125 / 152
第百二十回 5月の雨の、その先に ※閲覧注意
※今回も人によっては全然ダメな回です。少しでも危険を感じたら、回れ右でお願いします。※
王は容赦なくリオを殴りつけた。
「げふっ」
胃液が逆流して、足元を濡らす。
「汚いな」
王が吐き捨てるように言う。
「申し訳ございません」リオはリネンで自分の吐しゃ物を拭きとった。
汚れたものを片付け、部屋の隅で小さくなると、王は不機嫌に酒をあおった。
「まったく、こんな出来損ないを引き受けるとはな」
ゴブレットはあっという間に空になり、リオがワインを継ぎ足す。
「お前、最近食事をとっていないと聞いたが?なんだ、抗議のつもりなのか?」
「とんでもございません。尊い方に抗議など・・・私のような地を這う蟻は太陽の光を浴びさせていただけるだけで感謝しております」
「当然だろう」
王はふんぞり返った。
「お前など、虫けら同然の身の上のくせに。ただ、顔がいいから生き延びただけだ。それなのに、すっかり痩せこけて、容色が衰えてきたではないか」
「・・・申し訳ありません」
そのくせ、王は今日もリオを抱いたのだ。
「相変わらず、つまらん男だ。お前などよりも、新しく入った男・・・名は何と言ったか忘れたが、あいつの方がよほど具合がいいぞ」
「申し訳ありません」
・・・ならば、その『新しく入った男』のところに行けばいいのに。そう言えばまた殴られてしまうだろうが。一日も早く、飽きてほしい。新しい「珍味」が入ってくれば、そのうち追い出されるのではないかと、淡い期待を抱いているのだが・・・
「ふん」王はリオをちらりと見ると、視線をそらした。「わが姫が産んだ子を見に行く」
ぼそりと漏らしたその言葉に、リオの心臓は飛び出しそうになった。
まさか、随行させていただける・・・?
もう、顔を合わせることすらできないだろうけど、陰からこっそりと見つめるだけでも・・・
「あ、あの!」
「連れて行ってほしいのか?」
王がにやりと笑った。
「お前は、わが娘の脅威だからな。さて、どうしたものか」
「・・・脅威?何のことでございますか?」
「いや、別に」
王は不機嫌に視線をそらした。
「私を満足させられたら、連れていくことを検討してやらないでもない」
王はにやりと笑って足を広げた。
いまさら、そんなこと。辺境に戻れるのなら、耐えられる。
リオは、膝まづき、王の足の間に顔を沈めた。
**********
「くそっ、汚いな。あのジジイ。さっさと満足すればいいのに」
リオは痛む顎をさすりながら、部屋を出た。
リオの部屋では、王が高いびきをかいている。
外で待つ数人の護衛に頭を下げると、男たちがいやらしい目でリオを見た。
もちろん、王の愛人の一人であるリオに手を出すような愚か者はいない。
だが、王がいないところで眼で鑑賞するのは自由だ。男たちは、薄い服の下で見え隠れするリオの肌を無遠慮に見つめた。
そんな視線にも、もう慣れた。
幼いころから何度もそういう視線で見られてきた。
辺境では、あの大男に襲われて以来、アウレリオ様が守ってくださったから、そういうこともなかったが、いま、ここにアウレリオ様はいない。
「中庭を散歩してきます」
リオが一言伝えると、誰かがヒューと口笛を吹いた。
月が見たい。
窓ガラス越しではなく、王の気配のないところで、直接見たい。
アウレリオ様につながっていると思えるから。
暗い上空には、ほっそりとした三日月がかかっていた。
頬を撫でる風は少し暖かく、春の訪れを知らせている。
(アウレリオ様も、いま、この空の下にいらっしゃるのかな。穏やかに、幸せに暮らしてらっしゃるのかな・・・そうだといい・・・いや、そんなの嘘だ。
不幸になってほしいなんて思わない。
穏やかに暮らしてほしい。
でも、本音は、俺の10分の1、いや100分の1でいい、不幸でいてほしいんだ)
リオのほほを大粒の涙が伝った。
「・・・会いたい」
思うだけでも贅沢なことだと知っている。でも、どうしても思いを止めることはできない。
せめて、もう一度だけでも、会いたい。
今回、王について行かせてもらえれば、アウレリオ様が幸せに暮らしている今を確認できるだろう。俺のことなんてすっかり忘れて・・・もしかして奥方様が、二人目をご懐妊になったってニュースを聞くかもしれない。
・・・そうすれば。
たぶん、忘れられる。
ふたりで美しい空色の丘を眺めた日は、まだ昨日のようなのに。
もう一年近くがたつなんて。
5月の最初の雨。
その翌日。
大切な記念日だった。
アウレリオ様が俺のために決めてくださった、誕生日。
どれほど時がたっても、距離が離れても、心はあの丘にある。
眼の奥に広がる真っ青な丘。
人目を忍んで愛し合った時間。
・・・楽しかった。
いつの間にかリオの口角は弧を描いていた。
・・・楽しかったな。俺は自分が不幸な生まれだと思っていたけど、たいして不幸じゃなかったのかもしれない。
俺はアウレリオ様に出会えたことで、一生分の運を使い果たしたんだ。
それに、いつの間にか季節は移り変わり、もうすぐ春が来る。
そうすれば、5月の雨の翌日、丘は空色に染まるだろう。
ああ、あの日の空も丘も、青くて透き通っていて、ほんとうに、きれいだったなぁ・・・
5月の雨のその先に・・・
魂だけでも
たどりつけたら、いいのに。
************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
タイトル回収回でした(コソコソ)
いつも♡と広告をありがとうございます。
皆様の応援が私の支えです♡
寒いので気を付けて。
雪国の方は、本当に大変ですね。
頑張って乗り切ってください!
王は容赦なくリオを殴りつけた。
「げふっ」
胃液が逆流して、足元を濡らす。
「汚いな」
王が吐き捨てるように言う。
「申し訳ございません」リオはリネンで自分の吐しゃ物を拭きとった。
汚れたものを片付け、部屋の隅で小さくなると、王は不機嫌に酒をあおった。
「まったく、こんな出来損ないを引き受けるとはな」
ゴブレットはあっという間に空になり、リオがワインを継ぎ足す。
「お前、最近食事をとっていないと聞いたが?なんだ、抗議のつもりなのか?」
「とんでもございません。尊い方に抗議など・・・私のような地を這う蟻は太陽の光を浴びさせていただけるだけで感謝しております」
「当然だろう」
王はふんぞり返った。
「お前など、虫けら同然の身の上のくせに。ただ、顔がいいから生き延びただけだ。それなのに、すっかり痩せこけて、容色が衰えてきたではないか」
「・・・申し訳ありません」
そのくせ、王は今日もリオを抱いたのだ。
「相変わらず、つまらん男だ。お前などよりも、新しく入った男・・・名は何と言ったか忘れたが、あいつの方がよほど具合がいいぞ」
「申し訳ありません」
・・・ならば、その『新しく入った男』のところに行けばいいのに。そう言えばまた殴られてしまうだろうが。一日も早く、飽きてほしい。新しい「珍味」が入ってくれば、そのうち追い出されるのではないかと、淡い期待を抱いているのだが・・・
「ふん」王はリオをちらりと見ると、視線をそらした。「わが姫が産んだ子を見に行く」
ぼそりと漏らしたその言葉に、リオの心臓は飛び出しそうになった。
まさか、随行させていただける・・・?
もう、顔を合わせることすらできないだろうけど、陰からこっそりと見つめるだけでも・・・
「あ、あの!」
「連れて行ってほしいのか?」
王がにやりと笑った。
「お前は、わが娘の脅威だからな。さて、どうしたものか」
「・・・脅威?何のことでございますか?」
「いや、別に」
王は不機嫌に視線をそらした。
「私を満足させられたら、連れていくことを検討してやらないでもない」
王はにやりと笑って足を広げた。
いまさら、そんなこと。辺境に戻れるのなら、耐えられる。
リオは、膝まづき、王の足の間に顔を沈めた。
**********
「くそっ、汚いな。あのジジイ。さっさと満足すればいいのに」
リオは痛む顎をさすりながら、部屋を出た。
リオの部屋では、王が高いびきをかいている。
外で待つ数人の護衛に頭を下げると、男たちがいやらしい目でリオを見た。
もちろん、王の愛人の一人であるリオに手を出すような愚か者はいない。
だが、王がいないところで眼で鑑賞するのは自由だ。男たちは、薄い服の下で見え隠れするリオの肌を無遠慮に見つめた。
そんな視線にも、もう慣れた。
幼いころから何度もそういう視線で見られてきた。
辺境では、あの大男に襲われて以来、アウレリオ様が守ってくださったから、そういうこともなかったが、いま、ここにアウレリオ様はいない。
「中庭を散歩してきます」
リオが一言伝えると、誰かがヒューと口笛を吹いた。
月が見たい。
窓ガラス越しではなく、王の気配のないところで、直接見たい。
アウレリオ様につながっていると思えるから。
暗い上空には、ほっそりとした三日月がかかっていた。
頬を撫でる風は少し暖かく、春の訪れを知らせている。
(アウレリオ様も、いま、この空の下にいらっしゃるのかな。穏やかに、幸せに暮らしてらっしゃるのかな・・・そうだといい・・・いや、そんなの嘘だ。
不幸になってほしいなんて思わない。
穏やかに暮らしてほしい。
でも、本音は、俺の10分の1、いや100分の1でいい、不幸でいてほしいんだ)
リオのほほを大粒の涙が伝った。
「・・・会いたい」
思うだけでも贅沢なことだと知っている。でも、どうしても思いを止めることはできない。
せめて、もう一度だけでも、会いたい。
今回、王について行かせてもらえれば、アウレリオ様が幸せに暮らしている今を確認できるだろう。俺のことなんてすっかり忘れて・・・もしかして奥方様が、二人目をご懐妊になったってニュースを聞くかもしれない。
・・・そうすれば。
たぶん、忘れられる。
ふたりで美しい空色の丘を眺めた日は、まだ昨日のようなのに。
もう一年近くがたつなんて。
5月の最初の雨。
その翌日。
大切な記念日だった。
アウレリオ様が俺のために決めてくださった、誕生日。
どれほど時がたっても、距離が離れても、心はあの丘にある。
眼の奥に広がる真っ青な丘。
人目を忍んで愛し合った時間。
・・・楽しかった。
いつの間にかリオの口角は弧を描いていた。
・・・楽しかったな。俺は自分が不幸な生まれだと思っていたけど、たいして不幸じゃなかったのかもしれない。
俺はアウレリオ様に出会えたことで、一生分の運を使い果たしたんだ。
それに、いつの間にか季節は移り変わり、もうすぐ春が来る。
そうすれば、5月の雨の翌日、丘は空色に染まるだろう。
ああ、あの日の空も丘も、青くて透き通っていて、ほんとうに、きれいだったなぁ・・・
5月の雨のその先に・・・
魂だけでも
たどりつけたら、いいのに。
************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
タイトル回収回でした(コソコソ)
いつも♡と広告をありがとうございます。
皆様の応援が私の支えです♡
寒いので気を付けて。
雪国の方は、本当に大変ですね。
頑張って乗り切ってください!
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】あなたのいない、この異世界で。
Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」
最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。
そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。
亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。
「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」
ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。
彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。
悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。
※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。
ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。