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2章
15話 成長
しおりを挟む新たなる決意を胸にエニ村を後にした和歌太郎は隣の竹林ゾーンへと進んでいた。
地図によると竹林ゾーンにも村があり、規模的にかなり大きいため何か宝玉への手かがりがあるのではないかと考えたからだ。
竹林ゾーンにある村はエニ村から徒歩だと2日かかる距離。
しかし、和歌太郎は竹林ゾーンに至るまでに3日を費やした。
それは和歌太郎の歩み方に変化があったからだ。
今までは五感で敵を探知し避けるように進んでいたが、変化後は自ら敵と遭遇するように進んでいる。
全ては自らの戦闘経験を蓄えるためだ。
そして、数十回に及ぶ戦闘は和歌太郎に新たな発見を与えていた。
(剣術スキルを意識して、一つ一つの動きを考えて剣を振るう事で剣術に自分の意思が加わり、自分のものになった気がする)
(更に使えば使うほど剣術のキレが増して行っているのが分かる。)
闇雲に戦うのではなく、自らの力を確実に把握し、最大限に力を引き出せるように、試行錯誤を繰り返し戦闘を行った。
"剣術をスキルとして使うのではなく、剣術を自分自身の技にする。"
結果和歌太郎は剣術スキルが適応されない剣以外の武器でも、ある程度扱う事ができるようになった。
そして、辿り着いた竹林ゾーン
(どこまで行っても竹しかないね)
《竹林ゾーン》
高さ20メートルはある極太の竹林が天を塞ぐように広がるエリア
竹のみが所狭しと密集しており、地面は竹の葉で柔らかい。
和歌太郎が今までいた平原と林ゾーンとは、異なる点が多くあった。
まず一つ目
(うん?それにしても竹の臭いが邪魔で広範囲の索敵ができない)
竹林の香りが周囲の臭いを隠すため、犬人族の嗅覚が減衰されているのだ。そのため和歌太郎の進行ペースは格段に落ちる事になる。
そして2つ目
"ガサッ"
突然地面から魔物が現れた。
「またっ!」
軽く舌打ちしてバックステップで距離を取る。
(擬態した魔物ばっかりでやりづらい…)
竹林ゾーンの地面には竹の落ち葉が深く積もっている。そして、その地面に潜み獲物を狙う魔物が多くいる。
2つ目の特徴、それは擬態タイプの魔物が多くいること。
嗅覚が効かない状況での急襲は非常にやっかいなものだった。
「"グシャァッー"」
奇襲してきたのは枯葉色の蜥蜴型魔物
全長は2m超え、鋭い牙と爪を持っている。
「よぉーし!行くぞ」
金属加工で磨き上げた特製の剣を携え、蜥蜴型魔物に対し円弧を描くように駆け、死角に入るように接近する。
しかし、蜥蜴型魔物も死角に入られぬように和歌太郎へ正対する方へと動く。和歌太郎の速度に完全に対応している。
(案外素早いね。一気に近づいて斬っても良いんだけど何かありそうな気がする)
初めて対面する敵に対して慎重に位置取りを行う。
(接近に危険がありそうならこれでどうだ)
和歌太郎は異次元Boxからナイフを取り出す。
それもただのナイフではなく、スキルによって形状を加工した"貫通力"と"投擲"に特化した投げナイフ
そのナイフを2本連続で投げる。
ナイフの軌道は正確に蜥蜴型魔物は額を捉えた。
「グシャァ!!」
蜥蜴型の魔物が叫ぶ。しかし、その叫びばナイフが刺さったことの悲鳴ではなくーー
(防がれたっ!)
ーー魔物の能力の発動の鳴き声であった。
蜥蜴型の魔物の表皮から鋭い刺が何本も生えている。
その見た目は蜥蜴とハリネズミが合わさったようだ。
魔物の刺が和歌太郎のナイフを弾いたのである。
(あの刺は相当硬そうだね……鉄製のナイフを弾くって事は硬度は"ただの鉄'以上。おそらく剣ですら防がれ、逆にこっちが串刺しになる)
「グシヤァーー」
もう一度鳴き声をだし、魔物の刺が表皮に戻り通常状態に戻る。
(刺を出したまま動くことはできないようだね。だけど、どうすればいい。あの硬い刺を攻略するにはどうすれば)
蜥蜴型の魔物の硬い針の守備を突破するために考える
しかし、考えている途中も蜥蜴型魔物は和歌太郎を倒そうと攻撃を仕掛けてくる。
(守備力以外はそれほど強くはないけど、牙と爪は当たったらヤバそうだ)
決して油断はせず、犬人族の強化された身体能力で蜥蜴型魔物から一定の距離を取り続ける。密集した竹林を巧みに使い、蜥蜴型魔物を翻弄する。
しかし、蜥蜴型魔物の爪や牙の攻撃は竹すらも簡単に砕き、両者の周囲が開けた広場になっていた。
「よしっ!決めた」
すると、何を思ったのか和歌太郎は一気に後方に下がり距離を開けた。
そして、一気に接近しながら再びナイフを一投
狙いは再び蜥蜴の額
「"グシャァァ!!"」
ナイフに反応し蜥蜴型魔物の表皮から硬質の刺が現れる。
(よし!刺を出す時は動きが止まる)
和歌太郎の口角が上がる。
「いでよ!マイハンマー!」
和歌太郎は異次元Boxより大きめの木槌を取り出し、そのまま全力で針山を殴りつけた。
木槌の頭が"バキッ"と音を立てて弾け飛ぶ。
「痛った!……けど折れたね!」
針を殴った衝撃が腕に疾る。
だがハンマーが衝突した部分の刺が軒並み折れている。
それにより折れた部分から蜥蜴型魔物の表皮が露出
「ーーこれで決まりだ」
次の瞬間には和歌太郎の手には剣が握られていた。
蜥蜴型魔物が危機に気付いた時には既に遅し
剣が蜥蜴型の魔物を貫いていた。
蜥蜴魔物は絶命した。
投げナイフからのハンマー、そして剣。
和歌太郎は戦闘中に異次元Boxを使用し、武器を高速換装しながら戦う方法を身につけていたのだ。
加えて、先ほどの木槌は和歌太郎が道中に得意の工作を駆使して作ったもの。
また木槌など剣以外の武器は剣術スキルが適応されないが、剣術の動きを意識し、研鑽した事で剣以外でも立ち回りもそれなりに使う事ができるのだ。
「よし!倒せた。何となく硬そうだし粘りも無さそうだから折れやすいんじゃないかと思ったんだよね!」
同金属において硬度が上がるほど、急激な変形に対する耐性が下がるため折れやすく。逆に柔らかい程、金属に粘りが生まれ変形に対する耐性が強くなり折れづらくなる。
例えるならば、ダイヤモンドは硬いが鉄のハンマーで砕く事ができる。
和歌太郎のようなエンジニアにとっては基礎的な知識であり、今回はその知識が有効となった。
粘りの強い木材と質量による衝撃により敵の針を砕いたのだ。
「はぁ…また木槌作っとこ」
和歌太郎はまた木槌を作ることを決意し、竹林ゾーンを進める。
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