ようこそ、喫茶店『小道』へ ~AIにすら見放された”無風小説”は、テンプレ暴風域で“無風地帯”となるか~

はっち

文字の大きさ
14 / 35

十三頁目「とある少年の独り言」

しおりを挟む
 みなさん、こんにちは。
 冒険者のホヴィと申します。
 僕は、勇者を目指して日々修行中です。

 ところでみなさんはご存知かと思いますが、勇者、と呼ばれる人は二種類いるのです。

 一つは先代勇者ユウのようにお告げによって人を超えた力を得ることのできる『神託の勇者』

 この勇者は異常なほどの力をもって、人類に仇なすものへの剣となるべき運命にある勇者のことです。

 そしてもう一つが、極限まで自身を鍛え上げ、武術や魔法を数多く修めた『人間代表勇者』

 力は『神託の勇者』には及ばないものの、人の限界を超えるとも言われており、まさに一騎当千の強さをもった勇者のことです。

 残念ながら僕ことホヴィは「神託の勇者」のお告げはありませんでした。
 一説に、「十五歳の誕生日の未明にお告げがあり、目が覚めれば、勇者になっている」というものがあります。多くの『神託の勇者』はこれに当てはまります。先代の神託勇者であるユウさんもそうだったと聞き及んでおります。
 なので、十五歳の誕生日というのは僕らにとってはとても特別な朝なのですが、それはまた別の話です。
 僕は何事も無く十五歳の誕生日を終えてしまい、お告げはありませんでした。なので、今は『人間代表勇者』を目指して修行中です。

 ところで、この二種類の勇者ですが、どちらも「勇者」とよばれていて、わざわざ神託の――とか人間代表――とかはつけないのが普通です。
 それ故、御伽噺や伝説で語られる歴代の勇者はその辺りが交じり合って語られていることがあります。
 人間代表勇者が神託の勇者になった例もありますが、それは稀な事で、過去に一度しか確認されておりません。

 とにかく、人間代表勇者と神託の勇者はまったくの別物である事は理解いただけると思います。

 尚、人間代表勇者は、一国、あるいは複数の国家の承認によってなりたっているものなので複数人いることもあります。
 人間代表勇者は主に国家に属していて、つまらない国家の小競り合いの抑制や水面下の戦争と呼ばれている、全世界武術大会などに国家代表として出場する事も多いです。

 一方で神託の勇者は、何年かあるいは何十年何百年に一人といわれています。
 そして、神託勇者が顕現する事はイコールで人類の天敵が現れる、あるいは既に現れている事をさします。
 それ故、神託の勇者には国家を越えて期待が集まり、辛い使命が課せられます。多くの場合、人類に仇成すものとして魔王が現れ、魔族を率いて人間を滅ぼそうとし、それを阻止するために勇者が立ち上がります。

 今度の人類の敵は何であるのか、それはわかりませんでしたが、ある日帝都をはじめとした諸国に魔族の使者と名乗る者が現れ、魔王が失踪したという事を伝えました。
 おそらくその失踪した魔王というのが、ユウさんが勇者として顕現した理由であると考えた各国はユウさんに魔王の探索を命じます。
 その命を請け、ユウさんは歴代の神託勇者よろしく旅立ちます。

 その先々でユウさんの噂は絶えないのですが、強力な魔物を退治したとか、事件を解決したとか、そういう事よりも、

「素敵過ぎる笑顔」

 という声がよく聞こえてきて、僕にとってはなんのこっちゃって思ってしまいます。

 それから何年かして、彼女は突然引退を宣言し、どこかへ隠居したというのです。
 まだ二十歳前後なのに隠居、というのも何だか不思議な気もしますが、その引退の理由も公表されていません。
 一部には失踪した魔王を誘い出す狙いがあるのでは、といわれていますが、その真意はわかっていません。
 もしかすると、既に魔王は死んでいて、それを確認できたので引退を宣言したのかもしれません。
 あるいは別の理由なのか。
 考えても仕方の無い事ですが、ユウさんの引退宣言を受けて、僕たちのような若い少年少女たちは突如色めき立ちます。

 神託勇者の引退。

 それは自分たちもまた伝説の存在である神託勇者になる可能性がでてきた、ということなのです!

 しかし、僕も、知り合いも、同じ年齢の子に勇者は顕現しませんでした。
 ユウさんが引退を宣言してからまもなく一年がたつのですが、未だに勇者は顕現していません。
 まだ可能性はなくはないのですが、これはほぼ人類の天敵からの脅威は去ったと考えるのが妥当でしょう。
 既に十五歳の誕生日を過ぎ去ってしまった僕としては、神託勇者はすっぱりとあきらめ、人間代表勇者を目指す方向に切り替える他ありませんし。

 *

 さて、僕は今、帝都から何日も離れた村の依頼を受け、戦士のウォルさん、魔法使いのリリーさん、リリーさんの執事のジッチさん、同じくリリーさんの付き人でスカウトのトッチさん、そして僕の五人でパーティを組み、とある廃屋へと向かっています。
 依頼元は小さな二つの村。その村をつなぐ街道沿いにある廃屋に、オーガの親子と思しき者が住み着いたらしく、その確認と可能であるならば排除、というのが依頼の内容でした。

 ゴブリンを見間違えたのだろう、とウォルさんは言いますが、その割には、確(しっか)りと装備を固め、準備に余念がありません。オーガである可能性を捨てきらない、そういう少し慎重すぎるとも思える姿勢は、やはり見習うべきところだと思います。ゴブリンであると高をくくったあげく、実はオーガがいて、死んでしまっては元も子もないですからね。

 帝都を出て三日、ようやく依頼主の一つである村が小高い山の頂上から見えました。ウォルさんがあの村だよ、と教えてくれたので、すぐにわかりました。
 その先には森が広がっていて、問題の廃屋は見えません。

 その日の夜営では、ウォルさんが昔の冒険譚を聞かせてくれました。
 僕やリリーさんはその話を食い入るように聴いていました。

 リリーさんは女性の魔法使いで、どこぞの名家の生まれだそうです。
 僕よりも一つか二つ年上で、魔法の才能が有り、また政略結婚の道具にされるのが嫌だという理由で、ジッチさんとトッチさんを連れて家を飛び出して、冒険者になったそうです。

 とにかく、ウォルさんのような経験豊かな冒険者の話は僕たち若い冒険者にとっては学ぶべき事が沢山散りばめられていて、尚且つウォルさんはあのユウさんとも会った事があるというので、話に興味をもたないわけにはいきません。
 様々な冒険譚、凶悪な魔物を倒した話や、山で出くわした謎の生物――これはちょっと眉唾物でしたが――そして、勇者ユウの話。リリーさんは特にユウさんの話に食いついていました。
 最後に、ウォルさんが、

「あの笑顔は凶器」

 と、ニヤニヤしながら言ってました。
 また、笑顔の話です。

 勇者ユウには必ずついてまわる、笑顔の話。
 一体何なのでしょうか?
 そんな事よりも、魔物との対決や、そういう話を聴きたいと僕は思うのですが…

 リリーさんはというと、その笑顔の話にも

「やっぱり、そうなのですね!」

 と目をきらきらと輝かせていました。
 同じ女性同士で、何か僕ら男にはわからない何かがあるのでしょうか?

「そうなんだよ、あの笑顔がなぁ」

 いや、なんだかウォルさんもさっきからユウさんの笑顔についての話にばかりなっているようです。

 ユウスマイル、勇者笑顔、話には聞いたことがありましたが、実際に見たことがないし、勇者なのに笑顔の話ばかりなのはどうなんだろう、って正直思いますね。
 一応、魔王の探索をしながら、魔物を倒したり、ダンジョンを攻略したり、事件を解決したりはしているようなのですが。


 ジッチさんがリリーさんを呼びにきました、ベッドメークが済んだそうです。
 少し豪華なテントを張って、リリーさんはそこで就寝。ジッチさんはテントの入り口で見張りを。
 ジッチさんはいつ寝ているのか、昨日も寝ずに見張りをしていたように思います。

 トッチさんとウォルさんは交代で火の番と警戒をしてくれています。
 僕は旅慣れていないから、という理由で交代番には参加させてもらえませんでした。
 道中に支障が出ても迷惑になるので、素直に夜は睡眠をとらせてもらっています。
 自分の経験不足、力不足を痛感させられますが、帝都周辺の依頼だけでなく、遠征するような依頼も受けていかねばと改めて思います。

 明日はいよいよ、問題の廃屋へと到着するそうです。
 一体何が待ち受けているのか、少しワクワクしてしまいます。
 たとえオーガが居たとしても、これだけのメンバーなら命を落とすような事もない気がします。

 慢心ではなく、素直にメンバーの力を信じているだけです。

 それではおやすみなさい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

王太子妃に興味はないのに

藤田菜
キャラ文芸
眉目秀麗で芸術的才能もある第一王子に比べ、内気で冴えない第二王子に嫁いだアイリス。周囲にはその立場を憐れまれ、第一王子妃には冷たく当たられる。しかし誰に何と言われようとも、アイリスには関係ない。アイリスのすべきことはただ一つ、第二王子を支えることだけ。 その結果誰もが羨む王太子妃という立場になろうとも、彼女は何も変わらない。王太子妃に興味はないのだ。アイリスが興味があるものは、ただ一つだけ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...