そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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4 決戦

196 人の身の理(ことわり)、そして罪悪感

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朝日が昇る。
聖女は夜を徹してジョセフに聖なる力を入れ続けていた。
その金色の光と聖女の放つ金銀の光とそれを乱反射する水晶の輝きに、目を開けていられないほど眩しい光が輝いていた。
全てが浄化され、周りにいた者たちも傷ついた体だけではなく、心も癒され、鎧のほころびも、剣の切っ先の欠けも新品に戻ったようにピカピカと輝いていた。

「聖女様、そろそろおやめください」リカルドが困ったような声で話しかけてくる。
「もうちょっと、もうちょっとだけ・・・」やっと傷が塞がって命の灯がジョセフの体内に止まってくれるようになってきた。
「なりません、聖女様。これ以上は、人のことわりを超えてしまいます」
「超えてもいい。ジョセフを死なせない」
「聖女様!!」リカルドが泣きそうな声で叫んだ。
「聖女様だけではありません、ジョセフも人ではなくなってしまいます。どうか、一度力を入れるのはやめてください!」
はっと気がついてジョセフを見るとジョセフは金と銀の光の輪に覆われているだけでなく、ジョセフの身体からも銀色の淡い光が放たれている。
「ジョセフ・・・」

私が途方に暮れてリカルドを見ると、リカルドが頷いた。
「そうです。これ以上はなりません。過去にこんなに聖力を人の体に注ぎ込んだ事例はありません。無事でいられるのかさえわかりません。どうか、お休みいただき、少し時間をおいて様子を見ましょう」
私は、操り人形のように頷くと、そのまま気を失ってしまった。

「ケイレブ!聖女様とジョセフをどこか安全なところへ」
「わかった。とりあえず、王都の屋敷に連れて行こう」
「よろしければ」サイラスが口を挟んだ。「当家のジョセフのこともありますし、我が屋敷にご招待したい。ケイレブ殿も配下の騎士の方々も。当家であれば、王国騎士団長の屋敷ですし、王都の中でも王宮に次いで守りは固いですから」
「それはありがたい」ケイレブがサイラスに感謝するような笑顔を向けた。
「当家は王都にほとんど滞在しないので、守りは固いとは言い難い。ジョセフのご実家であれば、もっとも信頼できるお屋敷でしょう」
「話は決まりですね。それでは、速やかに聖女様とジョセフをお運びしてください。また賊がこないとも限りませんからね。あ、それから」リカルドがジョセフのそばに置いておいた水晶を入れた袋をケイレブに渡した。
「重傷を負った騎士に、この石を当てるように伝えてください。軽傷はおそらく治っているでしょうが、重傷は完全治癒は難しいはずです。こちらの石には聖女様の癒しと浄化の力が移っているはずですから、回復を早めてくれるはずです」
「恩に着る」
「ま、私も命を救ってもらいましたし、これで貸し借りなしですよ」
リカルドはそれだけ言うと、ステラの様子を見るため戻って行った。
「以外といいやつなのかな・・・?」
「以外とは余計ですよ」
どうやらリカルドは地獄耳らしい。
ケイレブはヒョイっと肩をすくめた。

******************************************************

目を覚ますと、どこか見知らぬお屋敷だった。
柔らかなベッドに清潔なリネン。
窓にかかった薄い絹が淡く外の光を通しながら、踊るように揺れている。

「お目覚めですか?」

見知らぬ女の人に声をかけられる。
優しい声。善意と戸惑いが伝わってくる。
この人は誰?
ここはどこ?いえ、そんなことよりも・・・

「ジョセフは!?」

柔らかかった女の人の声に逡巡が混じる。

「眠り続けております。まだ命を繋いでいるようです。聖女様のお陰と伺いました。感謝申し上げます。」
「行かないと」

私はベッドから飛び降りて、ジョセフのところに走って行こうとした。
・・・なのに、足が立たない。
ベッドから降りると腰が抜けたように座り込んでしまった。

(なんで力が入らないの?体が重い。こんなに体って重いの?)

「お願い、誰かを呼んでください。ジョセフを見に行かないと。様子を確認しなきゃ・・・」
「聖女様、落ち着いてください。神官様をお呼びいたします。聖女様のお体には決して触れないように、厳しく申しつけられておりますので」

私が涙目で見上げると、女の人は頷き、静かに部屋から立ち去った。

「ここはどこで、あの人は誰?ジョセフは無事?」

胸が押しつぶされそうに痛む。
早く、ジョセフの様子を見に行かないと。
ジョセフを助けないと。
私の頭にあったのはそれだけだった。


男爵領の奈落の森にある湖。
よくそこでランチを持ち寄ってジョセフとおしゃべりしたり、剣の稽古をしていた。
キラキラした子供時代。
辛いこともあったけど、ジョセフの明るさや彼自身の持っている光はいつもいつも私を救ってくれた。
大切な友達。
どんな時も私を支えてくれた。

・・・私のそばにいなければ、こんなことにならなかったのに。
私が、私さえいなければ。

私が、ジョセフの未来を奪ってしまった?

私が、いなければ、良かったのに。

苦しい。息が詰まる。

・・・なぜ、こんなことに?

でも、私には苦しむ資格すらないのかもしれない。
どれだけ涙を流しても、過去を変えることはできないのだから。
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