そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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2 学園編

53 タチアナの挑戦 【伯爵令嬢 タチアナ・グラン】

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噂が学園を野火のように駆け巡った翌日。
王太子ハルヴァートの元婚約者候補こと伯爵令嬢タチアナ・グランは、ハルヴァートが登校したと聞くとその後ろを付け回していた。
何とか話すチャンスはないものか。

朝から休み時間のたびにうろつくが、そう簡単には近づけない。
ハルヴァートの周りは、いつも側近たちが固めている。
でも必ずそのチャンスはあるはず!

諦めずその次の日もうろちょろしていると、意外と早くそのチャンスは訪れた。
ハルヴァートが少し一人にしてくれと人払いしたのだ。
今しかない!勇気を出して!

「ハ、ハルヴァート様!」

声が裏返った。
タチアナは幼馴染として、ハルヴァートの名前を呼ぶことを許されている数少ない存在だった。

ハルヴァートは振り返り、その氷のような瞳でタチアナを捉えた。

「タチアナか。久しいな。どうした。」

ハルヴァートが静かに口を開く。そう言えば、口をきくのは何年振りだろう?
幼い頃、母たちのお茶会で、子ども同士で遊んでらっしゃいと、この機械のような王太子の相手を押し付けられて以来かもしれない。

「じ、実は、お願いがありまして‥‥‥」

タチアナは気を失いそうになりながらも、懸命に自分を奮い立たせた。
が、頑張るのだ。私。ビームでも出そうな視線だが、あの視線で死んだ人はいない・・・と思う。多分。

「ふむ」
ハルヴァートは幼馴染のあまりの緊張ぶりに気づいたのか、遠巻きに見守っていた学友たちに手を振り、人払いした。少しだけ、ほっとする。

「で、どうした」
「あ、あのですね、殿下。私は、殿下の幼馴染として、その可能性が全くないことを分かっておりながら、婚約者候補としてお付き合いをしてまいりました。これも全て殿下の御為・・・」

「で、言いたいことはなんだ」
ハルヴァートはちらりと時計を見た。
彼の時間は貴重だ。うかうかしていたら公務の時間になってしまうかもしれない。
でもこうして時間を割いてくれるのだから、全く見込みがないわけではないだろう。

「ぜひ!褒美を頂きたく!私めの婚約者候補としての3年間への褒美を頂きたく!」
「ふむ。褒美とはなんだ」

怒られなかった!しかも聞いてくれるらしい!
張れ、私。タチアナは自分を鼓舞した。ここを頑張らなければ道は開かれないのだ。

「ぜひ!この学園の図書館の閉架書庫への立ち入りを許可願います!!」
「は?」
「ですから、閉架書庫への立ち入りを‥‥‥」
「そんなことなら、いつでも許可するように言っておこう。他にはないのか。」

え、もっと言ってもいいんですか?
じゃあ、ここは少し図々しいかもしれませんが・・・

「よろしければ、閉架書庫の本を貸して欲しいです。できれば、3週間とか・・・もちろん、あのお許しがいただける範囲で結構ですので・・・」
「許可しよう」

は?もしかして、この人天使?
ハルヴァート様っていい人だったの?
機械とか言ってごめんなさい。

「そんなものでいいのか。早く言えばいいものを。他になければもう行くが。」
「あ、あのあと一つだけ!!」

せ、せめて、言ってもいいなら言ってしまおう!言うだけタダ!

「できれば、この学園にいる間だけでも、私に新しい婚約者をあてがわないように両親に話してはいただけないでしょうか」
「ふむ。それは難しいな。お前の結婚に関することは親が決める権利を持っているだろう?私の個人資産の範囲で何とかなることなら協力してやってもいいが。確かにお前が3年間、婚約者候補の一人として立ってくれたおかげで、面倒が避けられた部分もあるしな」

(ああ、そっか。そうだよね。確かに親の権利に王太子殿下が踏み込めば、慣例を破ることになってしまう・・・)

がっかりとした様子のタチアナを見ていたハルヴァートが口を開いた。

「ただ、私に一つ提案がある。たとえば、だ。お前が私に協力する間婚約を保留にし、その功績を持ってお前の婚約者として望む限りの良縁を用意するようお前の親に働きかけるとか?」
「ん?」
「ただ婚約者をつけるなというよりも、この後にもっと良縁があるので少し待て、と説得することなら、慣例を破ることには当たるまい?」

ニッと笑った王太子の顔は何かを企んでいるようにしか見えない。

「お前に任務を与えよう。その任務は、生徒目線からの下級生の教育。つまり、私の婚約者の教育だ。令嬢としての常識を叩き込み、余計な虫を近づけるな」
「む、虫???」

この人は何を言ってるの?でも、もしかしたら、道が開けるかもしれない。

「やる!やらせていただきます。よろしくお願いいたします!」

おとなしいタチアナのどこにそんなエネルギーが潜んでいたのだろう。
勢い込んで答えるタチアナに、王太子は満足げに頷いていた。
別の生徒が言うには、王太子の笑みは何かを企んでいるような・・・邪悪な微笑みだったとか?

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