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第十九話 危機
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「こっちだ」
騎士が親指を城門に向けた。
(なんでアウレリオ様が城門の方向に?急なお出かけなのかな。急がないと)
「はい、今すぐ!」
リオは早足で騎士の後を追いかけた。騎士は、リオをチラチラと見ながらも、少し前を歩き並ぼうとはしない。立場的には騎士と召使いのリオでは、並んで歩くなどありえないことだった。
アウレリオが城の外に出かけるとき、必ずリオが付き従うわけではないが、その時によりついていくこともある。リオが慌てたのも当然のことだった。
「おい、リオ!どうしたんだ?」
騎士の後を早足で追いかけているリオに、先輩従僕のフリオが声をかけた。
「アウレーリョ様のお付きで!お呼びなんだ!」
「ああ、そうか。気を付けてな」
リオが大声で応え、フリオは軽く手を振った。急に出かけることになったんだろうか?そんな指示は聞いてないが・・・
(しかも、城の外に行くのに、普段着で?)
ちらりと違和感を感じる。
伯爵家の令息として出かける場合は、当然その従僕たちも行き先により服装を変える。
ずいぶん軽装が許される場所なんだな、と自分を納得させたが、どうもスッキリしない。
なぜ城門の警備隊長がリオを呼びに来たんだ?
妙だとは思ったが、問いただす間もなくふたりは連れ立って行ってしまった。
「こっちだ」
城門のそばにつくと、警備隊長はリオの腕をつかんだ。
二の腕に痛みが走るほど強い力に驚くと同時に、ぐいっと腕を引かれ、ずるずると城門に向かって引きずられる。
「な、なんで?じぶんで歩けますってば」
大人の、しかも鍛え上げた騎士の力に子どものリオがかなうわけがない。
警備隊長はリオの言葉に耳も貸さず、グイグイと引っ張りながら城門の内側にある扉を開いた。
この騎士は城門の直ぐそばに部屋を与えられており、そこで生活している。
「今ここにアウレリオ様が来るから、ちょっと待ってろ」
「え?ここに?」
目の前に見えるのは、木製の無骨なベッドに、朝起きたときから整えていない乱れたままのシーツ。
古ぼけた椅子には、脱いだ服が何枚かかけられており、サイドボードの上にはちびたろうそく。
天窓からの日差しがまっすぐに差し込み、ちらちらとほこりが空気中を舞っている。
どう見てもここは警備隊長の自室で、アウレリオが訪れるべき場所には見えない。
せめて、警備隊長室で迎えるのならまだ分かるが・・・
「まあ、そこにでも座れよ」
隊長がベッドを指さしたが、リオは首を横に振った。
なにかが、おかしい。
隊長は愛想笑いを浮かべながら、リオをなだめるような声を出した。
「アウレリオ様が来るまでもう少しかかるから・・・」
「だって、さっきはお待ちだって言ったじゃないですか」
「そうだな」
騎士は愛想笑いを浮かべたまま、後ろ手に扉に錠を下ろした。
ガチャリと金属が触れ合う音に不安になる。
「お、おれ・・・」
「なあ、リオ」騎士は舌をなめた。「俺はお前を痛めつけたくないんだよ」
「い、痛めつける?」
「ある高貴なお方から頼まれたんだ。お前の腕を折ってくれって」
「う・・・うでをおる・・・?」
「ああ」騎士は精一杯の優しげな笑みを浮かべたが、その笑みはリオにとってまるでネズミをいたぶろうと楽しんでいる猫のようにしか見えなかった。
「俺がとりなしてやってもいい」
「とりなす?」
「そうだ。ある方はお前を痛めつけたい。だが俺はそうしたくない。お前は痛い思いをしなくてすむ」
「・・・」何を言っているのかわからない。リオは目を見開いて騎士を見つめた。
「俺は、自分の恋人は大切にしてやりたいんだ」
「は・・・こ、こいびと?」
この男は何を言っているんだろう。恋人ってどういう意味だろう。
俺は子どもで、この人は大人なのに?
いきなり金を渡してきたり、自室に無理やり連れてこられた関わりしかないのに?
それとも、恋人って俺が知らない意味があるのかな・・・?
「言葉通りの意味だよ」
「俺・・・わかりません。何を言われているのかも、よくわからない」
「じゃあ、わからせてやろう」
騎士は一歩でリオに近づき、男の大きな手のひらが、リオの口を覆った。
男の手のひらはぬるついていて、嫌な臭いがする。
何を求めているのかわからない。
なんで、どうして?そればかりがぐるぐると頭の中を周り、じっとりと脇に汗がにじんだ。
こわい。
力では絶対にかなわない。
若様が呼んでいるんじゃなかったのか?
なんで、なんで、なんで・・・
胃の奥から酸っぱいものがこみ上げる。
肉食獣に狙われた草食動物のように、手足が硬直して、動かなくなった。
男の顔が近づき、臭い息がかかった。
こわい、こわい、こわい・・・
この恐ろしい怪物は一体何を求めているんだ・・・
リオの喉から、声とも悲鳴ともつかない音が漏れた。
男はリオの両手を片手でつかみ、もう一方の手でリオの頬を押さえた。
唇が近づき、触れた瞬間、固まっていたリオの身体が、急に動き始めた。
「イヤだ!やめろ、やめろー!!!」
大声で叫び、渾身の力で両手をばたつかせた。
「ここから出せ!」
暴れながら戸口に駆け寄り、かけ金を外そうと指先が触れたが、隊長のほうが素早かった。
リオの襟をつかみ、身体を引き倒した。
「大人しくしないから悪いんだぞ。俺は警告してやったのに」
男の顔に酷薄な笑みが浮かんだ。
リオの頬を平手で殴りつける。
激しい痛みとともに、涙が浮かび、口の中には血の味がした。
「さあ、俺の言うことを聞くのか?優しくしてやりたいって言っただろ?次は、平手じゃ済まない。拳だぞ」
リオの身体がぶるぶると震えだした。
(殺される・・・)
「さあ、言うことを聞くか?聞くだろう?」
男の口が耳元まで裂けたように思えた。
(食われる・・・頭からバリバリと食われるに違いない・・・この男は、悪魔だ)
**********************
(お礼)
本日もお読みいただきましてありがとうございました。
昨日のお詫び投稿にまでハートをいただきまして・・・
応援、めちゃ届きました!
システムだから仕方ないけど、バグってあるんだなと思った次第です。
この先を書き留めたプロットが流出したんじゃなくて良かった・・・
21日は休載させていただきます。
週末に向け、頑張っていきますので、よろしくお願いします。
急に寒くなったので、風邪など引かれませんように。
あすはウイルスが読者様を避けて通ることをお祈りしておきます。
騎士が親指を城門に向けた。
(なんでアウレリオ様が城門の方向に?急なお出かけなのかな。急がないと)
「はい、今すぐ!」
リオは早足で騎士の後を追いかけた。騎士は、リオをチラチラと見ながらも、少し前を歩き並ぼうとはしない。立場的には騎士と召使いのリオでは、並んで歩くなどありえないことだった。
アウレリオが城の外に出かけるとき、必ずリオが付き従うわけではないが、その時によりついていくこともある。リオが慌てたのも当然のことだった。
「おい、リオ!どうしたんだ?」
騎士の後を早足で追いかけているリオに、先輩従僕のフリオが声をかけた。
「アウレーリョ様のお付きで!お呼びなんだ!」
「ああ、そうか。気を付けてな」
リオが大声で応え、フリオは軽く手を振った。急に出かけることになったんだろうか?そんな指示は聞いてないが・・・
(しかも、城の外に行くのに、普段着で?)
ちらりと違和感を感じる。
伯爵家の令息として出かける場合は、当然その従僕たちも行き先により服装を変える。
ずいぶん軽装が許される場所なんだな、と自分を納得させたが、どうもスッキリしない。
なぜ城門の警備隊長がリオを呼びに来たんだ?
妙だとは思ったが、問いただす間もなくふたりは連れ立って行ってしまった。
「こっちだ」
城門のそばにつくと、警備隊長はリオの腕をつかんだ。
二の腕に痛みが走るほど強い力に驚くと同時に、ぐいっと腕を引かれ、ずるずると城門に向かって引きずられる。
「な、なんで?じぶんで歩けますってば」
大人の、しかも鍛え上げた騎士の力に子どものリオがかなうわけがない。
警備隊長はリオの言葉に耳も貸さず、グイグイと引っ張りながら城門の内側にある扉を開いた。
この騎士は城門の直ぐそばに部屋を与えられており、そこで生活している。
「今ここにアウレリオ様が来るから、ちょっと待ってろ」
「え?ここに?」
目の前に見えるのは、木製の無骨なベッドに、朝起きたときから整えていない乱れたままのシーツ。
古ぼけた椅子には、脱いだ服が何枚かかけられており、サイドボードの上にはちびたろうそく。
天窓からの日差しがまっすぐに差し込み、ちらちらとほこりが空気中を舞っている。
どう見てもここは警備隊長の自室で、アウレリオが訪れるべき場所には見えない。
せめて、警備隊長室で迎えるのならまだ分かるが・・・
「まあ、そこにでも座れよ」
隊長がベッドを指さしたが、リオは首を横に振った。
なにかが、おかしい。
隊長は愛想笑いを浮かべながら、リオをなだめるような声を出した。
「アウレリオ様が来るまでもう少しかかるから・・・」
「だって、さっきはお待ちだって言ったじゃないですか」
「そうだな」
騎士は愛想笑いを浮かべたまま、後ろ手に扉に錠を下ろした。
ガチャリと金属が触れ合う音に不安になる。
「お、おれ・・・」
「なあ、リオ」騎士は舌をなめた。「俺はお前を痛めつけたくないんだよ」
「い、痛めつける?」
「ある高貴なお方から頼まれたんだ。お前の腕を折ってくれって」
「う・・・うでをおる・・・?」
「ああ」騎士は精一杯の優しげな笑みを浮かべたが、その笑みはリオにとってまるでネズミをいたぶろうと楽しんでいる猫のようにしか見えなかった。
「俺がとりなしてやってもいい」
「とりなす?」
「そうだ。ある方はお前を痛めつけたい。だが俺はそうしたくない。お前は痛い思いをしなくてすむ」
「・・・」何を言っているのかわからない。リオは目を見開いて騎士を見つめた。
「俺は、自分の恋人は大切にしてやりたいんだ」
「は・・・こ、こいびと?」
この男は何を言っているんだろう。恋人ってどういう意味だろう。
俺は子どもで、この人は大人なのに?
いきなり金を渡してきたり、自室に無理やり連れてこられた関わりしかないのに?
それとも、恋人って俺が知らない意味があるのかな・・・?
「言葉通りの意味だよ」
「俺・・・わかりません。何を言われているのかも、よくわからない」
「じゃあ、わからせてやろう」
騎士は一歩でリオに近づき、男の大きな手のひらが、リオの口を覆った。
男の手のひらはぬるついていて、嫌な臭いがする。
何を求めているのかわからない。
なんで、どうして?そればかりがぐるぐると頭の中を周り、じっとりと脇に汗がにじんだ。
こわい。
力では絶対にかなわない。
若様が呼んでいるんじゃなかったのか?
なんで、なんで、なんで・・・
胃の奥から酸っぱいものがこみ上げる。
肉食獣に狙われた草食動物のように、手足が硬直して、動かなくなった。
男の顔が近づき、臭い息がかかった。
こわい、こわい、こわい・・・
この恐ろしい怪物は一体何を求めているんだ・・・
リオの喉から、声とも悲鳴ともつかない音が漏れた。
男はリオの両手を片手でつかみ、もう一方の手でリオの頬を押さえた。
唇が近づき、触れた瞬間、固まっていたリオの身体が、急に動き始めた。
「イヤだ!やめろ、やめろー!!!」
大声で叫び、渾身の力で両手をばたつかせた。
「ここから出せ!」
暴れながら戸口に駆け寄り、かけ金を外そうと指先が触れたが、隊長のほうが素早かった。
リオの襟をつかみ、身体を引き倒した。
「大人しくしないから悪いんだぞ。俺は警告してやったのに」
男の顔に酷薄な笑みが浮かんだ。
リオの頬を平手で殴りつける。
激しい痛みとともに、涙が浮かび、口の中には血の味がした。
「さあ、俺の言うことを聞くのか?優しくしてやりたいって言っただろ?次は、平手じゃ済まない。拳だぞ」
リオの身体がぶるぶると震えだした。
(殺される・・・)
「さあ、言うことを聞くか?聞くだろう?」
男の口が耳元まで裂けたように思えた。
(食われる・・・頭からバリバリと食われるに違いない・・・この男は、悪魔だ)
**********************
(お礼)
本日もお読みいただきましてありがとうございました。
昨日のお詫び投稿にまでハートをいただきまして・・・
応援、めちゃ届きました!
システムだから仕方ないけど、バグってあるんだなと思った次第です。
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21日は休載させていただきます。
週末に向け、頑張っていきますので、よろしくお願いします。
急に寒くなったので、風邪など引かれませんように。
あすはウイルスが読者様を避けて通ることをお祈りしておきます。
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