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1 聖女開眼
30 男爵夫人との和解
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そこには、あの美しい人がいた。
黒髪を後ろにひっつめ、薄紫のデイドレスを着ている。
髪には銀にアメジストの入った櫛をさしている。地味だが、品が良く、彼女の美しさを引き立てていた。
でも、相変わらず、寂しい。
「おかけなさいな」
男爵夫人は椅子を指差すと、私に座るように促した。
「少し話がしたかったのよ。」
寂しげに微笑みながら、紅茶をティーカップに注いでくれる。
「どうぞ」紅茶を私の前に置くと、じっと私のことを見つめた。
「ありがとうございます」ありがたく少しだけ口に含む。
少しだけ優しい味がした。
「あなたを殴らせたこと、謝りたかったの。もちろん謝って済むことではないけれど、申し訳なかったと思っているわ。怪我はもう、大丈夫?」
「奥様‥‥‥!」デボラが口を挟もうとしたが、男爵夫人が目と手でそれを制した。
「デボラのしたことは全て私の責任です。申し訳ありませんでした。」
男爵夫人は頭を下げた。
その時、この人から何かが流れ始めた。
なんだろう、これ?後悔が薄れた?よくわからない。でもそんな気もする。
でも、こんな子供に頭を下げる、しかも私生児に男爵夫人が?
もしかして、この人は決して悪い人ではないのかもしれない。
何か、どこかで間違ってしまっただけなのかもしれない。
そう、思った。
「頭を上げてください。もう大丈夫です。怪我も治りました。恨みで人生を無駄にしたくありません。奥様に謝っていただいたことで、私の気も晴れました。そう、納得することにしました。」
「ありがとう」男爵夫人は微かに微笑んだ。
「私は、男爵様のお子を授かることはできなかった。その事実からあなたを妬んでしまっていたのかもしれないわ。でも、それはあなたには関係のないこと。私の問題だったのです。本当にごめんなさいね。」
え、そうなの?じゃあセオドアは?養子?少なくともこの夫人の子ではないということ?
流石にここで口を挟んで質問することまではできないが。
「もう大丈夫です!」
私は笑って見せた。
恨むより、和解した方がいい。
そのほうが、絶対に自分の心も楽になれる。
「そう、良かった。」男爵夫人が微笑んだ。
安心したような気持ちが伝わってくる。
きっと、自分の非を認めることで前を向くことができたんだろう。
それは、この人にとって素晴らしいことだ。
「良ければこれからは夕食の席にもいらっしゃい。もちろんあなたが来たい時だけで良いのよ。」
そう言ってくれた。この人の本来持っていたはずの優しい気持ちが少しずつ流れ込んでくる。
「はい‥‥‥わかりました。その時になれば‥‥‥」
歯切れは悪いが返事をしておく。
なんとなく、緩やかな時間が流れ始め、最初に感じていた気まずさが薄れていった。
特別でもなんでもない会話を重ねていく。
少しずつお互いに打ち解け始めていくのを感じていた。
こうして、何気ない時間を重ねて家族になっていくのかもしれない。
「これからはステラ、と呼んでも良いかしら?」
男爵夫人がいたずらっぽく笑って言った。
「私のことは、ヴィーと呼んでくださらない?同じ家の中でいがみ合うのはもう嫌。仲良くしてくれると嬉しいわ」
「ヴィー様?」
「そう、私の名前はヴァイオレットというの。少し長いでしょ?だから、ヴィーと。」
「ヴィー様が、それで良ければ、喜んで。」
「できれば、外向けにはお母様として扱ってくれると助かるけどね。もちろん、嫌でなければ。あなたのお母様はあなたの胸の中にいらっしゃるでしょう?なので無理しなくて良いわ。」
ヴィー様の紫色の瞳が優しく輝く。
その思いやりに、胸が温かくなり、私もにっこり微笑んだ。
「ヴィー様、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
心から素直に、そう返すことができた。
部屋を退出するときに、ドアから出ると、デボラから話しかけられた。
「ステラお嬢様。殴ったりして大変申し訳ありませんでした。」
そういって深々と頭を下げると、すぐに部屋に戻ってしまった。
驚いてしまい、何も返すことができなかったが、どうやらあの主従の心の中には何か変化があったようだ。
それは、私にとっても2人にとっても悪いものではなかったらしい。
もう、殴られなくても済みそうだ。
正直、ホッとした。やっぱり殴られるのは、辛いもん。良かった。
黒髪を後ろにひっつめ、薄紫のデイドレスを着ている。
髪には銀にアメジストの入った櫛をさしている。地味だが、品が良く、彼女の美しさを引き立てていた。
でも、相変わらず、寂しい。
「おかけなさいな」
男爵夫人は椅子を指差すと、私に座るように促した。
「少し話がしたかったのよ。」
寂しげに微笑みながら、紅茶をティーカップに注いでくれる。
「どうぞ」紅茶を私の前に置くと、じっと私のことを見つめた。
「ありがとうございます」ありがたく少しだけ口に含む。
少しだけ優しい味がした。
「あなたを殴らせたこと、謝りたかったの。もちろん謝って済むことではないけれど、申し訳なかったと思っているわ。怪我はもう、大丈夫?」
「奥様‥‥‥!」デボラが口を挟もうとしたが、男爵夫人が目と手でそれを制した。
「デボラのしたことは全て私の責任です。申し訳ありませんでした。」
男爵夫人は頭を下げた。
その時、この人から何かが流れ始めた。
なんだろう、これ?後悔が薄れた?よくわからない。でもそんな気もする。
でも、こんな子供に頭を下げる、しかも私生児に男爵夫人が?
もしかして、この人は決して悪い人ではないのかもしれない。
何か、どこかで間違ってしまっただけなのかもしれない。
そう、思った。
「頭を上げてください。もう大丈夫です。怪我も治りました。恨みで人生を無駄にしたくありません。奥様に謝っていただいたことで、私の気も晴れました。そう、納得することにしました。」
「ありがとう」男爵夫人は微かに微笑んだ。
「私は、男爵様のお子を授かることはできなかった。その事実からあなたを妬んでしまっていたのかもしれないわ。でも、それはあなたには関係のないこと。私の問題だったのです。本当にごめんなさいね。」
え、そうなの?じゃあセオドアは?養子?少なくともこの夫人の子ではないということ?
流石にここで口を挟んで質問することまではできないが。
「もう大丈夫です!」
私は笑って見せた。
恨むより、和解した方がいい。
そのほうが、絶対に自分の心も楽になれる。
「そう、良かった。」男爵夫人が微笑んだ。
安心したような気持ちが伝わってくる。
きっと、自分の非を認めることで前を向くことができたんだろう。
それは、この人にとって素晴らしいことだ。
「良ければこれからは夕食の席にもいらっしゃい。もちろんあなたが来たい時だけで良いのよ。」
そう言ってくれた。この人の本来持っていたはずの優しい気持ちが少しずつ流れ込んでくる。
「はい‥‥‥わかりました。その時になれば‥‥‥」
歯切れは悪いが返事をしておく。
なんとなく、緩やかな時間が流れ始め、最初に感じていた気まずさが薄れていった。
特別でもなんでもない会話を重ねていく。
少しずつお互いに打ち解け始めていくのを感じていた。
こうして、何気ない時間を重ねて家族になっていくのかもしれない。
「これからはステラ、と呼んでも良いかしら?」
男爵夫人がいたずらっぽく笑って言った。
「私のことは、ヴィーと呼んでくださらない?同じ家の中でいがみ合うのはもう嫌。仲良くしてくれると嬉しいわ」
「ヴィー様?」
「そう、私の名前はヴァイオレットというの。少し長いでしょ?だから、ヴィーと。」
「ヴィー様が、それで良ければ、喜んで。」
「できれば、外向けにはお母様として扱ってくれると助かるけどね。もちろん、嫌でなければ。あなたのお母様はあなたの胸の中にいらっしゃるでしょう?なので無理しなくて良いわ。」
ヴィー様の紫色の瞳が優しく輝く。
その思いやりに、胸が温かくなり、私もにっこり微笑んだ。
「ヴィー様、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
心から素直に、そう返すことができた。
部屋を退出するときに、ドアから出ると、デボラから話しかけられた。
「ステラお嬢様。殴ったりして大変申し訳ありませんでした。」
そういって深々と頭を下げると、すぐに部屋に戻ってしまった。
驚いてしまい、何も返すことができなかったが、どうやらあの主従の心の中には何か変化があったようだ。
それは、私にとっても2人にとっても悪いものではなかったらしい。
もう、殴られなくても済みそうだ。
正直、ホッとした。やっぱり殴られるのは、辛いもん。良かった。
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