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二十二頁目「リンの理想のお姉さん? ~ 神の炎・Part-1 ~」
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風を切る音だけが、ずっと耳のそばで鳴っていた。
いつもよりゆっくりとではあるが、真正面から来る風の音は相変わらずうるさくて、耳をふさぎたくなるほどだ。
しかし、ユウはリンを抱きかかえているし、リンはユウにしっかりとしがみついているから耳をふさぐ事ができない。
お互いの体温だけが、風の冷たさを押し返していた。
背後で陽が傾き、二人の影が薄い雲の上に細く伸びる。
リンの足元には雲海。
その隙間から山や湖が見えるたびに、リンの呼吸が少しだけ弾む。
ユウの背中には少し大きめの荷物を縛った布が風に煽られてはためく。
その度にユウは少し速度を落として落ちないように気を使っているようだった。
ユウ達は東に向かって飛んでいた。
今回はワンピースではなく、パンツスタイルにした。
前にあった恥ずかしい事件を思い出して、ユウの頬がわずかに熱を持つ。
自分の頭の上でぶんぶん振られたものだから、リンが訝しげに頭をあげた。
お互いの表情は見えないのに、なんとなく伝わってしまうのであった。
*
年の暮れ、帝都も小さな村も例外なくどこか慌しくて、まさに年の瀬といった雰囲気が漂う。
けれど、『小道』は相変わらずで、客も来るでもなく、いつもは目に付かないような場所を掃除したりするくらいで、慌しさとは無縁だった。
ユウもリンも思い思いの場所を掃除していたのだが、その最中、リンが何着かの服をユウのところに持ってきた。
「着られなくなった」
差し出された服は、どれも去年買ったものばかり。
袖が短くなり、肩がきつくなり、丈が足りない。
リンの一年の証が、そこに並べられていた。
ユウの方にも、処分しきれなかった雑貨や、
リンが練習した文字の紙、残してきた季節の名残がいくつも転がっている。
捨てるには惜しい。
でも、このまま置いておくわけにもいかない。
どうしようかと思っていたところに、ユウはある事を思い出す。
その手があったか、とユウはポンと手を叩いた。
そんなわけで、大荷物――というほどではないが持って飛べるくらいの荷物をもって二人は飛んでいる。
以前ユウが立ち寄った事のある東の街、山々に囲まれた盆地にある街で、他の地域にはない独特の雰囲気や風習がある。
街の雰囲気自体が、”和む”といった感じの落ち着いたたたずまいで、ユウが聞いただけでも他の地域にはない風習や、変わった服があった。
今回は年の暮れに行われるという「神火」という行事がお目当てだ。
その地域で信仰されている神にささげるために火を焚いて、その際に衣服や人形、祈りをこめた札などを一緒に焚いて、一年間の無事を神に感謝するという習わしだった。
いらないものを焚くわけではなく、あくまで一年間の感謝をこめて、その年に使ったものなどをくべるらしい。
それを思い出してユウは、リンの成長と無事を感謝しつつ、ついでに自分も、と思い至ったのだ。
なんでもそこの神様は別段信仰心が厚くなくても「参加することに意義がある」という教えらしく、誰でもが気軽に参加しても、問題ないという話だった。
「……今年は、そこに預けてもいいかも」
リンの服。
自分の一年。
小道で過ごした日々。
どれも、今なら素直に手を離せる。
パタパタと走り回るリンの姿を見ながら、ユウはそんな風に思っていた。
*
陽が沈んで、すこし薄暗くなり始めた頃、二人はようやく街にたどり着いた。
雲を抜けると、少し雪がちらついていて寒さを感じる。
空から見たその街は、桝目のように家や店が整然と並んでいて、時々あちらこちらに開けたような広場が見える。屋根屋根に雪が積もっていて、町全体が薄い雪化粧に覆われていた。
「雪だ!」
リンは白い雪に覆われた街をみて声を弾ませる。
町全体を白く覆っているような、そんな大きな光が、町の奥に見えた。
そこへ向かう人の影が、ゆっくりと歩いていく――
人気の少ない広場へ降り立つ。
見ている人はいるのに、騒ぎ立てる者はいない。
視線がほんの少し触れて、すぐに流れていった。
街の空気が、静かに二人を受け入れてくれるようだった。
*
「さて、まずはちょっと挨拶してこないとね」
「どこに?」
「以前にお世話になった人だよ、リンもちゃんと挨拶してね」
「子供じゃないよ?」
「わかってるよ」
石畳で整えられた道を少し行くと、繁華街へと出る。
ランプの灯りが軒下の看板を柔らかく照らして、影が揺れる。
独特の建屋は、その光とのアンバランスを演出して、どことなく妖しさを醸し出している気がした。
リンはワクワクとソワソワを繰り返して、回りをキョロキョロとしてみている。
「似てる!」
一軒の宿屋にたどり着いたとき、リンがユウの裾をつかんでいった。
その一言にユウも辺りをざっと見回して、「ああ、なるほど」と思い至る。
目の前の宿も含めてここの雰囲気がリンが愛読していた「青い烏」の一シーンに良く似ていた。
ここはあの国だったのか――と、リンがぽかんと口を開けて周りの景色を見ていると、二人の気配を感じたのか宿の中から一人の女性が姿を現した。
「あらぁ? ユウちゃん?」
袖と裾が長くて、かっちりしたような服で、リンにはこれまで見たことがない服だった。長い袖を紐で縛って垂れないように上げている。
ユウよりいくつか年上に見えて、それ以上に雰囲気がゆったりしているというか大人びているというか、見ているとほんわかしそうになる感じをリンは覚えた。
さらに顔立ちは整っていて、目は細めているが、美人であることが伺える。
そこではっと気づくリン。
(理想……!)
リンの胸がひどく静かに高鳴った。
「あ、ツクシさん! お久しぶりです!」
想像を膨らませているリンの側でユウが元気よく頭を下げる。
目の前のリンの理想像を地で行く女性はツクシというらしい、リンはまじまじとツクシを見つめる。
「なんやぁ、ユウちゃんこないな子供つくってぇ……」
リンの視線に気づいて、ツクシもリンへと視線を落とす。
「かわええぇ、こんなおっきな子ぉ、いつのまにぃ……」
「いや、あの誤解ですけど……」
「子供じゃないよ?」
「あらあら、まぁまぁまぁ、かわえぇなぁ?」
ツクシはまったく耳を貸さずにしゃがみこみ、リンの顔を見ながら優しく微笑んで頭を撫で始めた。
「あらぁ、角あるんねぇ……鬼っ子やねぇ」
頭を撫でていたツクシはリンの角に気がついたが、驚いた様子もなく、ニコニコとしてリンの頭をなでている。
「あー、オーガの子、です。えっとぉ……」
「えぇ……ユウちゃんの彼氏はオーガやったん?」
「違いますし! 彼氏なんかいたことないですし!」
「んじゃぁ、どうして? あ、立ち話もなんやねぇ、中へお入りぃ」
しばらくリンの頭を撫でつつユウの事をいじっていたツクシだったが、満足したのか二人を宿に招きいれた。
宿の入り口では、背の大きい男が3人を出迎えてくれた。
「おこしやす、天花菜取の銀狐へ」
ぺこりと頭を下げる男。
「……あぁ。ようこそぉ、銀狐へぇ」
男の一連の動きを見たツクシが、一瞬間をおいてその隣に並んでユウとリンへ頭をさげた。
「姐さん、しっかりしてください。お客様ですよ?」
「ちゃうのよぉ、ユウちゃんは、お友達なのよ?」
「……知ってますけど、お客様でもあるのです。」
「せやかてぇ……」
宿に入って男の歓迎を受け、トコトコとツクシが男の隣に行って頭を下げ、なにやら言い合いをするまでを、ユウは呆気に取られて見ていた。
リンはまだツクシをじっと見ている。
「姐さん、仕事してくださいよ……」
「してはるもん、仕事してはるもん」
「いや、もんじゃなくて……」
男は困ったという感じで頭を掻いていた。
「とにかく姐さん、ユウさん達を案内してくださいよ…」
「あ、そないどしたなぁ」
ぽんと拍手を打って、ユウとリンに向き直る。
「おこしやす、ユウちゃん。遠路はるばるえらいどしたなぁ。今日も飛んで?」
一度お辞儀をし、手を頭の上にあげてヒラヒラとする。
空を飛ぶユウを的確に表したつもりなのだろうが、どうしてもどこか抜けているように見えてしまう。
「あはは……まぁ、そんなところです。あ、紹介します。こっちはリン、とある事情で預かってるオーガ族の娘さんです」
「はじめまして!」
ユウにうながされて、リンもペコリとお辞儀をする。
「あらあらまぁまぁ、おこしやす、リンちゃん。挨拶もきちんとできて、えらいおすなぁ」
細めた目、ではなく元々糸目のように細い目をニコっとさせてツクシはコロコロと微笑んだ。
「そなら、ご案内しますえ~」
「あ、ちょっとツクシさん、今日は……」
「泊まって行きはるんよねぇ?話したい事、仰山あるんよぉ~?」
「え、でも……」
「泊まって、いきはりますやろ?」
「う……」
笑顔の圧力を感じたユウ。それを見たリンが、自分を叱る時のユウの顔にそっくりだなと思う。
「はぁ、ツクシさんには勝てないや……えっと、とりあえず、神火に参加しに着たんですよ、今日は」
廊下をすたすたと歩いていくツクシについていきながら、ユウは今日やってきた理由をとうとうと話した。
そうこうしてるうちに、部屋へと到着する。
「どうぞぉ」
通された部屋は、まさに”和む”といった感じの部屋だった。
草を使って作られた畳というものが部屋に敷き詰められていて、背の低い木のテーブルが真ん中におかれている。
椅子は無くて畳の上に直接座るというここならではの文化だ。
「あ、履き物はこちらへぇ」
「え?」
ユウもリンも普段は寝る時以外は靴を履いて生活している。
ユウは初めてではないので知っていたが、リンは靴を脱ぐように言われて少し面食らっていた。
「神火は、もう始まってますさかい、後で案内しますえぇ」
二人とも靴を脱いで部屋にはいったのを確認して二人の後ろからツクシがそう声をかけた。
リンは初めての畳の感触や匂いを楽しんでいるようだった。
座ったり、立って歩き回ったり、寝転んでみたり。
そして、ツクシの独特の言い回しも何度もつぶやいている。
「どすえぇ、さかいぃ、してはりますなぁ」
思わず噴出しそうになるユウ。
とはいえ、自分もはじめてここに来た時、あの言葉とツクシの立ち居振る舞いに憧れたのを思い出す。
畳の感触を楽しんで、ツクシの言葉を真似して、リンが自分と同じことをやっているのを見て、思わず微笑んでいた。
いつもよりゆっくりとではあるが、真正面から来る風の音は相変わらずうるさくて、耳をふさぎたくなるほどだ。
しかし、ユウはリンを抱きかかえているし、リンはユウにしっかりとしがみついているから耳をふさぐ事ができない。
お互いの体温だけが、風の冷たさを押し返していた。
背後で陽が傾き、二人の影が薄い雲の上に細く伸びる。
リンの足元には雲海。
その隙間から山や湖が見えるたびに、リンの呼吸が少しだけ弾む。
ユウの背中には少し大きめの荷物を縛った布が風に煽られてはためく。
その度にユウは少し速度を落として落ちないように気を使っているようだった。
ユウ達は東に向かって飛んでいた。
今回はワンピースではなく、パンツスタイルにした。
前にあった恥ずかしい事件を思い出して、ユウの頬がわずかに熱を持つ。
自分の頭の上でぶんぶん振られたものだから、リンが訝しげに頭をあげた。
お互いの表情は見えないのに、なんとなく伝わってしまうのであった。
*
年の暮れ、帝都も小さな村も例外なくどこか慌しくて、まさに年の瀬といった雰囲気が漂う。
けれど、『小道』は相変わらずで、客も来るでもなく、いつもは目に付かないような場所を掃除したりするくらいで、慌しさとは無縁だった。
ユウもリンも思い思いの場所を掃除していたのだが、その最中、リンが何着かの服をユウのところに持ってきた。
「着られなくなった」
差し出された服は、どれも去年買ったものばかり。
袖が短くなり、肩がきつくなり、丈が足りない。
リンの一年の証が、そこに並べられていた。
ユウの方にも、処分しきれなかった雑貨や、
リンが練習した文字の紙、残してきた季節の名残がいくつも転がっている。
捨てるには惜しい。
でも、このまま置いておくわけにもいかない。
どうしようかと思っていたところに、ユウはある事を思い出す。
その手があったか、とユウはポンと手を叩いた。
そんなわけで、大荷物――というほどではないが持って飛べるくらいの荷物をもって二人は飛んでいる。
以前ユウが立ち寄った事のある東の街、山々に囲まれた盆地にある街で、他の地域にはない独特の雰囲気や風習がある。
街の雰囲気自体が、”和む”といった感じの落ち着いたたたずまいで、ユウが聞いただけでも他の地域にはない風習や、変わった服があった。
今回は年の暮れに行われるという「神火」という行事がお目当てだ。
その地域で信仰されている神にささげるために火を焚いて、その際に衣服や人形、祈りをこめた札などを一緒に焚いて、一年間の無事を神に感謝するという習わしだった。
いらないものを焚くわけではなく、あくまで一年間の感謝をこめて、その年に使ったものなどをくべるらしい。
それを思い出してユウは、リンの成長と無事を感謝しつつ、ついでに自分も、と思い至ったのだ。
なんでもそこの神様は別段信仰心が厚くなくても「参加することに意義がある」という教えらしく、誰でもが気軽に参加しても、問題ないという話だった。
「……今年は、そこに預けてもいいかも」
リンの服。
自分の一年。
小道で過ごした日々。
どれも、今なら素直に手を離せる。
パタパタと走り回るリンの姿を見ながら、ユウはそんな風に思っていた。
*
陽が沈んで、すこし薄暗くなり始めた頃、二人はようやく街にたどり着いた。
雲を抜けると、少し雪がちらついていて寒さを感じる。
空から見たその街は、桝目のように家や店が整然と並んでいて、時々あちらこちらに開けたような広場が見える。屋根屋根に雪が積もっていて、町全体が薄い雪化粧に覆われていた。
「雪だ!」
リンは白い雪に覆われた街をみて声を弾ませる。
町全体を白く覆っているような、そんな大きな光が、町の奥に見えた。
そこへ向かう人の影が、ゆっくりと歩いていく――
人気の少ない広場へ降り立つ。
見ている人はいるのに、騒ぎ立てる者はいない。
視線がほんの少し触れて、すぐに流れていった。
街の空気が、静かに二人を受け入れてくれるようだった。
*
「さて、まずはちょっと挨拶してこないとね」
「どこに?」
「以前にお世話になった人だよ、リンもちゃんと挨拶してね」
「子供じゃないよ?」
「わかってるよ」
石畳で整えられた道を少し行くと、繁華街へと出る。
ランプの灯りが軒下の看板を柔らかく照らして、影が揺れる。
独特の建屋は、その光とのアンバランスを演出して、どことなく妖しさを醸し出している気がした。
リンはワクワクとソワソワを繰り返して、回りをキョロキョロとしてみている。
「似てる!」
一軒の宿屋にたどり着いたとき、リンがユウの裾をつかんでいった。
その一言にユウも辺りをざっと見回して、「ああ、なるほど」と思い至る。
目の前の宿も含めてここの雰囲気がリンが愛読していた「青い烏」の一シーンに良く似ていた。
ここはあの国だったのか――と、リンがぽかんと口を開けて周りの景色を見ていると、二人の気配を感じたのか宿の中から一人の女性が姿を現した。
「あらぁ? ユウちゃん?」
袖と裾が長くて、かっちりしたような服で、リンにはこれまで見たことがない服だった。長い袖を紐で縛って垂れないように上げている。
ユウよりいくつか年上に見えて、それ以上に雰囲気がゆったりしているというか大人びているというか、見ているとほんわかしそうになる感じをリンは覚えた。
さらに顔立ちは整っていて、目は細めているが、美人であることが伺える。
そこではっと気づくリン。
(理想……!)
リンの胸がひどく静かに高鳴った。
「あ、ツクシさん! お久しぶりです!」
想像を膨らませているリンの側でユウが元気よく頭を下げる。
目の前のリンの理想像を地で行く女性はツクシというらしい、リンはまじまじとツクシを見つめる。
「なんやぁ、ユウちゃんこないな子供つくってぇ……」
リンの視線に気づいて、ツクシもリンへと視線を落とす。
「かわええぇ、こんなおっきな子ぉ、いつのまにぃ……」
「いや、あの誤解ですけど……」
「子供じゃないよ?」
「あらあら、まぁまぁまぁ、かわえぇなぁ?」
ツクシはまったく耳を貸さずにしゃがみこみ、リンの顔を見ながら優しく微笑んで頭を撫で始めた。
「あらぁ、角あるんねぇ……鬼っ子やねぇ」
頭を撫でていたツクシはリンの角に気がついたが、驚いた様子もなく、ニコニコとしてリンの頭をなでている。
「あー、オーガの子、です。えっとぉ……」
「えぇ……ユウちゃんの彼氏はオーガやったん?」
「違いますし! 彼氏なんかいたことないですし!」
「んじゃぁ、どうして? あ、立ち話もなんやねぇ、中へお入りぃ」
しばらくリンの頭を撫でつつユウの事をいじっていたツクシだったが、満足したのか二人を宿に招きいれた。
宿の入り口では、背の大きい男が3人を出迎えてくれた。
「おこしやす、天花菜取の銀狐へ」
ぺこりと頭を下げる男。
「……あぁ。ようこそぉ、銀狐へぇ」
男の一連の動きを見たツクシが、一瞬間をおいてその隣に並んでユウとリンへ頭をさげた。
「姐さん、しっかりしてください。お客様ですよ?」
「ちゃうのよぉ、ユウちゃんは、お友達なのよ?」
「……知ってますけど、お客様でもあるのです。」
「せやかてぇ……」
宿に入って男の歓迎を受け、トコトコとツクシが男の隣に行って頭を下げ、なにやら言い合いをするまでを、ユウは呆気に取られて見ていた。
リンはまだツクシをじっと見ている。
「姐さん、仕事してくださいよ……」
「してはるもん、仕事してはるもん」
「いや、もんじゃなくて……」
男は困ったという感じで頭を掻いていた。
「とにかく姐さん、ユウさん達を案内してくださいよ…」
「あ、そないどしたなぁ」
ぽんと拍手を打って、ユウとリンに向き直る。
「おこしやす、ユウちゃん。遠路はるばるえらいどしたなぁ。今日も飛んで?」
一度お辞儀をし、手を頭の上にあげてヒラヒラとする。
空を飛ぶユウを的確に表したつもりなのだろうが、どうしてもどこか抜けているように見えてしまう。
「あはは……まぁ、そんなところです。あ、紹介します。こっちはリン、とある事情で預かってるオーガ族の娘さんです」
「はじめまして!」
ユウにうながされて、リンもペコリとお辞儀をする。
「あらあらまぁまぁ、おこしやす、リンちゃん。挨拶もきちんとできて、えらいおすなぁ」
細めた目、ではなく元々糸目のように細い目をニコっとさせてツクシはコロコロと微笑んだ。
「そなら、ご案内しますえ~」
「あ、ちょっとツクシさん、今日は……」
「泊まって行きはるんよねぇ?話したい事、仰山あるんよぉ~?」
「え、でも……」
「泊まって、いきはりますやろ?」
「う……」
笑顔の圧力を感じたユウ。それを見たリンが、自分を叱る時のユウの顔にそっくりだなと思う。
「はぁ、ツクシさんには勝てないや……えっと、とりあえず、神火に参加しに着たんですよ、今日は」
廊下をすたすたと歩いていくツクシについていきながら、ユウは今日やってきた理由をとうとうと話した。
そうこうしてるうちに、部屋へと到着する。
「どうぞぉ」
通された部屋は、まさに”和む”といった感じの部屋だった。
草を使って作られた畳というものが部屋に敷き詰められていて、背の低い木のテーブルが真ん中におかれている。
椅子は無くて畳の上に直接座るというここならではの文化だ。
「あ、履き物はこちらへぇ」
「え?」
ユウもリンも普段は寝る時以外は靴を履いて生活している。
ユウは初めてではないので知っていたが、リンは靴を脱ぐように言われて少し面食らっていた。
「神火は、もう始まってますさかい、後で案内しますえぇ」
二人とも靴を脱いで部屋にはいったのを確認して二人の後ろからツクシがそう声をかけた。
リンは初めての畳の感触や匂いを楽しんでいるようだった。
座ったり、立って歩き回ったり、寝転んでみたり。
そして、ツクシの独特の言い回しも何度もつぶやいている。
「どすえぇ、さかいぃ、してはりますなぁ」
思わず噴出しそうになるユウ。
とはいえ、自分もはじめてここに来た時、あの言葉とツクシの立ち居振る舞いに憧れたのを思い出す。
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