67 / 247
2 学園編
66 聖女の惑い
しおりを挟む
ずっと怒ってばかり。
なぜわかってくれないの?いやわかるわけもないか。
この人は生まれながらにして王子。私が今感じている怖さも惑いもわかるわけがない。
「ハル様にはお分かりになりません。きっと」
おもわず、想いが小さな声になって漏れ出てしまう。
ハルヴァートはがアイスブルーの目をステラに向けた。
ステラはいつもの天真爛漫な様子とは全く違う。肩は落ち、その存在そのものが一回り小さくなったようにすら見える。自信なさげに床を見つめる様子はいつものステラとは別人のように見える。
ステラは男爵領を出てから、今日までのことを思い返していた。
この学園に着いた時、大勢の生徒が歓迎のために集まってくれていた。
学園に着くまでの沿道でも、この学園でも聖女に対する期待と歓迎があふれていた。
期待と歓迎を感謝する気持ちはあったが、それ以上に不安になった。
私はあの期待に応えることはできるのだろうか?と。
期待に応えられなかった時に、期待や歓迎はそのまま失望や嫌悪に変わるのではないか?
学生生活が始まり、嫌がらせが始まると、むしろゲーム通りだと安心することすらあった。
でも、嫌がらせは心を蝕む。
アリアのしてくるつまらない嫌がらせは、たわいないお嬢様のイタズラだと相手にしないように。気にしないようにしていた。
正直、これまで水をかけられても教科書を破られても平気な顔ができていたのは、始まる前から分かっていたから。
簡単に対応できると思っていた。
分かっていることだから準備しておけばいいのだから、と。
しょせん私はヒロインで相手は戦う前から負けてる雑魚キャラだとどこかで思っていたのかもしれない。
傲慢だった。
でも、今、私は心の底から怯えていた。
私自身は何も変わらない。前世の記憶が断片的にある普通の少女だ。
少しは大人びたところがあるかもしれない。でもそれと聖女なんて別次元の話すぎて、ついていけない。
私に聖女なんて務まらない。
確かにゲームの世界では私ことステラはヒロインで聖女だった。
しかもそれを当然のように受け止めていただろう。
だってゲームの登場人物だから。
でもここは現実の世界。
生きて血が通っている人間の世界。
生きた人間はいい事も悪い事もするし、妬んだり恨んだりだってする。
そんな中でのヒロインで聖女?
現実にはどっちも荷が重い。
ヒロインって何?
物語の中心人物?
他の人の人生まで背負えってこと?
無理。
しかも聖女?
聖女って何?
特にテンプレ的な力とか何も持ってないよ?
光魔法とか、癒しの力とかさ。
そういう分かりやすいパワー的なもの何もないよ?
私はただの子供だけど。
まだ13歳だよ?
いくら前世の記憶があるって言ったってたかがしてれてる。
聖女の経験なんてあるわけない。
そして、この世界での聖女の役割も分からないけど、大の大人が揃いも揃って土下座するように頭を下げるあの光景にはドン引きしていた。
何に対してあの人達は頭を下げているの?
私が何も持っていないって知った時にはどうなっちゃうの?
怖さしかない。
騙されたと手のひらを返したように糾弾されるのでは?と考えた時にものすごく怖い気持ちになった。
ここから逃げ出したい。
でも、あんなに派手に顕現をアピールしちゃったらもうどこにも逃げられない。
ハル様は顔を隠してくれたけど、その前に大勢の人たちに見られちゃっている。
それに何より私の金環の瞳がある限り隠せない。
領地に逃げ帰る?
あのハル様の様子じゃ絶対無理。
領地に迷惑がかかっちゃう。
ああ、困った。
何よりも怖い。
もうどうしたらいいのか分からない。
「私は、怖いんです。聖女であるということが」
やっと絞り出した声は震えていた。
俯いたまま顔を上げることができない。
きっと呆れてるに決まってる。
ハル様に理解してもらえるわけがない。また怒鳴られるのか、バカにされるのか。でも、もういい。
もう、これ以上は無理な気がする。
ハルヴァートは聞こえないくらいの小さい声で「怖い」と漏らしたステラを見つめていた。
こんなにか弱く小さな存在だっただろうか。
いつだってマイペースに楽しげに過ごしてきたステラがこんな不安を抱えていたとは気がつかなかった。でも、ハルヴァートはその感情をよく知っていた。
特別な立場に生まれてきた者にしかわからない感情。
その孤独。
常に誰かに見られ、評価され続けることの怖さ。そして辛さ。
その感情に向き合う事も戦う事も出来ず、ただ当たり前のこととして受け止めることのみを許されてきたハルヴァートからすると正直に気持ちを表すことができるステラの強さは感動的ですらあった。
ハルヴァートはステラに近づき、顔を覗き込んだ。
その泣きそうな困ったような表情を見た瞬間、思わず、両手を伸ばし、腕の中に囲い込んでいた。
「え?」
ステラは突然のハグに驚いた声を上げる。
「そうだな。辛いな。」
一言だけ耳元で囁いたハルヴァートの言葉は、ステラの心にあった高い壁を簡単に乗り越え、心の奥に一瞬で入り込んだ。
目元が熱くなり、涙が溢れこぼれ落ちるのがわかる。
なぜ、この人にわかってもらえたのかわからないが、理解してもらえた。
心に暖かさと安堵が広がる。
ああ、この世界に、私の孤独と不安を理解してくれる人がいるんだ。
ならば、もう少し、続けていけるのかもしれない。
耐えていけるのかもしれない。
私はハル様の肩に頭を寄せると、私を抱く彼の身体をそっと抱きしめ返した。
彼の身体はとても温かかった。
なぜわかってくれないの?いやわかるわけもないか。
この人は生まれながらにして王子。私が今感じている怖さも惑いもわかるわけがない。
「ハル様にはお分かりになりません。きっと」
おもわず、想いが小さな声になって漏れ出てしまう。
ハルヴァートはがアイスブルーの目をステラに向けた。
ステラはいつもの天真爛漫な様子とは全く違う。肩は落ち、その存在そのものが一回り小さくなったようにすら見える。自信なさげに床を見つめる様子はいつものステラとは別人のように見える。
ステラは男爵領を出てから、今日までのことを思い返していた。
この学園に着いた時、大勢の生徒が歓迎のために集まってくれていた。
学園に着くまでの沿道でも、この学園でも聖女に対する期待と歓迎があふれていた。
期待と歓迎を感謝する気持ちはあったが、それ以上に不安になった。
私はあの期待に応えることはできるのだろうか?と。
期待に応えられなかった時に、期待や歓迎はそのまま失望や嫌悪に変わるのではないか?
学生生活が始まり、嫌がらせが始まると、むしろゲーム通りだと安心することすらあった。
でも、嫌がらせは心を蝕む。
アリアのしてくるつまらない嫌がらせは、たわいないお嬢様のイタズラだと相手にしないように。気にしないようにしていた。
正直、これまで水をかけられても教科書を破られても平気な顔ができていたのは、始まる前から分かっていたから。
簡単に対応できると思っていた。
分かっていることだから準備しておけばいいのだから、と。
しょせん私はヒロインで相手は戦う前から負けてる雑魚キャラだとどこかで思っていたのかもしれない。
傲慢だった。
でも、今、私は心の底から怯えていた。
私自身は何も変わらない。前世の記憶が断片的にある普通の少女だ。
少しは大人びたところがあるかもしれない。でもそれと聖女なんて別次元の話すぎて、ついていけない。
私に聖女なんて務まらない。
確かにゲームの世界では私ことステラはヒロインで聖女だった。
しかもそれを当然のように受け止めていただろう。
だってゲームの登場人物だから。
でもここは現実の世界。
生きて血が通っている人間の世界。
生きた人間はいい事も悪い事もするし、妬んだり恨んだりだってする。
そんな中でのヒロインで聖女?
現実にはどっちも荷が重い。
ヒロインって何?
物語の中心人物?
他の人の人生まで背負えってこと?
無理。
しかも聖女?
聖女って何?
特にテンプレ的な力とか何も持ってないよ?
光魔法とか、癒しの力とかさ。
そういう分かりやすいパワー的なもの何もないよ?
私はただの子供だけど。
まだ13歳だよ?
いくら前世の記憶があるって言ったってたかがしてれてる。
聖女の経験なんてあるわけない。
そして、この世界での聖女の役割も分からないけど、大の大人が揃いも揃って土下座するように頭を下げるあの光景にはドン引きしていた。
何に対してあの人達は頭を下げているの?
私が何も持っていないって知った時にはどうなっちゃうの?
怖さしかない。
騙されたと手のひらを返したように糾弾されるのでは?と考えた時にものすごく怖い気持ちになった。
ここから逃げ出したい。
でも、あんなに派手に顕現をアピールしちゃったらもうどこにも逃げられない。
ハル様は顔を隠してくれたけど、その前に大勢の人たちに見られちゃっている。
それに何より私の金環の瞳がある限り隠せない。
領地に逃げ帰る?
あのハル様の様子じゃ絶対無理。
領地に迷惑がかかっちゃう。
ああ、困った。
何よりも怖い。
もうどうしたらいいのか分からない。
「私は、怖いんです。聖女であるということが」
やっと絞り出した声は震えていた。
俯いたまま顔を上げることができない。
きっと呆れてるに決まってる。
ハル様に理解してもらえるわけがない。また怒鳴られるのか、バカにされるのか。でも、もういい。
もう、これ以上は無理な気がする。
ハルヴァートは聞こえないくらいの小さい声で「怖い」と漏らしたステラを見つめていた。
こんなにか弱く小さな存在だっただろうか。
いつだってマイペースに楽しげに過ごしてきたステラがこんな不安を抱えていたとは気がつかなかった。でも、ハルヴァートはその感情をよく知っていた。
特別な立場に生まれてきた者にしかわからない感情。
その孤独。
常に誰かに見られ、評価され続けることの怖さ。そして辛さ。
その感情に向き合う事も戦う事も出来ず、ただ当たり前のこととして受け止めることのみを許されてきたハルヴァートからすると正直に気持ちを表すことができるステラの強さは感動的ですらあった。
ハルヴァートはステラに近づき、顔を覗き込んだ。
その泣きそうな困ったような表情を見た瞬間、思わず、両手を伸ばし、腕の中に囲い込んでいた。
「え?」
ステラは突然のハグに驚いた声を上げる。
「そうだな。辛いな。」
一言だけ耳元で囁いたハルヴァートの言葉は、ステラの心にあった高い壁を簡単に乗り越え、心の奥に一瞬で入り込んだ。
目元が熱くなり、涙が溢れこぼれ落ちるのがわかる。
なぜ、この人にわかってもらえたのかわからないが、理解してもらえた。
心に暖かさと安堵が広がる。
ああ、この世界に、私の孤独と不安を理解してくれる人がいるんだ。
ならば、もう少し、続けていけるのかもしれない。
耐えていけるのかもしれない。
私はハル様の肩に頭を寄せると、私を抱く彼の身体をそっと抱きしめ返した。
彼の身体はとても温かかった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる