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⑫噴水広場
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天へ向かって女性が柔らかな表情で笑う白い銅像。
その銅像の後ろから吹き上がっている水しぶき。
いつもよりも激しい水量となって天へ向かい、重力によって空から降り注ぐ。
放課後に残っていた女生徒数名が、ずぶ濡れになってしまい、その騒ぎを聞きつけた教師たちも、庭に出てきていた。
「凄いことになってます」
「これは酷いね」
アリセア達は、その様子を見て唖然とする。
急いで医務室へと向かい、タオルを数枚借りてきて、女子生徒たちへと配った。
「これ、使ってください」
「殿下、アリセア様、ありがとうございます」
申し訳なさそうな顔の女子生徒達。
他の生徒とともに一旦寮の方に戻ると、お辞儀をして帰って行った。
教師たちは、あれからさらに2人増え、何やら話し合っているようだ。
「アレに何かあったのでは?」
「見てきます。ここをお願いします」
教師たちは、二手に別れる。
その様子を見ながら、ユーグに話しかけた。
「噴水が壊れた…と表現していいのでしょうか」
初代学園長が建てたと言われる銅像の噴水は、もう100年程経っているのに、未だに現役なのは修復を繰り返しながら、さらに魔法によって保存されているからだ。
「いや、あれは学園の地下にあるミクリヤ球が水量を制御してるはず」
ミクリヤ球とは、魔力が圧縮された魔力核だ。
膨大なエネルギーの塊と言えばわかりやすいだろうか。
魔法学園のあらゆる生活魔法、たとえば灯り、水道、調理用の火、そして、このような噴水システムにさえ、ミクリヤ球は使われていた。
「なら、そのミクリヤ球に、何かあった……?」
「そうだね」
殿下に言われ噴水を見てみると、残った先生方が、応急処置なのか、魔法力を注いでいた。
ミクリヤ球からでる魔力と、先生方の魔法力をぶつけ、干渉させ、水量を抑えようとしているところだった。
「ぐっ、強い……」
先生達でも苦戦しているなんて。
どうやら噴水からの魔力が通常以上に増幅されているようで、なかなか水の威力をおさえ込めれないらしい。
「どうしよう…」
このままでは一体が湖になる勢いだ。
「ミクリヤ球が、ただ誤作動を起こしてるってだけなら、無理やりとめなくても、もうそろそろ水量がおさまるはずだが」
ミクリヤ球を見に行った教師によって、誤作動を起こしてるだけなら、リセットして、再度水量の調整が出来るはずだと彼は言った。
「もう…5分か、10分か経ちましたが、水量が元に戻りませんね?」
しばらく待ってみたが、何も変わらない。
アリセアに不安な気持ちが湧き上がる。
「あっ!」
足元の大地は芝生一帯だが、ジワジワと大きな水溜まりのようになってきていた。
凄まじい水量と、跳ねた小さな水滴が空から落ちてきて、遠くにいてもうっすらと制服を、濡らしてきていた。
はっきりいって歩くだけで水滴が跳ね返り、靴がビシャビシャに濡れてしまうレベルである。
私がその事に焦り、戸惑っていたのをユーグに気づかれたのか。
「アリセア、少し待っていて。……仕方ない」
ユーグが小さく息を吐くと、おもむろに噴水に近づいていく。
「ユーグ!?濡れちゃいます」
突然の彼の行動に、アリセアは驚いた。
「大丈夫だよ、君は下がってて」
振り返り、ほのかに微笑する彼に、戸惑う気持ちの方が強かったが、私よりはるかにしっかりされている殿下のその言葉に、素直に従い留まった。
何をするんだろう、アリセアがそう思った時。
「私の魔法力も使ってください」
ユーグが、頭上でパチンと指を鳴らすと、一気に噴水全体が巨大な魔法で覆われた。
彼と私の制服のジャケットがパタパタとひるがえるほどの風が巻き起こる。
「わっ」
スカートも!
とっさに制服の裾と長い髪をおさえて、ユーグを見た。
「ごめん、風の精霊も我慢できずに出てきたみたいだ」
彼の困った表情に、その言葉に唖然とする。
彼の先程の力は膨大で、その威力によって風が巻き起こったかと思われたが、まさかの、一緒に風の精霊がでてきたせいだったとは。
以前、彼の従者ヤールが、ユーグは精霊に愛されていると言っていたけど、ここまで?
そして、王族としての魔力の量も並外れている。
周辺の木々も台風のように揺れて、とても驚いた。
いとも簡単に場をおさめてしまうなんて。
球体の中に水が溜まっていくも、圧縮されていくのか外には一切漏れてこない。
ユーグスト殿下と先生達のお陰で、すっかり噴水の暴走がおさまった。
もう、手を空に向けても、雨のような水滴は落ちてこない。
「シャボン玉みたいに綺麗な圧縮魔法、すごいですね」
「ありがとう、アリセアにそう言われると、照れるな」
ユーグの冷静で圧倒的な対応力に、私は尊敬の念を覚えた。
********
「アリセア、今は女子寮生活だよね」
「あ、はい」
私が学園に復帰するなら、両親もしばらくは王宮で面倒見てもらいなさいと言ってくれていたが、いつまでも甘えられないと思って、寮に戻っている。
それに、王宮からの通学だと少し時間がかかってしまうのだ。
でも、なんだかこんな騒ぎを見た後では、きっと自室に戻ってもなかなか気が休まらないだろうな。
それだけは想像にかたくなかった。
あれから私たちは図書館を施錠し、学園の寮へと向かって歩いていた。
もうすっかり辺りは暗くなり始め、街灯に灯りがともる。
おもむろに、ユーグが口を開いた。
「今日から、アリセア、君は私の部屋においで」
「はい!………………、っ、えっ?!」
驚く私は咄嗟に彼を見ようと見上げた瞬間。
自然にユーグの方に引き寄せられた。
「きゃあ」
これでは抱きしめられてるみたいである。
いえ、……その通りなのだけれど。
内心、慌てふためく私を、ユーグはそっと優しく抱きしめた。
「ユーグ??」
なんだか様子がおかしい。
一体どうしたのだろう。
「私の王族寮施設は君が過ごせる客間もあるし、護衛も配備しやすい」
「あ、はい」
唐突に、ユーグはそう、話を切り出した。
そうでした。
いつも私のそばで助けてくれる彼だけれども、ユーグストは王族で。
なので、普通の寮部屋とは違い、来賓客も招く事ができるように客間まで備わっているべつの施設があるらしい。
「もうアリセアに何もあって欲しくない。何より、君が心配なんだ」
切なげな、それでいて心配そうな瞳。
「ユーグ」
ユーグスト殿下は本当に心の底から私を案じ、心配してくれている。
その温かい気遣いに、アリセアの気持ちは徐々にほぐれていった。
今回の噴水の件だって、完全に自分と無関係だと言いきれない。
もしかしたら、ユーグはそう考えているのかもしれない。
「分かりました。よろしくお願いします」
自室で何かまたあったら、この人を悲しませてしまうかもしれない。
それなら、この方の近くにいた方が1番良いだろう。
「良かった」
安堵の声と共に、ぎゅっとさらに抱きしめられた。
「ユーグ、ありがとうございます」
アリセアは抱きしめられる行為がこんなに安心感をもたらせてくれるなんて思いもよらなかった。
それに…。
ユーグに、抱きしめられると、やはり心が踊る。
幸せだと、心から思えるのだ。
「アリセア…今度こそ守るから」
そう言われ、ユーグを見上げると、吸い込まれそうな程の蒼い綺麗な瞳が私を映し出していた。
とても、優しい方だな。
改めてアリセアはそう思った。
「ごめんね、つい触れてしまった。さ、帰ろうか」
私を真綿で包み込んでくれるように優しくて。
頼もしくて。
そんな婚約者に、守るからと言われて、ときめかない人がいるだろうか。
「はい」
頬が熱い。
どうにかバレませんようにと、アリセアは祈った。
ユーグが、私に手を差し伸べてくる。
「行こう」
ユーグの優しい声色に、私は知らず、微笑んでいた。
その銅像の後ろから吹き上がっている水しぶき。
いつもよりも激しい水量となって天へ向かい、重力によって空から降り注ぐ。
放課後に残っていた女生徒数名が、ずぶ濡れになってしまい、その騒ぎを聞きつけた教師たちも、庭に出てきていた。
「凄いことになってます」
「これは酷いね」
アリセア達は、その様子を見て唖然とする。
急いで医務室へと向かい、タオルを数枚借りてきて、女子生徒たちへと配った。
「これ、使ってください」
「殿下、アリセア様、ありがとうございます」
申し訳なさそうな顔の女子生徒達。
他の生徒とともに一旦寮の方に戻ると、お辞儀をして帰って行った。
教師たちは、あれからさらに2人増え、何やら話し合っているようだ。
「アレに何かあったのでは?」
「見てきます。ここをお願いします」
教師たちは、二手に別れる。
その様子を見ながら、ユーグに話しかけた。
「噴水が壊れた…と表現していいのでしょうか」
初代学園長が建てたと言われる銅像の噴水は、もう100年程経っているのに、未だに現役なのは修復を繰り返しながら、さらに魔法によって保存されているからだ。
「いや、あれは学園の地下にあるミクリヤ球が水量を制御してるはず」
ミクリヤ球とは、魔力が圧縮された魔力核だ。
膨大なエネルギーの塊と言えばわかりやすいだろうか。
魔法学園のあらゆる生活魔法、たとえば灯り、水道、調理用の火、そして、このような噴水システムにさえ、ミクリヤ球は使われていた。
「なら、そのミクリヤ球に、何かあった……?」
「そうだね」
殿下に言われ噴水を見てみると、残った先生方が、応急処置なのか、魔法力を注いでいた。
ミクリヤ球からでる魔力と、先生方の魔法力をぶつけ、干渉させ、水量を抑えようとしているところだった。
「ぐっ、強い……」
先生達でも苦戦しているなんて。
どうやら噴水からの魔力が通常以上に増幅されているようで、なかなか水の威力をおさえ込めれないらしい。
「どうしよう…」
このままでは一体が湖になる勢いだ。
「ミクリヤ球が、ただ誤作動を起こしてるってだけなら、無理やりとめなくても、もうそろそろ水量がおさまるはずだが」
ミクリヤ球を見に行った教師によって、誤作動を起こしてるだけなら、リセットして、再度水量の調整が出来るはずだと彼は言った。
「もう…5分か、10分か経ちましたが、水量が元に戻りませんね?」
しばらく待ってみたが、何も変わらない。
アリセアに不安な気持ちが湧き上がる。
「あっ!」
足元の大地は芝生一帯だが、ジワジワと大きな水溜まりのようになってきていた。
凄まじい水量と、跳ねた小さな水滴が空から落ちてきて、遠くにいてもうっすらと制服を、濡らしてきていた。
はっきりいって歩くだけで水滴が跳ね返り、靴がビシャビシャに濡れてしまうレベルである。
私がその事に焦り、戸惑っていたのをユーグに気づかれたのか。
「アリセア、少し待っていて。……仕方ない」
ユーグが小さく息を吐くと、おもむろに噴水に近づいていく。
「ユーグ!?濡れちゃいます」
突然の彼の行動に、アリセアは驚いた。
「大丈夫だよ、君は下がってて」
振り返り、ほのかに微笑する彼に、戸惑う気持ちの方が強かったが、私よりはるかにしっかりされている殿下のその言葉に、素直に従い留まった。
何をするんだろう、アリセアがそう思った時。
「私の魔法力も使ってください」
ユーグが、頭上でパチンと指を鳴らすと、一気に噴水全体が巨大な魔法で覆われた。
彼と私の制服のジャケットがパタパタとひるがえるほどの風が巻き起こる。
「わっ」
スカートも!
とっさに制服の裾と長い髪をおさえて、ユーグを見た。
「ごめん、風の精霊も我慢できずに出てきたみたいだ」
彼の困った表情に、その言葉に唖然とする。
彼の先程の力は膨大で、その威力によって風が巻き起こったかと思われたが、まさかの、一緒に風の精霊がでてきたせいだったとは。
以前、彼の従者ヤールが、ユーグは精霊に愛されていると言っていたけど、ここまで?
そして、王族としての魔力の量も並外れている。
周辺の木々も台風のように揺れて、とても驚いた。
いとも簡単に場をおさめてしまうなんて。
球体の中に水が溜まっていくも、圧縮されていくのか外には一切漏れてこない。
ユーグスト殿下と先生達のお陰で、すっかり噴水の暴走がおさまった。
もう、手を空に向けても、雨のような水滴は落ちてこない。
「シャボン玉みたいに綺麗な圧縮魔法、すごいですね」
「ありがとう、アリセアにそう言われると、照れるな」
ユーグの冷静で圧倒的な対応力に、私は尊敬の念を覚えた。
********
「アリセア、今は女子寮生活だよね」
「あ、はい」
私が学園に復帰するなら、両親もしばらくは王宮で面倒見てもらいなさいと言ってくれていたが、いつまでも甘えられないと思って、寮に戻っている。
それに、王宮からの通学だと少し時間がかかってしまうのだ。
でも、なんだかこんな騒ぎを見た後では、きっと自室に戻ってもなかなか気が休まらないだろうな。
それだけは想像にかたくなかった。
あれから私たちは図書館を施錠し、学園の寮へと向かって歩いていた。
もうすっかり辺りは暗くなり始め、街灯に灯りがともる。
おもむろに、ユーグが口を開いた。
「今日から、アリセア、君は私の部屋においで」
「はい!………………、っ、えっ?!」
驚く私は咄嗟に彼を見ようと見上げた瞬間。
自然にユーグの方に引き寄せられた。
「きゃあ」
これでは抱きしめられてるみたいである。
いえ、……その通りなのだけれど。
内心、慌てふためく私を、ユーグはそっと優しく抱きしめた。
「ユーグ??」
なんだか様子がおかしい。
一体どうしたのだろう。
「私の王族寮施設は君が過ごせる客間もあるし、護衛も配備しやすい」
「あ、はい」
唐突に、ユーグはそう、話を切り出した。
そうでした。
いつも私のそばで助けてくれる彼だけれども、ユーグストは王族で。
なので、普通の寮部屋とは違い、来賓客も招く事ができるように客間まで備わっているべつの施設があるらしい。
「もうアリセアに何もあって欲しくない。何より、君が心配なんだ」
切なげな、それでいて心配そうな瞳。
「ユーグ」
ユーグスト殿下は本当に心の底から私を案じ、心配してくれている。
その温かい気遣いに、アリセアの気持ちは徐々にほぐれていった。
今回の噴水の件だって、完全に自分と無関係だと言いきれない。
もしかしたら、ユーグはそう考えているのかもしれない。
「分かりました。よろしくお願いします」
自室で何かまたあったら、この人を悲しませてしまうかもしれない。
それなら、この方の近くにいた方が1番良いだろう。
「良かった」
安堵の声と共に、ぎゅっとさらに抱きしめられた。
「ユーグ、ありがとうございます」
アリセアは抱きしめられる行為がこんなに安心感をもたらせてくれるなんて思いもよらなかった。
それに…。
ユーグに、抱きしめられると、やはり心が踊る。
幸せだと、心から思えるのだ。
「アリセア…今度こそ守るから」
そう言われ、ユーグを見上げると、吸い込まれそうな程の蒼い綺麗な瞳が私を映し出していた。
とても、優しい方だな。
改めてアリセアはそう思った。
「ごめんね、つい触れてしまった。さ、帰ろうか」
私を真綿で包み込んでくれるように優しくて。
頼もしくて。
そんな婚約者に、守るからと言われて、ときめかない人がいるだろうか。
「はい」
頬が熱い。
どうにかバレませんようにと、アリセアは祈った。
ユーグが、私に手を差し伸べてくる。
「行こう」
ユーグの優しい声色に、私は知らず、微笑んでいた。
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