そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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2 学園編

54 聖女候補の教育係

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王太子殿下と黄金色の銀杏が舞い散る中、一緒に笑い合い、ちょっとだけ気持ちが通じたような、きっと気のせいに違いないような、何となく混乱したまま日々はすぎ、そろそろやっぱり勘違いだったのかなと納得し始めた頃、王太子殿下は、突然綺麗な女子生徒を連れて私の部屋に現れた。
大人しそうな女子生徒は、多分上級生。
顔形の美しさよりも何よりも、その目に宿る知性がその人を魅力的に見せていた。
しかもなんか優しそう・・・
お似合いすぎる二人を見ると、ちょっとだけ胸が痛むけど、もちろんきっと気のせいだろう。

「タチアナ・グランだ」

王太子殿下は、女子生徒を私の前に押し出した。

「お前の教育係として、タチアナを付ける。貴族の令嬢の立ち居振る舞いの常識を学べ」
「常識?」
「いいな?」

冷たい目でギロッと私を睨みつける。
何で怒られてんの?それともカルシウム足りてないんだろうか。
ぽかんと見返していると、私の答えも待たずに、王太子は部屋を出て行った。

(なななに?一体何だったの?)

王太子殿下と私は、時折時間が交錯するだけ。
遠くから見たり、噂を聞いたりしかしない存在。
部屋は隣だけど、だから何?会ったことないけど。
もちろん、二人の部屋をつなぐ扉には固く錠がかけられたままだ。
あ、当たり前だけど!
ただ、扉を開けて、少しおしゃべりする機会すらないってこと。

(私がいるってこと、覚えていてくださったんですね)

それだけでも感謝すべきなんだろうか。
タチアナ・グラン様は戸惑っている私を優しく見つめている。
ああ、やっぱりいい人そう。

「こんにちは。初めまして聖女様。この度殿下より聖女様の教育係を仰せつかりました、グラン伯爵家のタチアナでございます。聖女様よりも一つ上の学年に在籍しております。これからよろしくお願いいたします。」

にっこりと微笑み、私にお辞儀をしてくれたその人からは、嫌な感情は全く伝わってこない。
しかも何だろう・・・面白がってる?

「せ、聖女ではございません。どうか、私のことはステラとお呼びください。」

伯爵家のご令嬢に先に頭を下げさせるなんて、とんでもない。私は慌てて頭を下げた。

「聖・・・ステラ様。お話には伺っておりましたが、謙虚なお人柄なのですね。了解しました。これからはステラ様・・・と。」

もう聞いてみるしかない。

「あの、突然のお話で戸惑っております。伯爵家のお嬢様が教育をしてくださるとは・・・一体どのような・・・?」

タチアナ様は優しい人柄みたい。にっこり笑うと、「わかりません」とおっしゃった。
「具体的な指示はございませんでした。多分、ご学友の様なイメージでしょうか?ただ、一つ殿下が気にされていたことがありまして。」
タチアナ様はまるで秘密を打ち明けるように、こっそりとささやいた。
「他の男子生徒と2人きりにするな、と。その様な常識外れの振る舞いをすることがない様にしっかり教育しろ、とのことでございました」
「2人きりぃ?」
思わず私の声が裏返ってしまう。だって、ジョセフと手合わせした時、セオドア付いて来てたよ?2人っきりじゃないって。せいぜい3人きり?

「何のこと?まさかセオドア?」
「弟様のことではありません。殿下がお気になさっていたのは、ジョセフ様と手合わせをなさった、と言う噂についてですわ」
「ジョセフ?」
「ステラ様、未婚の貴族の子女が婚約者でもない男性と2人きりになるものではありませんわ」
「2人きりって‥‥‥剣技場で誰もが見られる状態で手合わせしただけですけど。しかもセオドアもいたし。」
「ごほん」
タチアナ様は咳払いをした。
「ステラ様は、ハルヴァート殿下の婚約者ですので、適切な行動ではございませんね。」
「えっ!?」
「私も自分に与えられた任務を、たった今理解いたしました。」
「これからは、ステラ様のお側にて、貴族の令嬢としての振る舞いを伝授いたしましょう。確かにこれは教師にはできない任務ですわね」
「はあ。」
「ところで。」
「何でしょうか。」
「ステラ様は、ハルヴァート殿下のご婚約者ですが・・・」
「便宜上です!」
「便宜上ですか?」
「ろくに会ったこともありません!ただ私の身分が低いので、私を保護するための名目として婚約者になっているだけです。せ、聖女候補なので・・・」
「・・・そうですか」

何となく納得いかないようなタチアナ様の顔。
じっと見られると、顔に血が上ってくる。

「ふうん・・・」

何かに気づいたようなタチアナ様の顔。

「まあ、私から言うべきことではありませんが。ハルヴァート様が、どうでもいいと思っている相手にわざわざ教育係をつけるとは、考えられませんけどね?」

ぼん!と音を立てて私の顔が真っ赤になった。
いえ、違う、違います!ただ単に、びっくりしただけ、びっくりしただけだから!!
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