19 / 66
⑲こんなにドキドキするなんて聞いてない
しおりを挟む
アリセアの目覚めは、いつも窓からの光と、鳥のさえずりから始まる。
むくりとベッドから体を起こし、しばし、ぼーっとしてしまう。
朝は弱い。
それから、少ししてタライに水を張って、前髪をピンでとめ、長い髪もひとまとめにした。
朝の洗顔をする。
「ふぅ、今日もまた頑張ろ」
図書館で一部の記憶が戻ってから、1週間は経つ。
あの時、ユーグに魔力調整をしてもらった後、酷い眠気に襲われたが、1日寝ると、すっかりいつもと同じ体調に戻った。
けれど、無理をするなと彼に言われ、昨日まで学園生活を優先にしていたのだけど。
今日こそは色々な手がかりを見つけたい。
ふかふかのタオルで、顔を拭きながら決意をする。
「いつも思うけど、この化粧水良い香りだな」
化粧水と乳液、そして美容液を、肌に馴染ませていく。
最近はカサカサしていたから、今日から手足にもボディーローションを塗布しよう。
爽やかなシトラスの香りに、しばらく癒された。
それから一旦、白い寝巻きのワンピースから、制服に着替えて…鏡を見て、最後に寝癖をチェック。
これで、OK!
「……なんだけど、でも、何か足りない気がする。あ……そういえば!」
ベッドの傍に置いておいた、可愛らしいピンクの箱。
これは両親が装飾品よ、と言って届けてくれたのだけど……。
アリセアは、箱の蓋をそっと外し、中をのぞき込む。
そこには、白や茶色、赤など、色とりどりのリボンが入っていた。
あ、凝った細工の髪留めまである。
さらには、小さなミニ香水ボトルまで。
端には指輪やネックレスなどの装飾品が、コンパクトに詰め込まれていた。
「わ!可愛い……」
思わず、声が出てしまった。
数々の装飾品に、自分の心が踊るのが分かった。
これ、私のだよね?
素敵……。
「これなら、可愛いって、言って貰えるかな?」
アリセアは、茶色のリボンが気になり手に取り、以前の殿下とのことを思い返していた。
ポーションをくれたあの日、演習場の裏庭で、ユーグストと2人になった時。
彼に頭を触られたんだったよね。
……まだあの時の感触が残っている。
その時のことを思い出すだけで、夜も眠れない時があったが、今も思い出して、ドキドキしてくる。
あの時の彼は、本当に嬉しそうに目を細めて私に笑いかけてくれていて、また触れて欲しい。
アリセアは自然とそう思った。
「っ、……よし」
不純な動機にも思えるけど、今日は、思い切ってこのリボンをつけてみようかしら。私は小さく呟いた。
鏡の前で、どうにかヘアアレンジもして。
「あ、そうだ」
軽くメイクも忘れずに。
ユーグスト殿下が隣の部屋にいるとわかっているので、いつも以上に身だしなみには気を使っているつもりではあるけれど、今日のようにお洒落を意識するのは初めてだ。
今日は演習授業もなくて座学のみの日なので、リップもぬっていこうかしら。
つやつや。
うん、バッチリ。
ティッシュオフして、少し控えめになったかな。
そして…………。
殿下の部屋に繋がる茶色の扉を、アリセアは意を決してコンコンとノックをする。
「おはようございます」
いつも、ノックするのに勇気がいるのだけど。
今日はさらに緊張して恥ずかしい。
「開けて大丈夫だよ」
優しい声が返ってきて、アリセアはキイッと鳴る扉を、思い切って最後まで開け放つ。
アリセアの視界に飛び込んできたのは、朝の光を背に、爽やかな笑みを浮かべるユーグスト殿下だった。
金色の髪もまつ毛も朝日に照らされて輝き、ジャケットを整え、ネクタイをきゅっと締めている姿は、まさに神々しい。
一度だけ、寝る前に偶然。
風呂上がりのユーグ殿下を見てしまったことがある。
あのときの殿下は、色気が凄くて、直視できなかった。
本当に私なんかが隣にいていいのだろうかと、不安が胸の奥から湧き上がったのを、覚えている。
お互いの生活リズムを掴み、そういう場面に出くわすことはなくなったけれど、今もときめきを感じて胸が苦しくなる事が多い。
「アリセアおはよう、あれ?今日は髪にリボンつけたんだね、可愛い」
眩しそうに目を細めながら、優しくこちらを見つめてくれる。
「あ。ありがとうございます。おはようございます、ユーグ。ユーグも……かっこいい、です」
気がついてくれた!
先程のリボンで、両サイドの髪の毛の一部を三つ編みにして、それぞれのトップにリボンをつけてみたのだ。
少し子供っぽいかなと思ったが、案外私に似合っている。
割と童顔の部類なのかな?
ユーグのソツのない褒め言葉に、アリセアの心はときめく。
「自分でしたんだよね?凄くいいね」
「そうなんです。意外とこういう事をするのに苦労もなく。おそらく以前も何度か自分の髪を結ったことがあったのかもしれませんね」
「そうなんだね、アリセアは私の前ではそのような姿みせてくれなかったから」
なんだか元気がなくなったユーグを見て、私は慌てて弁明をした。
「あの、多分恥ずかしかったんだと思います。私も、今かなりドキドキしてるので」
「え?」
ユーグからの視線に、アリセアはたえられず下を向く。
「えと、だって、私なら、お洒落するって、誰かに見てもらいたいっていう気持ちから始まるから。以前の私は、まるで告白みたいに感じちゃって、……恥ずかしかったのかもしれません」
お洒落して可愛いって思って欲しい、触れて欲しいと思うとき、いつもユーグストが一番に思い起こされる。
アリセアは、そこまで言ったあと、突然、"ソレ”に気がついた。
どんどん顔が熱くなる。
あれ?これって。
墓穴を掘っただろうか。
まるで、貴方が好きだからお洒落しました
って聞こえる?
え?!ど。どうしよう。
アリセアのその言葉に、ユーグストは一瞬、時間がとまったかのように、呆然とこちらを見つめた。
しかし、段々と笑顔になり。
「アリセア……。誰に1番見て欲しいと思った?」
なんて聞いてくる始末で。
「!……っ……意地悪ですね」
過ごしてみていくつかわかった事。
ユーグは、存外人が悪い。
ってことだった。
むくりとベッドから体を起こし、しばし、ぼーっとしてしまう。
朝は弱い。
それから、少ししてタライに水を張って、前髪をピンでとめ、長い髪もひとまとめにした。
朝の洗顔をする。
「ふぅ、今日もまた頑張ろ」
図書館で一部の記憶が戻ってから、1週間は経つ。
あの時、ユーグに魔力調整をしてもらった後、酷い眠気に襲われたが、1日寝ると、すっかりいつもと同じ体調に戻った。
けれど、無理をするなと彼に言われ、昨日まで学園生活を優先にしていたのだけど。
今日こそは色々な手がかりを見つけたい。
ふかふかのタオルで、顔を拭きながら決意をする。
「いつも思うけど、この化粧水良い香りだな」
化粧水と乳液、そして美容液を、肌に馴染ませていく。
最近はカサカサしていたから、今日から手足にもボディーローションを塗布しよう。
爽やかなシトラスの香りに、しばらく癒された。
それから一旦、白い寝巻きのワンピースから、制服に着替えて…鏡を見て、最後に寝癖をチェック。
これで、OK!
「……なんだけど、でも、何か足りない気がする。あ……そういえば!」
ベッドの傍に置いておいた、可愛らしいピンクの箱。
これは両親が装飾品よ、と言って届けてくれたのだけど……。
アリセアは、箱の蓋をそっと外し、中をのぞき込む。
そこには、白や茶色、赤など、色とりどりのリボンが入っていた。
あ、凝った細工の髪留めまである。
さらには、小さなミニ香水ボトルまで。
端には指輪やネックレスなどの装飾品が、コンパクトに詰め込まれていた。
「わ!可愛い……」
思わず、声が出てしまった。
数々の装飾品に、自分の心が踊るのが分かった。
これ、私のだよね?
素敵……。
「これなら、可愛いって、言って貰えるかな?」
アリセアは、茶色のリボンが気になり手に取り、以前の殿下とのことを思い返していた。
ポーションをくれたあの日、演習場の裏庭で、ユーグストと2人になった時。
彼に頭を触られたんだったよね。
……まだあの時の感触が残っている。
その時のことを思い出すだけで、夜も眠れない時があったが、今も思い出して、ドキドキしてくる。
あの時の彼は、本当に嬉しそうに目を細めて私に笑いかけてくれていて、また触れて欲しい。
アリセアは自然とそう思った。
「っ、……よし」
不純な動機にも思えるけど、今日は、思い切ってこのリボンをつけてみようかしら。私は小さく呟いた。
鏡の前で、どうにかヘアアレンジもして。
「あ、そうだ」
軽くメイクも忘れずに。
ユーグスト殿下が隣の部屋にいるとわかっているので、いつも以上に身だしなみには気を使っているつもりではあるけれど、今日のようにお洒落を意識するのは初めてだ。
今日は演習授業もなくて座学のみの日なので、リップもぬっていこうかしら。
つやつや。
うん、バッチリ。
ティッシュオフして、少し控えめになったかな。
そして…………。
殿下の部屋に繋がる茶色の扉を、アリセアは意を決してコンコンとノックをする。
「おはようございます」
いつも、ノックするのに勇気がいるのだけど。
今日はさらに緊張して恥ずかしい。
「開けて大丈夫だよ」
優しい声が返ってきて、アリセアはキイッと鳴る扉を、思い切って最後まで開け放つ。
アリセアの視界に飛び込んできたのは、朝の光を背に、爽やかな笑みを浮かべるユーグスト殿下だった。
金色の髪もまつ毛も朝日に照らされて輝き、ジャケットを整え、ネクタイをきゅっと締めている姿は、まさに神々しい。
一度だけ、寝る前に偶然。
風呂上がりのユーグ殿下を見てしまったことがある。
あのときの殿下は、色気が凄くて、直視できなかった。
本当に私なんかが隣にいていいのだろうかと、不安が胸の奥から湧き上がったのを、覚えている。
お互いの生活リズムを掴み、そういう場面に出くわすことはなくなったけれど、今もときめきを感じて胸が苦しくなる事が多い。
「アリセアおはよう、あれ?今日は髪にリボンつけたんだね、可愛い」
眩しそうに目を細めながら、優しくこちらを見つめてくれる。
「あ。ありがとうございます。おはようございます、ユーグ。ユーグも……かっこいい、です」
気がついてくれた!
先程のリボンで、両サイドの髪の毛の一部を三つ編みにして、それぞれのトップにリボンをつけてみたのだ。
少し子供っぽいかなと思ったが、案外私に似合っている。
割と童顔の部類なのかな?
ユーグのソツのない褒め言葉に、アリセアの心はときめく。
「自分でしたんだよね?凄くいいね」
「そうなんです。意外とこういう事をするのに苦労もなく。おそらく以前も何度か自分の髪を結ったことがあったのかもしれませんね」
「そうなんだね、アリセアは私の前ではそのような姿みせてくれなかったから」
なんだか元気がなくなったユーグを見て、私は慌てて弁明をした。
「あの、多分恥ずかしかったんだと思います。私も、今かなりドキドキしてるので」
「え?」
ユーグからの視線に、アリセアはたえられず下を向く。
「えと、だって、私なら、お洒落するって、誰かに見てもらいたいっていう気持ちから始まるから。以前の私は、まるで告白みたいに感じちゃって、……恥ずかしかったのかもしれません」
お洒落して可愛いって思って欲しい、触れて欲しいと思うとき、いつもユーグストが一番に思い起こされる。
アリセアは、そこまで言ったあと、突然、"ソレ”に気がついた。
どんどん顔が熱くなる。
あれ?これって。
墓穴を掘っただろうか。
まるで、貴方が好きだからお洒落しました
って聞こえる?
え?!ど。どうしよう。
アリセアのその言葉に、ユーグストは一瞬、時間がとまったかのように、呆然とこちらを見つめた。
しかし、段々と笑顔になり。
「アリセア……。誰に1番見て欲しいと思った?」
なんて聞いてくる始末で。
「!……っ……意地悪ですね」
過ごしてみていくつかわかった事。
ユーグは、存外人が悪い。
ってことだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
秘密の館の主に囚われて 〜彼は姉の婚約者〜
七転び八起き
恋愛
伯爵令嬢のユミリアと、姉の婚約者の公爵令息カリウスの禁断のラブロマンス。
主人公のユミリアは、友人のソフィアと行った秘密の夜会で、姉の婚約者のカウリスと再会する。
カウリスの秘密を知ったユミリアは、だんだんと彼に日常を侵食され始める。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる