された場所に向かうと、見慣れない車があった。まだらに水滴を付けた深緑色のコンパクトカーだ。
不審に思ったが、同じくりょうのポケットに入っていた車のスマートキーのボタンを押すと、ロックが解除された。
後部座席にりょうを寝かせた途端、堪えきれなくなった欲望が溢れ出した。何かに急かされるように口付けをする。りょうの熱い唇、頬、そして首筋へを俺の欲望を記していく。
「んっ……」
俺のしつこいくらいの口付けにも、りょうは目を覚さない。これはチャンス…?高校生のときは、りょうが「まだ早い」というから噛まなかったけれど、その後別れることになって後悔に震えた。
りょうに怒られても嫌われても、番になってしまえばりょうは俺のものだ。
首裏に口付けをしようと、りょうの身体を反転させた。そこには、想像もしたくなかったものがあった。血が滲んだ噛まれた痕だった。手で擦っても消えない。何度も何度も拭ってみたが、そこにしっかりと存在している。
先ほどまで優しく降り注いでいた小雨が、氷の矢のように俺をずぶずぶに突き刺していく。
俺ってやっぱり勘が冴えてるんだよな。影を落としたルークの横顔を思い出して、車のシートを無意味に殴り続けた。俺とりょうは、こんなにもあっさり終わってしまうのか。今日は本当に、最悪な1日だ。
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