7 / 23
7.モブ役者にも、モブ役者なりのプライドがある
しおりを挟む
東城湊斗──彼だけが僕にとっての『特別』な存在なんだと、それに気づいてしまったら、あとから涙があふれて止まらなくなった。
どうしよう、今さらこんな気持ちに気がつくなんて。
最初はただ、手のかかる後輩にすぎなくて。
それも大手芸能事務所のスター候補なのだからと、気をつかわなきゃいけない相手だった。
正直、面倒な相手でしかなかったのに。
あれから2年、すっかり当初の予定通りに国民的な大スターへとかけ上がっていった東城は、今や僕の手の届かない場所に立っていた。
あまりにも相手があのころと変わらない感じに接してきていたから、つい僕も勘ちがいしてしまったんだろうか。
たとえ立場はちがっていても、心安い相手であると。
だけど実際には、僕が気づかないだけで、アイツはずいぶん前から僕のことを下に見ていたのかもしれない。
好きなヤツに見下されたら、そりゃくやしくて涙も止まらなくなるってもんだろ。
気を遣って、そうは見せないように懐っこい後輩の顔を演じていただけなのかもなんて、疑いたくないのに疑ってしまう。
それくらい、アイツの演技は上達していたし、そう感じるくらいには、あの演技は完成していたんだ。
これまでの僕が知る東城は、演じるときには計算尽くでやるというよりも、あくまでもそのキャラクターになりきって演じていた。
ある意味で憑依型と言える演技は、その役にぴたりとハマったときの破壊力が半端ないことになる。
どちらかというと理詰めでキャラクターを分析して、演技プランを考えていく僕とは、東城は真逆の位置にいた。
だから今までなら、その役になりきってしまえば、雑念なんて入る余地はなかったんだ。
だけど今回は、『キスをしたい』という個人的な気持ちがまざっていたらしい。
僕にはまるでそんな欲望があるようには見えなかったのに、マネージャーの後藤さんにはお見通しだったようだ。
それもまた、僕にとってはくやしいことだった。
自分の演技力にはそれなりに自信があるけれど、それと同じくらい、相手が演技かどうか見る目もあると思っていたから。
その僕が見ても、あのときの東城の演技はまっすぐでひたむきな愛を感じるものだった。
しっかりと、いつものようにあの役を憑依させているんだと思っていた。
じゃなきゃ、あんなにも熱のこもった視線で僕を見て、耳もとで甘く愛をささやいたりできないはずなんだし。
その声はときに切なく、ときには熱く、耳から染み入り理性をとろかせるものだった。
それこそ、思わず自然に身を委ねてしまいそうになるくらい、真摯で燃え上がるような情熱的な愛を感じるものだった。
あれだけ気合いの入った演技ができるようになったのなら、恋愛ドラマの女王と名高い宮古怜奈にも決して見劣りしないだろう。
そう思って、安心していたのに……。
だけど実際には欲にまみれ、しかしそれを隠した演技にだまされていただけだった。
これだけ本心を隠して相手に悟らせないような演技ができるようになったってことは、役者として東城がレベルアップしたことだと素直によろこんでやればいいだけなのに、すっかりひねくれたこの心は、よけいなことを考えてしまうんだ。
───アイツにとって、僕はもう見下してもいい存在になっていて、それを隠して慕うふりをしていただけなんじゃないかって。
この2年間に仕事がかち合うことはなかったけれど、僕の前での東城は、はじめて会ったときからなにも変わっていないように見えていた。
いつだって『全力で慕っています』という空気感を出してきて、全開の笑顔を向けてきていたはずだ。
それが本心からではなく、いつの間にか演技にすり代わっていたのかもしれないと疑わなきゃいけない日が来るなんて、どうしたらいいんだろうか?
もしそれが事実なら、僕はもう東城のそばにはいられない。
疎まれてまで、隣に立とうなんて思うほど、こっちのメンタルは強くなんてないから。
キリ……と心臓が捩れるような、鋭い痛みを訴えてくる。
まるで、東城のそばにいられないことを悲しむかのように。
「~~~~っ!!」
のどの奥からは、声にならない嗚咽がもれた。
その引きつれたような叫びは、自覚する前に消されることが決まってしまったアイツへの想いが上げた、断末魔の悲鳴だったのかもしれない。
淡いその恋心は、成就するはずもない、幻のようなものだ。
ひっそりと生まれ、誰にもその存在を気づかれることもなく、そしてそのまま消えていくしかないなんて。
「まずい、泣いちゃダメだ。ただでさえ地味な顔なのに、目まで腫れぼったくなっちゃうとか、不細工すぎるだろ……」
夕方からはチョイ役とはいえ、映像のお仕事があるってのに。
だけどボロボロと頬を伝っていく涙は、止まる気配もなかった。
口に出して言えば、その事実に、さらに凹みそうになる。
そうだ、いくら演技力には自信があろうが、残念ながら地味な顔では、映像になったときに映えることはむずかしい。
個性派であれば脇役として、味のある演技をして記憶に残ることはできるかもしれないけれど、残念ながら自分にはそこまでの個性はない。
どんな役でも演じられる代わりに、なにものにも代えがたいほどの、ただひとつの存在にはなることができない。
つまりは、自分はそこら辺にいる有象無象にすぎない、ただのモブなんだ。
東城湊斗という、ひときわまぶしい存在に目がくらみ、引き寄せられたうちのひとりにすぎなかったんだ。
それがわかっているのなら、ただあきらめてその事実を受け入れて競おうとしなければ、きっと心は楽になる。
取り巻きのひとりとして、東城を崇め、ずっと見上げて過ごせばいい。
絶対に自分では敵わない存在なら、きっとそうするのが賢い生き方なんだろう。
人の身で、天に向かって挑んだどころで、むなしいだけだからな。
だけど、僕には無理だった。
幼いころから、戦隊もののヒーローにあこがれて、自分もいつかヒーローになるんだって心に決めた。
長じてそれがドラマのなかの話だと理解したあとは、今度はそれを演じる俳優になるのが夢になっていた。
そこから夢を叶えるために、ずっと努力を続けてきたし、それはすべて表現力となって僕を支えてくれるものになったと自負している。
幼いころに自分が感じた、あのキラキラと光る世界で生きていくためならば、どんな苦労も耐えられた。
だって、人に夢を与える仕事に就いている人が、自らの夢をあきらめるなんて、本末転倒だろ?
自分自身の可能性も信じられないヤツが、どうやって人に夢を与えられるんだよ。
だから僕には、僕を信じる義務がある。
そうして生きてきた僕にとっては、演じることがすべてなんだ。
役者をやれるなら、それだけでいい。
色々な役をやるのに邪魔となるなら、僕という存在がどれだけ薄くてもいい。
そう思っていたはずなのに……いつの間にか、その熱い思いは『アイツの隣に立つのにふさわしい役者でありたい』という想いへと姿を変えていたようだ。
それだけ僕にとっての『東城湊斗』という人物は、衝撃的なものだったんだろう。
ただそこにいるだけなのに、周囲の視線を集める存在感。
それが動き出したならば、目で追わずにはいられない。
これが『魅了される』ということなんだろうと、その一挙手一投足で教えてくれる。
とっくの昔にここまで心を奪われていたのに、自分にとっての東城が特別な存在になっていたと、どうして今まで気づかなかったんだろう?
己の鈍さには、ほとほと呆れる。
だって考えてもみろよ、いくら配役のバーターと言われたところで、あそこまでプライベートの時間を返上してまで、面倒みたりしないだろ。
いくらなんでも、そこまで酔狂じゃない。
それにアイツがデビューしてから、共演したドラマ以降も、今朝まで、ちょいちょい稽古につき合ってたからな。
お仕事としてなら、その共演したドラマのときだけで良かったはずだ。
もちろんド素人同然だった東城が、僕のアドバイスを素直に聞いて、そしてどんどん上手くなっていくのを見るのも楽しかったけど、上手いだけじゃない、理屈抜きで魅了されるなにかが東城にはあった。
それこそが、僕が決して持ち得ない『華』だ。
それは『スター性』と言い換えてもいいかもしれないけれど、とにかく舞台の中央に立つのにふさわしい『品格』のようなものを持って生まれるのは、ほんのひとにぎりの存在だけなんだ。
だから僕は、それを持つ東城がうらやましくて仕方ない。
でもいくら欲しいとわめいたところで、それは天性のものだ。
あとから簡単に手に入るものじゃないのは、わかっている。
もしそれに代わるものがあるとすれば、七光り───親の名声や、事務所の力くらいだろうか。
ただそう考えると、本人の華に加えて事務所の力もある東城って、本当に無敵なんじゃないだろうか?
よほどのベテランでもなければ、負けないような気が……。
うん、これは……絶望だ。
僕なんかが、勝てるわけないじゃん。
どうしてそんな相手に、『負けたくない』なんて思ってしまったんだろう。
バカ極まりないだろ、本当に。
それでも理性とかそういうのじゃなくて、感情論で負けたくないだけなんだ。
我ながら、難儀な性格してるよなぁと思うよ。
冷静に自己分析をかけているうちに、徐々に気持ちは落ちついてきた。
ウジウジと悩んでいても、なにも変わらないなら、いっそ今は無理に考えなければいい。
大丈夫、きっと夕方までには気持ちの切り替えができるようになっているから。
そう思い込まなくては、とてもじゃないけどやってられなかった。
そうしてしばらくぼんやりとしているうちに、気がつけば、止まらなかったはずの涙は止まっていた。
「やべ、もう昼近い時間になってるとか……っ!」
壁にかけられた時計を見て、あわてる。
それと同時に、ぐぅ、と小さくお腹が鳴った。
ひとしきり泣いて、落ちついてきたら、ちゃんとお腹は空いてきた。
あぁなんだ、案外僕もメンタル強いんじゃん、なんて冗談みたいに思って、自嘲気味に笑う。
せっかく後藤さんにおいしそうなサンドイッチもらったしな、ありがたく食べよう。
コーヒーは冷めきって、匂いが飛んでしまっていたけれど、それでも十分おいしかった。
これを食べ終わったら、シャワーを浴びて仮眠をしよう。
そんな風に考えられるくらいには、余裕が生まれていた。
そうして、またいつもと変わらない日常がはじまっていく───そう、思っていた。
どうしよう、今さらこんな気持ちに気がつくなんて。
最初はただ、手のかかる後輩にすぎなくて。
それも大手芸能事務所のスター候補なのだからと、気をつかわなきゃいけない相手だった。
正直、面倒な相手でしかなかったのに。
あれから2年、すっかり当初の予定通りに国民的な大スターへとかけ上がっていった東城は、今や僕の手の届かない場所に立っていた。
あまりにも相手があのころと変わらない感じに接してきていたから、つい僕も勘ちがいしてしまったんだろうか。
たとえ立場はちがっていても、心安い相手であると。
だけど実際には、僕が気づかないだけで、アイツはずいぶん前から僕のことを下に見ていたのかもしれない。
好きなヤツに見下されたら、そりゃくやしくて涙も止まらなくなるってもんだろ。
気を遣って、そうは見せないように懐っこい後輩の顔を演じていただけなのかもなんて、疑いたくないのに疑ってしまう。
それくらい、アイツの演技は上達していたし、そう感じるくらいには、あの演技は完成していたんだ。
これまでの僕が知る東城は、演じるときには計算尽くでやるというよりも、あくまでもそのキャラクターになりきって演じていた。
ある意味で憑依型と言える演技は、その役にぴたりとハマったときの破壊力が半端ないことになる。
どちらかというと理詰めでキャラクターを分析して、演技プランを考えていく僕とは、東城は真逆の位置にいた。
だから今までなら、その役になりきってしまえば、雑念なんて入る余地はなかったんだ。
だけど今回は、『キスをしたい』という個人的な気持ちがまざっていたらしい。
僕にはまるでそんな欲望があるようには見えなかったのに、マネージャーの後藤さんにはお見通しだったようだ。
それもまた、僕にとってはくやしいことだった。
自分の演技力にはそれなりに自信があるけれど、それと同じくらい、相手が演技かどうか見る目もあると思っていたから。
その僕が見ても、あのときの東城の演技はまっすぐでひたむきな愛を感じるものだった。
しっかりと、いつものようにあの役を憑依させているんだと思っていた。
じゃなきゃ、あんなにも熱のこもった視線で僕を見て、耳もとで甘く愛をささやいたりできないはずなんだし。
その声はときに切なく、ときには熱く、耳から染み入り理性をとろかせるものだった。
それこそ、思わず自然に身を委ねてしまいそうになるくらい、真摯で燃え上がるような情熱的な愛を感じるものだった。
あれだけ気合いの入った演技ができるようになったのなら、恋愛ドラマの女王と名高い宮古怜奈にも決して見劣りしないだろう。
そう思って、安心していたのに……。
だけど実際には欲にまみれ、しかしそれを隠した演技にだまされていただけだった。
これだけ本心を隠して相手に悟らせないような演技ができるようになったってことは、役者として東城がレベルアップしたことだと素直によろこんでやればいいだけなのに、すっかりひねくれたこの心は、よけいなことを考えてしまうんだ。
───アイツにとって、僕はもう見下してもいい存在になっていて、それを隠して慕うふりをしていただけなんじゃないかって。
この2年間に仕事がかち合うことはなかったけれど、僕の前での東城は、はじめて会ったときからなにも変わっていないように見えていた。
いつだって『全力で慕っています』という空気感を出してきて、全開の笑顔を向けてきていたはずだ。
それが本心からではなく、いつの間にか演技にすり代わっていたのかもしれないと疑わなきゃいけない日が来るなんて、どうしたらいいんだろうか?
もしそれが事実なら、僕はもう東城のそばにはいられない。
疎まれてまで、隣に立とうなんて思うほど、こっちのメンタルは強くなんてないから。
キリ……と心臓が捩れるような、鋭い痛みを訴えてくる。
まるで、東城のそばにいられないことを悲しむかのように。
「~~~~っ!!」
のどの奥からは、声にならない嗚咽がもれた。
その引きつれたような叫びは、自覚する前に消されることが決まってしまったアイツへの想いが上げた、断末魔の悲鳴だったのかもしれない。
淡いその恋心は、成就するはずもない、幻のようなものだ。
ひっそりと生まれ、誰にもその存在を気づかれることもなく、そしてそのまま消えていくしかないなんて。
「まずい、泣いちゃダメだ。ただでさえ地味な顔なのに、目まで腫れぼったくなっちゃうとか、不細工すぎるだろ……」
夕方からはチョイ役とはいえ、映像のお仕事があるってのに。
だけどボロボロと頬を伝っていく涙は、止まる気配もなかった。
口に出して言えば、その事実に、さらに凹みそうになる。
そうだ、いくら演技力には自信があろうが、残念ながら地味な顔では、映像になったときに映えることはむずかしい。
個性派であれば脇役として、味のある演技をして記憶に残ることはできるかもしれないけれど、残念ながら自分にはそこまでの個性はない。
どんな役でも演じられる代わりに、なにものにも代えがたいほどの、ただひとつの存在にはなることができない。
つまりは、自分はそこら辺にいる有象無象にすぎない、ただのモブなんだ。
東城湊斗という、ひときわまぶしい存在に目がくらみ、引き寄せられたうちのひとりにすぎなかったんだ。
それがわかっているのなら、ただあきらめてその事実を受け入れて競おうとしなければ、きっと心は楽になる。
取り巻きのひとりとして、東城を崇め、ずっと見上げて過ごせばいい。
絶対に自分では敵わない存在なら、きっとそうするのが賢い生き方なんだろう。
人の身で、天に向かって挑んだどころで、むなしいだけだからな。
だけど、僕には無理だった。
幼いころから、戦隊もののヒーローにあこがれて、自分もいつかヒーローになるんだって心に決めた。
長じてそれがドラマのなかの話だと理解したあとは、今度はそれを演じる俳優になるのが夢になっていた。
そこから夢を叶えるために、ずっと努力を続けてきたし、それはすべて表現力となって僕を支えてくれるものになったと自負している。
幼いころに自分が感じた、あのキラキラと光る世界で生きていくためならば、どんな苦労も耐えられた。
だって、人に夢を与える仕事に就いている人が、自らの夢をあきらめるなんて、本末転倒だろ?
自分自身の可能性も信じられないヤツが、どうやって人に夢を与えられるんだよ。
だから僕には、僕を信じる義務がある。
そうして生きてきた僕にとっては、演じることがすべてなんだ。
役者をやれるなら、それだけでいい。
色々な役をやるのに邪魔となるなら、僕という存在がどれだけ薄くてもいい。
そう思っていたはずなのに……いつの間にか、その熱い思いは『アイツの隣に立つのにふさわしい役者でありたい』という想いへと姿を変えていたようだ。
それだけ僕にとっての『東城湊斗』という人物は、衝撃的なものだったんだろう。
ただそこにいるだけなのに、周囲の視線を集める存在感。
それが動き出したならば、目で追わずにはいられない。
これが『魅了される』ということなんだろうと、その一挙手一投足で教えてくれる。
とっくの昔にここまで心を奪われていたのに、自分にとっての東城が特別な存在になっていたと、どうして今まで気づかなかったんだろう?
己の鈍さには、ほとほと呆れる。
だって考えてもみろよ、いくら配役のバーターと言われたところで、あそこまでプライベートの時間を返上してまで、面倒みたりしないだろ。
いくらなんでも、そこまで酔狂じゃない。
それにアイツがデビューしてから、共演したドラマ以降も、今朝まで、ちょいちょい稽古につき合ってたからな。
お仕事としてなら、その共演したドラマのときだけで良かったはずだ。
もちろんド素人同然だった東城が、僕のアドバイスを素直に聞いて、そしてどんどん上手くなっていくのを見るのも楽しかったけど、上手いだけじゃない、理屈抜きで魅了されるなにかが東城にはあった。
それこそが、僕が決して持ち得ない『華』だ。
それは『スター性』と言い換えてもいいかもしれないけれど、とにかく舞台の中央に立つのにふさわしい『品格』のようなものを持って生まれるのは、ほんのひとにぎりの存在だけなんだ。
だから僕は、それを持つ東城がうらやましくて仕方ない。
でもいくら欲しいとわめいたところで、それは天性のものだ。
あとから簡単に手に入るものじゃないのは、わかっている。
もしそれに代わるものがあるとすれば、七光り───親の名声や、事務所の力くらいだろうか。
ただそう考えると、本人の華に加えて事務所の力もある東城って、本当に無敵なんじゃないだろうか?
よほどのベテランでもなければ、負けないような気が……。
うん、これは……絶望だ。
僕なんかが、勝てるわけないじゃん。
どうしてそんな相手に、『負けたくない』なんて思ってしまったんだろう。
バカ極まりないだろ、本当に。
それでも理性とかそういうのじゃなくて、感情論で負けたくないだけなんだ。
我ながら、難儀な性格してるよなぁと思うよ。
冷静に自己分析をかけているうちに、徐々に気持ちは落ちついてきた。
ウジウジと悩んでいても、なにも変わらないなら、いっそ今は無理に考えなければいい。
大丈夫、きっと夕方までには気持ちの切り替えができるようになっているから。
そう思い込まなくては、とてもじゃないけどやってられなかった。
そうしてしばらくぼんやりとしているうちに、気がつけば、止まらなかったはずの涙は止まっていた。
「やべ、もう昼近い時間になってるとか……っ!」
壁にかけられた時計を見て、あわてる。
それと同時に、ぐぅ、と小さくお腹が鳴った。
ひとしきり泣いて、落ちついてきたら、ちゃんとお腹は空いてきた。
あぁなんだ、案外僕もメンタル強いんじゃん、なんて冗談みたいに思って、自嘲気味に笑う。
せっかく後藤さんにおいしそうなサンドイッチもらったしな、ありがたく食べよう。
コーヒーは冷めきって、匂いが飛んでしまっていたけれど、それでも十分おいしかった。
これを食べ終わったら、シャワーを浴びて仮眠をしよう。
そんな風に考えられるくらいには、余裕が生まれていた。
そうして、またいつもと変わらない日常がはじまっていく───そう、思っていた。
87
あなたにおすすめの小説
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
「推しは目の前の先輩です」◆完結◆
星井 悠里
BL
陽キャの妹に特訓され、大学デビューしたオレには、憧れの先輩がいる。その先輩のサークルに入っているのだが、陽キャに擬態してるため日々疲れる。
それを癒してくれるのは、高校で手芸部だったオレが、愛情こめて作った、先輩のぬいぐるみ(=ぬい)「先輩くん」。学校の人気のないところで、可愛い先輩くんを眺めて、癒されていると、後ろから声を掛けられて。
まさかの先輩当人に、先輩くんを拾われてしまった。
……から始まるぬい活🐻&恋🩷のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる