そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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3 ヒロインへの道

178 夢の中で

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その夜、夢を見た。

私は、どこかの草原にいる。
ここがどこなのかわからない。
でも足元にそよぐ草が足に触れる感触がない。
綺麗なところだとは思うけど、吹く風を感じることがなければ、足の裏にひんやりとした土が触れることもない。
現実感がない。
キョロキョロと周りを見回すと、遠くに人影が見えた。
黒い髪と後ろ姿だけで、それがハル様だとわかる。
私は、会いたくて、思い切り走った。
足元には柔らかく咲く黄色い花が輝いている。

ハル様に近づくと、穂の先に紫色の小さな花をびっしりとつけた草に取り囲まれていた。
爽やかないい香りに心が和む。
でも、その背中はいつもの凜とした居住まいとは違って、寂しそう。
声をかけたいけど、それがはばかられるように不安そうな背中に戸惑ってしまう。
でも気づいて欲しくて、小さな声で話しかけてみる。
「ハル様?」
弾かれたように振り返った人はやっぱりハル様だった。
会えた。嬉しい。思わず気分が浮き立つ。

「ステラ?」
ハル様は驚いたように目を見開き、その瞳を何かがよぎったが、次の瞬間、私に大股で一歩近づくと、ぎゅっと両手で私を抱きしめた。

「ステラ・・・」
小さな声で私を呼ぶ。
「ハル様、ハル様ぁ」
私の喉から思わず嗚咽が漏れる。

「ステラ」
もう一度私の名を呼ぶと、額を私の肩に付けた。
ハル様の体は小刻みに震えていた。

「すまない。一瞬でも君を疑ってしまった」
「どうして?なんのこと?」
「わからない。自分で自分がわからなくなってしまっていたんだ。君を疑うことは自分を疑うことなのに」
「大丈夫。なにか理由があったんでしょ?今信じてくれるならいい。私はハル様を信じています」
「ステラ」
「はい」
「逃げろ」
「え?」
「できるだけ遠くに。逃げろ」
「なんで?どうして?」
「ジョセフに話してある。逃げるんだ」
「どうして?私逃げたくない」
「頼むから、逃げてくれ。そして、生き延びてくれ。頼む」

一体、ハル様に何が起きたの?

「ハル様、私元気です。浄化ができるようになったんですよ?これまで聖女だって言われていてもなんの力もなくて自信がなかったけど、これからは少しは役に立てるかもしれないって嬉しいんです」
「そうか。浄化が・・・君は金環の瞳の持ち主だからその可能性はあるとヴィダルに聞いていたが。本人には言わないようにと釘を刺されていた」
「そうなの?でも、瞳が同じでも力が本当に使えるとは限りませんからねえ?」
「はは、相変わらずだな」
「だから、浄化の力が使えるようになった時、後ろ盾のない私でも、お側で少しは力になれると思ったんですよ?」

ハル様は私の肩から顔をあげ、私の瞳を覗き込んだ。
その瞳は見たことがないほど、真剣で、そして余裕がないように思えた。

「ステラ。今は状況が悪い。私たちの敵はかなり大きく、強い。今のままでは巨大な象に立ち向かう小さな虫のような存在にすぎない」
「虫・・・ハル様、どうしたの?かなり具合が悪そう」

ハル様の目は落ち窪み、目の下には隈ができている。
唇はカサついてるし、御髪も乱れて・・・
なんか、随分と痩せたように見える。

「それに・・・ご飯は食べられているんですか?ひどいことはされてないですよね?」
「私は大丈夫だ。一応まだこの国の王太子だからな」

それって・・・なんだか投げやりに聞こえる。
まさか、そんなことないよね?

「まだって、ハル様に代わる方はいらっしゃいませんよ?」
「そうだといいが、そうでもないかもしれないな。敵は強い」
「でも」
「問題ない。覚悟はできている。ずっと前からな。私が心配しているのは君のことだ」
「私?」
「君は無事か?」
「はい。私こそ問題ありませんよ。侯爵領の方々は皆さんいい方です」
「そうか。コンラッド家は王国の一員となってはいるが、侯爵家の力は極めて強い。いざという時には、同盟を切り、王国の干渉を受けないことも想定しているだろう。預け先としては最適だったな」
「よくわかりませんが、とてもよくしていただいていますよ?」
「君が安全と聞いてなにより安心した」
「はい、そこは安心してください。それよりハル様が心配です。私にハル様のお心を癒す力があったらいいのに」
「癒されているよ。君が安全と聞いただけで、随分心が軽くなった。すごい癒し効果だ」
「ハル様」
「君とともにありたかったが、そうはいかないかもしれない。未来は誰にもわからない。今の願いはただ一つ。君が生きながらえることだ」

ハル様の体がうっすらとぼやけてきた。

「ハル様?」
「忘れるな。私の望みは君が生きながらえることだ。そのためなら、私を捨てて、逃げろ」

えっ?今なんて?
ハル様を捨てて逃げる?
なんで?どうして?

ハル様の体がどんどん薄くなっていく。

「そろそろ時間だな。いいか、忘れるな。逃げろ」

そのまま、かき消すようにハル様の姿は見えなくなった。

「待って!ハル様。待ってよ!!」
私の目から涙があふれ出た。
突然のことで理解ができない。どういうことなの?
「なんで?なんでハル様そんなこと言うの?だって、いつか一つの存在になろうって言ってくれたじゃない。それって、ずっと一緒にいようってことじゃないの?夫と妻として一つの存在になるって意味じゃなかったの?なんで?なんで?」

叫ぶような自分の声で目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまっていたみたい。

全身びっしょりと汗をかいている。
私の目からはとめどなく涙があふれ出て、枕を濡らしていた。

(夢なのに・・・本当に泣いてたんだ)

私は消えていくハル様の姿を思い出すと、また涙が止まらなくなった。

(ハル様、会いたい。一体何が起こってるの?)

窓の外からはうっすらと陽が入り始め、新しい夜明けを告げている。

息が苦しい。
涙でこのまま埋もれてしまいそう。
胸が痛くてこのまま張り裂けてしまいそう。
ただの夢よ、ただの夢。
絶対勘違いに違いない。
そう自分に言い聞かせても、キリキリと鋭い痛みを伴う不安に押しつぶされそうになる。

(朝が来たら、侯爵様にハル様の動向をお伺いしてみよう)

私は、じりじりしながら新しい一日が始まる時を待ち続けた。
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