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第百十八話 屈辱
「愛?」
アウレリオが口の端を上げた。
なんだ、その不確定なものは。しかも、それがすべての免罪符になるような態度は、まったく理解できない。
「そうよ!私は、あなたを愛していたから結婚したのよ!一目で心を奪われたから。それなのに、なぜこんな仕打ちを・・・」
セラフィーナが顔を両手で覆ってしゃくりあげた。
その肩は弱弱しく震えている。
「ひどい・・・ひどすぎる・・・」
泣き続けるセラフィーナに、アウレリオは戸惑っていた。
目の前で行われている、この道化芝居は何なんだ?
王都に帰りたい、と主張したかと思えば、次は愛?
何がしたいのかも、何を主張しているのかもわからない。
「・・・あなたは私に対して、政略結婚の最低要件しか求めないと明言しただろう。互いの条件が合ったから交わした契約に過ぎない。もうこれ以上後悔するようなことを言うな」
「だって・・・そんなの・・・そうでも言わなければ、あなたは了承してくれなかったでしょう?」姫は一層大きな声を上げて泣き崩れた。
国一番の姫が、自分を愛していると言って泣いている。
で?それで?・・・つまり、
「私を、嵌めたのか」
しんとしずまりかえった部屋の中で、アウレリオの低い声が響いた。
姫ははっとして息を飲んだ。どうも思っていたのとは違う方向に展開しているようだ。
「最初からおかしいと思っていた。あなたの誕生会。エミリアを婚約者として届け出たのに、配席された場所は私から遠く離れていた。エミリアは見知らぬ人ばかりの中に一人放り出され、しかも侍女まで強引に酒を勧められて、持ち場を離れた。普通なら、ありえないことだ。そして続いたあの騒ぎ・・・そういえば、あなたもあの場にいたな。むしろ、あなたがいたことで、事件が皆に知られ、大ごとになってしまった。あれは、あなたの命令だったのか?」
アウレリオのすがめた視線がきらりと光った。その視線に耐えきれず、セラフィーナはプイっと顔をそらした。
「あんな・・・あんな女・・・あなたにふさわしくない。身分だって低いし、容姿だって・・・あなたは私に感謝するべきよ!」
「そうか・・・そうだな」
アウレリオは考え込むように顎に手を当てた。
「確かにあなたの方が身分も高いし、美しい」
「そうよ!その通りよ!なのにあなたは・・・わたくしと結婚できたことを感謝もせずに、冷たい態度ばかり。しかも、あの男娼とまで・・・」
セラフィーナがはっと自分の口を両手で覆った。
「男娼?・・・男娼とは穏やかではないが」
「あ、あんなやつ、男娼じゃない!わたくしにだって目があるのよ!あなたとあの男娼は・・・!!!」
「私とあの男娼が?」
アウレリオがセラフィーナをじっと見つめた。
「・・・あの男娼が、なんだと?」
部屋の中の空気が凍り付いた。
アウレリオの声がより低く響き、その怒りがひしひしと伝わってくる。
部屋の温度は急激に下がり、まるで雪のような結晶がちらちらと部屋の中を舞い始める。あまりのさむさにセラフィーナは両手で自分を抱きしめた。
ぴしっと音が鳴り、窓ガラスが凍り付いた。
手元のコップの水は凍り、窓にも亀裂が入った。
「覚えておけ。あの『男娼』とやらの主人は私だ。あれを侮辱することは私を侮辱すること。次はない、殺すぞ」
アウレリオの金色の瞳がぎらっと光り、セラフィーナの胃がぎゅっと握り締められたように痛くなった。膝ががくがくと震え、くらくらする。
今までこれほど恐ろしいと思ったことはなかった。
この人は、なぜこんなに恐ろしくて、そして美しいの?
「早くこの地を去れ」
アウレリオがセラフィーナの肩をつかみ、床に突き飛ばした。セラフィーナの歯はがちがちと音を立て、寒くて震えが止まらない。
「この地の主は私だ。お前が頼りにしている父親など、何の力もない。ただこちらが耐えてやっているだけだと、いい加減理解してもいいころだがな」
アウレリオは部屋を装飾していた花瓶を左手で床に叩き落とした。
花瓶の破片が飛び散り、姫の手を傷つけた。
だが、恐ろしさと怖いぐらいの魅惑の前でどうすることもできない。
少しでも優しくしてくれれば、すべて許してあげるのに。
「それから言っておこう。お前の言う、美しくもなく身分もない相手の方が、よほど好都合だった。お前よりもな。邪魔をしやがって」
床に座り込んでいるセラフィーナをもう一度にらみつけると、去り際にうっ憤をぶつけるように、ばたんとドアを閉めた。
***********
「邪魔・・・邪魔ですって?」
そんな言葉を言う人間がいるなんて・・・いえ、そもそも人間なの?あのぎらぎら光る金色の瞳はまるで魔物・・・それとも、森にひそむけだもの?なのに・・・くやしい。
なぜここまで惹きつけられるのかわからない。
最初は、ただの好意だと思っていたのに。
結婚して生活を共にすれば、必ず愛されると思っていた。
むしろ泥沼のような恋に落ちたのは自分の方だったじゃない。
胸の奥がきりきりと痛み、震えが止まらない。
セラフィーナは床でこぶしを握り締めた。
(ゆるせない・・・ゆるせない。あの男娼のことも許せない。思い知らせてやらなければ。自分が何を失うのか、よくわからせてやらなければならない。私はこの国の第三王女であり・・・この家の正式な夫人なのよ・・・殺してやる。いえ、死よりももっと深い屈辱を与えなければ気がすまない)
そうよ、死よりももっと・・・屈辱を与えなければ。
************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
いつも♡と広告もありがとうございます。
寒波が来るようです。
温かくして、カイロも常備してお出かけくださいね!
日本海側の方は雪にも気を付けてください。
アウレリオが口の端を上げた。
なんだ、その不確定なものは。しかも、それがすべての免罪符になるような態度は、まったく理解できない。
「そうよ!私は、あなたを愛していたから結婚したのよ!一目で心を奪われたから。それなのに、なぜこんな仕打ちを・・・」
セラフィーナが顔を両手で覆ってしゃくりあげた。
その肩は弱弱しく震えている。
「ひどい・・・ひどすぎる・・・」
泣き続けるセラフィーナに、アウレリオは戸惑っていた。
目の前で行われている、この道化芝居は何なんだ?
王都に帰りたい、と主張したかと思えば、次は愛?
何がしたいのかも、何を主張しているのかもわからない。
「・・・あなたは私に対して、政略結婚の最低要件しか求めないと明言しただろう。互いの条件が合ったから交わした契約に過ぎない。もうこれ以上後悔するようなことを言うな」
「だって・・・そんなの・・・そうでも言わなければ、あなたは了承してくれなかったでしょう?」姫は一層大きな声を上げて泣き崩れた。
国一番の姫が、自分を愛していると言って泣いている。
で?それで?・・・つまり、
「私を、嵌めたのか」
しんとしずまりかえった部屋の中で、アウレリオの低い声が響いた。
姫ははっとして息を飲んだ。どうも思っていたのとは違う方向に展開しているようだ。
「最初からおかしいと思っていた。あなたの誕生会。エミリアを婚約者として届け出たのに、配席された場所は私から遠く離れていた。エミリアは見知らぬ人ばかりの中に一人放り出され、しかも侍女まで強引に酒を勧められて、持ち場を離れた。普通なら、ありえないことだ。そして続いたあの騒ぎ・・・そういえば、あなたもあの場にいたな。むしろ、あなたがいたことで、事件が皆に知られ、大ごとになってしまった。あれは、あなたの命令だったのか?」
アウレリオのすがめた視線がきらりと光った。その視線に耐えきれず、セラフィーナはプイっと顔をそらした。
「あんな・・・あんな女・・・あなたにふさわしくない。身分だって低いし、容姿だって・・・あなたは私に感謝するべきよ!」
「そうか・・・そうだな」
アウレリオは考え込むように顎に手を当てた。
「確かにあなたの方が身分も高いし、美しい」
「そうよ!その通りよ!なのにあなたは・・・わたくしと結婚できたことを感謝もせずに、冷たい態度ばかり。しかも、あの男娼とまで・・・」
セラフィーナがはっと自分の口を両手で覆った。
「男娼?・・・男娼とは穏やかではないが」
「あ、あんなやつ、男娼じゃない!わたくしにだって目があるのよ!あなたとあの男娼は・・・!!!」
「私とあの男娼が?」
アウレリオがセラフィーナをじっと見つめた。
「・・・あの男娼が、なんだと?」
部屋の中の空気が凍り付いた。
アウレリオの声がより低く響き、その怒りがひしひしと伝わってくる。
部屋の温度は急激に下がり、まるで雪のような結晶がちらちらと部屋の中を舞い始める。あまりのさむさにセラフィーナは両手で自分を抱きしめた。
ぴしっと音が鳴り、窓ガラスが凍り付いた。
手元のコップの水は凍り、窓にも亀裂が入った。
「覚えておけ。あの『男娼』とやらの主人は私だ。あれを侮辱することは私を侮辱すること。次はない、殺すぞ」
アウレリオの金色の瞳がぎらっと光り、セラフィーナの胃がぎゅっと握り締められたように痛くなった。膝ががくがくと震え、くらくらする。
今までこれほど恐ろしいと思ったことはなかった。
この人は、なぜこんなに恐ろしくて、そして美しいの?
「早くこの地を去れ」
アウレリオがセラフィーナの肩をつかみ、床に突き飛ばした。セラフィーナの歯はがちがちと音を立て、寒くて震えが止まらない。
「この地の主は私だ。お前が頼りにしている父親など、何の力もない。ただこちらが耐えてやっているだけだと、いい加減理解してもいいころだがな」
アウレリオは部屋を装飾していた花瓶を左手で床に叩き落とした。
花瓶の破片が飛び散り、姫の手を傷つけた。
だが、恐ろしさと怖いぐらいの魅惑の前でどうすることもできない。
少しでも優しくしてくれれば、すべて許してあげるのに。
「それから言っておこう。お前の言う、美しくもなく身分もない相手の方が、よほど好都合だった。お前よりもな。邪魔をしやがって」
床に座り込んでいるセラフィーナをもう一度にらみつけると、去り際にうっ憤をぶつけるように、ばたんとドアを閉めた。
***********
「邪魔・・・邪魔ですって?」
そんな言葉を言う人間がいるなんて・・・いえ、そもそも人間なの?あのぎらぎら光る金色の瞳はまるで魔物・・・それとも、森にひそむけだもの?なのに・・・くやしい。
なぜここまで惹きつけられるのかわからない。
最初は、ただの好意だと思っていたのに。
結婚して生活を共にすれば、必ず愛されると思っていた。
むしろ泥沼のような恋に落ちたのは自分の方だったじゃない。
胸の奥がきりきりと痛み、震えが止まらない。
セラフィーナは床でこぶしを握り締めた。
(ゆるせない・・・ゆるせない。あの男娼のことも許せない。思い知らせてやらなければ。自分が何を失うのか、よくわからせてやらなければならない。私はこの国の第三王女であり・・・この家の正式な夫人なのよ・・・殺してやる。いえ、死よりももっと深い屈辱を与えなければ気がすまない)
そうよ、死よりももっと・・・屈辱を与えなければ。
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