200 / 247
4 決戦
196 人の身の理(ことわり)、そして罪悪感
しおりを挟む
朝日が昇る。
聖女は夜を徹してジョセフに聖なる力を入れ続けていた。
その金色の光と聖女の放つ金銀の光とそれを乱反射する水晶の輝きに、目を開けていられないほど眩しい光が輝いていた。
全てが浄化され、周りにいた者たちも傷ついた体だけではなく、心も癒され、鎧のほころびも、剣の切っ先の欠けも新品に戻ったようにピカピカと輝いていた。
「聖女様、そろそろおやめください」リカルドが困ったような声で話しかけてくる。
「もうちょっと、もうちょっとだけ・・・」やっと傷が塞がって命の灯がジョセフの体内に止まってくれるようになってきた。
「なりません、聖女様。これ以上は、人の理を超えてしまいます」
「超えてもいい。ジョセフを死なせない」
「聖女様!!」リカルドが泣きそうな声で叫んだ。
「聖女様だけではありません、ジョセフも人ではなくなってしまいます。どうか、一度力を入れるのはやめてください!」
はっと気がついてジョセフを見るとジョセフは金と銀の光の輪に覆われているだけでなく、ジョセフの身体からも銀色の淡い光が放たれている。
「ジョセフ・・・」
私が途方に暮れてリカルドを見ると、リカルドが頷いた。
「そうです。これ以上はなりません。過去にこんなに聖力を人の体に注ぎ込んだ事例はありません。無事でいられるのかさえわかりません。どうか、お休みいただき、少し時間をおいて様子を見ましょう」
私は、操り人形のように頷くと、そのまま気を失ってしまった。
「ケイレブ!聖女様とジョセフをどこか安全なところへ」
「わかった。とりあえず、王都の屋敷に連れて行こう」
「よろしければ」サイラスが口を挟んだ。「当家のジョセフのこともありますし、我が屋敷にご招待したい。ケイレブ殿も配下の騎士の方々も。当家であれば、王国騎士団長の屋敷ですし、王都の中でも王宮に次いで守りは固いですから」
「それはありがたい」ケイレブがサイラスに感謝するような笑顔を向けた。
「当家は王都にほとんど滞在しないので、守りは固いとは言い難い。ジョセフのご実家であれば、もっとも信頼できるお屋敷でしょう」
「話は決まりですね。それでは、速やかに聖女様とジョセフをお運びしてください。また賊がこないとも限りませんからね。あ、それから」リカルドがジョセフのそばに置いておいた水晶を入れた袋をケイレブに渡した。
「重傷を負った騎士に、この石を当てるように伝えてください。軽傷はおそらく治っているでしょうが、重傷は完全治癒は難しいはずです。こちらの石には聖女様の癒しと浄化の力が移っているはずですから、回復を早めてくれるはずです」
「恩に着る」
「ま、私も命を救ってもらいましたし、これで貸し借りなしですよ」
リカルドはそれだけ言うと、ステラの様子を見るため戻って行った。
「以外といいやつなのかな・・・?」
「以外とは余計ですよ」
どうやらリカルドは地獄耳らしい。
ケイレブはヒョイっと肩をすくめた。
******************************************************
目を覚ますと、どこか見知らぬお屋敷だった。
柔らかなベッドに清潔なリネン。
窓にかかった薄い絹が淡く外の光を通しながら、踊るように揺れている。
「お目覚めですか?」
見知らぬ女の人に声をかけられる。
優しい声。善意と戸惑いが伝わってくる。
この人は誰?
ここはどこ?いえ、そんなことよりも・・・
「ジョセフは!?」
柔らかかった女の人の声に逡巡が混じる。
「眠り続けております。まだ命を繋いでいるようです。聖女様のお陰と伺いました。感謝申し上げます。」
「行かないと」
私はベッドから飛び降りて、ジョセフのところに走って行こうとした。
・・・なのに、足が立たない。
ベッドから降りると腰が抜けたように座り込んでしまった。
(なんで力が入らないの?体が重い。こんなに体って重いの?)
「お願い、誰かを呼んでください。ジョセフを見に行かないと。様子を確認しなきゃ・・・」
「聖女様、落ち着いてください。神官様をお呼びいたします。聖女様のお体には決して触れないように、厳しく申しつけられておりますので」
私が涙目で見上げると、女の人は頷き、静かに部屋から立ち去った。
「ここはどこで、あの人は誰?ジョセフは無事?」
胸が押しつぶされそうに痛む。
早く、ジョセフの様子を見に行かないと。
ジョセフを助けないと。
私の頭にあったのはそれだけだった。
男爵領の奈落の森にある湖。
よくそこでランチを持ち寄ってジョセフとおしゃべりしたり、剣の稽古をしていた。
キラキラした子供時代。
辛いこともあったけど、ジョセフの明るさや彼自身の持っている光はいつもいつも私を救ってくれた。
大切な友達。
どんな時も私を支えてくれた。
・・・私のそばにいなければ、こんなことにならなかったのに。
私が、私さえいなければ。
私が、ジョセフの未来を奪ってしまった?
私が、いなければ、良かったのに。
苦しい。息が詰まる。
・・・なぜ、こんなことに?
でも、私には苦しむ資格すらないのかもしれない。
どれだけ涙を流しても、過去を変えることはできないのだから。
聖女は夜を徹してジョセフに聖なる力を入れ続けていた。
その金色の光と聖女の放つ金銀の光とそれを乱反射する水晶の輝きに、目を開けていられないほど眩しい光が輝いていた。
全てが浄化され、周りにいた者たちも傷ついた体だけではなく、心も癒され、鎧のほころびも、剣の切っ先の欠けも新品に戻ったようにピカピカと輝いていた。
「聖女様、そろそろおやめください」リカルドが困ったような声で話しかけてくる。
「もうちょっと、もうちょっとだけ・・・」やっと傷が塞がって命の灯がジョセフの体内に止まってくれるようになってきた。
「なりません、聖女様。これ以上は、人の理を超えてしまいます」
「超えてもいい。ジョセフを死なせない」
「聖女様!!」リカルドが泣きそうな声で叫んだ。
「聖女様だけではありません、ジョセフも人ではなくなってしまいます。どうか、一度力を入れるのはやめてください!」
はっと気がついてジョセフを見るとジョセフは金と銀の光の輪に覆われているだけでなく、ジョセフの身体からも銀色の淡い光が放たれている。
「ジョセフ・・・」
私が途方に暮れてリカルドを見ると、リカルドが頷いた。
「そうです。これ以上はなりません。過去にこんなに聖力を人の体に注ぎ込んだ事例はありません。無事でいられるのかさえわかりません。どうか、お休みいただき、少し時間をおいて様子を見ましょう」
私は、操り人形のように頷くと、そのまま気を失ってしまった。
「ケイレブ!聖女様とジョセフをどこか安全なところへ」
「わかった。とりあえず、王都の屋敷に連れて行こう」
「よろしければ」サイラスが口を挟んだ。「当家のジョセフのこともありますし、我が屋敷にご招待したい。ケイレブ殿も配下の騎士の方々も。当家であれば、王国騎士団長の屋敷ですし、王都の中でも王宮に次いで守りは固いですから」
「それはありがたい」ケイレブがサイラスに感謝するような笑顔を向けた。
「当家は王都にほとんど滞在しないので、守りは固いとは言い難い。ジョセフのご実家であれば、もっとも信頼できるお屋敷でしょう」
「話は決まりですね。それでは、速やかに聖女様とジョセフをお運びしてください。また賊がこないとも限りませんからね。あ、それから」リカルドがジョセフのそばに置いておいた水晶を入れた袋をケイレブに渡した。
「重傷を負った騎士に、この石を当てるように伝えてください。軽傷はおそらく治っているでしょうが、重傷は完全治癒は難しいはずです。こちらの石には聖女様の癒しと浄化の力が移っているはずですから、回復を早めてくれるはずです」
「恩に着る」
「ま、私も命を救ってもらいましたし、これで貸し借りなしですよ」
リカルドはそれだけ言うと、ステラの様子を見るため戻って行った。
「以外といいやつなのかな・・・?」
「以外とは余計ですよ」
どうやらリカルドは地獄耳らしい。
ケイレブはヒョイっと肩をすくめた。
******************************************************
目を覚ますと、どこか見知らぬお屋敷だった。
柔らかなベッドに清潔なリネン。
窓にかかった薄い絹が淡く外の光を通しながら、踊るように揺れている。
「お目覚めですか?」
見知らぬ女の人に声をかけられる。
優しい声。善意と戸惑いが伝わってくる。
この人は誰?
ここはどこ?いえ、そんなことよりも・・・
「ジョセフは!?」
柔らかかった女の人の声に逡巡が混じる。
「眠り続けております。まだ命を繋いでいるようです。聖女様のお陰と伺いました。感謝申し上げます。」
「行かないと」
私はベッドから飛び降りて、ジョセフのところに走って行こうとした。
・・・なのに、足が立たない。
ベッドから降りると腰が抜けたように座り込んでしまった。
(なんで力が入らないの?体が重い。こんなに体って重いの?)
「お願い、誰かを呼んでください。ジョセフを見に行かないと。様子を確認しなきゃ・・・」
「聖女様、落ち着いてください。神官様をお呼びいたします。聖女様のお体には決して触れないように、厳しく申しつけられておりますので」
私が涙目で見上げると、女の人は頷き、静かに部屋から立ち去った。
「ここはどこで、あの人は誰?ジョセフは無事?」
胸が押しつぶされそうに痛む。
早く、ジョセフの様子を見に行かないと。
ジョセフを助けないと。
私の頭にあったのはそれだけだった。
男爵領の奈落の森にある湖。
よくそこでランチを持ち寄ってジョセフとおしゃべりしたり、剣の稽古をしていた。
キラキラした子供時代。
辛いこともあったけど、ジョセフの明るさや彼自身の持っている光はいつもいつも私を救ってくれた。
大切な友達。
どんな時も私を支えてくれた。
・・・私のそばにいなければ、こんなことにならなかったのに。
私が、私さえいなければ。
私が、ジョセフの未来を奪ってしまった?
私が、いなければ、良かったのに。
苦しい。息が詰まる。
・・・なぜ、こんなことに?
でも、私には苦しむ資格すらないのかもしれない。
どれだけ涙を流しても、過去を変えることはできないのだから。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる