そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

文字の大きさ
240 / 247
5 フィナーレ

236 エピローグ 【男爵領の人たち】

しおりを挟む
2年後。

学園を卒業してから、半年後の春、ハル様と私は結婚することになった。
今日はいよいよ結婚式。
朝早くから神殿で身を清め、着々と準備が進められている。
大聖堂の外には、多くの国民が詰めかけ、私たちを祝福する声が私のいる控え室にまで届いている。

この日のために作られた長いトレーンの純白のドレスは当然ディライト家の絹。最高級の絹は美しいドレープを生み光沢を放っている。
そしてベールはセオドアのお手製。
「こんな日が来ると思ってたんだ」と言いながら美しいレース編みをプレゼントしてくれた時には、思わず涙が溢れた。

「聖女様、そろそろお時間でございます」
アナさんの声が聞こえる。
「はい」
そう言って立ち上がると、これからの儀式への不安と緊張で胸が押しつぶされそうになる。
気づかないうちに、私の体は小刻みに震えていた。
今までとは違う生活。
王太子妃になることを考えただけで、その地位の重さに震えがくる。

「スー。大事な姉さん。幸せになって」
セオドアが私を抱きしめる。
「らしくないよ。緊張してるの?」
「うん」
「じゃ、結婚やめる?」
「そりゃ無理でしょ」
「わかってるじゃん。じゃあ、頑張ってきなよ」
「うん。ありがとう。」
何故かセオの軽口で気持ちが軽くなる。
そうだった。いつもこうやって私の荷物を半分持つようにして、私が楽になるように促してくれた。
大事な兄弟。
あんたと兄弟でよかった。
私はにっと笑うと、セオドアの額に軽く頭突きした。
「いたっ」
「油断禁物!」
「花嫁のくせに」
「ふふふ」セオドアをぎゅっと抱きしめると、震えがいつの間にか治っていた。

「おめでとう、綺麗よ」輝かしいほど美しいヴィー様も私を抱きしめてくれる。亡き母の代わりにと、嫁ぐための準備に心を砕いてくれたヴィー様からは、初めて会った時の寂しさも後悔も跡形もない、苦しみを乗り越えた力強さが感じられた。
きっと、子供達の成長を見守る中、そのなんの打算もない愛情に触れ、この方はひとりの人間として成熟していったのだろう。ただ表面だけが美しいのではない、内面の優しさがにじみ出て包み込むような美しさに変わっていた。
「ありがとうございます。とうさまとセオをお願いします」
今なら、この人になら、お願いできる。
きっとお母さんもそう望むに違いない。
「ふふ、任せて」
優しく笑ったヴィー様の笑顔はまるでもう一人のお母さんのようだった。

そして私はとうさまと向き合った。
私をハル様に引き渡す大役を担っているとうさまは、金糸の刺繍が入った紺色のコートをまとい、いつもよりビシッと決まっている。でも、その目は真っ赤だった。
「おめでとう、私の娘。愛しているよ。幸せに」
とうさまの目の中に、思いがよぎる。
喜び、悲しみ、後悔、愛情。
たくさんの感情が複雑に絡み合い、そして藍の瞳に溶けていく。

「とうさま、いままでありがとうございました。とうさまとお母さんの娘であることが私の誇りです」
声が震える。涙がぽろりとこぼれた。
「大事な日に涙なんて」そう言って私の目をぬぐいながら、とうさまの目からも一粒涙が落ちた。
互いに相手の目元をハンカチで押さえ、目があうと思わず笑ってしまう。
「大事な娘。王太子殿下に愛想が尽きたらいつでも戻ってこい」
「ふふ、そうします」
私たちはぎゅっと抱きしめあった。
結婚してもとうさまの娘であることは変わらない。
でも、これからは、今までとは少し違ってしまう。見えない未来に不安がよぎり、つい戻りたくなる。

その時。
遠くから、国民の歓声が聞こえてきた。
私を待つ、人々の声。
たくさんの人々が私を応援し支えてくれている。
これからは、ただの男爵令嬢ではなくなる。
聖女であり、王子妃になるんだ。
どちらも、人のために在る存在。
私が民を支え、民が私を支える。

まだ不安が消えたわけじゃない。
でも、傍らにはいつでもハル様がいる。
共に精一杯尽くそう。

私はとうさまに手を引かれ、ハル様の待つ祭壇の前に向かって足を踏み出した。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...