そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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カタン

また少しだけ大きくなったハル様。


「次に母上に会えるのはいつだ?」

優しげな女官が答える。
「そうですねぇ・・・いい子にして勉強を続けていればひと月後にはお目に掛かれますよ。もちろん予定が変わることはありますけど」
「そうか」

ちっちゃなハル様が肩を落とし、がっかりしている。
それを見た女官も罪悪感でいっぱいな顔つき。
でもそう言うしかない環境に置かれているってこともわかる。

「下賎な感情を欲しがるとは、罪深いことなのだろうな」

ポツリとつぶやくハル様の言葉。
涙が出そう。




カタン

あ、お茶会だ。
白いテーブルクロスに白いドレス。
ちっちゃなハル様も白い服をきている。
あー、ホワイトパーティーかな?
話に聞くと素敵だけど、見ても素敵。
なのに、ちっちゃなハル様がポツンと座っている姿を見ると、胸が締め付けられそうになる。

「どうぞ」
「うむ」

ちっちゃなハル様がお茶に口をつける。

(苦い・・・)

子供には、お茶は苦いよね?
何か甘いものでも食べさせてあげたら?

お茶を飲むハル様の姿をじっと見る王妃様。
出産した直後よりも、随分とお痩せになった?そして、顔つきが厳しくなったような・・・

「ハルヴァート」

王妃様が氷のような声をかける。

「好き嫌いはなりませんよ。お前が好き嫌いを言うことで仕事を失うものがいるのです」
「申し訳ありませんでした。お母様」

ちっちゃなハル様がますます小さく体を縮め、必死でお茶と格闘している。

(お母様が見てる。いい子にしなきゃ)

そう思って必死でお茶を飲むハル様。

(ああよかった、なんとか飲めた)

ふとハル様の頬が緩んだ。その瞬間。

バシッ

ハル様の手を、王妃様が扇で叩いた。

「笑うでない。感情をおもてに出すなど品がない。お前はこの国の世継ぎなのですよ」
「ごめんなさい」

ハル様の目が大きく見開かれ、涙があふれそうだ。
必死にこらえて平静を装うハル様。ぎゅっと抱きしめてあげたい。

王妃様がすっと立ち上がった。

「茶は飲んだな?今日はもう終いとする」

そのまま立ち去る王妃様。

「ごめんなさい。お母様。お許しください。ご不快な気分にさせてしまって・・・」

ハル様の細い声が震える。王妃様は振り返りもせずに女官達を引き連れてどこかに行ってしまった。
ちっちゃな子に可哀想すぎる。なんで、こんなにいじめるの?

「お母様、振り返ってくださらなかった」
「お忙しい方だから仕方がありませんよ。私たちも戻りましょう」

その場を取り繕おうとする女官の言葉。
誰もが知っている。本当のことじゃないって。



カタン


しばらくあと。
今は夜だ。
石造りの部屋の中、ハル様がいる。
多分ここは寝室だ。白いリネンのかかった天蓋付きの大きなベッド。床には暖かそうなラグ。
小さなハル様はワンピースのような子供用の白い寝間着を着ている。
寝間着姿のハル様って・・・かわいい!!
黒髪とスカイブルーの瞳が今のハル様と同じ。
それ以外は全部ちっちゃくて人形みたい!

乳母の人なのかな?少し年配の優しそうな女の人が声をかける。
「ハルヴァート様、そろそろお休みのお時間ですよ」
「はい」
「まあ、お利口ですね」
「ぼくはお世継ぎ様なので、きちんとしなくてはいけないのです」
「流石でございます」

女の人はそう言うと、ハル様をベッドに寝かしつけ「おやすみなさいませ」と告げ、部屋を真っ暗にして立ち去った。

真っ暗な中、ハル様の表情が見える。
女官が去った瞬間に不安が目をよぎる。
人のいるところでは感情を出してはならない。
感情は有害なもの。
品のないもの。
これ以上、お母様に嫌われないようにしないと。

閉じたドアに目を向け、ぎゅっと閉じる。

「さみしくない、こわくない、さみしくない、こわくない・・・」

小さな声で繰り返す。

そうだよね、怖いよね。
こんなおばけでもでそうな古いお城のどこかにたった一人。
まだまだ小さな子どもだもんね。

「こわくない、こわくない・・・僕はお世継ぎ様だから、こわいと思ってはならないのだ・・・だからこわくない・・・」

声は次第に小さくなり、ハル様が眠くなってきたのがわかった。

側でぎゅっとしてあげたい。大丈夫だよって言ってあげたい。
小さなハル様の温かい体を、私が包んであげたいのに。
手足が冷えていたら、優しくこすって温めてあげたい。
そばに行きたいよ、ハル様。



「ステラ」

遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。
あの声は、誰?
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