~記憶喪失の私と魔法学園の君~甘やかしてくるのはあの方です

Hikarinosakie

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⑩追憶の中の

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本日は5月18日

ちなみに殿下と食事をしたのは3日前。

あの後、私は殿下が手配した馬車に乗せて頂き、彼に付いていた護衛の方と帰ることになった。


学園に着いて、寮へ帰る途中、男子寮の方からフォートが手を降ってきて……。


先に帰っていたことに、ひとまずはホッと安堵した。

その後も、もちろん翌日の学校でも、しっかりと謝った。






そして今は殿下との約束の放課後。


流れに流れた放課後の待ち合わせを今日にしたのだけど。


昨夜遅く、公務から帰還したばかりの殿下なのに、私のことで彼を振り回すのは尚更申し訳なく感じたのだけど。




「大丈夫だから、そのまま授業終わりに、放課後に教室で待っていて」


殿下からまさかの通信があったのだ。


「アリセアの声が聞けてよかった。……今日はどう過ごしてた?」


と、寝る間際に掛けてくれ、少し掠れたような甘さの残る声に、キュンとしたのは内緒である。


トキメキを感じる他にも。
ユーグの声に、落ち着くと言ったら変だろうか。
どこか安心感を覚えるというか……。


早く会いたいな。
そんな、気持ちが自然と湧き上がってきたのだった。



そしてこの4日。
殿下が居ないことによって、学園生活がどうなるかと、内心ハラハラドキドキで、心が落ち着かなかったが、わりと、大丈夫だったのではないだろうか。
クラスメイト達との距離感も分かってきたし、授業も問題なかった。
困った時は空き教室に行って心を鎮めたりと、できる限りの事はおこなった。


……時刻は17:00


いつの間にかあんなにいたクラスメイトは去り、教室には私一人だけになった。
筆記用具や必要な勉強本は、茶色の通学カバンにいれて、ユーグがいつ、迎えに来てもいいように、持ち運べるようにしている。


ついでに換気のため開けている窓をそっと閉じると、レースのカーテンが踊るのがとまった。


「綺麗な夕日なんだけどね」
すっかり夕日が差し込む教室内は、どこかよそよそしかった。


ふと。


教室の片隅の掲示板に、クラス全員の自己紹介カードをみつけた。
「ん~……書いた記憶がない」

今は5月だけど、これは4月に書いたのかな?


アリセア、あ、わたしのがあった。

アリセアの自己紹介カードには、顔写真が小さく貼ってある。
私とは違う勝ち気に見える表情だ。


「今の私と全然違う」
鏡で見る自分とは、あまりにも印象が違う気がした。

これは……今の私では、他の人やフォートにおかしいと思われても、なんら不思議はないかもしれない。
不安が込み上げてくるも、それから目を逸らすかのように、さらにカードの下に目線をずらす。
そこにはただ一言……。

《趣味:本を読むこと》

とだけ書かれた、メッセージ。

「本…??」

その瞬間、ズキンっと。

頭が割れるような痺れがおこり。

身体が揺れ、アリセアは思わず壁に手をついた。




あぁ、どうして……忘れていたんだろう。
そういえば、ユーグが言っていた。
「君は、図書館によく通っていた」と。

その言葉が引き金になったように、脳内に記憶が一気に押し寄せる。



図書館で本を読む自分。


夢中になって調べ物をする私。


寝る間も惜しんで勉強していたこと。


しかし、何のために勉強ばかりしていたのか。


全てを思い出す前に、一瞬くらりとし、ぎゅっと目を閉じる。


そして、おそるおそる、頭の痛みと立ちくらみがなくなったことを確認し、目を開けると。


今度は視界に、笑顔のフォートの顔写真と自己紹介カードが目に入った。

「隣国のノクスフェリアから留学して来ました。皆よろしく。趣味は友達づくり」


軽快なメッセージだ。
隣国はこちらの国より南国にある。
遠くから、はるばる学びに来ていたのだ。




************


ユーグストは長い道のりを歩いていた。


騎士科から貴族校舎までは少し距離がある。


さらに、貴族校舎に入ってからも、比較的長い廊下が続いていく。

「待たせてしまったかな」

思わず早足になる。

向かう先はアリセアの教室……視察の日から実に3日ぶりだ。

途中、何人かの生徒から話しかけられるも、笑顔を崩さず対応していく。

それでも。
この時間すらも惜しく感じる。

ユーグは自分の素直な思いに突き動かされ、歩みを早めた。



会うのは3日ぶり。

けれど、不思議と" 久しぶり ”に感じた。




そしてようやくたどり着いた教室の扉を開けると。

目に飛び込んできたのは、壁によりかかり、うずくまる彼女の姿だった。

「アリセア!?…どうした……何かあったのか」


彼女の肩を、そっと添え、ひとまず近くの席に座らせる。


「あ………大丈夫です、ごめんなさい」

俯いていた彼女だったが、俺の声にハッと気が付き。
次いで、申し訳なさそうな表情になり、微笑んだ。

「今日は、実は図書館へ行こうとしてたんだが、行くのは辞めよう。無理させてしまったかな?」

彼女の前に膝をつき、そっと顔色を伺う。

シミひとつない透明感のある肌。

その頬に赤みはあるものの、貧血の時のような、ふらふらとした足取り。

乱れた髪を耳にかけて整えてやる。


「ごめん。脈を見る為に少し触れるね」


その彼女の手首をそっと触り触診をした。

脈は、そんなに早くないが、手足が冷たい。
魔力の、乱れはどうか…。
指の根元の魔道具である指輪で魔力測定をしようとした時。

「……違うの」
「え?」


意識がそちらに向けられる。




「少しだけ、記憶が戻ったの」


彼女がそっと、恥ずかしそうに横を向いた。



・・・・・・・・・


「そうか、図書館での限定的な記憶だけ、なんとなく思い出したんだね」
「はい、でも、なんだかまだ全体的にモヤがかかってるかのような感じで。ユーグ、あの日、私。倒れる前に誰かに話しかけられた気がするんです」
「誰かに?」
結局アリセアが回復した後、2人で図書館へ行ってみることにした。
3階にある、重厚な扉を開く。
中に入ると赤い絨毯が敷かれた円形のフロアがあり、図書館全体の壁には本がいっぱいに並べられていた。
フロアの両サイドから、それぞれ階段がかけられ、2階通路、1階の大広間へとぐるっとおりれるようになっている、巨大な吹き抜けがある図書館だ。
1階は本棚がたくさん並び、実習室も完備されていた。
図書館1階の真ん中には、巨大な丸い惑星儀があり、その周りをキラキラとした光の粒子が舞っていた。綺麗だ。


「おいで、1階へ行こう。危ないから手を繋ぐ」
「あっ」はい、と素直に言いそうになったが、蘇った記憶の私の一部が、すごく暴れているのが分かる。



ムズガユイ。



そんな感じの感情に一瞬で包まれた。
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