116 / 247
3 ヒロインへの道
113 父の不安
しおりを挟む
屋敷に戻ると、私とセオドアはとうさまの書斎に呼ばれた。
磨き込まれたオーク材の大きなデスクが真ん中にある書斎は、子供の頃から全然変わらない。
部屋の両側にある書架も所狭しと重ねられた書類も昔と同じ。
まるで時が止まったように思えるその場所は、長年の丁寧な手入れにより、木肌に艶を増した家具が重厚さを与えていた。
私は、懐かしさを感じて、少し埃っぽい本の匂いをすんっと吸い込む。
あー、なんか落ち着く。
とうさまは私たちをソファーの対面に座らせると、おもむろに切り出した。
「王家に輿入れなど、男爵家からは前代未聞だ。お前が聖女だから、と言うことなのだろうな」
「そればかりではありませんが‥‥‥身分の低さはわかっております」
とうさまの視線が私の薬指にはめられたハル様の印章付きの指輪に落ちる。
「正直、お前が王太子と本当に結婚するとは思ってもいなかった」
「私もです」
「‥‥‥だろうな。でも、あの王子の様子を見ると、もう引く気はなさそうだ。どうだ、セオドア」
とうさまが、セオドアに話を振ると、おとなしくソファーに座っていたセオドアが口を開いた。
「そうですね。王太子殿下は、学園でも有名なほど、ステラを溺愛しています。婚約の辞退は不可能でしょうね。しかもステラも王太子殿下のことが好きみたいですし」
「セ、セオ‥‥‥!」頬に熱が上がってくる。
親の前でなんてこと言うのよ!
とうさまは、額に手を当てると、ソファーに座り込んだ。
「将来は、ステラとセオドアが結婚して領地を継いでくれるといいと思っていたのだが」
「は?」
「え?」
セオと私が思わず同時に声を上げた。
考えたこともなかった。そもそも無理。あ、お互いにだからね?失礼じゃないよ。
ありえないーー。思わず私もセオもドン引きだ。
だって、だって、兄弟みたいなもんだよ?本気で。
あっけにとられた私とセオの顔を見ると、
「そうか、無理だったか、すまん」
そう言ってため息をひとつ、ついた。
まさかそんなこととは思ってもいなかった。
先に言ってくれたら‥‥‥なにも違わないな。
「王宮でステラがやっていけるのかどうか。愛だけでなんとかなる世界ではない。お前には後ろ盾もないし、王太子殿下の愛だけに頼るのではあまりにも不安定だ。どうにかして後ろ盾を見つけないと‥‥‥それに、子が産めなければ、即妃を娶る必要も出てくるだろう」
ズキリ。私の胸を鋭い刃物がざっくりと抉った。
「その時、お前よりも身分が高い即妃であれば、ますます王宮は居心地の悪い場所になるだろう」
「そうですよね‥‥」
私は目を瞑り、俯いた。
泣き出しそうな思いを必死で堪える。
そうなったら辛いだろう。
考えただけでも苦しすぎる。
でも‥‥・私は顔を上げた。
「でも、とうさま、私、ハル様と共にありたいのです」
「‥‥‥」
とうさまの目をまっすぐに見た。
「ハル様をお支えし、聖女としても力を尽くしたいと思っています。それが私の運命ならば、いつまでも逃げ回ってはいられません」
いつまでも子供ではいられない。
いつまでも逃げ回ってはいられない。
立ち向かうことでしか解決できないことがあると、学園のいざこざからも学んだのだ。
「そうか、いつの間にか大人になっていたのだな」
とうさまはにっこりと微笑んだ。
その目尻には見慣れない皺が寄っていた。
うっすらと涙がにじんでいる。
私はとうさまを見つめた。
いつの間にか、とうさまのこめかみには白いものが混じるようになっていた。
歳を重ねても、とうさまは相変わらず美しい方だけど、親だって、歳を取っていくんだ‥‥‥
「私たちの娘がな‥‥‥」
とうさまは私を愛しそうに眺めるとそっと頭を撫でた。
「いつだって私はお前の味方だよ。信じる道を行きなさい。」
私をぎゅっと抱きしめたとうさまの温もりは昔のままだった。
大きな手。私を守ろうと必死で戦ってくれた大きな体。
いつだって味方になってくれた人。
帰るところを与えてくれた人。
そして、とうさまは今、私の背中を大きく押した。
「愛しい、たった1人の娘。精一杯、自分の人生を生きなさい。応援しているよ」
****************************************************
予約したつもりが、できていませんでした。すみません汗
磨き込まれたオーク材の大きなデスクが真ん中にある書斎は、子供の頃から全然変わらない。
部屋の両側にある書架も所狭しと重ねられた書類も昔と同じ。
まるで時が止まったように思えるその場所は、長年の丁寧な手入れにより、木肌に艶を増した家具が重厚さを与えていた。
私は、懐かしさを感じて、少し埃っぽい本の匂いをすんっと吸い込む。
あー、なんか落ち着く。
とうさまは私たちをソファーの対面に座らせると、おもむろに切り出した。
「王家に輿入れなど、男爵家からは前代未聞だ。お前が聖女だから、と言うことなのだろうな」
「そればかりではありませんが‥‥‥身分の低さはわかっております」
とうさまの視線が私の薬指にはめられたハル様の印章付きの指輪に落ちる。
「正直、お前が王太子と本当に結婚するとは思ってもいなかった」
「私もです」
「‥‥‥だろうな。でも、あの王子の様子を見ると、もう引く気はなさそうだ。どうだ、セオドア」
とうさまが、セオドアに話を振ると、おとなしくソファーに座っていたセオドアが口を開いた。
「そうですね。王太子殿下は、学園でも有名なほど、ステラを溺愛しています。婚約の辞退は不可能でしょうね。しかもステラも王太子殿下のことが好きみたいですし」
「セ、セオ‥‥‥!」頬に熱が上がってくる。
親の前でなんてこと言うのよ!
とうさまは、額に手を当てると、ソファーに座り込んだ。
「将来は、ステラとセオドアが結婚して領地を継いでくれるといいと思っていたのだが」
「は?」
「え?」
セオと私が思わず同時に声を上げた。
考えたこともなかった。そもそも無理。あ、お互いにだからね?失礼じゃないよ。
ありえないーー。思わず私もセオもドン引きだ。
だって、だって、兄弟みたいなもんだよ?本気で。
あっけにとられた私とセオの顔を見ると、
「そうか、無理だったか、すまん」
そう言ってため息をひとつ、ついた。
まさかそんなこととは思ってもいなかった。
先に言ってくれたら‥‥‥なにも違わないな。
「王宮でステラがやっていけるのかどうか。愛だけでなんとかなる世界ではない。お前には後ろ盾もないし、王太子殿下の愛だけに頼るのではあまりにも不安定だ。どうにかして後ろ盾を見つけないと‥‥‥それに、子が産めなければ、即妃を娶る必要も出てくるだろう」
ズキリ。私の胸を鋭い刃物がざっくりと抉った。
「その時、お前よりも身分が高い即妃であれば、ますます王宮は居心地の悪い場所になるだろう」
「そうですよね‥‥」
私は目を瞑り、俯いた。
泣き出しそうな思いを必死で堪える。
そうなったら辛いだろう。
考えただけでも苦しすぎる。
でも‥‥・私は顔を上げた。
「でも、とうさま、私、ハル様と共にありたいのです」
「‥‥‥」
とうさまの目をまっすぐに見た。
「ハル様をお支えし、聖女としても力を尽くしたいと思っています。それが私の運命ならば、いつまでも逃げ回ってはいられません」
いつまでも子供ではいられない。
いつまでも逃げ回ってはいられない。
立ち向かうことでしか解決できないことがあると、学園のいざこざからも学んだのだ。
「そうか、いつの間にか大人になっていたのだな」
とうさまはにっこりと微笑んだ。
その目尻には見慣れない皺が寄っていた。
うっすらと涙がにじんでいる。
私はとうさまを見つめた。
いつの間にか、とうさまのこめかみには白いものが混じるようになっていた。
歳を重ねても、とうさまは相変わらず美しい方だけど、親だって、歳を取っていくんだ‥‥‥
「私たちの娘がな‥‥‥」
とうさまは私を愛しそうに眺めるとそっと頭を撫でた。
「いつだって私はお前の味方だよ。信じる道を行きなさい。」
私をぎゅっと抱きしめたとうさまの温もりは昔のままだった。
大きな手。私を守ろうと必死で戦ってくれた大きな体。
いつだって味方になってくれた人。
帰るところを与えてくれた人。
そして、とうさまは今、私の背中を大きく押した。
「愛しい、たった1人の娘。精一杯、自分の人生を生きなさい。応援しているよ」
****************************************************
予約したつもりが、できていませんでした。すみません汗
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる