天使のように可愛い私と可愛くないお姉ちゃんの話

藍音

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20 グレッグ、語る。

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「夕べのことですが、本当にクラリスには手を出したりしていません。
未成年だって事、ちゃんとわかってます。」

グレッグが語り始めた。
「夕べ、酒場でエールを一杯引っ掛けて部屋に戻ろうとした時に、頭からストールをかぶった女が冒険者二人に絡まれていたんです。
女は逃げようとしているようだけど、あいつらかなり酔っ払ってて、商売女だと思って値段交渉してたんですよ。
商売女なら、仕事だし構わないけど、素人っぽいし迷い込んじゃったのかと思って、道端で拾ったガキに服がないから女もんの服着せてるだけですよ、って誤魔化して店の外に連れ出したんです。
まあ、あいつらが相当酔っ払ってて、判断が鈍くなっていたから誤魔化せたんですけど」
グレッグが肩をすくめる。

お父さんがギロッと、私の顔を見る。

「本当か?」

私は首がもげるんじゃないかってくらいの勢いで頷いた。

「素人女みたいだし、まあ、俺も帰って寝るだけだったから、家に送ってやるからさっさと帰れって言ったら、女がスカーフを外したんです。
そしたら、その女がクラリスだったんですよ。俺、マジでびっくりしちゃって。
でも、クラリスをそのまま放っておいたら絶対に危険な目にあうのはわかりきってるし。
営業時間中は従業員用の入り口に鍵がかかってるのも知ってたから、とりあえず、俺の部屋に入れたんです。」

「まあ、筋は通ってるよね」と大兄ちゃん。
「ふん」とお父さん。
「‥‥‥」無言のままのサム兄ちゃん。

「で、なんで夜に酒場に行ったのかって聞いたら、娼婦に恋人の作り方を聞きに行ったって言うんですよ」

お父さんが、ギロリと私を見る。
小さくなる私。お父さん、コワイ。

「だーかーらー、純粋培養しすぎたんだって。」大兄ちゃんが言う。
「危ないと思ってたんだよ。こいつ。幼すぎるだろ?
さっきだって説明してやろうと思ったら止めるし。
ちゃんと知識を与えて自衛させないとダメなんだよ。
こいつだって女なんだから。親父もサムもエラも過保護すぎるんだよ。
情報を遮断しすぎ。」

「ふんっ」お父さんがまた言った。

「クラリスは赤ん坊がどこから来るのか、知ってるのか?」
大兄ちゃんが優しげな声で私を促す。

「知ってるよ。もう子供じゃないもん。」
お父さんがハッと私の顔を見る。

「言ってみな」
大兄ちゃんが優しく促す。

ここは、しっかりアピールしないと!
「教会の屋根に住んでるコウノトリが運んできてくれるんだよ」
ふふん、どうよ?私だって子供じゃないんだからね?
何だって知ってるんだから!えっへん!

「はぁ~~~」

全員が脱力したように感じる。なんで?

「クラリス、それ、あんたが4歳の時に教えた話よね?」
お姉ちゃんが言った。

「うん、そう。私だってしっかり覚えてるんだからね!」
えらいでしょ!私は胸を張った。

「サムがクラリスとエラに近く男をかたっぱしから威嚇するからだよ」
と大兄ちゃん。
「俺だけのせいかよ?エラはそのぐらい知ってたぞ?」

「うるせー」
お父さんが両手をパン!と音を立てて合わせた。
「さすが、うちのクラリスだ。
うちの末っ子はなんでも知ってるんだな。えらいぞ。流石だ。」

「もう、いい加減にしなよ。」
大兄ちゃんが呆れたように呟いた。

「それでだ。」
お父さんが、にっこりと、でもなんとなく寒くなるような笑顔で微笑んだ。

「後一つだけ、わからないことがあるんだよ。
なあ、クラリス?お前なんでグレッグのベッドで寝たんだ?
お父さんにちゃんと教えてくれるよな?」

__________________________________________________

ありがとうございました。

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