そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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カタン

また画面が切り替わった。

あれから、随分時間が経ったみたい。
ちいさなハル様は少年のハル様に成長していた。
かっちりとしたコートとベストのハル様スタイルに変化している。
色ももう白ではない。好きな色を着られるようになったのかな?
せめて、それぐらいは自由にさせてあげてほしいな。

「王位を継ぐ者の務めとして、子を成さねばなりません」
「・・・」
「ふさわしいものを婚約者候補としてお選びしております。いずれも素晴らしいご令嬢ばかりです。特に、筆頭候補とも言うべきルシアナ嬢は・・・」

ハル様が小さくため息をついて窓の外を見た。

(結婚相手も決められているのだな)

ハル様の心が伝わってくる。
目の前で話しているのは、誰かは知らないけど偉い人なんだろう。白いものが混じった髪の毛と威厳のある佇まいがその地位を示している。偉い人は言葉を続けるが、その言葉は素通りし、ハル様の心には届かない。

「ついては、ご令嬢方と親睦を深めていただくためにお茶会を定期的に・・・」
「なんでもよい」

ハル様が飽き飽きとしたように手を振った。

(また、茶会か。茶会ばかりだ)

「ご令嬢と話す内容を用意しろ。毎回、そうだな、5問ぐらい当たり障りがない質問を用意しろ、それでいいだろう」
「かしこまりました」
「それでよければ下がれ」
「はっ」

偉い人が退出すると、ハル様がうんざりしたようにソファーに体を預けた。

「跡取り・・・まあ、そうだろうな。私は"お世継ぎ様"だからな。次の"お世継ぎ様"を残さねばならぬ。分かってはいるのだが・・・」

ぽつりと呟く声が響く。まるで、自分のことではない、と思っているように。
単なる王位を継ぐための道具として扱われていることには気がつかないふりをしようと決めているかのように。

そこにいるのは、まだ幼い子供のハル様だった。
こんなに小さいのに、こんなに重いものを肩に背負って、たった一人で静かに耐えている。その姿を見ていると、なぜか涙がこぼれた。

「愛とはなんなのだ。下賎な感情だと言うものもいれば、この世界で最も重要な感情だと言うものもいる。議論が分かれすぎていてはっきりしないな。
ただ・・・愛し愛されるものは皆満ち足りているようだ。幸せだ、と。
愛とは、いったいどのような感覚なのだろうな。謎に満ちておるが、一度でいいから経験してみたいものだ・・・ははは、贅沢すぎる望みか。私には」





カタン


学園の私の部屋。
ハル様の婚約者として与えられたその部屋の中で私たちは向き合っている。

「ハル様、私のこと、好きなんですか?」
「わからないんだ。感情というものがわからない」

あの時。
私、実はすごくショックじゃなかった?
好きかどうかがわからないなんて、そんなことあるのって、思わなかった?

「私には母に抱きしめられた記憶すらない」
「君は私にこの世界には感情があり、人には心があると教えてれた」
「君を誰にも渡したくない」

ハル様は、正直に気持ちを話してくれていたのに。
私、自分の気持ちばっかりで、ハル様の気持ちを受け止めようとしなかった?

だって、こんなことがあるなんて。
母親が子供を愛さないなんて。
そんなことがあるとは思わなかったの。
いくら王妃様だって、自分の子は可愛いだろうって思い込んでた。

前世でも今生でも、両親は私を愛してくれた。
何がなんでも私を守り抜こうとしたとうさま。
私に愛をたっぷりと与え、いつだってこの世に生を受けたことを感謝してくれたお母さん。
貧しくたって愛がたくさんで、いつも心は満ち足りていた。

でも、ハル様は・・・国一番の権力者だろうと、そんなことは関係ない。
たぶん、私の想像を超えた複雑な人間関係。
親だから子を愛するのが当然とか、そんな話以上に、複雑な話。
まだ、理解はできない。

でも、ハル様のせいじゃないってことはわかる。

そして、ハル様は精一杯私に向き合ってくれていたってことも。
不器用なあなたはあなたなりに私を愛して大切にしてくれていた。
そして愚かな私はそれを当然だと思っていなかった?


「ステラ、可愛い・・・」

そう言いながら私を抱きしめたハル様の心は、私に対する「好き」でいっぱいじゃなかった?
私だって、ハル様が好きで、大好きで、このままハル様の中に溶け込んでしまいたいってぐらい、好きじゃなかった?
大好きだって、告げるべきだった?

そう。そうだったのかもしれない。




「ステラ」
「ステラ、戻ってこい」

遠くから聞こえる声。誰の声なのか、もうわかっている。
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