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㉞貴方の深い気持ちが伝わってくる
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「っ、でも…………ダメなの……」
私に何が起こってこうなったのかはっきりしない。
ただの体調不良で結果的にこうなってしまったと思いたかったけれど。
私の中にある別の魔力の存在。
そして、突然現れた魔法陣。
私に魔力をあげると言った誰かの存在ーー。
当初より、状況的になにかが起こっていることは確かとなってしまっていた。
「巻き込むことは……どうしても」
フォートを、……一般市民を巻き込むことは出来ない。
これは、皇太后からの話でも、あった。
ー他者を巻き込まないように。政敵手に情報が伝わるとリスクになるー
それなのに、フォートの優しい言葉に、
アリセアは、彼の気持ちが嬉しくて……
心がじんわりと温かくなった。
彼の言葉は、不安な日々に灯った、小さな光だった。
でも。
「ありがとう、フォート。その気持ちだけで、私は嬉しいから」
思うだけでは相手に伝わらない。
素直に、今の気持ちを真っ直ぐに、彼に伝えなくては。
でもその直後、気づいてしまった。
「あっ……こんなこと言ったら。また、……貴方に違和感を与えてしまうのかな。」
気持ちを伝えるのが苦手だった、以前の私。
それを指摘してきたフォートに、また同じことを……。
「ごめんねフォート……その事で、貴方を……いっぱい傷つけてるわよね」
せっかく彼が手を差し伸べてくれているのに、
その想いを、踏みにじってしまっているのではないかと、不安になる。
「でも、違うの。頼りにしてないとかじゃなくて……」
――ちゃんと伝えたい。誤解されたくない。
「貴方には、誤解されたくない。……そんなふうに思われたくないの」
アリセアは目を伏せ、唇が震えながらも、なんとか今の気持ちを言葉にして紡ぐ。
「アリセア……」
「ごめんね、フォート」
「……いや。俺こそ……悪かった。どんなアリセアでも、君は君なのに、あんなこと言って……ごめん」
フォートは苦く笑う。
「……私も…」
アリセアは、間を置いて、話し出す。
「え?」
「私も……この前の医務室で、フォートが急に知らない人に見えた。
だけど……私がどんなに知らない貴方も、
きっと、フォートはフォート、だよね」
泣き笑いのような顔を、フォートに向けてしまっているかもしれない。
自分でも、今の気持ちが上手く表現出来ないけれど。
彼の深い気持ちを、感じることは確かだ。
変わってしまった私に気が付きながらも、助けようとしてくれる。
そんな彼の本質を見た気がして。
私は、そんなフォートにこそ、何かあったら駆けつけてあげたいーーそう自然と思えた。
「アリセア………」
フォートは虚をつかれたかのような顔になり、次第に、彼もまた、泣き笑いのような表情になった。
「いつか……アリセアが思い出してくれたら……」
そう言って彼は私に手を伸ばしてきた。
「え?……」
けれど、頬に触れる寸前で。
「いや、
……なんでもない」
ふいっと顔を逸らし、フォートは悲しそうに笑った。
彼はその手を降ろす代わりに拳を握る。
「フォート?……」
何を、……振り切ったのだろう。
なにか大切なものを見落としている気がして。
不安が広がっていく。
彼は1度目を瞑り、長く、ながく、息を吐いた。
まるで、気持ちの整理をしているように。
「アリセアが、今は何も言わないのなら、俺も勝手にする」
だけど、次の瞬間にはいつもの彼に戻っていて。
そう言って、不敵な笑みを見せてくれた。
「勝手にって……どういう……」
私の戸惑いにも、彼は何処吹く風で。
「さぁてね?俺には俺のやり方があるから、……アリセアの事、任せなよ」
「フォート」
彼とまだ話がしたくて、咄嗟に手を伸ばそうとするも、あと一歩のところで迷ってしまった。
けれど。
去ろうとしたフォート自身が、急に立ち止まりーー。
……振り返る。
「アリセア……あの時、俺が唇に触れた件な」
「唇……?」
一瞬の間を置いて。
彼の言葉に、記憶がぶわっと蘇り、
顔が一気に熱くなる。
早朝の校舎内で触れられた……
彼の指が唇に触れた感触ーー。
「……アリセア。
あの時、アリセアに触れて
魔力の“鑑定”をしようとしたつもりだった。
あれ……本当に、それだけだったか。
俺、自信ないんだ」
「え!?……どういう」
「……またあとで。じゃあな、アリセア」
その瞬間、パキンッーーと音を立てて静影結界が砕けていく。
粒子がキラキラと氷の粒のように輝いて、綺麗で、切なくて……。
驚きで声が詰まる私に、フォートは笑いながら今度こそ背を向けて歩き去っていった。
意味がわからない。
でも、
わだかまりが、なんだか少しだけ溶けた気がして。
フォートと少しでも話せて、よかった。
そう、思えた。
私の勇気が足りなくて、今回もフォートからの歩みによって。
だけど。
『ちゃんとお前の意思?』
そのフォートの言葉が、胸の奥にじわりと残っていた。
私は、心の中でそっと一歩を踏み出す。
ユーグへの想いに向き合う、……その第一歩。
ユーグに触れて欲しい。
彼の瞳を見つめるたびに、胸がドキドキする。
……あの夜から、彼の指先が私の髪をすくった温もりが、ふとした瞬間に思い出されて。
……心が覚えている。
その気持ちは、本物だと思う。
けれど。
それが"恋"とか、"愛”とか、
呼べるほど確かなものか、自信が持てない。
私は、ユーグと同じくらい強く彼を想えているのかな。
彼が私を包む腕に、私は同じ重さの想いを返せているのかな?って。
……そんなことを考えると、好きだと伝えるのが怖くなってしまう。
今の私は、記憶をなくした仮の私。
だからこそ、今抱いているこの感情が、"本物"だと信じてしまっていいのか、不安で仕方がない。
もしも記憶を取り戻して―― "本当の私"が、彼を好きじゃなかったとしたら?
もしも、「やっぱり違った」なんて思ってしまったら?
……そんなの、あまりにも酷すぎる。
今、好きだと伝えてしまえば、きっとユーグは、私の言葉を信じてくれる。
でも、それが間違いだった時…… 一番傷つくのは、彼だ。
私は……ユーグスト殿下を、絶対に深く傷つけたくない。
彼のあたたかな眼差しを、曇らせたくないんだ。
だから、怖い。
だからこそ、言えない。
それでも、彼の隣にいたいと思ってしまう私は、なんてずるいのだろう。
フォートには……そんな心の揺れを、見透かされていたのかもしれない。
私に何が起こってこうなったのかはっきりしない。
ただの体調不良で結果的にこうなってしまったと思いたかったけれど。
私の中にある別の魔力の存在。
そして、突然現れた魔法陣。
私に魔力をあげると言った誰かの存在ーー。
当初より、状況的になにかが起こっていることは確かとなってしまっていた。
「巻き込むことは……どうしても」
フォートを、……一般市民を巻き込むことは出来ない。
これは、皇太后からの話でも、あった。
ー他者を巻き込まないように。政敵手に情報が伝わるとリスクになるー
それなのに、フォートの優しい言葉に、
アリセアは、彼の気持ちが嬉しくて……
心がじんわりと温かくなった。
彼の言葉は、不安な日々に灯った、小さな光だった。
でも。
「ありがとう、フォート。その気持ちだけで、私は嬉しいから」
思うだけでは相手に伝わらない。
素直に、今の気持ちを真っ直ぐに、彼に伝えなくては。
でもその直後、気づいてしまった。
「あっ……こんなこと言ったら。また、……貴方に違和感を与えてしまうのかな。」
気持ちを伝えるのが苦手だった、以前の私。
それを指摘してきたフォートに、また同じことを……。
「ごめんねフォート……その事で、貴方を……いっぱい傷つけてるわよね」
せっかく彼が手を差し伸べてくれているのに、
その想いを、踏みにじってしまっているのではないかと、不安になる。
「でも、違うの。頼りにしてないとかじゃなくて……」
――ちゃんと伝えたい。誤解されたくない。
「貴方には、誤解されたくない。……そんなふうに思われたくないの」
アリセアは目を伏せ、唇が震えながらも、なんとか今の気持ちを言葉にして紡ぐ。
「アリセア……」
「ごめんね、フォート」
「……いや。俺こそ……悪かった。どんなアリセアでも、君は君なのに、あんなこと言って……ごめん」
フォートは苦く笑う。
「……私も…」
アリセアは、間を置いて、話し出す。
「え?」
「私も……この前の医務室で、フォートが急に知らない人に見えた。
だけど……私がどんなに知らない貴方も、
きっと、フォートはフォート、だよね」
泣き笑いのような顔を、フォートに向けてしまっているかもしれない。
自分でも、今の気持ちが上手く表現出来ないけれど。
彼の深い気持ちを、感じることは確かだ。
変わってしまった私に気が付きながらも、助けようとしてくれる。
そんな彼の本質を見た気がして。
私は、そんなフォートにこそ、何かあったら駆けつけてあげたいーーそう自然と思えた。
「アリセア………」
フォートは虚をつかれたかのような顔になり、次第に、彼もまた、泣き笑いのような表情になった。
「いつか……アリセアが思い出してくれたら……」
そう言って彼は私に手を伸ばしてきた。
「え?……」
けれど、頬に触れる寸前で。
「いや、
……なんでもない」
ふいっと顔を逸らし、フォートは悲しそうに笑った。
彼はその手を降ろす代わりに拳を握る。
「フォート?……」
何を、……振り切ったのだろう。
なにか大切なものを見落としている気がして。
不安が広がっていく。
彼は1度目を瞑り、長く、ながく、息を吐いた。
まるで、気持ちの整理をしているように。
「アリセアが、今は何も言わないのなら、俺も勝手にする」
だけど、次の瞬間にはいつもの彼に戻っていて。
そう言って、不敵な笑みを見せてくれた。
「勝手にって……どういう……」
私の戸惑いにも、彼は何処吹く風で。
「さぁてね?俺には俺のやり方があるから、……アリセアの事、任せなよ」
「フォート」
彼とまだ話がしたくて、咄嗟に手を伸ばそうとするも、あと一歩のところで迷ってしまった。
けれど。
去ろうとしたフォート自身が、急に立ち止まりーー。
……振り返る。
「アリセア……あの時、俺が唇に触れた件な」
「唇……?」
一瞬の間を置いて。
彼の言葉に、記憶がぶわっと蘇り、
顔が一気に熱くなる。
早朝の校舎内で触れられた……
彼の指が唇に触れた感触ーー。
「……アリセア。
あの時、アリセアに触れて
魔力の“鑑定”をしようとしたつもりだった。
あれ……本当に、それだけだったか。
俺、自信ないんだ」
「え!?……どういう」
「……またあとで。じゃあな、アリセア」
その瞬間、パキンッーーと音を立てて静影結界が砕けていく。
粒子がキラキラと氷の粒のように輝いて、綺麗で、切なくて……。
驚きで声が詰まる私に、フォートは笑いながら今度こそ背を向けて歩き去っていった。
意味がわからない。
でも、
わだかまりが、なんだか少しだけ溶けた気がして。
フォートと少しでも話せて、よかった。
そう、思えた。
私の勇気が足りなくて、今回もフォートからの歩みによって。
だけど。
『ちゃんとお前の意思?』
そのフォートの言葉が、胸の奥にじわりと残っていた。
私は、心の中でそっと一歩を踏み出す。
ユーグへの想いに向き合う、……その第一歩。
ユーグに触れて欲しい。
彼の瞳を見つめるたびに、胸がドキドキする。
……あの夜から、彼の指先が私の髪をすくった温もりが、ふとした瞬間に思い出されて。
……心が覚えている。
その気持ちは、本物だと思う。
けれど。
それが"恋"とか、"愛”とか、
呼べるほど確かなものか、自信が持てない。
私は、ユーグと同じくらい強く彼を想えているのかな。
彼が私を包む腕に、私は同じ重さの想いを返せているのかな?って。
……そんなことを考えると、好きだと伝えるのが怖くなってしまう。
今の私は、記憶をなくした仮の私。
だからこそ、今抱いているこの感情が、"本物"だと信じてしまっていいのか、不安で仕方がない。
もしも記憶を取り戻して―― "本当の私"が、彼を好きじゃなかったとしたら?
もしも、「やっぱり違った」なんて思ってしまったら?
……そんなの、あまりにも酷すぎる。
今、好きだと伝えてしまえば、きっとユーグは、私の言葉を信じてくれる。
でも、それが間違いだった時…… 一番傷つくのは、彼だ。
私は……ユーグスト殿下を、絶対に深く傷つけたくない。
彼のあたたかな眼差しを、曇らせたくないんだ。
だから、怖い。
だからこそ、言えない。
それでも、彼の隣にいたいと思ってしまう私は、なんてずるいのだろう。
フォートには……そんな心の揺れを、見透かされていたのかもしれない。
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