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236 エピローグ 【男爵領の人たち】
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2年後。
学園を卒業してから、半年後の春、ハル様と私は結婚することになった。
今日はいよいよ結婚式。
朝早くから神殿で身を清め、着々と準備が進められている。
大聖堂の外には、多くの国民が詰めかけ、私たちを祝福する声が私のいる控え室にまで届いている。
この日のために作られた長いトレーンの純白のドレスは当然ディライト家の絹。最高級の絹は美しいドレープを生み光沢を放っている。
そしてベールはセオドアのお手製。
「こんな日が来ると思ってたんだ」と言いながら美しいレース編みをプレゼントしてくれた時には、思わず涙が溢れた。
「聖女様、そろそろお時間でございます」
アナさんの声が聞こえる。
「はい」
そう言って立ち上がると、これからの儀式への不安と緊張で胸が押しつぶされそうになる。
気づかないうちに、私の体は小刻みに震えていた。
今までとは違う生活。
王太子妃になることを考えただけで、その地位の重さに震えがくる。
「スー。大事な姉さん。幸せになって」
セオドアが私を抱きしめる。
「らしくないよ。緊張してるの?」
「うん」
「じゃ、結婚やめる?」
「そりゃ無理でしょ」
「わかってるじゃん。じゃあ、頑張ってきなよ」
「うん。ありがとう。」
何故かセオの軽口で気持ちが軽くなる。
そうだった。いつもこうやって私の荷物を半分持つようにして、私が楽になるように促してくれた。
大事な兄弟。
あんたと兄弟でよかった。
私はにっと笑うと、セオドアの額に軽く頭突きした。
「いたっ」
「油断禁物!」
「花嫁のくせに」
「ふふふ」セオドアをぎゅっと抱きしめると、震えがいつの間にか治っていた。
「おめでとう、綺麗よ」輝かしいほど美しいヴィー様も私を抱きしめてくれる。亡き母の代わりにと、嫁ぐための準備に心を砕いてくれたヴィー様からは、初めて会った時の寂しさも後悔も跡形もない、苦しみを乗り越えた力強さが感じられた。
きっと、子供達の成長を見守る中、そのなんの打算もない愛情に触れ、この方はひとりの人間として成熟していったのだろう。ただ表面だけが美しいのではない、内面の優しさがにじみ出て包み込むような美しさに変わっていた。
「ありがとうございます。とうさまとセオをお願いします」
今なら、この人になら、お願いできる。
きっとお母さんもそう望むに違いない。
「ふふ、任せて」
優しく笑ったヴィー様の笑顔はまるでもう一人のお母さんのようだった。
そして私はとうさまと向き合った。
私をハル様に引き渡す大役を担っているとうさまは、金糸の刺繍が入った紺色のコートをまとい、いつもよりビシッと決まっている。でも、その目は真っ赤だった。
「おめでとう、私の娘。愛しているよ。幸せに」
とうさまの目の中に、思いがよぎる。
喜び、悲しみ、後悔、愛情。
たくさんの感情が複雑に絡み合い、そして藍の瞳に溶けていく。
「とうさま、いままでありがとうございました。とうさまとお母さんの娘であることが私の誇りです」
声が震える。涙がぽろりとこぼれた。
「大事な日に涙なんて」そう言って私の目をぬぐいながら、とうさまの目からも一粒涙が落ちた。
互いに相手の目元をハンカチで押さえ、目があうと思わず笑ってしまう。
「大事な娘。王太子殿下に愛想が尽きたらいつでも戻ってこい」
「ふふ、そうします」
私たちはぎゅっと抱きしめあった。
結婚してもとうさまの娘であることは変わらない。
でも、これからは、今までとは少し違ってしまう。見えない未来に不安がよぎり、つい戻りたくなる。
その時。
遠くから、国民の歓声が聞こえてきた。
私を待つ、人々の声。
たくさんの人々が私を応援し支えてくれている。
これからは、ただの男爵令嬢ではなくなる。
聖女であり、王子妃になるんだ。
どちらも、人のために在る存在。
私が民を支え、民が私を支える。
まだ不安が消えたわけじゃない。
でも、傍らにはいつでもハル様がいる。
共に精一杯尽くそう。
私はとうさまに手を引かれ、ハル様の待つ祭壇の前に向かって足を踏み出した。
学園を卒業してから、半年後の春、ハル様と私は結婚することになった。
今日はいよいよ結婚式。
朝早くから神殿で身を清め、着々と準備が進められている。
大聖堂の外には、多くの国民が詰めかけ、私たちを祝福する声が私のいる控え室にまで届いている。
この日のために作られた長いトレーンの純白のドレスは当然ディライト家の絹。最高級の絹は美しいドレープを生み光沢を放っている。
そしてベールはセオドアのお手製。
「こんな日が来ると思ってたんだ」と言いながら美しいレース編みをプレゼントしてくれた時には、思わず涙が溢れた。
「聖女様、そろそろお時間でございます」
アナさんの声が聞こえる。
「はい」
そう言って立ち上がると、これからの儀式への不安と緊張で胸が押しつぶされそうになる。
気づかないうちに、私の体は小刻みに震えていた。
今までとは違う生活。
王太子妃になることを考えただけで、その地位の重さに震えがくる。
「スー。大事な姉さん。幸せになって」
セオドアが私を抱きしめる。
「らしくないよ。緊張してるの?」
「うん」
「じゃ、結婚やめる?」
「そりゃ無理でしょ」
「わかってるじゃん。じゃあ、頑張ってきなよ」
「うん。ありがとう。」
何故かセオの軽口で気持ちが軽くなる。
そうだった。いつもこうやって私の荷物を半分持つようにして、私が楽になるように促してくれた。
大事な兄弟。
あんたと兄弟でよかった。
私はにっと笑うと、セオドアの額に軽く頭突きした。
「いたっ」
「油断禁物!」
「花嫁のくせに」
「ふふふ」セオドアをぎゅっと抱きしめると、震えがいつの間にか治っていた。
「おめでとう、綺麗よ」輝かしいほど美しいヴィー様も私を抱きしめてくれる。亡き母の代わりにと、嫁ぐための準備に心を砕いてくれたヴィー様からは、初めて会った時の寂しさも後悔も跡形もない、苦しみを乗り越えた力強さが感じられた。
きっと、子供達の成長を見守る中、そのなんの打算もない愛情に触れ、この方はひとりの人間として成熟していったのだろう。ただ表面だけが美しいのではない、内面の優しさがにじみ出て包み込むような美しさに変わっていた。
「ありがとうございます。とうさまとセオをお願いします」
今なら、この人になら、お願いできる。
きっとお母さんもそう望むに違いない。
「ふふ、任せて」
優しく笑ったヴィー様の笑顔はまるでもう一人のお母さんのようだった。
そして私はとうさまと向き合った。
私をハル様に引き渡す大役を担っているとうさまは、金糸の刺繍が入った紺色のコートをまとい、いつもよりビシッと決まっている。でも、その目は真っ赤だった。
「おめでとう、私の娘。愛しているよ。幸せに」
とうさまの目の中に、思いがよぎる。
喜び、悲しみ、後悔、愛情。
たくさんの感情が複雑に絡み合い、そして藍の瞳に溶けていく。
「とうさま、いままでありがとうございました。とうさまとお母さんの娘であることが私の誇りです」
声が震える。涙がぽろりとこぼれた。
「大事な日に涙なんて」そう言って私の目をぬぐいながら、とうさまの目からも一粒涙が落ちた。
互いに相手の目元をハンカチで押さえ、目があうと思わず笑ってしまう。
「大事な娘。王太子殿下に愛想が尽きたらいつでも戻ってこい」
「ふふ、そうします」
私たちはぎゅっと抱きしめあった。
結婚してもとうさまの娘であることは変わらない。
でも、これからは、今までとは少し違ってしまう。見えない未来に不安がよぎり、つい戻りたくなる。
その時。
遠くから、国民の歓声が聞こえてきた。
私を待つ、人々の声。
たくさんの人々が私を応援し支えてくれている。
これからは、ただの男爵令嬢ではなくなる。
聖女であり、王子妃になるんだ。
どちらも、人のために在る存在。
私が民を支え、民が私を支える。
まだ不安が消えたわけじゃない。
でも、傍らにはいつでもハル様がいる。
共に精一杯尽くそう。
私はとうさまに手を引かれ、ハル様の待つ祭壇の前に向かって足を踏み出した。
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