そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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5 フィナーレ

237 エピローグ 【リカルド、ジョセフ、ケイレブ】

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「聖女様、聖女様あああ」
大聖堂の外ではリカルドが泣き崩れていた。
本当はリカルドも列席するはずだったが、泣きすぎて立っていられないため、怒ったベリ神官長・・・ではなくて大神官に追い出されたのだ。
「なぜ私を捨てて、他の男と結婚なさるのですか・・・うおーん、うおーん。しかも、聖女様のために建てた白亜の館は、男なんかに汚染されてしまいました。くうう。それというのも、これというのも、あのにっくき王太子のせい!権力者だから、なんだっていうんだよ!うおーん、うおーん」


「これぞ、負け犬の遠吠えだな」
ジョセフがうんうんと頷く。
隣にいるビルと目を見合わせるとハイタッチした。

いま、ジョセフとケイレブ、ビルの3人は、大聖堂を見下ろせる小高い丘の上にいる。
リカルドの泣き声は風に乗り、鐘の音とともに丘の上まで届いていた。
鳴り響く鐘は儀式が滞りなく終わり、結婚が無事成立したことを伝えている。

眼下の広場は、結婚式を終えた新王太子夫妻の姿を一目見ようと集まった大勢の人々でびっしりと埋まっていた。
そして、ここからでもバルコニーに現れる新王太子夫妻の姿を小さくはあるが、眺めることができる。
あと少しで、王太子と新王太子妃が出てくるはずだ。
期待と興奮に包まれた広場の熱気はここまで伝わってくる。

「とうとう、結婚しちまったな」ケイレブがぽつりと言った。
「そうだな。まあ、こうなることは決まっていたからな」教会の尖塔の一つを眺めながらジョセフが呟いた。

ステラに治癒されてから、浄化の力が強過ぎたせいで、ジョセフには重篤な後遺症が残った。
普通の人の枠には治らない浄化と治癒の力を得た代わりに、人の考えていることが濁流のように流れ込んでくるようになってしまった。生活すらままならず、長い時間をかけて教団の白亜の館で訓練と治療を行ってきたのだ。
なんとか静かな環境でなら普通に暮らせるまでに回復したが、人の多いところでは声が聞こえ過ぎてしまい、耐えられない。そのため、騎士団への入団は諦めることになった。

「で?お前はこれからどうするんだ?」
「ま、しばらく旅に出るよ」
「そうか」
「うん」
「まあ、旅に疲れたらいつでも遊びに来いよ。辺境にだっていい娘はいるんだぞ?」

ケイレブが慰めるように言う。そんなケイレブを横目でちらりと見ると、ジョセフはぽつりと呟いた。

「そうだな。でも、もう恋はしない。僕にとっての恋は一度だけだ」
「まあ、そう言うなよ」ケイレブがガッとジョセフの肩に手を回した。「きっと時が解決してくれるさ」

「だといいが。まあ、ないだろうな」ジョセフは立ち上がった。
「スーを見てると、これが愛なのかと思うことがあったんだ。あれは一生に一度だけの特別な体験だったんだろうな」
ジョセフが愛馬の鼻面を撫で、馬に乗った。

「おい、二人の姿は見ないのか?」
「見ない。じゃあ、またな」

ジョセフが馬の腹を軽く蹴り、大聖堂に背を向け、進み出した。

「辺境に遊びに来いよ!その時は一緒に飲もう」

ジョセフは別れを告げるために右手をあげると、そのまま振り返らずに走り去った。

「絶対に、来いよ」
呟いたケイレブの声は、風に消えていく。

「まあ、そのうちきっと遊びにきてくれますよ」

取り成すようなビルの声。

「そうだな、そうなると、いいな」
去っていった友の心にただ平安がくることを願い、背中を見送る。

「恋って、残酷だよな」
苦笑いしながら振り返るケイレブの声には、気の合う友を失った寂しさが響いていた。


その次の瞬間、大歓声が巻き起こった。
いま、大聖堂での式典を終えた王太子夫妻がバルコニーに挨拶に出てきたのだ。
民の歓喜のなか、ジョセフが乗った馬の蹄の音が静かに遠ざかっていった。

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