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第二十六話 ケイレブの推理
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「なぜ、ルシアナを見つけられないんだ!」
ケイレブは強くテーブルを叩き、周りにいた騎士や兵士は震え上がった。
正直、辺境の騎士も兵士も半信半疑だった。
若殿はすっかり悪女に籠絡されているが、もともと、聖女の敵だった女だ。
しかも、王都でちやほやされ贅沢に慣れている。
こんな辺境での暮らしを望むとは思えない。
「自分から逃げたんじゃないんですか」
ポツリと呟いた兵士の喉元に、ケイレブが剣の切っ先を突きつけた。
「お前。命はいらないらしいな。もう一度言ってみろ」
「お、俺は・・・すみませんでした。口が滑ってしまって・・・」
「へえ?」
ケイレブが剣を喉元に押し付けると、切っ先に真っ赤な血がにじんだ。
「若殿!落ち着け!」
ビルがケイレブの腕に手をかけた。
「お前たちも、滅多なことを言うんじゃない。ルシアナ様は若殿の奥方だ。確かに、結婚の翌日に・・・お会いできなくなってしまったから、まだ忠誠を誓ってはいないかもしれないが、お前たちの主人でもあるんだ。それに、辺境に来てから、ルシアナ様は一度も高慢な態度はとっておられない。あの方はもともと国で一番高貴な令嬢なんだぞ!」
「くそっ!」ケイレブは剣を床に投げ出し、頭を抱えた。
(ルシアナ、どこに行ったんだ・・・妻ひとり見つけ出せない自分が情けない)
処女を失った夜、腕の中で喜びと安堵の涙を流した妻。信じたい。
なのに、信じる根拠は古ぼけたロケットひとつ。
本当は自分を捨てたのではないかと、不安がよぎる。
いや。なにかが、おかしい。
あの夜、ルシアナと王太子の情事を吹き込まれ、目の前の男を殺してやりたいほど頭にきた。
だが実は、ルシアナは処女だった。ルシアナの兄、オーブリーの言ったことはすべて嘘だった。
しかも、あいつの注いだ酒は、飲めば飲むほど頭がぐらつき、思考力を奪っていった・・・
もしや、酒になにか入っていた・・・?
「若殿、ご報告です」
領内の主要な道を探させていた兵士のひとりが戻ってきた。
「王都に向かう四つ辻の近くで、使者様が胸を刺されて、道端に倒れていました」
「何だと!」
「使者様と一緒に来られた方々も皆殺され、道端に倒れていました。おそらく、馬車から捨てられたものと思われます。馬車は四つ辻を少し過ぎたところに乗り捨てられていました」
「使者殿は・・・ご無事か?」
「かなり危険な状況です。胸を刺され、さらに馬車から落とされたようです。あちこち骨折もしていますし、大量に出血したようです。発見されたとき、服は血まみれでした」
「なんと・・・」
城に火を付けて、ルシアナをさらったのはジェフリー・グレイではなかったのか?
もしや、「ジェフ兄様」と手に手を取って王都に逃げていったのではないかと、疑う気持ちが少しもなかったとはいえない。
「使者様から、若殿への伝言です。”オーブリーにそそのかされ、ルシアナをさらった。行き先は・・・”と」
「行き先はどこだ!」
「わかりません。使者様は、気を失ってしまいました。失礼ながら、揺さぶり起こそうとさせていただいたのですが、一向に・・・」
「畜生!!」
ケイレブは頭を抱えた。
間違いなく、オーブリーが一枚噛んでいる。オーブリーはルシアナをどうしようとしているんだ?
そういえば・・・金を欲しがっていた。
ルシアナの持参金を半分よこせと要求していた。
金目当てに・・・ルシアナを売り払った?
いや、売り払おうとした?
ケイレブと結婚しても価値のない廃鉱山しか財産がないから、財産の請求権はないとルシアナに諭されていた。
あのとき、オーブリーはなんて言った?
『俺を誰だと思っているんだ!俺はたかりなんかじゃない!』
自分のしていることをわかっていない馬鹿者だと思っていたが・・・本当にそう思っていたのか?
今や平民になっている自分を認められない、オーブリー・アドランテ。
であれば、なにを望む?
復権だ。
アドランテ家の嫡男としての権利。
だが、王都にルシアナを連れて行って王家が認めるとは思えない。
ジェフリー・グレイもルシアナに熱を上げていたと聞く。
王家は誰との結婚も認めず、ルシアナを辺境に追いやったのだ。
オーブリーが目指したのは、王都ではない。
そして、当然この辺境でもない。
「・・・隣国だ」
「なんだって?」
「リエール。もしくはハイランド。どの国でもおかしくないが・・・だが、リエールの国王はルシアナをほしいと王家に申し出たことがある。俺がルシアナをくれと王に頼んだとき、そんな話を聞いた」
「まさか・・・オーブリー殿はルシアナ様を、リエールの国王に献上しようとしているとでも言うのか?」
「おそらく、そうだろう。ルシアナをさらった手口が、あまりにも鮮やかすぎる。俺のエールに睡眠薬を盛り、厩に火を付け、使者殿にルシアナをさらわせた。王都に向かうと見せかけて忽然と消えた。そんなこと、ひとりではできない。だが、リエールの軍隊が手を貸しているのであれば、跡形もなくルシアナをさらうことができるだろう」
「そんな、まさか・・・女一人にそんなこと」
「おい、ビル。お前、まさかルシアナをただの女だと思ってたのか?」
「いえ、その、そんなつもりじゃ」
「ルシアナは世界で一番美しい女で、俺の妻だ」
「はいはい、まあ、そうですね」
「その上、幼少の頃からずっと王妃となるための教育を受けてきた」
「はい」
「つまり、ルシアナは世界で一番美しい容姿をもち、セント・ヘレニア国の情報をすべて頭に叩き込んである宝だということだよ。おそらく、14から王宮で受けていたという教育の中には、表に出せない国家機密も含まれていたに違いない。もっといえば、もともと王家の親族だ。ルシアナに子を産ませれば、難癖つけて王位を乗っ取る道具にすることもできる」
「それなのに、王太子は聖女様を選んだんですか?」
「そうだ。王太子は聖女と恋に落ちた。だが、ルシアナはもともと俺のものだ」
「なんですか、それは?」
「理屈じゃない。初めてルシアナを見たときにわかったんだよ。あれは、俺の女だってな。だから、必ず取り返す」
「若殿・・・」ビルが頭をかいた。「ルシアナ様に一目惚れしたんですね。どおりで、急に遊ばなくなったと思った」
「うるさいな」ケイレブは照れ隠しのため、急に立ち上がった。「リエールに行く」
「本気で言ってるんですか?」
「ま、俺の宝を返してもらいに行くのは当然だろう?」ケイレブはニヤリと笑った。
********************
昨日は、疲れ切って廃人になってしまって更新できず、すみませんでした。
また今日から頑張ります・・・と言いながら、今日の更新は少なめです。
お話はあと少しです。
最後までよろしくお願いします。
そして、週末おつかれさまでした。シャヲル♡
最高の土日でした!
ケイレブは強くテーブルを叩き、周りにいた騎士や兵士は震え上がった。
正直、辺境の騎士も兵士も半信半疑だった。
若殿はすっかり悪女に籠絡されているが、もともと、聖女の敵だった女だ。
しかも、王都でちやほやされ贅沢に慣れている。
こんな辺境での暮らしを望むとは思えない。
「自分から逃げたんじゃないんですか」
ポツリと呟いた兵士の喉元に、ケイレブが剣の切っ先を突きつけた。
「お前。命はいらないらしいな。もう一度言ってみろ」
「お、俺は・・・すみませんでした。口が滑ってしまって・・・」
「へえ?」
ケイレブが剣を喉元に押し付けると、切っ先に真っ赤な血がにじんだ。
「若殿!落ち着け!」
ビルがケイレブの腕に手をかけた。
「お前たちも、滅多なことを言うんじゃない。ルシアナ様は若殿の奥方だ。確かに、結婚の翌日に・・・お会いできなくなってしまったから、まだ忠誠を誓ってはいないかもしれないが、お前たちの主人でもあるんだ。それに、辺境に来てから、ルシアナ様は一度も高慢な態度はとっておられない。あの方はもともと国で一番高貴な令嬢なんだぞ!」
「くそっ!」ケイレブは剣を床に投げ出し、頭を抱えた。
(ルシアナ、どこに行ったんだ・・・妻ひとり見つけ出せない自分が情けない)
処女を失った夜、腕の中で喜びと安堵の涙を流した妻。信じたい。
なのに、信じる根拠は古ぼけたロケットひとつ。
本当は自分を捨てたのではないかと、不安がよぎる。
いや。なにかが、おかしい。
あの夜、ルシアナと王太子の情事を吹き込まれ、目の前の男を殺してやりたいほど頭にきた。
だが実は、ルシアナは処女だった。ルシアナの兄、オーブリーの言ったことはすべて嘘だった。
しかも、あいつの注いだ酒は、飲めば飲むほど頭がぐらつき、思考力を奪っていった・・・
もしや、酒になにか入っていた・・・?
「若殿、ご報告です」
領内の主要な道を探させていた兵士のひとりが戻ってきた。
「王都に向かう四つ辻の近くで、使者様が胸を刺されて、道端に倒れていました」
「何だと!」
「使者様と一緒に来られた方々も皆殺され、道端に倒れていました。おそらく、馬車から捨てられたものと思われます。馬車は四つ辻を少し過ぎたところに乗り捨てられていました」
「使者殿は・・・ご無事か?」
「かなり危険な状況です。胸を刺され、さらに馬車から落とされたようです。あちこち骨折もしていますし、大量に出血したようです。発見されたとき、服は血まみれでした」
「なんと・・・」
城に火を付けて、ルシアナをさらったのはジェフリー・グレイではなかったのか?
もしや、「ジェフ兄様」と手に手を取って王都に逃げていったのではないかと、疑う気持ちが少しもなかったとはいえない。
「使者様から、若殿への伝言です。”オーブリーにそそのかされ、ルシアナをさらった。行き先は・・・”と」
「行き先はどこだ!」
「わかりません。使者様は、気を失ってしまいました。失礼ながら、揺さぶり起こそうとさせていただいたのですが、一向に・・・」
「畜生!!」
ケイレブは頭を抱えた。
間違いなく、オーブリーが一枚噛んでいる。オーブリーはルシアナをどうしようとしているんだ?
そういえば・・・金を欲しがっていた。
ルシアナの持参金を半分よこせと要求していた。
金目当てに・・・ルシアナを売り払った?
いや、売り払おうとした?
ケイレブと結婚しても価値のない廃鉱山しか財産がないから、財産の請求権はないとルシアナに諭されていた。
あのとき、オーブリーはなんて言った?
『俺を誰だと思っているんだ!俺はたかりなんかじゃない!』
自分のしていることをわかっていない馬鹿者だと思っていたが・・・本当にそう思っていたのか?
今や平民になっている自分を認められない、オーブリー・アドランテ。
であれば、なにを望む?
復権だ。
アドランテ家の嫡男としての権利。
だが、王都にルシアナを連れて行って王家が認めるとは思えない。
ジェフリー・グレイもルシアナに熱を上げていたと聞く。
王家は誰との結婚も認めず、ルシアナを辺境に追いやったのだ。
オーブリーが目指したのは、王都ではない。
そして、当然この辺境でもない。
「・・・隣国だ」
「なんだって?」
「リエール。もしくはハイランド。どの国でもおかしくないが・・・だが、リエールの国王はルシアナをほしいと王家に申し出たことがある。俺がルシアナをくれと王に頼んだとき、そんな話を聞いた」
「まさか・・・オーブリー殿はルシアナ様を、リエールの国王に献上しようとしているとでも言うのか?」
「おそらく、そうだろう。ルシアナをさらった手口が、あまりにも鮮やかすぎる。俺のエールに睡眠薬を盛り、厩に火を付け、使者殿にルシアナをさらわせた。王都に向かうと見せかけて忽然と消えた。そんなこと、ひとりではできない。だが、リエールの軍隊が手を貸しているのであれば、跡形もなくルシアナをさらうことができるだろう」
「そんな、まさか・・・女一人にそんなこと」
「おい、ビル。お前、まさかルシアナをただの女だと思ってたのか?」
「いえ、その、そんなつもりじゃ」
「ルシアナは世界で一番美しい女で、俺の妻だ」
「はいはい、まあ、そうですね」
「その上、幼少の頃からずっと王妃となるための教育を受けてきた」
「はい」
「つまり、ルシアナは世界で一番美しい容姿をもち、セント・ヘレニア国の情報をすべて頭に叩き込んである宝だということだよ。おそらく、14から王宮で受けていたという教育の中には、表に出せない国家機密も含まれていたに違いない。もっといえば、もともと王家の親族だ。ルシアナに子を産ませれば、難癖つけて王位を乗っ取る道具にすることもできる」
「それなのに、王太子は聖女様を選んだんですか?」
「そうだ。王太子は聖女と恋に落ちた。だが、ルシアナはもともと俺のものだ」
「なんですか、それは?」
「理屈じゃない。初めてルシアナを見たときにわかったんだよ。あれは、俺の女だってな。だから、必ず取り返す」
「若殿・・・」ビルが頭をかいた。「ルシアナ様に一目惚れしたんですね。どおりで、急に遊ばなくなったと思った」
「うるさいな」ケイレブは照れ隠しのため、急に立ち上がった。「リエールに行く」
「本気で言ってるんですか?」
「ま、俺の宝を返してもらいに行くのは当然だろう?」ケイレブはニヤリと笑った。
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昨日は、疲れ切って廃人になってしまって更新できず、すみませんでした。
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