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第百七話 傍若無人な国王
日を追うにつれ、使用人たちの不満はどんどん大きくなっていった。
贅沢で傍若無人。さらには辺境を田舎だと言葉の端々で馬鹿にする。
王の評判は下がるばかりだが、その反対に、評価を上げた人もいる。
「姫様はさすがだよな」
だれかがいうと、皆、大きく首を縦に振った。
「王様が使用人を殴っても、うまく言ってやめさせてくださるし」
「酒の取り上げ方もうまいんだ。お体のためにはそろそろ・・・とか言って王を寝室に追い払っちまう」
「なんだかんだで、上手になだめてらっしゃるんだ。それで俺たちがどれだけ助かったか」
「さすが、俺たちの奥方様だよな」
王への失望はそのまま第三王女への称賛に変わっていった。
姫は暴君から民を守る女神のような存在だと、皆があがめ、よい評判は城の使用人を通じて、城下の人々へも広まっていった。
ただ、現実問題として、毎日の給仕の人手が足りなかった。
まさか、姫が給仕をするわけにはいかないし、その日その時の機嫌によって召使いを怒鳴ったり殴ったりする王に仕えたい者は誰一人としていない。
慣れぬ業務に身体を壊したり、仮病を使ったり・・・と日に日に給仕の人数は減っていった。
王は特に、若く美しい娘を好むが、ワインを注ぐ程度では済まないこともある。
手籠めにされて抗議しても、王の側近たちは、むしろ名誉なことだろうと薄笑いを浮かべる。
年ごろの娘たちは、恐怖のあまりだれも部屋から出てこなくなった。無理強いするなら、仕事を辞める、大げさなものは命を絶つと騒ぐ。王のお手付きになったら、この先まともな嫁ぎ先などあるはずもないではないか、と。
田舎とさげすまれた保守的なこの地では、どのような目で見られるかなど火を見るよりも明らかだった。
「とりあえず、俺たちみんなで交代でやるしかないよな」
「そうそう、交代なら殴られても、またすぐに行かなくても済むし」
そんな話し合いの結果、個人の使用人たちからも何人か交代で手伝いに出ることになった。
ただ、基本の給仕は専門の使用人の仕事で、リオたちにできるのはあくまでも給仕たちの補助だ。
さらに、若い女を好む王のために、何人かの未亡人も手配した。未亡人の中には、王に手籠めにされれば運が開ける、と笑う者さえおり、ようやく王が滞在している間の食事の世話の人繰りが付いたと、使用人たちはほっとした。
その日の正餐。
王の近くには数人の若い未亡人がはべり、給仕たちはスムーズに給仕を行っていた。
その給仕たちを支援していたのは、リオたちのような個人の使用人だ。
厨房からどんどん料理を運び、飲み物を切らさないように壁際に並べる。
王は、温かい料理に冷たいデザートに舌鼓を打ち、上機嫌だった。
「ようやくこの城の使用人たちにも、教育が行き届いたようだ」
大声で笑いながらワインを口に運ぶ。
「使用人にも調教が必要なんだ。この城の主はずいぶんと甘やかしていたようだな」
そういいながら、目の前に置かれていた若鶏のローストを少しつまみ、床に落とした。
それを見た使用人たちがさっきまでつやつやとしておいしそうだった料理の残骸を目で追い、気づかれないようにため息をつく。
王はいつも一口食べると床に捨ててしまう。
良い領主なら、自分が食べたものをすべて床に落したりしない。
少し取って使用人に回せば、みなが食べられるからだ。
だが、王にはそのような気遣いは皆無だった。
腹が満たされれば、今夜のベッドを温める女を物色する。女たちのなまめかしい目つきや胸や尻をじろじろと眺めて舌なめずりしながら、あごを撫でた。
王宮にいれば王妃や愛妾たちの目が光っているから、ここまで好き勝手には過ごせない。
これからも姫の様子を見に来なくては。
そして、今夜の相手は・・・王は、自分に酒を注ぎながら体を寄せてきた、黒髪の女の体臭を吸い込んだ。もうこの女は食ったし・・・新しい女は・・・あっちの女は好みじゃないな。やせっぽっちすぎる。黒髪の女が胸を押し付け、その気になりかけた瞬間、部屋の端にワインを運び込んできた若い男が目についた。
お盆いっぱいのワインを運んでいるのに、きびきびとした動き。
しなやかに動く細い腰。
品の良いいでたちに、美しい顔。
これほどの美貌は王都にもそうはいない。
王の酒で濁った眼がリオを捕らえた。
(美しい男だ)
「おい、お前」
王が声をかけると、部屋中の視線がリオに集まり、息をのんだ。
「今すぐ酒を注げ。いや、お前じゃない」側に侍る黒髪の女を腕で払い、リオをまっすぐと見つめる。
「お前だ、お前」
「・・・え?」
人手不足でワイン運びの手伝いに来ただけのリオは、ポカンとして周りを見回した。
自分の後ろは壁だから、誰もいないし・・・俺?だって、王様の給仕は、専門の給仕がやるんじゃなかったのか?なぜ俺が?きょろきょろしたが、みんな気まずそうに視線をそらしていた。
「あの、俺は下働きなので・・・?」
「早くしろ」
王はイラついた態度を見せながら、心の中では舌なめずりしていた。
気に入った。久しぶりに若い男を抱いてやるのも悪くない。
*************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
明日から仕事再開の方も多いかと思います。
憂鬱ではありますが、新年の出勤、交通安全に気を付けてくださいね!
風邪をひかないよう、皆さんの健康を願っています。
♡と広告をありがとうございました。
贅沢で傍若無人。さらには辺境を田舎だと言葉の端々で馬鹿にする。
王の評判は下がるばかりだが、その反対に、評価を上げた人もいる。
「姫様はさすがだよな」
だれかがいうと、皆、大きく首を縦に振った。
「王様が使用人を殴っても、うまく言ってやめさせてくださるし」
「酒の取り上げ方もうまいんだ。お体のためにはそろそろ・・・とか言って王を寝室に追い払っちまう」
「なんだかんだで、上手になだめてらっしゃるんだ。それで俺たちがどれだけ助かったか」
「さすが、俺たちの奥方様だよな」
王への失望はそのまま第三王女への称賛に変わっていった。
姫は暴君から民を守る女神のような存在だと、皆があがめ、よい評判は城の使用人を通じて、城下の人々へも広まっていった。
ただ、現実問題として、毎日の給仕の人手が足りなかった。
まさか、姫が給仕をするわけにはいかないし、その日その時の機嫌によって召使いを怒鳴ったり殴ったりする王に仕えたい者は誰一人としていない。
慣れぬ業務に身体を壊したり、仮病を使ったり・・・と日に日に給仕の人数は減っていった。
王は特に、若く美しい娘を好むが、ワインを注ぐ程度では済まないこともある。
手籠めにされて抗議しても、王の側近たちは、むしろ名誉なことだろうと薄笑いを浮かべる。
年ごろの娘たちは、恐怖のあまりだれも部屋から出てこなくなった。無理強いするなら、仕事を辞める、大げさなものは命を絶つと騒ぐ。王のお手付きになったら、この先まともな嫁ぎ先などあるはずもないではないか、と。
田舎とさげすまれた保守的なこの地では、どのような目で見られるかなど火を見るよりも明らかだった。
「とりあえず、俺たちみんなで交代でやるしかないよな」
「そうそう、交代なら殴られても、またすぐに行かなくても済むし」
そんな話し合いの結果、個人の使用人たちからも何人か交代で手伝いに出ることになった。
ただ、基本の給仕は専門の使用人の仕事で、リオたちにできるのはあくまでも給仕たちの補助だ。
さらに、若い女を好む王のために、何人かの未亡人も手配した。未亡人の中には、王に手籠めにされれば運が開ける、と笑う者さえおり、ようやく王が滞在している間の食事の世話の人繰りが付いたと、使用人たちはほっとした。
その日の正餐。
王の近くには数人の若い未亡人がはべり、給仕たちはスムーズに給仕を行っていた。
その給仕たちを支援していたのは、リオたちのような個人の使用人だ。
厨房からどんどん料理を運び、飲み物を切らさないように壁際に並べる。
王は、温かい料理に冷たいデザートに舌鼓を打ち、上機嫌だった。
「ようやくこの城の使用人たちにも、教育が行き届いたようだ」
大声で笑いながらワインを口に運ぶ。
「使用人にも調教が必要なんだ。この城の主はずいぶんと甘やかしていたようだな」
そういいながら、目の前に置かれていた若鶏のローストを少しつまみ、床に落とした。
それを見た使用人たちがさっきまでつやつやとしておいしそうだった料理の残骸を目で追い、気づかれないようにため息をつく。
王はいつも一口食べると床に捨ててしまう。
良い領主なら、自分が食べたものをすべて床に落したりしない。
少し取って使用人に回せば、みなが食べられるからだ。
だが、王にはそのような気遣いは皆無だった。
腹が満たされれば、今夜のベッドを温める女を物色する。女たちのなまめかしい目つきや胸や尻をじろじろと眺めて舌なめずりしながら、あごを撫でた。
王宮にいれば王妃や愛妾たちの目が光っているから、ここまで好き勝手には過ごせない。
これからも姫の様子を見に来なくては。
そして、今夜の相手は・・・王は、自分に酒を注ぎながら体を寄せてきた、黒髪の女の体臭を吸い込んだ。もうこの女は食ったし・・・新しい女は・・・あっちの女は好みじゃないな。やせっぽっちすぎる。黒髪の女が胸を押し付け、その気になりかけた瞬間、部屋の端にワインを運び込んできた若い男が目についた。
お盆いっぱいのワインを運んでいるのに、きびきびとした動き。
しなやかに動く細い腰。
品の良いいでたちに、美しい顔。
これほどの美貌は王都にもそうはいない。
王の酒で濁った眼がリオを捕らえた。
(美しい男だ)
「おい、お前」
王が声をかけると、部屋中の視線がリオに集まり、息をのんだ。
「今すぐ酒を注げ。いや、お前じゃない」側に侍る黒髪の女を腕で払い、リオをまっすぐと見つめる。
「お前だ、お前」
「・・・え?」
人手不足でワイン運びの手伝いに来ただけのリオは、ポカンとして周りを見回した。
自分の後ろは壁だから、誰もいないし・・・俺?だって、王様の給仕は、専門の給仕がやるんじゃなかったのか?なぜ俺が?きょろきょろしたが、みんな気まずそうに視線をそらしていた。
「あの、俺は下働きなので・・・?」
「早くしろ」
王はイラついた態度を見せながら、心の中では舌なめずりしていた。
気に入った。久しぶりに若い男を抱いてやるのも悪くない。
*************
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