5月の雨の、その先に

藍音

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第百二十九話 地獄 ※閲覧注意※ ※※※

※閲覧注意※
※ショックを与える描写が含まれます。苦手な方は次回に飛んでください※



「あ、あの、これは、違います」
「何が違うんだ」王の静かな声はかえって恐ろしかった。
いままで何度も激昂したこともあるし、乱暴に殴られたこともある。
その時の方が今よりも、もっと恐ろしさはなかった。

必死で言い訳を探したが、馬車の中に充満する青臭い「におい」はごまかしがきかない。

「・・・私の愛妾でありながら、不貞を働くとはな」

王が勢いよくリオの頬に手の甲を打ち下ろし、足で蹴り飛ばした。
何度も蹴られ、意識を失いそうになる。

「この、淫売が。ほんの少しの間も我慢が出来ぬのか。どこの肉棒をくわえこんできたのだ」

リオは頭をかばうことしかできなかった。
王が殴り飽きたときには、リオの身体はあざらだけになっていた。
殴打痕でまだらのようになった体を、王はもう一度蹴った。

「けしからん。お前など、用済みだ」

王が馬車の扉を開け、リオの身体を馬車から投げ落とした。
リオのきゃしゃな体はおおきく後方に弾き飛ばされ、ゴムまりのように跳ねたのち、動かなくなった。
突然のことに御者がいきおいよく手綱を引き、馬車は急停車した。
驚いた侍従が王に尋ねる。

「陛下、何ごとが・・・?」

国王は腹立たし気に、唾を吐いた。

「その淫売を捕らえろ。不貞を働いた愚か者だ。どう罰してやろうか・・・」
「ふ、不貞?」
「新しい男を連れてこい。今すぐにだ」
「あ、新しい、男?」

みな、何が起こったのかわからない。ただ、リオがかつてないほど王を怒らせたことは、理解した。
王は自分の使用人や騎士たちの間に視線を巡らせた。

「おい。お前だ」

王は騎士見習いの少年を指さした。

「今すぐに来い」

見習いの少年は顔面蒼白になった。
なぜ自分が・・・

「早くしろ」

誰もが目をそらし、何も言ってくれない。
断れば殺される。
どうしようもない。
騎士見習いにできたのは、頭を下げて従うことだけだった。

**********

王都に着くまでには、王はリオへの興味を失っていた。

「あの者をどういたしましょうか?」
リオを拘束していた騎士が訪ねると、王はつまらなそうに片手を振った。
「もうどうでもいい」
「では・・・わたくし共にいただいてもよろしいですか?」

期待を込めた騎士の言葉に、王はにやりと笑った。

用済みの男妾が、騎士たちの忠誠心を上げるのに役立つのなら、これ以上の使い道はない。
そもそも、あいつは男妾としては今一つだった。抱いても、甘い声一つ出さず、つらそうに呻くばかりでつまらなかった。

「好きにしろ」

王の言葉に、騎士たちは声を上げて喜んだ。
薄物を身にまとってうろつくリオは、騎士たちにとって手に入れたくなる獲物だったから。







その日から、リオの地獄が始まった。


*********


リオの顔に冷たい水がかかった。
どれほどの時間がたったのかわからない。
おんぼろの騎士控室の屋根からは雨漏りしていた。

あの日、馬車から突き落とされた後、しばらく記憶がない。
ただ、気が付いたときには、騎士団の宿舎で交代で犯されていた。

何が起こったのかわからず、抵抗すら封じられているリオのことを騎士たちは笑っていた。

「これからは毎日好きなだけ肉棒を食えるぞ?」
「もっと腰を振れよ」
「俺たちの奴隷なんだから」

不貞の罰として性奴隷に落された、と理解するまで数日かかった。
痛み、苦しみ、嫌悪。
抵抗すれば数倍も殴られ、満足に食事も与えられない。
ただレイプするためだけの奴隷。

「いやだ」「やめてくれ」どれほど願っても、凌辱は止まない。
両手は後ろ手に縛られ、くるぶしは砕かれた。逃げることすらできない。

時間すらわからず、まともにねむることもできず犯され続け、いつしか抵抗する気力すら失っていた。

王に抱かれていた日々の方がまだましだったと思えるほど、ひどい扱いだ。少なくとも、あそこでは飢えることはなかったし。

ぼんやりと窓の外を見つめると、サーっと音を立てて雨が降り始めた。

殴られすぎて視力も失いかけていて、よく見えない。
ただ、においと気配だけを感じる。

それでも、リオが今まで生きていられたのは、アウレリオからもらった髪の毛のおかげだったのかもしれない。
首から下げた小さな袋は、なぜか誰にも外されないまま、リオの命を守るように少しずつささやかな加護を与えていた。
あたえられる暴力が強すぎて防げないが、死なないまま、いまにつながっていた。

「雨か」

リオは目を閉じた。
きっとこれは、5月で最初の雨だ。
ここまで耐えた。
もう、いいでしょう?

その静寂は、突然破られた。
部屋のドアが乱暴に開けられ、酒臭いにおいをさせた三人の騎士が部屋に入ってきた。
目的はただひとつだ。
一人がリオを押さえつけ、いきなり後ろから突っ込んできた。
凌辱の限りを尽くされ、すでに裂けていた後ろ穴から出血し、激痛が走る。
だが、もうこの苦しみは経験済みだった。
しばらく耐えれば・・・この三人が満足すれば去っていくはずだ。

最近では男たちもリオに興味をなくし、訪れる男たちも減ってきたところだ。でも、もう・・・

一人がリオの中に射精し、次の騎士がまた突っ込む。

「おいおい、血まみれじゃねーか。俺はちょっとやめとくわ」

三人目の騎士がげんなりしたように言うと、最初にリオに突っ込んだ男が笑った。

「ばーか、上の口があるだろうよ。せっかく来たんだから、出しとけよ」
「まあ、そうだな」

三人目の騎士はリオに向かってせせら笑うように言った。

「おい、肉便器、しゃぶれよ」

ぐいっと髪を引っ張られると同時に、口の中に臭い性器が押し込まれた。

「ぐっ」息が、苦しい。

逃れようとして歯が当った。

「いてぇじゃねーか」騎士がリオの頬を殴った。「丁寧にやらないと、ぶち殺すぞ」

その時、リオのぼんやりとした頭に啓示のようにひらめいた。

「いまだ」

口の中一杯に詰め込まれた知らない男の性器を思い切り食いちぎる。

「ぎゃああああああ」

この世の終わりのような悲鳴が響き渡り、男は股間を押さえてもんどりうった。

「おれの、おれの・・・がぁ!!」

リオは口の中に残された肉片を床に吐き捨てた。

(さあ、殺せよ)

こんな力がまだ残っていたのだ。
リオが体を起こしてにらみつけると、騎士たちからあめのようにこぶしが降り注いだ。
もう痛みにすら慣れっこになってしまった。

「この野郎」

股間をかみちぎられた騎士が、泣きながら短剣を抜いた。


ああ、よかった。



リオは目を閉じた。その口元は、笑みを浮かべるように弧を描いていた。



これで、帰れる。



**********

お読みいただきまして、ありがとうございました。
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