133 / 152
第百二十八話 痕跡
【リオ】
王はずっと高いびきをかいたまま。
リオは、酒臭いにおいにくらくらしながら、窓の外をずっと眺めていた。
この景色を目に焼き付けたい。
今となっては、なぜ王が連れて行ったのかはっきりわかっていた。
王様は、俺を辱めるために連れて行ったんだ。もう目的を果たしたから、二度と戻れないかもしれない。
この景色も見納めかもしれないんだ。
そう思うと、目の前がにじんだ。
じっと外を見つめていると、遠くできらっと何かが光った。
時折消えながら、その光は土煙とともに近づいてくる。
(・・・アウレリオ様だ!)
気が付いた瞬間、涙があふれた。
馬車が動くと、アウレリオの姿は隠れ、また、見える。
お別れを言う勇気がなかった俺のことを、追ってきてくださったんだ。
次の一瞬、またアウレリオの髪が陽を反射してきらめいた。
馬車は容赦なく進んでいく。もしかしたら、奇跡的にもう一度だけ会えるかもしれない。胸の奥でうずうずと期待が首をもたげた。
夕べを最後に二度と会えないと思っていたのに、もしかしたらまた会える・・・?
リオがドアの窓枠にかじりついていると、後ろからリオの肩に肉厚な手のひらが乗せられた。
「へぇ・・・婿殿は、ずいぶんお前に執着しているようだな」
びくっとリオの肩が上がった。
もっと眠っていればいいのに。
「そ、そんなことは。陛下のお見送りではないですか?」
リオの声が裏返った。
「そうに決まっておろう。当主自ら馬を駆けてきたのだ。使用人の見送りなどありえないだろう」
「も、もちろんそうですとも」
リオが笑顔を作って同意すると、王は満足そうにうなずき、馬車の天井をどんと叩いた。
「急げ」
「かしこまりました」
御者が馬に鞭を入れ、王とリオの乗った馬車は、ますます勢いを増した。
********
隣の領地と境界の川まで来ると、王はきびきびと部下を指揮した。
さっきまでぐったりしていたくせに、人が変わったみたいだ。
『リオ、待て』
頭の中にアウレリオの声が響き、渡し船に乗ろうとしたリオが立ち止まると、王がリオの背中を押し、無理やり船に乗せてしまった。
『待ってくれ!』
アウレリオの必死の声に、リオは勇気を振り絞る。
「あ、あの少しだけ待ってください」
「ならん」
王は迷いなく却下した。その意味を正確に理解しているんだろう。
渡し船はすぐに向こう岸についてしまう。
向こう岸はもう別の領地だった。アウレリオは事前に許しを得なければ、他の領地に立ち入ることはできない。
「早くしろ」
王の不機嫌な命令で、馬車も素早く川を渡されてしまった。
このままでは、アウレリオ様の到着は間に合わない。
(アウレリオ様・・・!)
リオが時折金色に光る土煙を見つめていると、王がリオの背中を叩いた。
「馬車に乗れ」
「あとすこし、ほんの少しだけ」
「ならん」
無理やり背中を押され、キャビンに押し込まれる。
これだけ元気なのなら、もう侍従に世話をしてもらった方がいいのでは?
リオがおびえて王を見上げると、王がにやりと笑った。
「もう、あいつの領地じゃない。いままでずっと頭を押さえつけられているような気分で、吐き気が止まらなかったが、ここは空気がいいな」
頭を押さえつけられていた?
空気がいい?
どういう・・・・?
「進め」
王が合図を送ると、御者が勢いよく馬に鞭を振り下ろした。
リオの乗った馬車は土煙を上げながら、街道を走り去っていく。
(最後に、一目だけでも会えたかもしれないのに)
リオが窓から眺めると、アウレリオらしき人影が向こう岸にいた。
護衛騎士がアウレリオの肩に手をかけ、何かを話している。きっと、止めてるんだろう。そう思ったのも一瞬で、すぐにアウレリオの姿は見えなくなってしまった。
ぎゅっと心臓が痛くなる。
リオは首から下げているアウレリオの髪が入った袋に、両てのひらをのせた。
***********
「どうでもいい、取るに足らない小石がある」
王がぽつりとつぶやいた。
リオが視線を上げる。
「足先に入ればごろごろとして邪魔だ。どうしてやろうか」
王がリオをじっと見つめていた。その視線は蛇のようにねばついていた。
「下ばきを脱いでこちらに来い」
「え?」
「愛妾のくせに、同じ馬車に乗せられた意味も分からんのか」
「いえ、その・・・」
「足を開いて、わが上にまたがることを許す」
王の視線はリオの上にじっととどまったまま。
今日は薄物を身にまとっているわけではないのに、裸でいるような心細さを感じる。
せめて、王宮までは何もないと思っていたのに。
「あの、馬車の中では危険では。その・・・まだほぐしておりませんし」
王が強引にリオの手を引き、ボタンをひきちぎってズボンを降ろさせた。
「さっさと自分で準備しろ」
王が命じると、リオは仕方なく自分の後ろ穴に指を伝わせた。
(まずい。アウレリオ様の痕跡が残っている)
まさか、王が馬車の中でそんな行為に及ぶとは思ってもいなかった。
そもそも、同じ馬車に乗るとすら思っていなかったのだ。
アウレリオの魔力の名残を感じたくて、後処理を怠ってしまった・・・
(どうしよう)
そう思った瞬間、リオの後ろ穴から、どろりとした白濁が零れ落ちた。
つんと青臭いにおいがキャビンの中に広がった。
「・・・これはなんだ」
王の声は地を這うように低かった。
************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
♡と広告もありがとうございます。
皆様良い週末をお過ごしください。
お仕事の方は体調に気をつけて、頑張って!
王はずっと高いびきをかいたまま。
リオは、酒臭いにおいにくらくらしながら、窓の外をずっと眺めていた。
この景色を目に焼き付けたい。
今となっては、なぜ王が連れて行ったのかはっきりわかっていた。
王様は、俺を辱めるために連れて行ったんだ。もう目的を果たしたから、二度と戻れないかもしれない。
この景色も見納めかもしれないんだ。
そう思うと、目の前がにじんだ。
じっと外を見つめていると、遠くできらっと何かが光った。
時折消えながら、その光は土煙とともに近づいてくる。
(・・・アウレリオ様だ!)
気が付いた瞬間、涙があふれた。
馬車が動くと、アウレリオの姿は隠れ、また、見える。
お別れを言う勇気がなかった俺のことを、追ってきてくださったんだ。
次の一瞬、またアウレリオの髪が陽を反射してきらめいた。
馬車は容赦なく進んでいく。もしかしたら、奇跡的にもう一度だけ会えるかもしれない。胸の奥でうずうずと期待が首をもたげた。
夕べを最後に二度と会えないと思っていたのに、もしかしたらまた会える・・・?
リオがドアの窓枠にかじりついていると、後ろからリオの肩に肉厚な手のひらが乗せられた。
「へぇ・・・婿殿は、ずいぶんお前に執着しているようだな」
びくっとリオの肩が上がった。
もっと眠っていればいいのに。
「そ、そんなことは。陛下のお見送りではないですか?」
リオの声が裏返った。
「そうに決まっておろう。当主自ら馬を駆けてきたのだ。使用人の見送りなどありえないだろう」
「も、もちろんそうですとも」
リオが笑顔を作って同意すると、王は満足そうにうなずき、馬車の天井をどんと叩いた。
「急げ」
「かしこまりました」
御者が馬に鞭を入れ、王とリオの乗った馬車は、ますます勢いを増した。
********
隣の領地と境界の川まで来ると、王はきびきびと部下を指揮した。
さっきまでぐったりしていたくせに、人が変わったみたいだ。
『リオ、待て』
頭の中にアウレリオの声が響き、渡し船に乗ろうとしたリオが立ち止まると、王がリオの背中を押し、無理やり船に乗せてしまった。
『待ってくれ!』
アウレリオの必死の声に、リオは勇気を振り絞る。
「あ、あの少しだけ待ってください」
「ならん」
王は迷いなく却下した。その意味を正確に理解しているんだろう。
渡し船はすぐに向こう岸についてしまう。
向こう岸はもう別の領地だった。アウレリオは事前に許しを得なければ、他の領地に立ち入ることはできない。
「早くしろ」
王の不機嫌な命令で、馬車も素早く川を渡されてしまった。
このままでは、アウレリオ様の到着は間に合わない。
(アウレリオ様・・・!)
リオが時折金色に光る土煙を見つめていると、王がリオの背中を叩いた。
「馬車に乗れ」
「あとすこし、ほんの少しだけ」
「ならん」
無理やり背中を押され、キャビンに押し込まれる。
これだけ元気なのなら、もう侍従に世話をしてもらった方がいいのでは?
リオがおびえて王を見上げると、王がにやりと笑った。
「もう、あいつの領地じゃない。いままでずっと頭を押さえつけられているような気分で、吐き気が止まらなかったが、ここは空気がいいな」
頭を押さえつけられていた?
空気がいい?
どういう・・・・?
「進め」
王が合図を送ると、御者が勢いよく馬に鞭を振り下ろした。
リオの乗った馬車は土煙を上げながら、街道を走り去っていく。
(最後に、一目だけでも会えたかもしれないのに)
リオが窓から眺めると、アウレリオらしき人影が向こう岸にいた。
護衛騎士がアウレリオの肩に手をかけ、何かを話している。きっと、止めてるんだろう。そう思ったのも一瞬で、すぐにアウレリオの姿は見えなくなってしまった。
ぎゅっと心臓が痛くなる。
リオは首から下げているアウレリオの髪が入った袋に、両てのひらをのせた。
***********
「どうでもいい、取るに足らない小石がある」
王がぽつりとつぶやいた。
リオが視線を上げる。
「足先に入ればごろごろとして邪魔だ。どうしてやろうか」
王がリオをじっと見つめていた。その視線は蛇のようにねばついていた。
「下ばきを脱いでこちらに来い」
「え?」
「愛妾のくせに、同じ馬車に乗せられた意味も分からんのか」
「いえ、その・・・」
「足を開いて、わが上にまたがることを許す」
王の視線はリオの上にじっととどまったまま。
今日は薄物を身にまとっているわけではないのに、裸でいるような心細さを感じる。
せめて、王宮までは何もないと思っていたのに。
「あの、馬車の中では危険では。その・・・まだほぐしておりませんし」
王が強引にリオの手を引き、ボタンをひきちぎってズボンを降ろさせた。
「さっさと自分で準備しろ」
王が命じると、リオは仕方なく自分の後ろ穴に指を伝わせた。
(まずい。アウレリオ様の痕跡が残っている)
まさか、王が馬車の中でそんな行為に及ぶとは思ってもいなかった。
そもそも、同じ馬車に乗るとすら思っていなかったのだ。
アウレリオの魔力の名残を感じたくて、後処理を怠ってしまった・・・
(どうしよう)
そう思った瞬間、リオの後ろ穴から、どろりとした白濁が零れ落ちた。
つんと青臭いにおいがキャビンの中に広がった。
「・・・これはなんだ」
王の声は地を這うように低かった。
************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
♡と広告もありがとうございます。
皆様良い週末をお過ごしください。
お仕事の方は体調に気をつけて、頑張って!
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】あなたのいない、この異世界で。
Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」
最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。
そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。
亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。
「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」
ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。
彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。
悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。
※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。
ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。