82 / 247
2 学園編
81 王太子ハルヴァート 3
しおりを挟む
すみません、予約投稿したつもりでしたが、できてませんでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
男爵領で初めて会った聖女は、驚くほど美しかった。
これまで美女と言われる女は大勢見てきたが、別格の美しさだった。
美しいとはこういうことか、と思った。
きらめく金環の瞳に白に近いプラチナブロンドの長い髪。
目を奪われる、という体験を初めてした。
神の創りたもうた造形の美しさだけではない。
彼女が存在するだけで、部屋の空気が和らぐ。
あたりには清らかな空気が流れ、花のような香りがする。
そばにいるだけで何かが心に入り込んでくる。
清らかな水のような。心を潤し、なだめ、穏やかな気分にさせる何か。
これが聖女の癒しなのか。
だが、彼女を見た瞬間思ったのは。
「彼女こそ、私の運命だ」ということ。
それは理屈ではなく、まるで啓示のように私の頭の中に鳴り響いた。
出会ってしまったら、もうなかったことにはできない。
こちらを見て欲しい。
側で話をして欲しい。
もっと、もっと会っていたい。
「間違いない。彼女こそ私の半身。私の魂の半分を持ち、私の心を満たしてくれる人だ」と。
気がついた時には「婚約者として王宮に迎え入れたい」、と口走っていた。
そのような衝動的な行動は初めてだった。
聖女の顕現を聞き、慌てて会いにきたのだ。
婚約に関する根回しなどしているはずもない。
しかし、男爵家の親子は手強かった。
なんとか説得して王宮に連れ帰ろうとしたが、承諾しない。
聖女としての役目を説いて説得しようとしても聞く耳を持たない態度に感情が制御できなくなりそうになる。
しかも、美しい金環の瞳に見つめられると、頭に血が上って余計なことを口走ってしまった。
その結果、「人として思いやりを持て」と告げられ、心の内側に想いを届ける聖女の力を自ら体感した後、私は初めて相手を尊重する、ということを学んだ。
まあ、将来は私の妃として王宮で暮らすのだから、子供時代の短い間くらい父と過ごすことを許すか。
ステラがそれを望むなら、望みどおりにしてやろう。
希望を叶えてやったと思うと気分がいい。
ステラを喜ばせてやりたい。
彼女が喜んだ顔が見たい。
他の婚約者候補などあり得ない。
月に一度お茶会という名の面会を重ねてきたとは思えないほど、現実感がない。
ステラ以外は考えられない。
圧倒的な力に取り込まれるように、ステラに飲み込まれていく。
深い淵の瀬戸際に立たされている気分だ。その底は真っ暗で何も見えない。
なのに、ステラを手に入れるためにその淵に飛び込めと言われれば迷いなく飛び込むだろう。
たとえ、王位継承権を捨ててでも。
ステラ以外は無理だ。
なぜそう思うのかはわからなかった。
自分の心に急に訪れた変化に戸惑う時間すらなく、引き込まれてしまう。
ステラと一緒にいるために王位継承権を捨てるという思いつきは存外悪くなかった。
すぐには難しいが、彼女といるために必要ならば、迷いはない。
もう誰にも自分の人生を決められることはない。
自分で自分の人生を選び取っていくのだ。
この日のたった一度の面会で私は生まれてから一度も感じたことがなかった「感情」とやらを体験した。
生まれて初めて、凝り固まった心に血が通り、動き始めた。
多分、これが人である、ということなのだろう。
私のことを「機械」と呼んでいる者がいることは知っていた。
感情がない人間を機械と呼ぶのなら、確かに私は機械だった。
城に戻ってすぐに、父王と母にステラを妃に迎えたいと宣言した。
婚約者候補の誰かと結婚するものと思い込んでいた父王は怪訝な顔をし、母は困った表情を浮かべていた。
その後何度も交渉を重ね、頑として意見を曲げない私に、父は、学園入学時までステラに会わないことを条件に婚約を認めた。
学園入学時まで私の意思が変わらなけらば、と婚約を認めよう、と。
私はその条件を飲んだ。
たったの3年ぐらい待てないはずがない。そう思ったのだ。
婚約者候補たちからステラが無用な恨みを買わないように丁寧に断りを入れた。
どの令嬢も取り乱すことなく、受け入れてくれた。
政略的な婚約であるため、家に対して不利益を被らせないように配慮すれば問題がないはずだ。
3年後にはステラと晴れて婚約者になれる。その思いが私を支えていた。
しかし、その思いが私の一方的な思いであったことを再会してすぐに思い知らされることになった。
私が片時も忘れずに思い続けたステラは、私のことを覚えてすらいなかったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
明日は、更新できないかもしれません。
2章はハル様のターンで一回終了し、この後3章に突入予定ですが、その前に少し更新をお休みいたします。
一週間ぐらいで戻ってこられるように頑張ります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
男爵領で初めて会った聖女は、驚くほど美しかった。
これまで美女と言われる女は大勢見てきたが、別格の美しさだった。
美しいとはこういうことか、と思った。
きらめく金環の瞳に白に近いプラチナブロンドの長い髪。
目を奪われる、という体験を初めてした。
神の創りたもうた造形の美しさだけではない。
彼女が存在するだけで、部屋の空気が和らぐ。
あたりには清らかな空気が流れ、花のような香りがする。
そばにいるだけで何かが心に入り込んでくる。
清らかな水のような。心を潤し、なだめ、穏やかな気分にさせる何か。
これが聖女の癒しなのか。
だが、彼女を見た瞬間思ったのは。
「彼女こそ、私の運命だ」ということ。
それは理屈ではなく、まるで啓示のように私の頭の中に鳴り響いた。
出会ってしまったら、もうなかったことにはできない。
こちらを見て欲しい。
側で話をして欲しい。
もっと、もっと会っていたい。
「間違いない。彼女こそ私の半身。私の魂の半分を持ち、私の心を満たしてくれる人だ」と。
気がついた時には「婚約者として王宮に迎え入れたい」、と口走っていた。
そのような衝動的な行動は初めてだった。
聖女の顕現を聞き、慌てて会いにきたのだ。
婚約に関する根回しなどしているはずもない。
しかし、男爵家の親子は手強かった。
なんとか説得して王宮に連れ帰ろうとしたが、承諾しない。
聖女としての役目を説いて説得しようとしても聞く耳を持たない態度に感情が制御できなくなりそうになる。
しかも、美しい金環の瞳に見つめられると、頭に血が上って余計なことを口走ってしまった。
その結果、「人として思いやりを持て」と告げられ、心の内側に想いを届ける聖女の力を自ら体感した後、私は初めて相手を尊重する、ということを学んだ。
まあ、将来は私の妃として王宮で暮らすのだから、子供時代の短い間くらい父と過ごすことを許すか。
ステラがそれを望むなら、望みどおりにしてやろう。
希望を叶えてやったと思うと気分がいい。
ステラを喜ばせてやりたい。
彼女が喜んだ顔が見たい。
他の婚約者候補などあり得ない。
月に一度お茶会という名の面会を重ねてきたとは思えないほど、現実感がない。
ステラ以外は考えられない。
圧倒的な力に取り込まれるように、ステラに飲み込まれていく。
深い淵の瀬戸際に立たされている気分だ。その底は真っ暗で何も見えない。
なのに、ステラを手に入れるためにその淵に飛び込めと言われれば迷いなく飛び込むだろう。
たとえ、王位継承権を捨ててでも。
ステラ以外は無理だ。
なぜそう思うのかはわからなかった。
自分の心に急に訪れた変化に戸惑う時間すらなく、引き込まれてしまう。
ステラと一緒にいるために王位継承権を捨てるという思いつきは存外悪くなかった。
すぐには難しいが、彼女といるために必要ならば、迷いはない。
もう誰にも自分の人生を決められることはない。
自分で自分の人生を選び取っていくのだ。
この日のたった一度の面会で私は生まれてから一度も感じたことがなかった「感情」とやらを体験した。
生まれて初めて、凝り固まった心に血が通り、動き始めた。
多分、これが人である、ということなのだろう。
私のことを「機械」と呼んでいる者がいることは知っていた。
感情がない人間を機械と呼ぶのなら、確かに私は機械だった。
城に戻ってすぐに、父王と母にステラを妃に迎えたいと宣言した。
婚約者候補の誰かと結婚するものと思い込んでいた父王は怪訝な顔をし、母は困った表情を浮かべていた。
その後何度も交渉を重ね、頑として意見を曲げない私に、父は、学園入学時までステラに会わないことを条件に婚約を認めた。
学園入学時まで私の意思が変わらなけらば、と婚約を認めよう、と。
私はその条件を飲んだ。
たったの3年ぐらい待てないはずがない。そう思ったのだ。
婚約者候補たちからステラが無用な恨みを買わないように丁寧に断りを入れた。
どの令嬢も取り乱すことなく、受け入れてくれた。
政略的な婚約であるため、家に対して不利益を被らせないように配慮すれば問題がないはずだ。
3年後にはステラと晴れて婚約者になれる。その思いが私を支えていた。
しかし、その思いが私の一方的な思いであったことを再会してすぐに思い知らされることになった。
私が片時も忘れずに思い続けたステラは、私のことを覚えてすらいなかったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
明日は、更新できないかもしれません。
2章はハル様のターンで一回終了し、この後3章に突入予定ですが、その前に少し更新をお休みいたします。
一週間ぐらいで戻ってこられるように頑張ります。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる